変形性股関節症の運動療法とは?痛み・歩行への研究と限界を正直に解説

· 整形疾患情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
変形性股関節症の運動療法とは?痛み・歩行への研究と限界を正直に解説
公開日:2026年7月26日|最終確認日:2026年7月26日
「歩き始めに股関節のつけ根が痛む」「長く歩くとだんだん脚が重くなる」「立ち座りや靴下をはく動作がつらい」——変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)では、こうしたお悩みがよく聞かれます。結論から正直にお伝えすると、運動療法(うんどうりょうほう=ストレッチや筋力トレーニングなどの運動を計画的に行うこと)は、股関節の痛みや歩きにくさをやわらげる助けになる可能性が、質の高い研究で示されています。ただし、その大きさは「劇的」ではなく、すべての方に同じように当てはまるわけでもありません。この記事では、作業療法士の立場から、運動療法で何が期待でき、何は変わりにくいのか、そして手術との関係まで、研究で分かっていることとまだ分かっていないことを整理します。
股関節の状態を確かめながら自宅内を歩き、作業療法士が見守る場面
痛みの出方や歩き方を確かめ、生活に必要な動きを具体的に整理します。
SECTION 01
変形性股関節症とは(基本のしくみ)
変形性股関節症は、股関節の軟骨(なんこつ=骨と骨の間のクッション)がすり減り、関節の形が少しずつ変わっていく状態です。進むと、歩き始めや長時間の歩行での痛み、股関節の動く範囲の狭まり、脚の筋力の低下、跛行(はこう=かばう歩き方)などが現れやすくなります。日本では、生まれつき股関節の受け皿が浅い「寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)」が背景にある方が多いことも知られています。
治療は、痛み止めなどのお薬、運動療法、生活動作の工夫、そして進行した場合の手術(人工股関節など)を、状態に合わせて組み合わせます。この中で運動療法は、多くの診療ガイドラインで「まず取り組む土台の一つ」として位置づけられています5
SECTION 02
運動療法は研究で有用とされているのか
結論を先にお伝えすると、「陸上での運動療法(りくじょう=プールではなく床の上で行う運動)は、股関節の痛みと日常生活の動きやすさをやわらげる助けになる」と、質の高い研究でまとめられています。ただし変化の大きさは中くらい以下です。
コクランレビュー(複数の試験をまとめた最上位の研究)
変形性股関節症を対象にした10件のランダム化比較試験(約549人)をまとめた解析では、陸上での運動療法は、痛みと身体機能(動きやすさ)を小〜中程度やわらげ、その効果は治療終了後3〜6か月まで保たれていました1。100点満点の尺度に置きかえると、痛みで約8点、動きやすさで約7点ぶんの差にあたります。研究チームは、痛みと身体機能については「質の高いエビデンス」と評価しています。
Fransen 2014(Cochrane Database Syst Rev)
膝または股関節の変形性関節症を対象にしたネットワークメタアナリシス(152試験・約1万7千人)では、痛みや動きやすさについて、運動療法と飲み薬(消炎鎮痛薬・アセトアミノフェン)の間に明確な差は検出されませんでした2。ただし、これは両者が完全に同じ効果だと証明した結果ではありません。股関節の参加者は全体の一部で、多くは間接比較です。薬には胃腸・腎臓・心血管などの副作用リスクもあるため、薬の要否は主治医、運動の内容はリハビリ専門職と分けて相談し、必要に応じて組み合わせます。
ガイドラインの面でも、Ottawa Panel(オタワパネル=運動療法の推奨をまとめた専門家グループ)は、陸上での運動療法、とくに筋力トレーニングを、痛み・こわばり・自己申告の障害をやわらげ、動きやすさや関節の動く範囲を広げる目的で推奨しています5。整形領域では、腰の不調でも自宅でのストレッチや運動が土台になります。腰椎圧迫骨折のケースですが、腰椎圧迫骨折のリハビリとストレッチについて解説した記事も、運動の考え方の参考になります。
安定した椅子を支えにして股関節まわりの運動を行う場面
運動は安定した支えを使い、翌日に痛みを強く持ち越さない範囲から調整します。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
研究結果を正しく受け取るために、限界も正直にお伝えします。運動療法の試験では、参加者に「自分が運動をしている」ことを隠せません。そのため、痛みや動きやすさのような自己申告の評価では、効果がやや大きめに出やすい可能性があると、研究チーム自身が指摘しています1。また、股関節を対象にした試験の数はまだ多くなく、参加人数も限られています。
まだ分かっていないこと
・どのような方(重症度・年齢・原因)に最も合うのかは、十分には確立していません。
・最適な運動の種類・強さ・回数・期間の「正解」は定まっていません。ある大規模試験では、高強度の筋力トレーニングと、バランス・動作を重視する神経筋トレーニングとで、機能・痛み・生活の質に差は見られませんでした3
・長期間(数年単位)で軟骨のすり減りや手術の必要性そのものにどう影響するかは、まだよく分かっていません。
・生活の質(QOL)については、運動療法のはっきりした上乗せは示されていません1
こうした限界があるため、この記事の内容は「必ず良くなる」という保証ではありません。研究全体では一定の傾向がありますが、対象者や運動内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではない、という前提で読んでいただければと思います。
SECTION 04
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
研究と現場感を合わせると、運動療法での「変わりやすいこと」と「変わりにくいこと」は次のように整理できます。
変わりやすいと報告されていること
・動いたときの痛みが、続けるうちに少しやわらぐこと1
・立ち座り・歩行など日常動作のしやすさ1
・股関節まわりの筋力や、脚の使い方のスムーズさ3,5
変わりにくい・運動だけでは難しいこと
・すり減った軟骨そのものを元に戻すこと
・強い変形や進行した股関節での、痛みの完全な消失
・生活の質(QOL)の大きな底上げ1
SECTION 05
どんな人に向き、どんな人は注意が必要か
運動療法は、軽度〜中等度の変形性股関節症で、痛みと付き合いながら生活の動きを保ちたい方に取り入れやすい選択肢です。一方で、次のような場合は、自己判断で運動を進めず、主治医やリハビリ専門職に相談してから始めることをおすすめします。
注意したい場面
・安静にしていても強く痛む、夜間に痛みで目が覚める
・急に痛みや腫れが強くなった、脚を引きずるほど痛い
・人工股関節の手術後で、動かしてよい範囲に制限がある
・立ちくらみ・強い疲れやすさなど、運動でふらつきやすい状態
これらに当てはまる場合、運動の種類や強さの調整が必要です。無理な反復や「痛くても頑張る」進め方は避けます。
SECTION 06
回数・頻度・期間の目安
研究でよく用いられる進め方は、次のような形です。いずれも「目安」であり、体調や痛みの程度に合わせた調整が前提です3,5
頻度:週に2回程度の運動を、数週間〜数か月続ける
1回の時間:準備運動を含めて30〜60分程度
内容:股関節・膝まわりの筋力トレーニング、ストレッチ、バランスや動作の練習の組み合わせ
強さ:翌日に痛みを強く持ち越さない範囲から始め、少しずつ調整する
大切なのは「続けられること」です。強い運動を短期間だけ行うより、生活に無理なく組み込める運動を続けるほうが、結果的に取り組みやすいと感じる方が多い印象です。ご自宅での運動やオンラインでの運動指導も選択肢になります。腰痛の領域ですが、慢性腰痛のオンライン運動指導について解説した記事も、自宅で運動を続ける工夫の参考になります。
SECTION 07
手術(人工股関節)との関係
「運動を頑張れば手術は避けられますか?」——正直な答えは、現時点の研究だけでは判断できません。重い変形性股関節症の109人を対象に、人工股関節置換術と筋力トレーニングを比べた試験では、6か月後の股関節の点数は手術群のほうが大きく良くなりました(群間差11.4点)4。筋トレ群では21%が6か月以内に手術へ移行しましたが、この数字だけから「残りの方は手術を先延ばしできた」とは断定できません。追跡期間が短く、長期の手術率を示す研究ではないためです。
重い変形では手術が大きな変化につながる場合があります。一方、運動療法は痛みや生活動作を整理しながら、手術を含む選択肢を検討する保存療法の一つです。どちらが適切かは、画像所見だけでなく、痛みの強さ、睡眠や仕事への支障、他の病気、ご本人の希望を含めて整形外科の主治医と相談します。
SECTION 08
研究を生活に当てはめるときの考え方
生活目標から逆算します
研究の平均値だけでは、あなたに合う運動は決まりません。「靴下をはく」「階段を上る」「買い物に行く」など困っている動作を一つ選び、痛み・歩き方・疲れ方の変化を記録しながら、運動の種類と量を調整します。運動を続けても強い痛みや生活上の支障が残る場合は、無理に継続せず、整形外科で再評価を受けて手術を含む選択肢を整理します。
短い歩行の後に休憩し、痛みと活動量について作業療法士と相談する場面
活動と休憩のバランス、翌日まで残る痛みを手がかりに運動量を調整します。
まとめ
・陸上での運動療法は、股関節の痛みと動きやすさを小〜中程度やわらげる可能性が、質の高い研究で示されています1
・飲み薬との比較では明確な差が検出されませんでしたが、股関節データは一部で間接比較が中心です2
・筋力トレーニングを含む運動が推奨されますが、運動の種類による優劣ははっきりしていません3,5
・重い変形では手術のほうが点数の伸びが大きい場面もあり、判断は主治医と相談が必要です4
免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療などの医療行為を推奨するものではありません。症状や運動の可否は個人差が大きいため、実施の前に必ず主治医・リハビリ専門職にご相談ください。引用した研究データは執筆時点のものであり、今後の研究で見解が変わる可能性があります。
股関節の痛みや歩き方のことを相談したい方へ
今の身体の状態を一緒に確認しながら、生活に合った運動の進め方を考えます。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
FAQ
よくある質問
Q. 運動すると軟骨がさらにすり減りませんか?
適切な強さの運動でかえって状態が悪くなるという明確な証拠は示されていません。むしろ痛みや動きやすさをやわらげる助けになる可能性が報告されています1。ただし痛みが強く出る運動は避け、種類や強さは専門職と相談して調整するのが安全です。
Q. どのくらいで変化を感じますか?
研究では数週間〜数か月の運動で痛みや動きやすさの変化が報告され、その状態は治療後3〜6か月まで保たれていました1。感じ方には個人差があり、目安としてお考えください。
Q. 痛み止めと運動、どちらがよいですか?
大規模な解析では、痛みや動きやすさについて運動と飲み薬の間に明確な差は検出されませんでしたが、股関節のデータは一部で、完全に同じ効果を証明したわけではありません2。薬は主治医、運動はリハビリ専門職と相談し、必要に応じて組み合わせます。
Q. 筋トレとバランス運動、どちらが効きますか?
ある大規模試験では、高強度の筋力トレーニングと、動作やバランスを重視する運動とで、機能・痛み・生活の質に差は見られませんでした3。続けやすいほうを選ぶのが現実的です。
Q. 運動を続ければ手術は避けられますか?
運動を続ければ手術を避けられるとは断定できません。重い変形を対象にした試験では、6か月後の点数は手術群のほうが大きく良くなりました4。症状、生活への支障、ご希望を含めて整形外科の主治医と相談してください。
Q. プールでの運動と陸上、どちらがよいですか?
この記事で紹介した強いエビデンスは陸上での運動のものです1。水中運動は関節への負担が少ない利点がありますが、股関節での比較データはまだ限られます。ご本人の状態や好みに合わせて選ぶとよいでしょう。
REFERENCES
参考文献
1. Fransen M, McConnell S, Hernandez-Molina G, Reichenbach S. Exercise for osteoarthritis of the hip. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2014;(4):CD007912. PMID: 24756895. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24756895/

2. Weng Q, Goh SL, Wu J, et al. Comparative efficacy of exercise therapy and oral non-steroidal anti-inflammatory drugs and paracetamol for knee or hip osteoarthritis: a network meta-analysis of randomised controlled trials. British Journal of Sports Medicine. 2023;57(15):990-996. PMID: 36593092. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36593092/

3. Kjeldsen T, Skou ST, Dalgas U, et al. Progressive Resistance Training or Neuromuscular Exercise for Hip Osteoarthritis: A Multicenter Cluster Randomized Controlled Trial. Annals of Internal Medicine. 2024;177(5):574-583. PMID: 38588540. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38588540/

4. Frydendal T, Christensen R, Mechlenburg I, et al. Total Hip Replacement or Resistance Training for Severe Hip Osteoarthritis. The New England Journal of Medicine. 2024;391(17):1610-1620. PMID: 39476341. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39476341/

5. Brosseau L, Wells GA, Pugh AG, et al. Ottawa Panel evidence-based clinical practice guidelines for therapeutic exercise in the management of hip osteoarthritis. Clinical Rehabilitation. 2016;30(10):935-946. PMID: 26400851. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26400851/