記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
田中 光(株式会社Journey Rehab代表、認定作業療法士、修士〈作業療法学〉、東京都立大学大学院博士後期課程在籍)
本記事は一般的な医療情報と当社サービスの案内を含みます。個別の診断や治療方針は医療機関にご相談ください。
先に結論
中高年の半月板の変性断裂では、運動療法と手術で、数年後の膝の痛みや動かしやすさに大きな差は見られなかったという質の高い研究が複数あります。ただし、運動療法を選んだ方の一部は、その後に手術を受けています。
「MRIで半月板が切れていると言われた」「手術をしたほうがいいのか迷っている」——中高年になって膝の痛みで受診し、こうした説明を受ける方は少なくありません。年齢とともにすり減るように生じる半月板の傷は「変性断裂」と呼ばれ、中年期の方の3〜4割に見つかるとも報告されています4 。この記事では、中高年の半月板の変性断裂に対する運動療法について、手術と比べた研究で分かっていることと分かっていないことを正直に整理します1 2 。
目次
半月板の変性断裂と運動療法とは
研究では何が分かっているか
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か
回数・頻度・期間の目安
作業療法士の視点
よくある質問
参考文献
半月板の変性断裂と運動療法とは
半月板は、太ももの骨とすねの骨の間にある三日月形の軟骨で、膝にかかる衝撃を和らげるクッションの役割をしています。スポーツ中のけがなどで急に切れる場合とは異なり、中高年では、長い年月の負担で少しずつ傷んで切れ目が入る「変性断裂」が多く見られます。変性断裂は、膝の軟骨がすり減る変形性膝関節症と一緒に見つかることもよくあります3 4 。
治療としては、関節鏡を使って傷んだ半月板の一部を切り取る手術(関節鏡視下半月板部分切除術)が広く行われてきました。一方で、太ももやお尻の筋力トレーニング、バランス練習などを中心とした運動療法でも、手術と同じくらいの結果になるのではないかという疑問から、多くの比較研究が行われています1 2 3 。
変形性膝関節症の運動療法全般については、変形性膝関節症の運動療法について解説した記事 でも紹介しています。
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
研究では何が分かっているか
結論から言うと、中高年の半月板の変性断裂では、運動療法と手術で、数年後の膝の痛みや動かしやすさに大きな差は見られなかったという質の高い研究が複数あります。ただし、運動療法を選んだ方の一部は、その後に手術を受けています。
ランダム化比較試験 2016年(ノルウェー)
35〜60歳の140人(96%は明らかな変形性膝関節症なし)を、12週間の指導付き運動療法と手術に分けて比べた研究では、2年後の膝の痛みや機能の変化に意味のある差はありませんでした(差0.9点)。太ももの筋力は運動療法のグループでより大きく増えていました。運動療法のグループのうち19%が途中で手術を受けましたが、それによる追加の上乗せは見られなかったと報告されています1 。
ランダム化比較試験 2022年(オランダ・5年追跡)
45〜70歳の321人を、16回の運動療法と手術に分けた研究では、5年間の膝の機能の差は3.5点で、あらかじめ決めた「意味のある差」の基準(11点)を下回りました。つまり、運動療法は手術に劣らない結果でした。変形性膝関節症の進み方も両グループで同程度でした。一方、運動療法のグループの32%は、症状が続いたため後から手術を受けています2 。
ランダム化比較試験 2013年(米国)
45歳以上で、半月板の傷と軽度〜中等度の変形性膝関節症がある351人を対象とした研究では、6か月後の膝の機能は、手術と術後リハビリのグループ、運動療法のグループの両方で同じくらい良くなっていました(差2.4点)。運動療法のグループの30%は、6か月までに手術に切り替えていました3 。
ランダム化比較試験 2025年(米国)
45〜85歳で、半月板の傷と変形性膝関節症、膝の痛みがある879人を対象に、3か月の自宅での運動だけ、運動に励ましのメッセージを追加、さらに通院での理学療法を追加、などの方法を比べた研究では、3か月後の痛みの変化に差は見られませんでした。通院での理学療法を上乗せしても、自宅での運動プログラム以上に痛みが軽くなるという結果ではなかったと報告されています4 。
なお、10年後まで追跡した研究でも、手術と運動療法で変形性膝関節症の進み方や痛みに大きな差はなかったと報告されています5 。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと: ここで紹介した研究は、主に「年齢による変性断裂」の方を対象にしています。スポーツ中のけがなどで急に切れた半月板や、膝が引っかかって伸ばせなくなる(ロッキング)といった症状がある場合は、考え方が異なることがあります。治療の選び方は、必ず整形外科の医師と相談してください。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
紹介した研究はいずれもランダム化比較試験で、数百人規模・数年単位の追跡も含まれており、このテーマとしては比較的しっかりした根拠があります1 2 3 。ただし、運動療法のグループの約2〜3割が後から手術を受けているため、「運動療法だけで済む人」と「後から手術を選んだ人」が混ざっています1 2 3 。また、手術にはプラセボ効果(期待による効果)が加わりやすく、偽の手術と比べた研究がないと完全には切り分けられない、と研究者自身が限界として挙げています1 。研究は欧米で行われたものが中心で、日本人の生活様式(正座や床からの立ち上がりなど)にどこまで当てはまるかは分かっていません。
まだ分かっていないこと
・運動療法から手術に切り替える人を、事前に見分ける方法 ・最も適した運動の種類・回数・期間 ・通院で指導を受ける運動と、自宅での運動の使い分け4 ・正座や和式の動作が多い生活で、どのような運動が合うか 研究全体では一定の傾向がありますが、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
変わりやすいと報告されているもの
膝の痛みや動かしやすさは、運動療法でも手術と同じくらい良くなったと複数の研究で報告されています1 2 3 。太ももの筋力は、運動療法のほうがより増えていました1 。
変わりにくい・研究ごとに差があるもの
半月板の傷そのものが運動で元に戻るわけではありません。また、変形性膝関節症の進み方は、運動療法でも手術でも同じくらいで、どちらかで大きく防げるという結果ではありませんでした2 5 。運動を続けても症状が残り、手術を選ぶ方も一定数います2 3 。
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か
検討する場面があるケース
・40代以降で、MRIなどで半月板の変性断裂を指摘された方 ・痛みはあるが、膝を曲げ伸ばしできる方 ・まずは手術以外の方法を試したいと考えている方 ・太ももの筋力低下や、歩き方のくせが気になる方
注意が必要なケース
・膝が引っかかって伸ばせなくなる、急に力が抜けるなどの症状がある方 ・スポーツ中のけがなどで、急に膝を痛めた方 ・膝が大きく腫れている、熱を持っている方 ・運動で痛みが強くなり、翌日まで残る方(運動内容の調整が必要です)
筋力トレーニングの強さや量の考え方については、変形性膝関節症の筋トレの強さ・量について解説した記事 も参考にしてください。
回数・頻度・期間の目安
研究の量や下記の進め方は一般的な例です。個人に合う内容・量は、状態を評価した担当医や専門職と決めてください。
研究では、指導付きの運動療法を週2〜3回・12週間(合計24〜36回)行う方法1 や、16回の運動療法を行う方法2 、自宅での運動を週100分(25分×4回)・3か月続ける方法4 などが用いられていました。内容は、太ももやお尻の筋力トレーニング、バランス練習、膝をコントロールする練習が中心です1 。
1. 整形外科で、半月板の傷の種類や、手術を急ぐ必要がないかを確認する
2. 痛みの出にくい姿勢で、太もも・お尻の筋力トレーニングから始める
3. 慣れてきたら、立った姿勢でのバランス練習や、階段・しゃがみ動作の練習を加える
4. 運動中の痛みが軽い程度で、翌日に残らないかを目安に量を調整する
5. 12週間程度を一区切りに、痛みや生活のしやすさを担当者と振り返る
体重が膝への負担に関わっている場合は、変形性膝関節症と体重管理について解説した記事 もあわせてご覧ください。
作業療法士の視点
つまり運動療法は、「傷を治す」方法ではなく、「膝を支える力をつけて、傷があっても痛みの少ない生活を目指す」ための方法と考えると分かりやすいでしょう。
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
まとめ
・ 中高年の半月板の傷は、年齢とともに生じる「変性断裂」が多く見られます
・ 質の高い研究で、運動療法は数年後の痛みや動かしやすさで手術に劣らない結果でした1 2 3
・ 一方で、運動療法を選んだ方の2〜3割は、後から手術を受けています1 2 3
・ 治療の選び方は、症状や生活に合わせて整形外科の医師と相談しましょう
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。膝の痛みや半月板損傷の治療を検討する際は、必ず整形外科の医師または理学療法士などのリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のものであり、今後の研究により内容が更新される可能性があります。
田中 光(株式会社Journey Rehab代表、認定作業療法士、修士〈作業療法学〉、東京都立大学大学院博士後期課程在籍)
本記事は一般的な医療情報と当社サービスの案内を含みます。個別の診断や治療方針は医療機関にご相談ください。
よくある質問
Q. 半月板が切れていると言われたら、手術しないといけませんか?
中高年の変性断裂では、運動療法と手術で数年後の結果に大きな差がなかったという研究が複数あります1 2 。ただし、症状によっては手術が検討されることもあるため、整形外科の医師と相談してください。
Q. 運動で半月板の傷は治りますか?
運動で傷そのものが元に戻るわけではありません。運動療法は、膝を支える筋力などを高めて、痛みの少ない生活を目指す方法と考えられています。
Q. どんな運動をすればよいですか?
研究では、太ももやお尻の筋力トレーニング、バランス練習、膝をコントロールする練習が中心でした1 。痛みの程度に合わせて内容を調整することが大切です。
Q. どのくらい続ければ変化が分かりますか?
研究では12週間程度の運動療法がよく用いられていました1 。ただし変化の感じ方には個人差があり、すべての方に当てはまるわけではありません。
Q. 運動療法をしても良くならなかったらどうなりますか?
研究でも、運動療法を選んだ方の2〜3割は、症状が続いたために後から手術を受けています2 3 。運動を続けても痛みが強い場合は、改めて医師と相談しましょう。
Q. 通院でのリハビリと自宅での運動、どちらがよいですか?
自宅での運動プログラムに通院の理学療法を上乗せしても、3か月後の痛みに差がなかったという研究があります4 。ただし、正しいやり方を確認するために専門職の指導を受けることは役立つ場合があります。
参考文献
1. Nina Jullum Kise, May Arna Risberg, Silje Stensrud, Jonas Ranstamほか. Exercise therapy versus arthroscopic partial meniscectomy for degenerative meniscal tear in middle aged patients: randomised controlled trial with two year follow-up. BMJ (Clinical research ed.). 2016.
PubMed DOI 公開本文
2. Julia C A Noorduyn, Victor A van de Graaf, Nienke W Willigenburg, Gwendolyne G M Scholten-Peetersほか. Effect of Physical Therapy vs Arthroscopic Partial Meniscectomy in People With Degenerative Meniscal Tears: Five-Year Follow-up of the ESCAPE Randomized Clinical Trial. JAMA network open. 2022.
PubMed DOI 公開本文
3. Jeffrey N Katz, Robert H Brophy, Christine E Chaisson, Leigh de Chavesほか. Surgery versus physical therapy for a meniscal tear and osteoarthritis. The New England journal of medicine. 2013.
PubMed DOI 公開本文
4. Jeffrey N Katz, Jamie E Collins, Leslie Bisson, Morgan H Jonesほか. A Randomized Trial of Physical Therapy for Meniscal Tear and Knee Pain. The New England journal of medicine. 2025.
PubMed DOI 公開本文
5. Bjørnar Berg, Ewa M Roos, Martin Englund, Nina Jullum Kiseほか. Arthroscopic partial meniscectomy versus exercise therapy for degenerative meniscal tears: 10-year follow-up of the OMEX randomised controlled trial. British journal of sports medicine. 2025.
PubMed DOI