
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「テレビを見ていても内容が頭に入らない」「家事をしていると途中で気が散ってしまう」「二つのことを同時にやろうとすると混乱する」——脳卒中の後に、こうした「注意」の難しさを感じる方は少なくありません。これは注意障害と呼ばれ、見た目では分かりにくいために、ご本人やご家族が戸惑うことも多いお悩みです。結論から正直にお伝えすると、注意を鍛える認知リハビリテーションは、一部の注意の働き(同時に複数に気を配る力)で訓練直後に良い傾向が報告されていますが、その効果が生活の中でどこまで役立つかは、まだはっきりしていません1。この記事では、脳卒中後の注意障害と認知リハビリについて、研究で分かっていること、向いている人、進め方の考え方を、患者さんとご家族に向けて整理します。

・注意を鍛える認知リハビリをまとめた大規模なまとめ(コクラン・レビュー、6試験・223名)では、「同時に複数に気を配る力(分配性注意)」で訓練直後に良い傾向(標準化平均差0.67)が報告されました1。
・一方で、その効果が長く続くか、日常生活の動作や気分・生活の質まで良くなるかについては、確かな根拠はまだ得られていません1。
・国際的な専門家のまとめでは、脳卒中・脳外傷後の注意障害に対する認知リハビリは「推奨される取り組み」と位置づけられています2。
・訓練だけでなく、生活に合わせた工夫(環境を整える・一つずつ行う)を組み合わせることが現実的です。
注意とは、必要なことに気持ちを向け、続け、切りかえ、複数のことに同時に配る力のことです。研究では、ぼんやりせず目を覚ましておく力(覚度・アラートネス)、たくさんの中から必要なものを選ぶ力(選択性注意)、集中を続ける力(持続性注意)、二つ以上のことに同時に気を配る力(分配性注意)などに分けて考えます1。脳卒中の後は、これらの注意の働きが落ちて、「気が散る」「すぐ疲れる」「ながら作業がうまくいかない」といった困りごとにつながることがあります。
認知リハビリテーションは、こうした注意の働きにアプローチするリハビリです。大きく分けて、注意そのものをくり返し使って鍛える練習(パソコンの課題や紙と鉛筆の課題など)と、生活の中で困りにくくする工夫を身につける方法(メモ・声かけ・環境を整えるなどの代償的な方法)があります1。実際には、この二つを組み合わせて行うことが多いです。
結論から正直にお伝えすると、注意を鍛える認知リハビリは、一部の注意の働きで訓練直後に良い傾向が見られますが、それが長く続くか、生活の中の動作や気分にまで広がるかについては、まだ確かな根拠が得られていません。何を目的にするかで、分かっていることの確かさが異なります。
さらに重要な点として、これらの効果が3〜6か月後まで続くか、日常生活の動作・気分・生活の質まで良くなるかについては、良い・悪いどちらともいえず、確かな根拠は得られていません1。レビューの著者らは「注意障害への認知リハビリの効果は、まだ確定していない」とし、訓練直後の変化を、どうすれば日常の注意の働きに結びつけられるかが今後の課題だと述べています1。
一方で、脳卒中・脳外傷後の認知リハビリを幅広く検討した国際的な専門家のまとめ(491論文を評価)では、注意障害に対する認知リハビリは、実践が推奨される取り組み(プラクティス・スタンダード)の一つとして位置づけられています2。脳への電気刺激(tDCS)を組み合わせる研究も進んでいますが、注意への効果は今のところ確実とは言えません3。

研究で良い傾向が見えやすいのは、検査で測る「同時に複数に気を配る力(分配性注意)」の訓練直後の成績です1。くり返し注意を使う練習をすることで、その課題自体の成績は上がりやすいと考えられます。
一方で変わりにくい、あるいははっきりしないのは、その効果が時間が経っても続くか、そして練習した課題を超えて、実際の生活(家事・仕事・外出など)の中の注意の働きにまで広がるか、という点です1。気分や生活の質への効果も、現時点でははっきりしていません1。だからこそ、検査の成績を上げることだけを目的にせず、「生活のどの場面で困っているか」に合わせて練習や工夫を選ぶことが大切だと考えられます。
集中が続かない、気が散りやすい、ながら作業が難しい、人混みや音の多い場所で疲れやすい、という方には、注意への認知リハビリや生活上の工夫が役立つ可能性があります。とくに、家事や仕事・趣味など「困っている具体的な場面」がはっきりしている方は、その場面に合わせて練習や工夫を組み立てやすくなります。
研究で用いられた練習の方法・回数・期間はさまざまで、決まった標準のやり方が確立しているわけではありません1。実際には、注意を使う課題練習に加えて、生活の中の工夫を組み合わせることが多いです。たとえば、一度に一つのことに集中する(ながら作業を減らす)、テレビや音を消して環境を整える、作業を短く区切って休憩を入れる、メモ・チェックリスト・タイマーを使う、といった工夫です。検査の成績だけでなく、生活の困りごとが軽くなるかを一緒に確認しながら進めるのが現実的です。
これらはあくまで一般的な目安です。注意の落ち方や、生活で困っている場面は人によって大きく異なります。どんな練習・工夫をどのくらい行うかは、評価を受けたうえで、担当の専門職と一緒に決めて、疲れ具合や生活の変化を見ながら調整していくことが大切です。
一方、検査上の成績だけでは、暮らしの困りごとを十分に捉えられないことがあります。たとえば、複数の手順がある家事、会話をしながらの作業、外出時の情報処理など、日常生活の中で初めて分かる課題もあります。そのため私たちは、注意機能の評価とあわせて、実際の日常生活動作を観察し、ご本人・ご家族から具体的な場面を伺うことを大切にしています。
※上記は当施設で関わった範囲の経験であり、すべての方に同じ経過が当てはまるものではありません。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Cicerone KD, Goldin Y, Ganci K, et al. Evidence-Based Cognitive Rehabilitation: Systematic Review of the Literature From 2009 Through 2014. Arch Phys Med Rehabil. 2019;100(8):1515-1533. DOI:10.1016/j.apmr.2019.02.011. PMID:30926291.
3. Khan A, Yuan K, Bao SC, Ti CHE, Tariq A, Anjum N, Tong RKY. Can Transcranial Electrical Stimulation Facilitate Post-stroke Cognitive Rehabilitation? A Systematic Review and Meta-Analysis. Front Rehabil Sci. 2022;3:795737. DOI:10.3389/fresc.2022.795737. PMID:36188889. PMCID:PMC9397778.
