記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
田中 光(株式会社Journey Rehab代表、認定作業療法士、修士〈作業療法学〉、東京都立大学大学院博士後期課程在籍)
本記事は一般的な医療情報と当社サービスの案内を含みます。個別の診断や治療方針は医療機関にご相談ください。
先に結論
段階的感覚運動トレーニングは、偽の治療(見せかけの治療)と比べて、痛みと生活上の支障をやや軽くしたという質の高い研究があります。ただし、その差は「劇的」というよりも「小さめ〜中くらい」で、すべての方に当てはまるわけではありません。
「検査では大きな異常はないと言われたのに、腰の痛みが何か月も続いている」。こうした慢性腰痛では、腰そのものだけでなく、痛みを感じる仕組みや、痛みへの不安・動くことへの怖さも関係していると考えられています。この記事では、痛みの仕組みを学ぶ「痛みの教育」と、それを運動と組み合わせた「段階的感覚運動トレーニング」について、研究で分かっていることと分かっていないことを正直に整理します1 。
目次
痛みの教育・段階的感覚運動トレーニングとは
研究では何が分かっているか
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か
回数・頻度・期間の目安
作業療法士の視点
よくある質問
参考文献
痛みの教育・段階的感覚運動トレーニングとは
3か月以上続く慢性腰痛の多くは、骨や神経に特定の原因が見つからない「非特異的腰痛」と呼ばれます。このような腰痛では、脳や神経が痛みの信号を強めに受け取るようになっている可能性や、「動くと悪化するのでは」という不安が、痛みや生活のしにくさに影響していると考えられています1 5 。
「痛みの教育(痛みの神経科学教育)」は、痛みがどのような仕組みで生じるのかを分かりやすく学び、痛みへの見方を整えていく方法です。「段階的感覚運動トレーニング」は、この痛みの教育に加えて、腰の感覚を正確に感じ取る練習、動きのイメージ練習、少しずつ負荷を上げていく運動を、段階的に組み合わせたプログラムです1 。
段階的感覚運動トレーニングの主な内容(研究で用いられたプログラムの例)
・痛みの教育:痛みと身体の安全は必ずしも一致しないことなどを学ぶ ・感覚の練習:腰に触れた場所や形を当てる、腰の位置を感じ取る練習 ・イメージの練習:腰を動かす様子を頭の中で思い描く ・段階的な運動:小さな動きから、生活動作や趣味の動きへと少しずつ広げる
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
研究では何が分かっているか
結論から言うと、段階的感覚運動トレーニングは、偽の治療(見せかけの治療)と比べて、痛みと生活上の支障をやや軽くしたという質の高い研究があります。ただし、その差は「劇的」というよりも「小さめ〜中くらい」で、すべての方に当てはまるわけではありません。
ランダム化比較試験 2022年(RESOLVE試験)
オーストラリアで行われた研究では、慢性腰痛の方276人を、段階的感覚運動トレーニング(1回最大1時間×12回、12〜18週間、自宅練習あり)を行うグループと、見せかけの機器を使った同じ回数の対照グループに分けました。18週後の痛み(0〜10の尺度)は、トレーニングのグループで平均5.6→3.1、対照グループで5.8→4.0となり、差は1.0ポイントでした。生活上の支障の尺度も軽くなっていました。52週後には生活上の支障の差は保たれていましたが、痛みの差ははっきりしなくなっていました。重い有害事象は報告されていません1 。
同じ試験の追加分析 2023年・2026年
この試験の追加分析では、「腰痛は深刻な結果を招く」という思い込みや、痛みを過度に悲観的にとらえる傾向(破局的思考)が変わったことが、痛みと生活上の支障の変化に関係していたと報告されています2 。また別の分析では、もともとの痛みの強さや服薬の有無、痛みへの自信(自己効力感)などによって結果が大きく変わる様子は見られず、腰の感覚の乱れが強い方では1年後の痛みの変化が小さい可能性が示されました3 。
メタアナリシス 2023年・2025年
痛みの教育を単独または運動などと組み合わせた研究をまとめたメタアナリシスでは、痛みや動くことへの怖さが、短期間(おおむね3か月以内)で軽くなる傾向が示されました4 5 。一方で、6〜12か月といった長期では痛みへのはっきりした差が見られず、研究ごとの結果のばらつきが大きいことも指摘されています4 。
慢性腰痛では、運動の種類や頻度・強度をどう選ぶかも大切です。運動の組み立て方は慢性腰痛の運動療法をFITT原則で解説した記事 で紹介しています。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと: 「痛みは脳で感じる」と聞くと、「気のせい」「心の問題」と言われたように感じる方もいるかもしれません。しかし、痛みの教育は痛みを否定するものではなく、痛みの仕組みを理解して動き方を整えていくための方法です。足のしびれや脱力、排尿・排便の異常、発熱、体重減少などを伴う腰痛は、別の病気が隠れている可能性があるため、まず医療機関を受診してください。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
RESOLVE試験は、見せかけの治療と比べたランダム化比較試験で、研究の質は比較的高いと考えられます。一方で、1つの施設で行われた研究であること、治療を担当した専門職には割り付けが分かっていたこと、評価がすべて本人の回答によるものであることが、著者ら自身によって限界として挙げられています1 。痛みの教育のメタアナリシスでは、研究ごとに教育の内容・回数・組み合わせる運動が異なり、結果のばらつきが大きいことが課題とされています4 。
まだ分かっていないこと
・1年以上といった長期的に、痛みへの影響がどこまで続くのか ・どのような方に最も合うのか(感覚の乱れが強い方では変化が小さい可能性も指摘されています) ・最適な回数・期間、自宅練習の量 ・オーストラリア以外の国や、高齢の方(研究の対象は18〜70歳)にどこまで当てはまるのか 現在の研究でも、これらは十分に分かっていません1 3 。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
変わりやすいと報告されているもの
短期〜中期(18週程度)の痛みの強さ、生活上の支障(日常動作のしにくさ)、動くことへの怖さや痛みへの悲観的な考え方は、研究で軽くなる傾向が報告されています1 2 5 。
変わりにくい・研究ごとに差があるもの
1年後の痛みの強さについては、はっきりした差が見られなかったという結果もあります。痛みがゼロになる、という変化を期待できる方法ではありません1 4 。
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か
検討する場面があるケース
・3か月以上続く非特異的な慢性腰痛があり、医師から大きな病気はないと言われている方 ・痛みが怖くて動くことを避けがちな方 ・湿布やマッサージなど受け身の対処だけでは生活が変わりにくいと感じている方
注意が必要なケース
・足のしびれや力の入りにくさ、排尿・排便の異常を伴う方(まず受診が必要です) ・腰の手術を受けて間もない方 ・強い気分の落ち込みや不安がある方(医療機関や心理の専門職との連携が必要な場合があります)
回数・頻度・期間の目安
RESOLVE試験では、1回最大1時間のセッションを12〜18週間で12回行い、加えて自宅で1日約30分・週5日程度の練習が求められていました1 。痛みの教育のみの研究では、数回の短いセッションで行われたものもあります4 。
1. まずは医療機関で、受診が必要な腰痛ではないかを確認する
2. 痛みの仕組みについて学び、「痛み=身体が壊れている」とは限らないことを理解する
3. 腰の感覚やイメージの練習を短い時間から始める
4. 小さな動きから、生活動作や趣味の動きへと段階的に広げる
5. 痛みの強さだけでなく、できるようになった動作も記録して振り返る
運動は続けることが大切ですが、続けるのが難しいと感じる方も少なくありません。続けるための工夫は腰痛の運動を続けるための工夫について解説した記事 で、自宅で専門職の指導を受ける方法は慢性腰痛の遠隔リハビリについて解説した記事 で紹介しています。
作業療法士の視点
つまり、この方法の役割は「痛みを消すこと」よりも、「痛みとの付き合い方を変え、動ける範囲や生活の幅を少しずつ広げていくこと」と考えると、研究結果とのずれが少なくなります。
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
まとめ
・ 痛みの教育は、痛みの仕組みを学び、痛みへの見方を整えていく方法です
・ 段階的感覚運動トレーニングは、見せかけの治療と比べて18週後の痛みと生活上の支障をやや軽くしたと報告されています1
・ 1年後の痛みへの差ははっきりせず、長期的な影響や合う人の特徴はまだ分かっていません1 3 4
・ 痛みを消すことよりも、動ける範囲を少しずつ広げることを目標にすると、研究結果と合った取り組み方になります
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。腰痛の原因の確認や運動の開始にあたっては、必ず主治医またはリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のものであり、今後の研究により内容が更新される可能性があります。
田中 光(株式会社Journey Rehab代表、認定作業療法士、修士〈作業療法学〉、東京都立大学大学院博士後期課程在籍)
本記事は一般的な医療情報と当社サービスの案内を含みます。個別の診断や治療方針は医療機関にご相談ください。
よくある質問
Q. 痛みの教育とは、どんなことをするのですか?
痛みがどのような仕組みで生じるのか、痛みの強さと身体の傷み具合が必ずしも一致しないことなどを、図や例え話を使って学びます。運動と組み合わせて行われることが多い方法です4 5 。
Q. 「痛みは脳で感じる」というのは、気のせいということですか?
いいえ。痛みは実際に感じているものです。ただ、長く続く痛みでは、神経や脳が痛みを強めに受け取るようになっている可能性があり、その仕組みを理解することが動き方を整える助けになると考えられています1 。
Q. 段階的感覚運動トレーニングは自宅でもできますか?
研究では、専門職とのセッションに加えて自宅での練習が組み込まれていました1 。ただし、内容を正しく理解して進めるためには、最初は専門職の指導を受けることをおすすめします。
Q. どのくらいで変化を感じますか?
研究では12〜18週間かけて行われ、18週後に痛みや生活上の支障の変化が確認されました1 。変化の大きさや時期には個人差があります。
Q. 高齢でも取り組めますか?
主な研究の対象は18〜70歳の方でした1 。高齢の方にどこまで当てはまるかは十分に分かっていないため、体力や持病に合わせて主治医や専門職と相談してください。
Q. ほかの運動療法とどちらがよいですか?
直接比べた研究はまだ少なく、どちらが優れているかははっきりしていません。痛みの教育は、ほかの運動療法と組み合わせて行われることも多い方法です4 。
参考文献
1. Matthew K Bagg, Benedict M Wand, Aidan G Cashin, Hopin Leeほか. Effect of Graded Sensorimotor Retraining on Pain Intensity in Patients With Chronic Low Back Pain: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2022.
PubMed DOI 公開本文
2. Aidan G Cashin, Hopin Lee, Benedict M Wand, Matthew K Baggほか. Mechanisms of education and graded sensorimotor retraining in people with chronic low back pain: a mediation analysis. Pain. 2023.
PubMed DOI
3. Martjie Venter, James H McAuley, Harrison J Hansford, Mia Ryanほか. Effect Modifiers of Graded Sensorimotor Retraining for Chronic Low Back Pain: A Secondary Analysis of the RESOLVE Randomized Trial. JAMA network open. 2026.
PubMed DOI 公開本文
4. Seungwoo Shin, Hyunjoong Kim. Carryover Effects of Pain Neuroscience Education on Patients with Chronic Lower Back Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. Medicina (Kaunas, Lithuania). 2023.
PubMed DOI 公開本文
5. Luisa Medina-Viedma, Irene Cortés-Pérez, Esteban Obrero-Gaitán, María Catalina Osuna-Pérezほか. Effectiveness of Pain Neuroscience Education in Reducing Pain, Disability, Kinesiophobia, and Catastrophizing in Patients with Chronic Low Back Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. Medical sciences (Basel, Switzerland). 2025.
PubMed DOI 公開本文