
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
結論:温泉療法は慢性腰痛の痛みや機能障害を短期的に軽減する可能性がありますが、研究間のばらつきが大きく、温泉水そのもの・温熱・運動・滞在環境のどれが寄与したかは分かっていません。通常の運動療法や医療評価の代わりではなく、持病と入浴リスクを確認した補助的な選択肢です。
日本には各地に温泉があり、「腰痛に温泉が良い」という話は昔からよく聞かれます。海外でも「バルネオセラピー(温泉浴療法)」として、慢性腰痛への効果が研究されてきました。この記事では、システマティックレビューや個別のランダム化比較試験(RCT)をもとに、研究で分かっていることと、まだはっきりしないことを、できるだけ正直に整理します。
2. 研究では何が示されているのか
3. エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
4. 何が変わりやすく、何は変わりにくいか
5. どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か
6. 取り入れ方の目安
7. 運動・入浴を取り入れる前に確認したいこと
8. よくある質問
9. 参考文献
温泉療法(バルネオセラピー)とは何か
バルネオセラピーとは、温泉水やミネラル成分を含んだ水に浸かることで症状の緩和を目指す治療法の総称です。研究では、単純に温泉水に浸かる方法のほか、泥パックと組み合わせる方法、通常の理学療法と組み合わせる方法などが検証されています。海外では「スパ療法」として、温泉地に滞在しながら運動療法と温泉浴を組み合わせるプログラムも研究されています1,2。
慢性腰痛への運動療法の基本的な考え方は、慢性腰痛の運動療法をFITT原則から解説した記事でも整理しています。温泉療法は、こうした運動療法に置き換わるものではなく、組み合わせて検証されることが多い点も押さえておきたいポイントです。

研究では何が示されているのか
慢性腰痛へのスパ療法の更新版システマティックレビュー・メタアナリシス(2019年・12件のRCT)
2018年5月までのRCTを対象にした更新版メタアナリシスです。12件のRCTがシステマティックレビューに、11件がメタアナリシスに組み入れられました。スパ療法群は対照群と比べて、疼痛(VAS)が平均16.07mm改善(966人分のデータ、p<.00001)、腰椎機能障害の指標(ODI)が平均7.12点改善(468人分のデータ、p<.00001)という結果でした。一方、腰椎の前屈可動域を測るSchober testでは、統計的に有意な差は見られませんでした。研究チームは「スパ療法は慢性腰痛の疼痛緩和と機能改善に効果がある」と結論づけつつ、「研究間のばらつき(異質性)が大きい」ことも明記しています1。
山岳ハイキング+温泉浴のランダム化比較試験(2019年・非特異性慢性腰痛80人)
オーストリアの温泉地で、非特異性慢性腰痛の患者80人を、山岳ハイキング単独群、山岳ハイキング+温泉浴(Mg-Ca-SO4系温泉、20分/日)群、対照群(通常生活)の3群に無作為に割り付けた試験です。6日間の滞在プログラムで、疼痛は温泉浴を組み合わせた群で4か月後に開始前からの改善が報告されました(p=0.002)。脊椎の可動性、健康関連QOL、心理的な健康度(WHO-5)も、温泉浴を組み合わせた群で開始前からの改善が報告されました。研究チームは、温泉水特有の成分の効果と、単なる温熱・運動効果を明確に区別することはできなかったと述べています2。
近年も研究は続いており、2026年にはアスリートを対象にした慢性腰痛へのバルネオセラピーの研究も報告されています。ただし、アスリートという特定の集団を対象にした研究であり、対象や評価方法が限られるため、この記事では参考情報として触れるにとどめます3。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
2019年の更新版メタアナリシスでは、研究間の結果のばらつき(異質性)が疼痛で88%、機能障害指標で87%と非常に高いことが明記されています。これは、対象施設・温泉の泉質や温度・治療期間が研究ごとに大きく異なることを反映しています。また、質の高い研究(Jadadスコア3点以上)は12件中6件にとどまり、多くの研究でブラインド化(盲検化)が不十分だったことも限界として挙げられています1。
まだ分かっていないこと
1. 温泉水に含まれるミネラル成分そのものの効果なのか、単なる温熱効果・運動効果なのかは、研究間で明確に区別されていません1,2。
2. どのくらいの温度・時間・頻度が最適かという標準的な処方は確立していません1。
3. 効果がどのくらい続くか。多くの研究は数か月程度の追跡にとどまり、長期的な効果は十分に検証されていません1。
4. 日本の温泉(泉質・温度が海外の研究と異なる場合が多い)での検証はほとんどありません。紹介した研究はヨーロッパ(トルコ・オーストリアなど)が中心です1,2。
5. 腰痛の原因(椎間板性、筋・筋膜性など)ごとの効果の違いは十分に検証されていません。
研究の数値は、参加した集団の平均的な傾向です。腰痛の原因、痛みの強さ、持病、生活環境は人によって大きく異なるため、ある研究で報告された結果が、そのままご自身に当てはまるとは限りません。

何が変わりやすく、何は変わりにくいか
・運動(ハイキング)に温泉浴を組み合わせた場合の疼痛・QOL・心理面の改善2
・温泉成分そのものの効果と温熱・運動効果の区別1,2
・研究間の結果の一貫性(異質性が非常に高い)1
運動そのものを続けることの重要性については、腰痛の運動を続けるための工夫について解説した記事でも扱っています。温熱を使った他の物理療法としては、慢性腰痛へのLED光線療法について解説した記事もあわせてご覧ください。
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か
紹介した研究の多くは、明らかな神経症状(下肢のしびれ・麻痺など)を伴わない、いわゆる「非特異性」の慢性腰痛の方を対象にしています1,2。温泉浴自体は比較的取り組みやすい方法と考えられますが、次のような場合は注意が必要です。
・発熱がある、感染症の急性期である
・心疾患・高血圧などで長時間の入浴に注意が必要な持病がある
・骨折や圧迫骨折など、まだ安静が必要な状態
・痛みが急に強くなった、これまでと違う痛み方をしている
腰痛の原因はさまざまで、中には温泉浴が向かない状態(急性の炎症、骨折後など)もあります。まずは腰痛の原因を評価してもらうことが大切です。
取り入れ方の目安
下記は研究で扱われた内容の紹介であり、「これが唯一の正解」という意味ではありません。実際の内容は、腰痛の原因・体力・持病によって個別に判断する必要があります。
・頻度:連日または週数回のプログラムとして検証されている1
・組み合わせ:入浴単独よりも、運動療法や理学療法と組み合わせて検証されている研究が多い1,2
・期間:数日〜数週間の集中的なプログラムとして行われることが多い2
大切なのは、「温泉に入れば腰痛が治る」と考えるのではなく、普段の運動療法や生活動作の工夫と組み合わせた選択肢の一つとして位置づけることだと考えられます。

運動・入浴を取り入れる前に確認したいこと
温泉浴を検討する際は、腰痛の原因、しびれや筋力低下の有無、心臓や血圧に関わる持病を先に確認します。熱い湯や長時間の入浴を自己判断で続けず、症状が悪化する場合は医療機関に相談してください。
作業療法士としての視点
作業療法士の視点では、入浴だけで評価せず、浴場までの移動、着替え、洗体、浴槽のまたぎ、入浴後の活動までを一連の生活行為として確認します。腰痛、ふらつき、疲労、環境上の危険を整理し、必要に応じて手すり、休憩、歩行量を調整します。
中止基準と医療機関へ相談すべき症状
入浴・運動中に胸の痛み、動悸、強い息苦しさ、冷汗、吐き気、強いめまい、失神しそうな感覚が出た場合は直ちに中止し、安全な場所で休んでください。新しく脚の力が入りにくい、会陰部のしびれ、排尿・排便の異常、発熱を伴う腰痛、安静でも増悪する強い痛みがある場合は早めに医療機関へ相談してください。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
本記事は、株式会社Journey Rehab代表の作業療法士・田中 光が執筆し、文献内容を2026年9月18日に確認しました。当社の訪問自費リハビリの案内を含みますが、特定の医療機関・製薬・医療機器事業者から本記事作成に関する資金提供は受けていません。外部の医師による個別監修は受けていないため、診断や治療方針は主治医へご相談ください。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
よくある質問
Q. 温泉に入ると腰痛が治りますか?
Q. 温泉の成分によって効果は違いますか?
Q. 腰の動かしやすさ(柔軟性)も良くなりますか?
Q. どのくらいの期間・頻度で行われた研究が多いですか?
Q. 自宅の入浴でも同じ効果がありますか?
Q. 日本の温泉でも同じ結果になりますか?
参考文献
2. Huber D, Grafetstätter C, Proßegger J, Pichler C, Wöll E, Fischer M, Dürl M, Geiersperger K, Höcketstaller M, Frischhut S, Ritter M, Hartl A. Green exercise and mg-ca-SO(4) thermal balneotherapy for the treatment of non-specific chronic low back pain: a randomized controlled clinical trial. BMC Musculoskeletal Disorders (BMC Musculoskelet Disord). 2019. doi:10.1186/s12891-019-2582-4. PMID: 31096958. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6524239/
3. Gáti T, Tefner IK, Hodosi K, Bender T. The effects of balneotherapy on chronic low back pain, functional status, and rowing performance in athletes. International Journal of Biometeorology (Int J Biometeorol). 2026. doi:10.1007/s00484-026-03297-z. PMID: 42747539. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42747539/