
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「また前の仕事に戻れるだろうか」「会社にどう相談すればいいか分からない」——働く世代で脳卒中を経験した方やご家族にとって、仕事に戻れるかどうかは大きな不安です。結論から正直にお伝えすると、職場復帰を支える専門的な支援(職業リハビリテーション)は、職場との調整や個別の準備を通じて役立つ可能性が示される一方、大規模な研究では「通常のケアと比べて明確な差は出なかった」とする結果もあり、効果の確実性はまだ高くありません。この記事では、脳卒中後の復職について研究で分かっていることと、現実的な進め方の考え方を、患者さんとご家族に向けて整理します。

・職業リハビリテーションとは、本人の状態と仕事内容を踏まえ、職場との調整や段階的な準備を支援する取り組みです3。
・脳卒中専門の早期職業リハビリを検証した大規模なランダム化比較試験(583名)では、通常のケアと比べて12か月後の復職率に明確な差はありませんでした(64.2%対59.4%)3。
・一方、職場への介入を行った80名のランダム化比較試験では、復職率が介入群60%・対照群20%と報告されています4。後天性脳損傷を対象にしたレビューでは、仕事に直接働きかける支援とコーチング・教育の組み合わせが役立つ可能性が示されています1。
・研究の結果は一致しておらず、年齢が高めの方や障害が複数ある方では支援が役立つ可能性も示唆されています。進め方は主治医・専門職・職場と相談しながら決めることが大切です2,3。
脳卒中は高齢の方に多いと思われがちですが、働く世代でも起こります。仕事に戻ることは、収入だけでなく、生活の張りや社会とのつながり、自信の回復にもかかわる大切な目標です。一方で、世界的なデータでは、発症から1年の時点で仕事に戻れている人はおよそ半数以下と報告されており、復職は簡単ではない現実があります3。
職業リハビリテーション(しょくぎょうリハビリテーション)とは、本人の体やこころの状態、そして仕事の内容を踏まえ、復職に向けた準備や職場との調整を支援する取り組みの総称です。具体的には、仕事のどの部分が難しくなったかを評価する、職場の環境や働き方を調整する(時間短縮、配置の変更、道具の工夫など)、本人と会社の橋渡しをする、難しい場合は別の働き方を一緒に考える、といった内容が含まれます1,3。作業療法士などのリハビリ専門職が関わることが多く、医療と職場の両方をつなぐ役割を担います。
結論から正直にお伝えすると、職業リハビリテーションは役立つ可能性が示される一方、研究の結果は一致しておらず、確実性はまだ高くありません。「支援すれば必ず復職できる」と言える段階ではないことを、まず知っておくことが大切です。
一方、より明確な良い結果を示した研究もあります。南アフリカで行われた80名のランダム化比較試験では、職場訪問を含む働き方の調整を行った群で、6か月後の復職率が60%だったのに対し、通常ケア群は20%でした4。また、脳卒中を含む後天性脳損傷を対象にした12研究のレビューでは、仕事に直接働きかける支援とコーチング・教育を組み合わせた方法に、復職を支える根拠があるとまとめられています1。複数の病気をまたいで職場復帰の支援を調べた研究の統合では、多職種による支援が役立つ傾向が示される一方、効果の大きさは小さめで、対象によってばらつきがありました2。
これらをまとめると、職業リハビリは「やり方や対象によっては役立つ可能性がある」一方、「どんな人にも一律に大きな効果がある」とまでは言えない、というのが現時点の見え方です1,2,3,4。

研究で「支えになりやすい」とされている要素には、いくつか共通点があります。早めに支援を始めること、本人だけでなく会社(雇用主)も巻き込むこと、仕事や職場環境を本人に合わせて調整すること、復職後も様子を見守り続けること、そして必要に応じて別の働き方も一緒に考えることです1。専門職が本人と会社の橋渡しをし、復職の調整を代わりに進める役割が役立つ可能性も示されています3。
一方で、壁になりやすいのは、体の動かしにくさだけではありません。疲れやすさ(脳卒中後の疲労)、注意や記憶などの見えにくい変化、気分の落ち込み、そして職場側の理解や受け入れ体制の不足が、復職を難しくすることがあります。大規模研究でも、雇用主に関わってもらうことの難しさが課題として挙げられています3。復職は本人の努力だけで決まるものではなく、体の回復・働く環境・職場の理解が組み合わさって進むものだと理解しておくことが大切です。
職業リハビリの考え方は、発症時に働いていて、また仕事に戻りたいと考えている方に、検討する場面がある支援です。研究では、年齢が高めの方や、複数の障害が残っている方で、専門的な支援が役立つ可能性も示唆されています3。逆に、軽症の方は自分で職場と調整して戻れることも多く、その場合は支援の差が見えにくくなります3。どの程度の支援が必要かは、仕事の内容や残った症状によって大きく変わります。
研究で用いられた職業リハビリは、発症から比較的早い時期に始め、数か月から1年程度にわたって個別に支援する形が報告されています3。具体的には、仕事内容と体の状態の評価、職場との話し合い、働き方や環境の調整、復職後の見守りといった流れです。ただし、最適な回数・期間が一律に定まっているわけではなく、本人の状態や職場の事情に合わせて組み立てられます1,3。
大切なのは、復職は医療だけ、あるいは本人だけで進めるものではないということです。多くの研究でも、本人・専門職・雇用主が協力して進める形が重視されています1,3。日本では、医療機関のリハビリのほか、地域障害者職業センターやハローワーク、産業医・会社の担当者など、相談できる窓口があります。どこに、どの順番で相談すればよいかは状況によって異なるため、まずは主治医やリハビリ専門職に、今の体の状態と仕事の希望を伝えて、進め方を一緒に整理することをおすすめします。
こうしたとき私たちが大切にしているのは、まず生活や通勤で何に困っているかをていねいに確認し、無理のない活動量から少しずつ整えていくことです。そして、復職そのものは医療機関や産業医、地域の就労支援の窓口とも連携しながら考えるべきテーマであることを正直にお伝えし、必要に応じて適切な相談先につなぐことを心がけています。復職は本人の努力だけで決まるものではなく、体の回復・働く環境・職場の理解が組み合わさって進むものだと考え、焦らず一歩ずつ進めることを大切にしています。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Kluit L, Hoving JL, Jamaludin FS, et al. Effectiveness of clinical healthcare interventions for enhancing the work participation of patients with various health conditions: a synthesis of systematic reviews. BMJ Open. 2025;15(2):e094201. DOI:10.1136/bmjopen-2024-094201. PMID:39979058. PMCID:PMC11843017.
3. Radford KA, Wright-Hughes A, Thompson E, et al. Effectiveness of early vocational rehabilitation versus usual care to support RETurn to work after stroKE (RETAKE): A pragmatic, parallel-arm multicentre, randomized controlled trial. Int J Stroke. 2025;20(3):347-358. DOI:10.1177/17474930241306693. PMID:39614629. PMCID:PMC11951359.
4. Ntsiea MV, Van Aswegen H, Lord S, Olorunju SS. The effect of a workplace intervention programme on return to work after stroke: a randomised controlled trial. Clin Rehabil. 2015;29(7):663-673. DOI:10.1177/0269215514554241. PMID:25322870.
5. Baldwin C, Brusco NK. The effect of vocational rehabilitation on return-to-work rates post stroke: a systematic review. Top Stroke Rehabil. 2011;18(5):562-572. DOI:10.1310/tsr1805-562. PMID:22082705.
