
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「rTMSという脳への磁気刺激が、脳卒中後の手のリハビリに使われていると聞いた」「磁気で脳を刺激すれば麻痺がよくなるのか知りたい」——近年、こうしたご質問が増えています。rTMS(反復経頭蓋磁気刺激)は、頭の外から磁気で脳を刺激する方法で、脳卒中後の上肢(腕や手)の運動機能を対象に研究が進められています。結論から正直にお伝えすると、研究では上肢の運動機能の指標で良い傾向が報告されている一方1、効果のばらつきが大きく、誰にでも同じように効くとは言いきれません2,3。この記事では、rTMSについて研究で分かっていること、向いている可能性のある人、受け方や注意点の考え方を、患者さんとご家族に向けて整理します。

・上肢の運動機能をまとめた解析では、運動機能の指標(フューゲルマイヤー評価)で良い傾向が報告されています(15試験・449名、平均差5.88点)。ただし結果のばらつきがあります1。
・発症から早い時期(おおむね3〜6か月以内)や、麻痺が比較的重い人で良い傾向が示される一方、慢性期では差がはっきりしない解析もあります1,3。
・rTMSはリハビリの「置きかえ」ではなく、運動練習と組み合わせて検討される補助的な手段で、効果の確実性はまだ高くありません2,4。
・rTMSは医療機関で医師の管理のもとに行うもので、Journey Rehabの訪問リハビリで実施するものではありません。受けられるかは主治医に相談が必要です。
rTMSは、英語の repetitive transcranial magnetic stimulation の略で、日本語では「反復経頭蓋磁気刺激」と呼ばれます。頭の外側にコイルをあて、磁気の力で脳の表面(運動に関わる場所など)をくり返し刺激する方法です。手術や針を使わず、頭皮の上から刺激するため「非侵襲的な脳刺激(NIBS)」の一つに位置づけられます2。
脳卒中では、片方の脳が傷つくと、左右の脳のバランスが崩れると考えられています。多くの研究は「傷ついていない側の脳の働きを抑える(低い頻度の刺激)」か、「傷ついた側の脳の働きを高める(高い頻度の刺激)」という考え方(半球間競合モデル)にもとづいて行われてきました5。ただし、この考え方がすべての人にあてはまるわけではないことも近年指摘されています5。短時間の刺激をまとめて行うシータバースト刺激(TBS)という方法も研究されています1。rTMSは医療機関で、医師の管理のもとに行う方法です。
結論から正直にお伝えすると、rTMSは上肢の運動機能の指標で良い傾向が報告されていますが、研究ごとの結果のばらつき(不一致)が大きく、まだ確実性が高い段階とは言えません。「どんな人に、どの方法で行うと良いのか」を見極める研究が、今まさに進んでいるところです。
別の解析(37論文・48比較)でも、上肢の運動機能の指標が刺激後(平均差5.4点)と最終評価時(平均差5.2点)で良い傾向を示し、特に発症6か月以内や、もともと麻痺が重めの人で良い傾向が報告されています3。一方で、57試験(約2,595名)を集めた検討では、運動・言語・認知などで良い傾向が見られたものの、研究ごとの効果のばらつきが大きく、その理由(どんな人に効くか)はまだ十分に説明できないと結論づけられています4。
さらに、脳卒中後の上肢リハビリ全体を見渡したコクランの総説では、rTMSは「今後さらに質の高い研究で効果を確かめるべき方法」と位置づけられており、現時点では確立した標準治療とまでは言えません2。

研究で良い傾向が見えやすいのは、上肢の運動機能の指標や、手の細かい動作、握る力などです1。とくに発症から早い時期や、麻痺が比較的重い人で良い傾向が示される報告があります3。rTMSは脳の活動の状態を整え、その後の運動練習が活きやすい土台をつくることをねらう方法と考えられています2。
一方で、研究ごとの結果のばらつきが大きく、「誰にでも同じだけ良くなる」とは言えません4。慢性期(発症3か月以降)では運動機能の差がはっきりしない解析もあります1。また、rTMS単独で生活動作が大きく変わることを示す確かな根拠はまだ十分ではなく2、運動練習と組み合わせて検討されるのが基本です。「磁気をあてれば自然に手が動くようになる」というものではなく、あくまでリハビリを補助する位置づけである点に注意が必要です。
研究では、発症から比較的早い時期で、上肢の運動機能を高めたい人を対象に検討されることが多く、麻痺が重めの人で良い傾向を示す報告もあります3。ただし、傷ついた脳から手の筋肉への信号の残り方(神経生理学的な状態)によって向き不向きが変わる可能性が指摘されており、一人ひとりの状態を踏まえて検討する必要があります5。rTMSを受けられるかどうかは、医療機関で医師が判断します。
研究で用いられた刺激の方法(部位・頻度・回数)はさまざまで、決まった標準プロトコルが確立しているわけではありません2,4。多くの研究では、数日〜数週間にわたって毎日または週数回の刺激を、上肢の運動練習と組み合わせて行っています1,3。刺激そのものよりも、刺激の後に行う運動練習との組み合わせが大切と考えられています4。
これらはあくまで研究上の設定です。実際にrTMSをどのように行うか(回数・頻度・期間)は、実施する医療機関が、麻痺の程度や発症からの時期、全身の状態を踏まえて決めます。気になる場合は、入院・通院先や回復期リハビリ病院、rTMSを実施している医療機関に、対象になるか相談してみるとよいでしょう。
その際に大切だと感じるのは、rTMSだけで変化を期待するのではなく、運動練習と組み合わせて考えることです。実際には、上肢機能評価(FMAなど)が良い方向に変化した方がいる一方で、「どこまでがrTMSによる変化なのか」と疑問を持たれる方もいらっしゃいました。劇的な変化を前提とせず、リハビリとの組み合わせで上肢機能を支える補助的な選択肢として、現実的な目標を共有することが重要だと考えています。
副作用を心配される方も少なくありません。けいれん発作などの重篤な有害事象はまれとされていますが、適応や安全性の確認を含め、医療機関で医師の管理のもとに実施することが不可欠です。また、発症から早い時期で良い傾向を示す研究はありますが、「早ければ誰にでもよい」とは限りません。実施時期についても、主治医や実施医療機関と相談して判断することが大切です。
※上記は当施設で関わった範囲の経験であり、すべての方に同じ経過が当てはまるものではありません。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Pollock A, Farmer SE, Brady MC, Langhorne P, Mead GE, Mehrholz J, van Wijck F. Interventions for improving upper limb function after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2014;(11):CD010820. DOI:10.1002/14651858.CD010820.pub2. PMID:25387001. PMCID:PMC6469541.
3. Zhang JJY, Ang J, Saffari SE, Tor PC, Lo YL, Wan KR. Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation for Motor Recovery After Stroke: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials With Low Risk of Bias. Neuromodulation. 2025;28(2):245-258. DOI:10.1016/j.neurom.2024.07.010. PMID:39320286.
4. Hofmeijer J, Ham F, Kwakkel G. Evidence of rTMS for Motor or Cognitive Stroke Recovery: Hype or Hope? Stroke. 2023;54(11):2500-2511. DOI:10.1161/STROKEAHA.123.043159. PMID:37747964.
5. Safdar A, Smith MC, Byblow WD, Stinear CM. Applications of Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation to Improve Upper Limb Motor Performance After Stroke: A Systematic Review. Neurorehabil Neural Repair. 2023;37(11-12):837-849. DOI:10.1177/15459683231209722. PMID:37947106. PMCID:PMC10685705.
