記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
田中 光(株式会社Journey Rehab代表、認定作業療法士、修士〈作業療法学〉、東京都立大学大学院博士後期課程在籍)
本記事は一般的な医療情報と当社サービスの案内を含みます。個別の診断や治療方針は医療機関にご相談ください。
先に結論
「CRPSに対して、この方法なら確実に痛みが軽くなる」と言える質の高い研究は、まだありません。一方で、段階的運動イメージやミラーセラピーについては、小規模な研究で痛みや生活機能の変化が報告されています。
骨折やけが、手術、脳卒中のあとに、「けがの程度に比べて痛みが強すぎる」「触れただけで痛い」「手が腫れて色や温度が変わる」といった状態が続くことがあります。これはCRPS(複合性局所疼痛症候群)と呼ばれる状態かもしれません。この記事では、CRPSに対するリハビリ、特に段階的運動イメージ・ミラーセラピー・痛みに向き合う運動療法について、研究で分かっていることと分かっていないことを正直に整理します1 。
目次
CRPS(複合性局所疼痛症候群)とは
研究では何が分かっているか
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
どんな人に検討され、どんな人は注意が必要か
回数・頻度・期間の目安
作業療法士の視点
よくある質問
参考文献
CRPS(複合性局所疼痛症候群)とは
CRPS(Complex Regional Pain Syndrome:複合性局所疼痛症候群)は、手首の骨折やねんざ、手術、脳卒中などをきっかけに、手や足に強い痛みが長く続く状態です。痛みに加えて、腫れ、皮膚の色や温度の変化、汗のかき方の変化、関節のこわばりなどが同じ手足に現れるのが特徴です。神経の損傷がはっきりしないものをI型、神経の損傷を伴うものをII型と呼びます1 。
CRPSでは、脳の中で「その手足がどう感じられているか」という地図のような情報が変化している可能性が指摘されています。そのため、痛い場所そのものだけでなく、脳への働きかけを意識したリハビリが研究されてきました1 3 。
脳卒中のあとに起きる肩や手の痛み(肩手症候群と呼ばれることもあります)もCRPSの一種として扱われることがあります。脳卒中後の肩の痛みとの関係については脳卒中後の肩の痛みと亜脱臼・CRPSの関係について解説した記事 でも詳しく紹介しています。
CRPSのリハビリで研究されている主な方法
・段階的運動イメージ(GMI):左右の手足の写真を見分ける練習→動かすイメージ→鏡を使った練習、と段階的に進める方法 ・ミラーセラピー:鏡に映った健康な側の手足の動きを見ながら練習する方法 ・痛みに向き合う運動療法(ペインエクスポージャー):痛みを避けすぎず、生活動作を段階的に取り戻していく方法 ・一般的な運動療法、リンパの流れを促す手技、電気刺激などの物理療法
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
研究では何が分かっているか
結論から言うと、「CRPSに対して、この方法なら確実に痛みが軽くなる」と言える質の高い研究は、まだありません。一方で、段階的運動イメージやミラーセラピーについては、小規模な研究で痛みや生活機能の変化が報告されています。
コクランレビュー 2022年
CRPSに対するリハビリ(理学療法)の研究をまとめたコクランレビューでは、34件のランダム化比較試験(参加者1,339人)が集められました。段階的運動イメージは、通常のケアと比べて痛みを0〜100の尺度で平均約14点軽くしたと報告されています(2試験・49人)。ミラーセラピーは、主に脳卒中後のCRPSで痛みの軽減が報告されました。ただし、すべての比較で「エビデンスの確実性は非常に低い」と判定されており、著者らは結論を出せる段階ではないとしています1 。
コクランレビューの概観 2023年
CRPSのあらゆる治療(薬・注射・リハビリなど)に関するシステマティックレビューを横断的にまとめた研究でも、「どの治療についても確実性の高いエビデンスは見つからなかった」と結論づけられています2 。リハビリに限らず、CRPS全体として研究の質に課題がある状況です。
ランダム化比較試験 2004年・メタアナリシス 2024年
段階的運動イメージを最初に検証した小規模なランダム化比較試験(13人)では、長く続くCRPSの方で、約6週間のプログラム後に痛みの尺度が大きく下がったと報告されました3 。その後の研究をまとめたメタアナリシス(6研究)でも、運動イメージによって痛みと生活上の支障が軽くなる傾向が示されています。ただし、研究の数と人数が少なく、結果の幅が広いことが指摘されています4 。
ランダム化比較試験 2015年
オランダで行われた研究(56人)では、痛みを避けすぎずに生活動作を取り戻していく運動療法(ペインエクスポージャー)を最大5回行う方法と、薬と痛みに配慮した通常の理学療法(平均約17回)を比べました。9か月後、どちらのグループも症状の指標が同じくらい変化し、主な評価項目に差は見られませんでした。関節の動く範囲はペインエクスポージャーのほうがやや広がっていました。重い有害事象は報告されていません5 。
段階的運動イメージやミラーセラピーは、脳卒中後の麻痺に対するリハビリとしても使われています。鏡を使った練習の準備や進め方はミラーセラピーの作り方と進め方について解説した記事 で、イメージを使った練習については脳卒中後の運動イメージ療法について解説した記事 で紹介しています。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと: CRPSは、痛みの感じ方や症状の出方が人によって大きく異なります。研究で平均的に変化が見られた方法でも、すべての方に同じように当てはまるわけではありません。強い腫れや皮膚の色の変化が急に出てきた場合は、まず主治医に相談してください。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
CRPSのリハビリ研究は、1つひとつの研究の人数が少なく(多くが1グループ50人未満)、研究の進め方にも偏りが生じやすいものが多いと報告されています1 。また、研究ごとに対象者(発症からの期間、I型かII型か、脳卒中後かどうか)や介入の内容が異なるため、結果をそのまま比べることが難しい状況です1 6 。
まだ分かっていないこと
・どのような方に段階的運動イメージやミラーセラピーが合うのか ・発症してすぐの時期と、長く続いている時期で、どの方法が適しているのか ・最適な練習の頻度・時間・期間 ・痛みに向き合う運動療法と、痛みに配慮した運動療法のどちらがどんな方に合うのか ・長期的に見て、生活や仕事への影響がどう変わるのか 現在の研究でも、これらは十分に分かっていません1 2 。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
変わりやすいと報告されているもの
小規模な研究では、段階的運動イメージやミラーセラピーで痛みの強さや生活上の支障が軽くなったという報告があります1 4 。ペインエクスポージャーでは、関節の動く範囲がやや広がったという報告があります5 。
変わりにくい・研究ごとに差があるもの
腫れ・皮膚の温度や色の変化、長期的な痛みの経過については、研究ごとに結果が異なり、はっきりした傾向はまだ示されていません。また、どの方法も「確実性の高い結果」とは言えない段階です1 2 。
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
どんな人に検討され、どんな人は注意が必要か
検討する場面があるケース
・医師からCRPSと診断され、薬物療法などと並行してリハビリを検討している方 ・痛みが怖くて手足を使う機会が減り、生活動作がしにくくなっている方 ・脳卒中後に肩や手の痛み・腫れが続いている方
注意が必要なケース
・腫れ・熱感・赤みが急に強くなっている方(感染症や血栓など別の病気の可能性もあるため、まず受診が必要です) ・痛みの原因がまだはっきりしていない方 ・鏡やイメージの練習で痛みや気分の不調が強くなる方(無理に続けず、担当者に相談してください)
回数・頻度・期間の目安
研究の量や下記の進め方は一般的な例です。個人に合う内容・量は、状態を評価した担当医や専門職と決めてください。
段階的運動イメージの研究では、①左右の手足の写真を見分ける練習、②手足を動かすイメージ、③鏡を使った練習を、それぞれ約2週間ずつ、合計約6週間かけて進める方法が多く用いられてきました3 。1日に数回、短い時間で自宅でも行えるよう工夫されています。
ペインエクスポージャーの研究では、最大5回(1回40分)の理学療法と自宅での練習を組み合わせる方法がとられていました5 。ただし、どの頻度・期間が最も良いかは分かっておらず、症状や生活状況に合わせて調整することが前提になります。
1. まずは医師の診断を受け、ほかの病気がないかを確認する
2. 痛み・腫れ・動かせる範囲・できる生活動作を記録しておく
3. 練習は短い時間から始め、痛みや気分の変化を見ながら段階を上げる
4. 2〜4週間ごとに記録を見直し、続けるか方法を変えるかを担当者と相談する
作業療法士の視点
つまり、「何もしないより良さそうな方法はいくつかあるが、どれが一番良いかはまだ分からない」というのが、正直な現状です。そのため、症状の変化を記録しながら、ご本人に合う方法を主治医やリハビリ専門職と一緒に探していく姿勢が大切になります。
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
まとめ
・ CRPSは、けがや手術、脳卒中のあとに手足の強い痛みや腫れが長く続く状態です
・ 段階的運動イメージやミラーセラピーでは、小規模な研究で痛みや生活上の支障が軽くなったという報告があります1 4
・ ただし、どの方法もエビデンスの確実性は非常に低いとされ、最適な方法や量はまだ分かっていません1 2
・ 症状を記録しながら、主治医やリハビリ専門職と一緒に合う方法を探すことが大切です
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。CRPSが疑われる症状がある場合や、リハビリの方法を検討する際は、必ず主治医またはリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のものであり、今後の研究により内容が更新される可能性があります。
田中 光(株式会社Journey Rehab代表、認定作業療法士、修士〈作業療法学〉、東京都立大学大学院博士後期課程在籍)
本記事は一般的な医療情報と当社サービスの案内を含みます。個別の診断や治療方針は医療機関にご相談ください。
よくある質問
Q. CRPSの症状はずっと続くのですか?
経過は人によって大きく異なり、時間とともに症状が落ち着く方もいれば、長く続く方もいます。現在の研究では、どの治療法についても確実性の高い結果は示されていないため、主治医と相談しながら経過を見ていくことが大切です2 。
Q. 段階的運動イメージとは何ですか?
左右の手足の写真を見分ける練習、手足を動かすイメージの練習、鏡を使った練習を、段階的に進める方法です。手足を実際に動かす前に、脳への働きかけから始めるのが特徴です3 。
Q. ミラーセラピーはCRPSにも使われますか?
使われています。特に脳卒中後のCRPSで痛みが軽くなったという研究がありますが、研究数が少なく結果も一定ではありません1 。
Q. 痛いときは動かさないほうがよいですか?
痛みを避けすぎると、関節が硬くなったり使わない習慣がついたりすることがあります。一方で、無理に動かすことが合わない方もいます。どの程度動かすかは、主治医やリハビリ専門職と相談して決めてください5 。
Q. 自宅でもできますか?
段階的運動イメージやミラーセラピーは、手順を確認したうえで自宅でも取り組めるよう工夫されてきた方法です。ただし、始める前に担当者と方法や量を相談することをおすすめします。
Q. どのくらいの期間続ければよいですか?
研究では約6週間のプログラムが多く用いられてきましたが、最適な期間は分かっていません3 。2〜4週間ごとに変化を記録して見直すのが一つの目安です。
参考文献
1. Keith M Smart, Michael C Ferraro, Benedict M Wand, Neil E O’Connell. Physiotherapy for pain and disability in adults with complex regional pain syndrome (CRPS) types I and II. The Cochrane database of systematic reviews. 2022.
PubMed DOI 公開本文
2. Michael C Ferraro, Aidan G Cashin, Benedict M Wand, Keith M Smartほか. Interventions for treating pain and disability in adults with complex regional pain syndrome- an overview of systematic reviews. The Cochrane database of systematic reviews. 2023.
PubMed DOI 公開本文
3. G L Moseley. Graded motor imagery is effective for long-standing complex regional pain syndrome: a randomised controlled trial. Pain. 2004.
PubMed DOI
4. Marta Ríos-León, Álvaro Cuñado-González, Silvia Domínguez-Fernández, Patricia Martín-Casas. Effectiveness of motor imagery in complex regional pain syndrome: A systematic review with meta-analysis. Pain practice : the official journal of World Institute of Pain. 2024.
PubMed DOI
5. Karlijn J Barnhoorn, Henk van de Meent, Robert T M van Dongen, Frank P Klompほか. Pain exposure physical therapy (PEPT) compared to conventional treatment in complex regional pain syndrome type 1: a randomised controlled trial. BMJ open. 2015.
PubMed DOI 公開本文
6. Erfan Shafiee, Joy MacDermid, Tara Packham, David Waltonほか. The Effectiveness of Rehabilitation Interventions on Pain and Disability for Complex Regional Pain Syndrome: A Systematic Review and Meta-analysis. The Clinical journal of pain. 2023.
PubMed DOI