脳卒中後の運動イメージ療法(メンタルプラクティス)とは?効果・やり方・研究結果を作業療法士が解説

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
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脳卒中後の運動イメージとメンタルプラクティス(イメージトレーニング)とは?研究で分かっていることと進め方

「実際に動かさなくても、動きを頭の中で思い描く練習が役に立つと聞いた」「麻痺した手を、イメージで動かす練習って意味があるの?」——脳卒中後の手や腕のリハビリで、実際の動作を頭の中で繰り返し思い描く「運動イメージ/メンタルプラクティス(イメージトレーニング)」が研究されています。この記事では、この方法について、研究で分かっていること、向いている人・注意したい人、回数や期間の目安を、患者さんとご家族に向けて整理します。

動作を頭の中で思い描きながら練習する場面
運動イメージでは、実際の動作を行う前に、動きの流れを頭の中で確認します。
この記事の要点
・運動イメージ/メンタルプラクティスは、実際の動作を頭の中で繰り返し思い描く練習です。
・通常のリハビリに「加える」形で行われることが多く、短期的には腕の運動機能で良い傾向が報告されています1,2
・道具がほとんど要らず、安全に何度でも取り組める点が利点とされています2
・一方で、研究の数や規模は限られ、長期的な効果はまだはっきりしていません1
SECTION 01
運動イメージ・メンタルプラクティスとは

運動イメージ(モーターイメージ)とは、実際には体を動かさずに、ある動作を行っている自分を頭の中で思い描くことです。これを練習として繰り返し行う方法を、メンタルプラクティス(イメージトレーニング)と呼びます。たとえば「コップを持ち上げて口に運ぶ」「ボタンをとめる」といった動作を、感覚も含めてできるだけ具体的に思い描きます。

動作を思い描いているとき、脳の中では実際に体を動かすときと近い領域が働くことが知られています。その仕組みを利用して、実際の動作の練習を補おうという考え方です。多くの研究では、通常の作業療法・理学療法に「加える」形で、音声ガイドなどを使って行われています。実際の練習と組み合わせるのが一般的です。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、運動イメージ・メンタルプラクティスは、通常のリハビリに加えると、短期的には腕の運動機能で良い傾向が報告されている方法です。ただし、研究の数や規模は限られており、効果が長く続くかどうかははっきりしていません。「これ単独で麻痺が元通りになる」というものではなく、実際の練習を補う位置づけと考えるのが現実的です。

研究から読み取れること
亜急性期・慢性期の上肢リハビリを対象に11件の臨床試験をまとめたレビューでは、運動イメージ/メンタルプラクティスを通常の治療などと組み合わせると、短期的に腕の運動機能の回復で良い結果を示した研究が多くみられました(多くは中等度〜高い質の研究)1。一方で、中期・長期の追跡データはほとんどなく、効果の持続については今後の検討が必要とされています1

麻痺した腕の運動機能を対象にした6件の研究のメタアナリシスでも、腕の動作を評価する検査(Action Research Arm Test)で、イメージを用いた群が有利な結果でした2。さらに、慢性期の患者32名を対象にした比較試験では、通常の作業療法に加えてメンタルプラクティスを行った群で、麻痺の重さや腕の使いやすさの指標が良い傾向を示しました3。著者らは、道具がほとんど要らず、安全で、何度でも練習できる点を利点として挙げています2
音声ガイドと実際の上肢練習を組み合わせる場面
イメージ練習は単独ではなく、実際の動作練習と組み合わせて使うことが大切です。
SECTION 03
何が変わりやすく、何は変わりにくいか

研究で良い傾向が見えやすいのは、通常のリハビリに加えたときの、腕の運動機能や動作の評価といった「短期的な変化」です1,2。実際の練習を補い、頭の中でも繰り返すことで、練習機会を増やせる点が利点とされています。

一方で、はっきりしていないことも多くあります。効果がどれくらい長く続くか、どんな方に向くか、どの程度の量が適切かは、研究の数や規模が限られているため、まだ十分に分かっていません1。また、動作を頭の中で思い描く力には個人差があり、イメージしにくい方では取り組み方の工夫が必要です。あくまで実際の練習を「補う」方法であり、これ単独に置き換えるものではない、と考えるのが現実的です。

SECTION 04
どんな人に向いているか・注意したい人

道具がほとんど要らず、疲れにくく、安全に何度でも取り組める点から、実際の練習の合間や自宅での時間にも取り入れやすい方法です2。麻痺が重く、実際の動作の反復が難しい段階でも、頭の中での練習を組み合わせる選択肢になり得ます。動作を具体的に思い描くのが得意な方ほど取り組みやすい傾向があります。

⚠ 忘れたくない大切なこと
運動イメージは安全性の高い方法ですが、これ単独で実際のリハビリを置き換えるものではありません。動作を思い描く力には個人差があり、強い注意・記憶の問題や、失語などコミュニケーションの難しさがある場合は、取り組み方の工夫や専門職の支援が必要です。うまくイメージできないときに「自分のせい」と感じる必要はありません。進め方は担当の専門職と相談し、実際の練習と組み合わせて取り入れましょう。
SECTION 05
回数・頻度・期間の目安

研究では設定がさまざまですが、多くは通常のリハビリに加えて、1回およそ20〜60分のイメージ練習を週3〜5回、3〜6週間程度続ける形がみられます1,3。生活で行いたい具体的な動作を題材にし、音声ガイドなどを使って、できるだけ感覚もともなう形で思い描くことが意識されています。

これらはあくまで研究上の目安です。集中の続きやすさ、疲れやすさ、イメージのしやすさによって、無理なく続けられる量は人それぞれ異なります。題材の選び方や時間配分は、実際の練習とのバランスを見ながら、担当の専門職と一緒に調整していくことが大切です。

SECTION 06
Journey Rehabでの現場経験
当施設での経験
運動イメージやメンタルプラクティスは、自主トレーニングとして提案できる選択肢の一つだと感じています。実際の動作練習の前に、これから行う動きを頭の中で確認したり、動作の順番を整理したりすることで、練習に入りやすくなる方もいます。

一方で、これらの練習には集中力が必要です。高次脳機能障害がある方、覚醒が安定しにくい方、注意を保つことが難しい方では、導入が難しいこともあります。そのため、病院などの現場で誰にでも積極的に使われている印象ではありません。訓練成績だけで判断するのではなく、その方がイメージしやすいか、疲労や理解の負担が大きすぎないかを見ながら、向いている人に合わせて検討することが大切だと感じています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
手や腕の練習の進め方、自宅での取り組み方など、身体の状態を一緒に確認しながらリハビリの内容を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨ではありません。リハビリの内容は、主治医や担当専門職に相談しながら調整してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
頭の中で動きを思い描くだけで麻痺は元通りになりますか?
元通りを保証するものではありません。研究では通常のリハビリに加えると短期的に良い傾向が報告されていますが、研究の数や規模は限られ、その良い傾向が長く続くかはまだはっきりしていません。実際の練習を補う方法と考えるのが現実的です。
実際のリハビリの代わりになりますか?
代わりにはなりません。多くの研究で、通常のリハビリに「加える」形で行われています。実際の動作練習と組み合わせて取り入れるのが基本です。
うまくイメージできません。やり方が悪いのでしょうか?
動作を思い描く力には個人差があり、うまくいかないのは珍しくありません。自分を責める必要はありません。音声ガイドや、見本を見てから思い描くなど、取り組みやすくする工夫を専門職と一緒に探すとよいでしょう。
麻痺が重くてもできますか?
実際の動作の反復が難しい段階でも、頭の中での練習を組み合わせる選択肢になり得ます。ただし、注意や記憶、コミュニケーションの状態によって向き不向きがあるため、担当の専門職に相談してください。
自宅でもできますか?
道具がほとんど要らないため、自宅での時間にも取り入れやすい方法です。どんな動作を題材にし、どれくらい行うかは、実際の練習とのバランスを見て専門職と決めると安心です。
どれくらい続ければよいですか?
研究では1回20〜60分を週3〜5回、3〜6週間ほど続ける形が多くみられます。ただし研究上の目安であり、続けやすい量は人によって異なるため、無理のない範囲で進めてください。
REFERENCES
参考文献
1. Villa-Berges E, Laborda Soriano AA, Lucha-López O, et al. Motor Imagery and Mental Practice in the Subacute and Chronic Phases in Upper Limb Rehabilitation after Stroke: A Systematic Review. Occup Ther Int. 2023;2023:3752889. DOI:10.1155/2023/3752889. PMID:36742101. PMCID:PMC9889141.
2. Kho AY, Liu KPY, Chung RCK. Meta-analysis on the effect of mental imagery on motor recovery of the hemiplegic upper extremity function. Aust Occup Ther J. 2014;61(2):38-48. DOI:10.1111/1440-1630.12084. PMID:24138081.
3. Page SJ, Levine P, Leonard A. Mental practice in chronic stroke: results of a randomized, placebo-controlled trial. Stroke. 2007;38(4):1293-1297. DOI:10.1161/01.STR.0000260205.67348.2b. PMID:17332444.