
先に結論
運動療法は研究のまとめで「まず検討される方法」として位置づけられていますが1、研究の質は高いとは言えず、どの運動がどの人に一番合うのかはまだはっきりしていません13。
「洗濯物を干そうと腕を上げると、肩の外側がズキッと痛む」「髪を結ぶ、高い棚の物を取る動きがつらい」――こうした肩の痛みで受診すると、「肩峰下(けんぽうか)インピンジメント」や「肩峰下疼痛症候群」と説明されることがあります。この記事では、肩峰下インピンジメントに対する運動療法について、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを作業療法士の立場から整理します。結論から言うと、運動療法は研究のまとめで「まず検討される方法」として位置づけられていますが1、研究の質は高いとは言えず、どの運動がどの人に一番合うのかはまだはっきりしていません13。
肩峰下インピンジメントとはどんな状態か
肩峰下インピンジメントは、腕を上げたときに、肩の骨の出っ張り(肩峰)の下を通る腱板(肩を支える筋肉の腱)や滑液包のあたりに痛みが出る状態を指す言葉です。最近は、痛みの原因を「骨にはさまること」だけで説明できないとして、「肩峰下疼痛症候群」や「腱板関連の肩の痛み」と呼ぶことも増えています23。
研究のまとめによると、肩の痛みのなかでもこの状態は最も多く、肩の不調全体の約36%を占めると報告されています1。肩の不調そのものは、45〜64歳の方や女性に多い傾向があるとされています1。
よく似た肩の痛みとして、肩全体が固くなる五十肩(肩関節周囲炎)や、腱板が切れてしまう腱板断裂があります。五十肩の運動療法については、五十肩(肩関節周囲炎)の運動療法について解説した記事で紹介しています。どの状態かによって進め方が変わるため、まずは医療機関で肩の状態を確認してもらうことが出発点になります。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
転んで肩を強く打ったあとに腕が上がらなくなった、肩が腫れて熱を持っている、夜も眠れないほど痛む、腕や手にしびれや力の入りにくさがある、発熱がある、といった場合は、運動を始める前に整形外科などで診察を受けてください。骨折や腱板断裂、首の神経の問題など、別の原因が隠れていることがあります。

研究では何が分かっているか
先にまとめると、「運動をしないよりは、運動をしたほうが痛みが軽くなりやすい」という方向の結果は複数の研究のまとめで一致していますが、どの運動を選ぶのが最もよいかについては、まだ研究ごとに結論がそろっていません。
肩峰下インピンジメントの大人を対象にしたランダム化比較試験を幅広く集め、運動、徒手療法、注射、飲み薬、物理療法などの手術以外の方法を比べた研究です1。痛みについては184件の研究(約1万500名)が分析に使われました1。その結果、運動を行ったグループは、運動以外の対応のグループより痛みが軽くなる結果で(5件・189名、標準化平均差−0.94)、肩の状態に合わせた「特定の運動」は、一般的な運動よりも痛みが軽くなる結果でした(2件・145名、標準化平均差−0.65)1。運動に徒手療法を組み合わせると、運動だけよりも痛みが軽い結果でしたが、その差が見られたのは最も短い追跡期間のみでした1。注射や飲み薬にも偽薬よりよい結果がありましたが、運動と比べてどうかははっきりしないとされています1。
肩甲骨(けんこうこつ)を安定させる運動に注目し、8件のランダム化比較試験(387名)をまとめた研究です2。通常の理学療法に肩甲骨の安定化運動を加えたグループは、通常の理学療法だけのグループと比べて、痛みの評価(VAS)と、肩の痛みと生活の支障の評価(SPADI)の両方で、より良い結果でした(平均差:VAS −0.94、SPADI −10.10)2。一方で、肩の動く範囲(可動域)には、はっきりした差は見られませんでした2。
腱板が関係する肩の痛みに対して、7種類の運動の方法を互いに比べた研究です3。痛みについて15件(913名)、肩の機能について16件(947名)の研究が分析されました3。肩の機能では、筋肉を縮めながら力を出す一般的な筋力トレーニング(求心性の筋力トレーニング)が最も良い順位になり、筋肉を伸ばしながら力を出すトレーニング(遠心性の筋力トレーニング)や従来型の運動が中程度とされました3。痛みについては、方法どうしの差の多くがはっきりしませんでした3。
このように、運動の「種類」の比べ方は研究によって異なり、肩甲骨の運動を重視する研究2と、腱板まわりの筋力トレーニングを重視する研究3があります。実際の場面では、どちらか一方というより、痛みの出方や肩甲骨の動き、筋力を確認しながら組み合わせることが多いと考えています。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
肩峰下インピンジメントの運動療法の研究には、次のような限界があります。
どの種類の運動を、どのくらいの強さ・回数で、どのくらいの期間続けるのが最もよいかは、まだはっきりしていません23。また、痛みが出始めたばかりの時期と長く続いている時期で、合う運動が違う可能性も指摘されていますが、十分に検証されていません2。長期的に痛みが再びぶり返しにくくなるかについても、研究は限られています。
研究全体では「運動は検討する価値がある」という一定の傾向がありますが、研究の質が低いものが多く、対象者や運動の内容も研究ごとに異なります1。この研究結果をすべての方に同じように当てはめることはできません。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
痛みの強さや、肩の痛みによる生活の支障の評価で、運動をしたグループのほうが良い結果が報告されています12。肩の機能では、筋力トレーニングを含む運動で良い結果が出やすい傾向がありました3。
肩の動く範囲(可動域)は、肩甲骨の運動を加えてもはっきりした差が出ませんでした2。どの運動の種類が痛みに最も合うかは、研究どうしで差がはっきりしていません3。徒手療法を組み合わせた場合の上乗せも、短い期間に限られていました1。
つまり、運動療法は「肩をすぐに治す方法」ではなく、「痛みと付き合いながら、肩を使える場面を少しずつ増やしていくための方法」と考えるのが実際に近いと思います。
肩の痛みは、首のこりや姿勢、パソコン作業の時間なども重なって感じられることがあります。仕事の合間にできる短い運動については、職場でできる首・肩の短い運動について解説した記事もあわせてご覧ください。
どんな人に検討され、どんな人は注意が必要か
研究で対象になってきたのは、腕を上げたときの肩の痛みがあり、医療機関で肩峰下インピンジメント(肩峰下疼痛症候群)と判断された大人の方です12。「腕を上げると痛いが、手で支えれば上げられる」「特定の動きで痛む」といった場合に、運動の進め方を専門職と相談する意味があります。
強い外傷のあと、腕がまったく上がらない、夜間の痛みが強い、腕のしびれや脱力がある場合は、腱板断裂や首の神経の問題などを先に確認する必要があります。腱板が切れている場合の保存的なリハビリについては、腱板断裂の保存療法とリハビリについて解説した記事で紹介しています。また、運動中や運動後に痛みが強くなり翌日まで続く場合は、内容や量を見直すサインです。

回数・頻度・期間の目安
肩甲骨の運動のまとめに含まれた研究では、多くが週3回の頻度で、期間は4〜12週間でした2。1回の内容は、肩甲骨を安定させる運動に、ストレッチ、腱板や三角筋の筋力トレーニング、日常生活での使い方の助言などを組み合わせたものが中心でした2。
週3回程度が多く、毎日に近い頻度の研究もありました2。
4〜12週間の研究が中心でした2。
肩甲骨を安定させる運動、腱板まわりの筋力トレーニング、ストレッチ、生活の中での動かし方の工夫などの組み合わせ23。
痛みが強く出ない範囲から始め、運動の翌日に痛みが残らないかを確かめながら、負荷や回数を少しずつ増やしていきます。
最適な回数や期間はまだ分かっておらず、上記はあくまで研究での一例です23。
作業療法士の視点
肩の痛みがあると、つい肩を使わないようにしてしまい、かえって動かしにくさが続くことがあります。研究からは、運動が検討する価値のある方法であることが示されている一方で、研究の質はまだ十分ではなく、決まった正解のプログラムはありません。まずは医療機関で肩の状態を確認し、そのうえで「どの動きで痛むか」「生活のどの場面で困っているか」を専門職と一緒に整理していくことが大切だと考えています。
