東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「退院はしたけれど、この先どこまでリハビリを続ければよいのか分かりません」「膝を曲げるのが怖くて、動かすのをためらってしまいます」「歩けるようにはなったけれど、以前のようには階段が下りられません」。人工膝関節の手術を受けた方やご家族から、こうしたご相談をいただきます。
結論から正直にお伝えします。この分野には意外な研究結果があります。2024年に報告された比較試験(DRAW1)では、退院後に運動プログラムを処方した群と、処方しなかった群とで、生活動作の点数に差がみられませんでした2。一方で、筋力トレーニングそのものについては、痛み・筋力・膝の曲がりで良好な結果を示したメタアナリシスもあります4。
つまり「リハビリをすれば必ず良くなる」とも「リハビリは不要」とも言い切れないのが現状です。この記事では、何がどこまで示されていて、どこからが分かっていないのかを、数字と限界の両方を添えて整理します。
人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty、以下TKA)は、変形性膝関節症などで傷んだ関節面を人工の部品に置き換える手術です。痛みの軽減という点では確立された手術ですが、術後に困りごとがまったく残らないわけではありません。研究で扱われている項目は、おおむね次のように整理できます。
結果は、運動恐怖がみられた方の割合は35%(95%信頼区間 27〜44%)。関連する要因としては、痛みの強さ(オッズ比 2.313、95%信頼区間 1.556〜3.07)、社会的なサポートの少なさ(1.681、1.000〜2.361)、否定的な対処のしかた(1.344、1.165〜1.523)などが挙げられています。
ただし、研究間のばらつきは非常に大きく(I²=97.05%)、対象となった研究の多くは中国で行われた横断研究です。日本の状況にそのまま当てはめられる数字ではありません1。
数字の当てはめには注意が必要ですが、「怖くて動かせない」という感覚が個人的な弱さではなく、研究の対象になるほど一般的な状態だという点は、知っておいて損のない情報だと思います。

リハビリの提供者として書きにくい話ですが、最初にお伝えしておくべき研究があります。
・遠隔リハビリ群(動作センサーとアプリを使い、理学療法士が遠隔で確認)
・在宅運動群(同じ運動を、動画リンク付きの紙のプログラムで実施)
・運動を処方しない群(手術の説明資料のみ)
運動は1日3セット×10回、15RM相当の強度で、2週ごとに負荷を上げる設定でした。主要評価項目は、生活動作に関する自己記入式の点数(HOOS/KOOSのADL)です。
結果は次のとおりです。
・術後6週:運動を行った群 +21.9点、行わなかった群 +18.5点、群間差 3.3点(95%信頼区間 −1.9〜8.6、p=0.10)
・3か月:群間差 1.9点(−3.7〜7.6)
・12か月:群間差 2.6点(−4.4〜9.6)
いずれの時点でも統計的な差はみられませんでした。痛み・症状・生活の質、30秒立ち座りテスト、10m速歩テスト、鎮痛薬の使用など、副次的な項目でも差は確認されていません。運動の遵守率は74.9%、満足度は3群とも81.3〜84.2%でした。
著者らは「人工股関節・人工膝関節の手術後において、運動療法は運動を処方しない条件に対して優れているとは言えなかった」と結論し、回復の道筋は処方された運動よりも手術侵襲への反応と自然な回復過程によって決まる部分が大きいのではないかと考察しています2。
同じ方向を示す研究がもう1件あります。プログラムの「中身」を工夫すれば結果が変わるのか、を調べたものです。
結果は、膝伸展可動域 −0.24度(95%信頼区間 −1.29〜0.81、I²=90%)、膝屈曲可動域 3.33度(−0.18〜6.83、I²=91%)、痛み(VAS)−0.71(−1.85〜0.43、I²=88%)、6分間歩行距離 4.34m(−20.74〜29.41)と、いずれも差がみられませんでした。
差がみられたのは2項目のみです。WOMAC(膝の症状と生活動作の質問紙)が −2.43点(−4.71〜−0.14、p=0.04、I²=48%)、Timed Up and Go が −0.65秒(−1.14〜−0.17、p=0.009、I²=52%)でした。
研究の質は比較的高く(PEDro平均8.7/11)、著者らの結論は「工夫を加えたリハビリプログラムは、画一的な方法と比べて、術後の臨床成績を系統的に良くするとは言えない」というものです3。
この2件から言えるのは、「特別なプログラムを組めば、それだけ早く良くなる」という前提は、研究では支持されていないということです。同じ手術後のリハビリでも、たとえば大腿骨近位部骨折の手術後のリハビリについて解説した記事で扱った状況とは、前提が大きく異なります。骨折は突然の受傷であるのに対し、TKAは予定された手術で、術前から準備ができる点も違います。
一方で、「筋力トレーニングそのもの」に絞ると、やや異なる結果が報告されています。
結果は次のとおりです。
・歩行速度:平均差 0.13m/秒(95%信頼区間 0.08〜0.18、I²=0%)
・Timed Up and Go:−0.92秒(−1.55〜−0.28、I²=66%)
・膝伸展筋力:標準化平均差 0.58(0.20〜0.96、I²=64%)
・膝屈曲筋力:標準化平均差 0.38(0.13〜0.63)
・膝屈曲可動域:2.74度(1.82〜3.67、I²=0%)
・痛み(VAS):−4.65(−7.86〜−1.44、I²=0%)
・6分間歩行距離:7.98m(−4.60〜20.56)=差なし
・階段昇降テスト:−0.79秒(−1.69〜0.10)=差なし
・膝伸展可動域:−0.60度(−1.23〜0.03)=差なし
ただしGRADEによる評価は全項目で「低い」。14件のうち11件(79%)はバイアスのリスクに懸念があり、低リスクは3件のみでした。著者ら自身も「効果量が小さいため、臨床的な意味は慎重に解釈すべき」と述べています4。
たとえば痛みの平均差 −4.65 は、0〜100mmのスケールで5mm弱にあたります。統計的には差がありますが、ご本人が体感できる大きさかというと、微妙なところです。「統計的に有意」と「実感できる変化」は別物という点は、この分野でも当てはまります。
なお、加齢に伴う全身の体力低下が重なっている場合は、膝だけを見ていても行き詰まることがあります。全身の観点については高齢者のフレイルと運動療法について解説した記事で整理しています。
「通院を続けたほうがよいのか、自宅でできる形に切り替えてよいのか」も、よくいただく質問です。
痛み(VAS)は、6週以内 0.18(95%信頼区間 −0.07〜0.42)、14週以内 0.12(−0.26〜0.49)、52週以内 0.16(−0.11〜0.43)と、いずれの時点でも差がみられませんでした。
一方、14週以内のKOOS(−2.62、−4.65〜−0.58)と膝可動域(2.00度、0.60〜3.40)では、わずかに外来リハビリのほうが良好という結果でした。
GRADEによる評価は「低〜中程度」、PEDroスコアは6〜9点。著者らは「長期の成績は同等であり、費用の観点から、自宅での遠隔リハビリは現実的な選択肢になりうる」と結論しています5。
この結果は、「通院できないから回復が遅れる」と心配されている方には、いくらか安心材料になるかもしれません。ただし、短期の可動域では外来のほうがやや良好だった点も、あわせて押さえておく必要があります5。

2. 同じメタアナリシスでも、運動の頻度は週1〜7回以上、期間は3〜48週、強度は自重から1RMの80〜90%までと幅が広く、「何をどれだけやったか」が揃っていません4
3. 可動域の統合結果は、測定する姿勢が研究ごとに異なるためばらつきが極めて大きく(I²=90〜91%)、解釈が難しい項目です3
4. DRAW1は人工股関節と人工膝関節を混ぜた集団で行われており、膝だけを取り出した結論ではありません。著者らも運動量が不足していた可能性を限界として挙げています2
5. リハビリの研究では、参加者と実施者の盲検化ができません。この構造的な弱点は、どの研究にも共通します2,4,5
6. 運動恐怖の頻度(35%)は、対象研究の多くが中国で行われた横断研究で、ばらつきも極めて大きく(I²=97.05%)、日本での数字とは限りません1
7. 追跡期間が12週未満の研究が多く、長期の成績を示すデータは限られています4
加えて、研究に参加する方は「参加できる状態の方」に偏りがちです。合併症が多い方、術前から歩行が難しかった方、認知面の課題がある方は、そもそも試験に組み入れられていないことがあります。研究の平均像と、目の前のご本人が一致するとは限りません。
2. 最適な量・頻度・期間・強度が定まっていません。研究のプログラムは3〜48週とばらばらです4
3. いつから始めるのがよいかが確立していません。プログラム開始時期の定義そのものが研究間で揃っていないと指摘されています3
4. どの工夫が効いているのかを切り分けられていません。工夫を加えたプログラムをまとめた解析では、個々の要素の寄与を判別できないとされています3
5. 運動恐怖に対して何をすればよいかは、まだ介入研究が乏しい段階です。頻度と関連要因が整理されつつある段階にとどまります1
6. 1年より先の経過を扱った研究が少なく、長期的な違いは分かっていません4,5
7. 合併症が多い方・術前から歩行が難しかった方にどう当てはまるかは、検証されていません
・膝の腫れが急に強くなった、熱をもっている、発赤がある、といったときは運動を中止し、速やかに主治医にご連絡ください
・ふくらはぎの痛み・腫れ・息苦しさは、血栓に関わる症状の可能性があります。すぐに医療機関へご相談ください
・転倒は人工関節周囲の骨折につながることがあります。段差・手すり・履物の見直しを、運動と同じくらい重視してください
・痛みを我慢して角度を出そうとするのは避けてください。強い痛みが数日続く場合は、量や方法を見直す合図です
反対側の膝や股関節に負担がかかっている方も少なくありません。股関節側の考え方については、変形性股関節症の運動療法について解説した記事もあわせてご覧ください。
2. 工夫を加えたプログラムも、標準的な方法と比べて系統的に良い結果を示してはいません3
3. 一方、筋力トレーニングそのものは、歩行速度・筋力・膝の曲がり・痛みで差が報告されています4
4. ただしその根拠の質はGRADEで全項目「低い」と評価されています4
5. 自宅での遠隔リハビリと外来リハビリは、長期の成績が同等と報告されています5
6. 短期の可動域では、外来リハビリのほうがわずかに良好でした5
7. TKA後の35%に運動恐怖がみられたという報告があります(ばらつきは極めて大きい)1
8. 「統計的に有意」と「本人が実感できる変化」は分けて考える必要があります4
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Mark-Christensen T, Thorborg K, Kallemose T, Bandholm T. Clinical benefit of physical rehabilitation after total hip and knee arthroplasty: A pragmatic, randomized, controlled trial (The DRAW1 trial). Osteoarthritis and Cartilage Open. 2024;6(4):100530. PMID: 39507936. PMCID: PMC11539412. DOI: 10.1016/j.ocarto.2024.100530
3. Alrawashdeh W, Eschweiler J, Migliorini F, El Mansy Y, Tingart M, Rath B. Effectiveness of total knee arthroplasty rehabilitation programmes: A systematic review and meta-analysis. Journal of Rehabilitation Medicine. 2021. PMID: 33846757. PMCID: PMC8814866. DOI: 10.2340/16501977-2827
4. Wei G, Shang Z, Li Y, Wu Y, Zhang L. Effects of lower-limb active resistance exercise on mobility, physical function, knee strength and pain intensity in patients with total knee arthroplasty: a systematic review and meta-analysis. BMC Musculoskeletal Disorders. 2024;25:730. PMID: 39267026. PMCID: PMC11395693. DOI: 10.1186/s12891-024-07845-9
5. Zhang H, Wang J, Jiang Z, Deng T, Li K, Nie Y. Home-based tele-rehabilitation versus hospital-based outpatient rehabilitation for pain and function after initial total knee arthroplasty: A systematic review and meta-analysis. Medicine. 2023;102(51):e36764. PMID: 38134064. PMCID: PMC10735162. DOI: 10.1097/MD.0000000000036764
