外傷性脳損傷(TBI)後のリハビリテーションとは?高次脳機能・生活・復職への研究と限界を正直に解説

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
外傷性脳損傷(TBI)後のリハビリテーションとは?高次脳機能・生活・復職への研究と限界を正直に解説
内容確認日:2026年7月28日
交通事故や転落、スポーツなどで頭を強く打ったあと、「検査では大きな異常がないと言われたのに、疲れやすい」「段取りが組めない」「怒りっぽくなった」という状態が続くことがあります。外傷性脳損傷(TBI)のあとに起こる、目に見えにくい変化です。研究では、専門的なリハビリによって症状の重さや気分の落ち込みに良い方向の差が報告されている一方、復職の割合については差が示されていません。この記事では、作業療法士の立場から、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを整理します。
SECTION 01
外傷性脳損傷(TBI)とは何か
外傷性脳損傷(TBI)とは、交通事故、転倒・転落、スポーツ中の衝突などによって、頭部に外から力が加わり脳に損傷が生じた状態を指します。脳卒中のように血管の詰まりや破れが原因ではなく、外からの力がきっかけになる点が違います。
重症度は幅広く、意識を失った時間や画像所見などから、軽度・中等度・重度に分けられます2。重度の場合は手足の麻痺や高度の意識障害が問題になりますが、割合として多いのは軽度で、こちらは麻痺が目立たない代わりに、頭痛、めまい、疲れやすさ、集中しにくさ、いらだち、眠りにくさといった症状が長く続くことがあります1
「見た目には元どおりに見えるのに、本人だけが困っている」という状態になりやすいのが、このテーマの難しいところです。周囲から理解されにくく、ご本人が自分を責めてしまうことも少なくありません。注意が続かない状態への関わりについては、脳卒中後の注意障害のリハビリについて解説した記事もあわせてご覧ください。
予定表を前に疲れや段取りの難しさを感じている成人
外から見えにくい疲れや段取りの難しさが生活に影響することがあります。
SECTION 02
研究で分かっていること
研究紹介|システマティックレビュー・メタアナリシス(2021年・9研究864名)
Möllerらの研究1は、軽度の外傷性脳損傷のあとに症状が長引いている(またはその可能性が高い)成人を対象に、専門的なリハビリと通常のケアを比べたランダム化比較試験9件(合計864名)をまとめたものです。心理的なアプローチ(認知行動療法や問題解決療法)を行った群では、症状の重さの指標で3.1点の差(95%信頼区間 −6.0〜−0.1)、心理面の指標で標準化平均差 −0.23(−0.45〜−0.02)、気分の落ち込みで −0.29(−0.50〜−0.08)、活動と参加で −0.22(−0.44〜−0.01)と、いずれも良い方向の差がみられました。多職種チームによるリハビリでは、症状の重さの指標で5.0点の差(−8.3〜−1.6)が報告されています。一方、生活の質については差が示されず(8.4、−0.4〜17.2)、復職の割合にも差はみられませんでした(リスク比0.87、0.70〜1.07)。これらの結果はいずれも、確からしさが「低い」または「非常に低い」と評価されています。
復職については、別のレビューも見ておきたいところです。Mullinsらのシステマティックレビュー2は、作業療法が関わる復職支援について、2013年から2023年の15件の研究をまとめたものです(研究ごとの数値をまとめる統計処理は行われていません)。個々の研究では、退院1年後に働いていた方の割合が、職業リハビリを受けた群で75%、通常のケアで60%だったという報告2や、認知面の練習と就労支援を組み合わせた群で3か月後の復職率が81%、通常のケアで60%だったという報告(p=0.02)があります2。ただし後者では、6か月後と12か月後には両群の差がなくなっていました2。レビュー全体としての根拠の強さは「中程度」と評価されています2
認知面のトレーニングそのものについては、Fernández Lópezらの研究3があります。パソコンを使った認知トレーニングに関するランダム化比較試験8件(370名)をまとめたもので、良い方向の差が確認できたのは、言葉に関する作業記憶(標準化平均差 0.486、0.034〜0.938)と、目で見た情報に関する作業記憶(0.543、0.189〜0.897)の2つだけでした。注意、処理の速さ、切り替え、抑制、記憶といった他の領域では、統計的にはっきりした差は認められていません3。しかもこれは練習直後の検査結果であり、その後どうなるかは調べられていません3
なお、この3つ目の研究の対象は「後天性の脳損傷」全般で、8件のうち5件は脳卒中、外傷性脳損傷だけを対象にしたものは1件、1件は子どもを対象にした研究です3。そのため、外傷性脳損傷のある成人にそのまま当てはめられる結果ではない点にご注意ください。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
ここは正直にお伝えしたい部分です。まとめられた9件の研究はすべて、結果の偏りについて「いくらかの懸念がある」と判定されました1。最も大きな理由は、参加している方も評価する側も、どちらの治療を受けているか分からない状態にできないことです。症状の多くはご本人が質問紙に答える形で測られるため、期待が結果に影響する可能性を避けられません1

加えて、著者ら自身が「推定された効果の大きさが、臨床的に意味のある差に相当するかどうかは不確実である」と明記しています1。研究の数が少なく、同じ介入を同じ指標で評価した研究がほとんどないことも、確からしさが低い理由として挙げられています1。研究全体では一定の傾向がありますが、対象者や方法が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
まだ分かっていないこと
・復職に対する働きかけの効果は、報告した研究が少なく、はっきりしていません。多職種チームのリハビリでは差が示されませんでした1
・どの方に、どの内容が最も合うのかは確立していません。研究によって外傷性脳損傷の定義や重症度の区別があいまいなものもあります1
・最適な回数・期間ははっきり決まっていません。研究のプログラム期間は4週から22週まで幅がありました1
・65歳を超える方を対象にした研究は1件もありません1
・受傷からどのくらい経った時期に始めるとよいかは、研究間でばらつきが大きく、比較できていません1
・パソコンを使った認知トレーニングについては、練習した課題の成績が生活場面にどう広がるか、効果がどのくらい続くかが調べられていません3
・復職支援では、差がみられた研究でも半年後・1年後には差が消えていた報告があり、長期的にどうなるかは分かっていません2
SECTION 04
何が期待でき、何は変わりにくいか
研究で比較的はっきり良い方向の差が示されているのは、頭痛・疲れやすさ・いらだちといった症状の重さと、気分の落ち込み、そして日常の活動や参加の指標です1。心理的なアプローチ、あるいは複数の職種が関わるリハビリのどちらでも、この傾向が報告されています1
一方で、生活の質の指標では差が示されておらず1、復職の割合についても、まとめた解析では差がありませんでした1。個別の研究では復職率に差がみられたものもありますが、時間が経つと対照群が追いつき、差がなくなった報告もあります2。「支援によって復職が早まる可能性はあるが、1年後の到達点まで変わるとは言えない」という読み方が、現時点では正直なところだと思います。
認知面のトレーニングについては、作業記憶(頭の中で情報を一時的に保持しながら使う力)に差がみられた一方、注意や処理の速さでは差が示されていません3。「練習した課題はできるようになったが、生活が変わった実感はない」ということが起こりうるのは、この点と関係があります。ここは期待しすぎず、正直にお伝えしておきたい部分です。復職の進め方については、脳卒中後の復職・職場復帰について解説した記事でも触れています。
専門職と一緒に一日の予定と休憩を組み立てる成人
予定を小さく分け、休憩を先に組み込むなど生活に合う方法を検討します。
SECTION 05
どんな人に向いているか
研究で対象となってきたのは、主に軽度から中等度の外傷性脳損傷のあとに症状が長引いている成人です1。年齢は16歳から66歳までの幅があり、平均年齢が29歳という研究もあれば47歳という研究もあります1。受傷からの期間も、2週間以内という研究から平均6年以上という研究まで、大きく異なります1
著者らは、症状が長引いている、あるいは長引くおそれのある方は専門的な対応を検討してよい、と結論づけています1。特に、麻痺は目立たないのに仕事や家事が回らない方、疲れやすさで1日の予定が組めない方、気分の落ち込みが強い方は、相談の対象になりやすいと考えています。段取りが難しくなる状態については、脳卒中後の遂行機能障害について解説した記事もご参照ください。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
頭を打ったあとに、頭痛が強くなる、繰り返し吐く、意識がぼんやりする、けいれんが起きる、手足の力が入らないといった変化があるときは、リハビリの前にすぐ医療機関を受診してください。また、症状が長引いている場合、その背景に睡眠の問題、薬の影響、うつ、痛みなど別の要因が重なっていることがあります。まずは担当の医師に相談し、必要な検査を受けたうえで進めることが大切です。研究で扱われているのは医療の枠組みのなかで行われたプログラムであり、自己判断で強い課題を続けることを勧めるものではありません1。65歳を超える方については研究データがありません1
SECTION 06
回数・頻度・期間の目安
研究で用いられた設定はさまざまです。心理的なアプローチでは6回から12回のセッション1、多職種チームによるプログラムでは4週から22週という期間が用いられていました1。復職支援では、10週間・週2時間のグループ形式の練習に最長6か月の就労支援を組み合わせた形2や、12週間のプログラム2が報告されています。
パソコンを使った認知トレーニングでは、平均して合計22.17時間、セッション数は平均34.43回、1回あたり平均38.93分という設定でした3。頻度は週5回という研究が最も多く、自宅で行う形が半数を占めています3
ただしこれらは研究の一例であり、最適な量ははっきり決まっていません1。外傷性脳損傷のあとは、疲れやすさが大きな課題になることが多く、量を増やすほど良いとは限りません。実際に取り入れるときは、短い時間から始めて、翌日の状態を見ながら調整していくことをおすすめします。
専門職の見守りで仕事に近い書類整理課題を行う成人
復職支援では、仕事に近い課題と疲労への対処を段階的に確認します。
SECTION 07
専門職と一緒に確認したい実践上のポイント
専門職が確認する主な項目
まず、医師による診察と検査が済んでいるか、症状を長引かせている別の要因(睡眠、痛み、薬、気分)がないかを確認します。次に、1日のなかで疲れがどう変化するかを一緒に記録し、休憩をどこに入れるかを決めます。そのうえで、困っている場面を具体的に挙げ(買い物の段取り、書類仕事、家事の手順など)、その場面をそのまま練習の材料にします。復職を目指す場合は、勤務時間の増やし方、職場に伝える内容、職場側にお願いしたい配慮を、ご本人と一緒に整理します。研究でも、多職種で関わる形と、ご本人中心に職場の要因まで扱う形が、良い結果につながりやすいと報告されています2
まとめると、外傷性脳損傷のあとに症状が長引いている方に対する専門的なリハビリは、症状の重さや気分、活動と参加の指標で良い方向の差が報告されています1。一方で、生活の質や復職の割合については差が示されておらず、根拠の確からしさも「低い」または「非常に低い」と評価されています1。それでも、疲れやすさや段取りの難しさは工夫の余地が大きい領域です。ご自身やご家族の状況に合うかどうか迷うときは、まず担当の医師やリハビリ専門職にご相談ください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療・診断を推奨したり、医療行為に代わるものではありません。頭部外傷のあとの症状には緊急の対応が必要な場合があり、症状の現れ方や必要な対応は個人によって大きく異なります。実施の前には、必ず担当の医師やリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
生活のなかで困っている場面と身体の状態を一緒に確認しながら、進め方を考えます。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
Q & A
よくある質問
Q. 検査で異常がないと言われましたが、症状が続くのはなぜでしょうか?
画像検査で写らない変化があること、また睡眠・痛み・気分など複数の要因が重なることが知られています。研究でも、軽度の外傷性脳損傷のあとに症状が長引く方が一定の割合で存在することを前提にプログラムが組まれています1。まずは担当の医師にご相談ください。
Q. リハビリで症状はどのくらい軽くなりますか?
研究では、症状の重さの指標で3.1点1、多職種チームのプログラムで5.0点1の差が報告されています。ただし著者らは、この差が生活のうえで意味のある大きさかどうかは不確実だと述べています1。個別に大きく異なります。
Q. リハビリを受ければ仕事に戻れますか?
まとめた解析では、復職の割合に差は示されていません1。個々の研究では、支援を受けた群のほうが早い時期の復職率が高かった報告もありますが、半年後・1年後には差がなくなっていました2。職場との調整も含めて、専門職と一緒に進めることをおすすめします。
Q. パソコンの認知トレーニングは意味がありますか?
研究で良い方向の差が確認されたのは、頭の中で情報を一時的に保持しながら使う力(作業記憶)だけでした3。注意や処理の速さでは差が示されていません。また、練習した課題が生活場面にどう広がるかは調べられていません3
Q. 受傷から何年も経っていますが、今から始めても意味がありますか?
研究の対象には、受傷から平均6年以上経過した方も含まれています1。ただし、どの時期に始めるとよいかは研究間でばらつきが大きく、比較できていません1。まずは今困っている場面を整理することから始めるのが現実的だと思います。
Q. 疲れやすさにはどう対応すればよいですか?
量を増やすほど良いとは限りません。1日のなかで疲れがどう変化するかを記録し、休憩を先に予定へ組み込む方法がよく用いられます。無理をした翌日に反動が出ることも多いため、専門職と一緒に調整することをおすすめします。
Q. 家族はどう関わればよいですか?
見た目に分かりにくい変化のため、周囲の理解が支えになります。できていないことを指摘するより、疲れの様子を一緒に見て予定を減らす、といった関わりが現実的です。ご家族自身が疲弊しているときは、その相談も専門職にしてください。
Q. 高齢の親が頭を打った場合も同じように考えてよいですか?
研究には65歳を超える方を対象にしたものが1件もありません1。高齢の方では、慢性硬膜下血腫など時間差で起こる問題もあるため、まず医師の診察を受けてください。
REFERENCES
参考文献
1. Möller MC, Lexell J, Wilbe Ramsay K. Effectiveness of specialized rehabilitation after mild traumatic brain injury: A systematic review and meta-analysis. J Rehabil Med. 2021;53(2):jrm00149. PMID: 33492404.
2. Mullins A, Scalise O, Carpio-Paez B, et al. Occupational therapy interventions in facilitating return to work in patients with traumatic brain injury: A systematic review. Work. 2025;81(2):2458-2476. PMID: 39973647.
3. Fernández López R, Antolí A. Computer-based cognitive interventions in acquired brain injury: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. PLoS One. 2020;15(7):e0235510. PMID: 32645046.