認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程在籍
結論:テニス肘と呼ばれる肘の外側の痛みには、運動や徒手療法で痛みが少し軽くなる可能性があります。ただし、2024年のコクランレビューでは平均的な差は小さく、長く続く効果は確認されませんでした。痛みの経過、仕事や家事の負担、本人の目標を踏まえ、医療機関と相談しながら進めることが大切です。
肘の外側が痛むと、使わずに休むべきか、筋力運動を始めるべきか迷いやすくなります。研究では運動と徒手療法を組み合わせたプログラムが多く、単一の運動が全員に有効と示されたわけではありません。仕事や家事で使う動作まで含めて考える必要があります。
痛みが始まった時期、握る・ねじる・持ち上げるなど困る動作、しびれの有無を記録すると、別の原因を含めた診察やリハビリ相談に役立ちます。

この記事で分かること
- 肘の外側の痛みで確認したいこと
- 運動・徒手療法と自然経過の研究
- 生活上の工夫と中止・受診の目安
対象となる症状と問題
テニス肘は、物を握る、手首を反らす、工具を使う、調理をするときなどに肘の外側が痛む状態の通称です。テニスをしない方にも見られます。ただし、首・肩や神経の問題、外傷など別の原因による痛みもあります。しびれ、脱力、強い腫れを伴う場合は自己判断しないでください。
仕事中の首・肩の負担については、職場の短い運動についての記事にも関連情報があります。

研究を読む前に:短期の痛みと長期の経過
コクランレビューは複数の試験の平均を示します。個々の研究では運動の種類、徒手療法の有無、対照群の内容、追跡期間が違います。治療直後の痛みの小さな差が、仕事へ戻るまでの時間や一年後の再発を減らすことを意味するわけではありません。
注射、理学療法、経過観察を比べた試験は、短期の速さと長期の状態で結果が異なりました。そのため「最も効く方法」を一つの時点だけで決めず、本人が重視する活動、再発の懸念、医師による診断と合わせて選ぶ必要があります。
研究から分かっていること
コクランレビューでは差は小さい
Wallisらの2024年のコクランレビューは23試験、計1,612人を対象にしました。運動、徒手療法、またはその組み合わせは、最小限の介入と比べ、4週〜3か月の痛みを10点満点で平均0.53点、障害を100点満点で平均5点減らしました。しかし差は小さく、持続する効果は示されず、根拠の確実性は低いと評価されています。[1]
短期と長期で結果が異なる
198人を対象にしたBissetらの試験では、6週時点ではステロイド注射が速く改善し、理学療法も経過観察より良い結果でした。一方、52週時点では理学療法と経過観察に明確な差はなく、注射群では再発が多く報告されました。この試験の理学療法は徒手療法と運動の組み合わせで、運動だけの効果ではありません。[2]
自然経過も考慮する
治療試験の対照群をまとめたレビューでは、1年で症状が改善した人の割合は89%と推定されました。ただし、全員が改善するという意味ではなく、対象研究の条件が異なるため個人の予測には使えません。[3]
研究結果を作業に読み替える
平均的な小さな差をどう考えるか
コクランレビューの平均差は、集団全体でみた痛みと障害の尺度の差です。手を使う仕事を再開できるか、家事をどれだけ続けられるかを直接表す数字ではありません。介入の中身も運動だけ、徒手療法だけ、両方の組み合わせと幅があり、一つの種目の最適な回数は決まりません。
短期の速さと長期の経過を分ける
注射との比較試験では、早い時点での痛みの軽減と一年後の経過が同じ方向ではありませんでした。早く仕事へ戻りたい事情があっても、再発や長期的な負担を含めて担当医と話し合う必要があります。試験で行われた治療内容、本人の症状、仕事の負荷が違えば、同じ結果を期待できません。
作業の調整も評価対象にする
運動を試す前後で、どの物を何回握ったか、どんな姿勢で持ったか、休憩を挟めたかも記録します。痛みを恐れて活動をすべて止める必要があるとは限りませんが、強い痛みを押して同じ作業を続けることも勧められません。個別の負荷調整には診断と経過の確認が欠かせません。
研究だけでは分からないこと
どの運動の種類・強度・回数が誰に最も適するか、長期的な再発を防げるかは十分に分かっていません。レビューには介入内容の違い、参加者を盲検化できないこと、自己申告の痛み評価といった限界があります。短期の痛みの変化を「腱が治った」と解釈することもできません。
リハビリと生活での具体例
- 痛む動作、握る力、仕事・家事の時間を記録する。
- 持ち手を太くする、両手を使う、重い物を小分けにするなど負担を調整する。
- 運動を行う場合は、軽い抵抗から始め、運動中と翌日の症状を確認する。
- 負荷を上げると痛みが強まる場合は前の段階に戻す。
手のしびれがある場合は、手根管症候群の保存療法についての記事も参考になりますが、症状の原因は医療機関で確認してください。

作業療法士・Journey Rehabの視点
作業療法では、筋力だけを測るのではなく、仕事の道具、家事の持ち方、休憩の取り方を一緒に確認します。痛みを避けるために大切な活動をすべてやめるのではなく、どの作業をどの負荷で続けられるかを相談しながら調整します。Journey Rehabのサービス内容もご覧ください。
安全上の注意と中止基準
運動中に鋭い痛みやしびれが増す、握力が急に落ちる、翌日まで痛みが強く残る場合は中止または減量してください。転倒や外傷の後に肘が変形した、強い腫れ・熱感・発赤がある、発熱を伴う、手指の感覚低下や脱力が進む場合は医療機関へ相談してください。急な麻痺や胸痛など全身症状があれば緊急対応を検討してください。
まとめ
運動・徒手療法は肘の外側の痛みに小さな短期効果を示すことがありますが、長期の優位性は明確ではありません。自然経過と生活上の負担を含めて考え、症状が続く場合は診断と方針を相談しましょう。
仕事・家事に戻すための3つの確認
フライパンを持つ、ドアノブを回す、工具を使うなど、痛みが出る動作と一回の時間を記録します。
両手で持つ、持ち手を変える、荷物を小分けにする、休憩を挟むなど、作業を続ける方法を検討します。
軽い抵抗から始める場合でも、運動中の鋭い痛み、翌日の増悪、しびれや脱力があれば中止または負荷を下げます。
何が変わりやすく、何はまだ不明か
研究で示された運動・徒手療法の平均的な短期差は小さく、根拠の確実性も低いものでした。自然に症状が軽くなる人も多い一方、痛みが続く人もいます。レビューの自然経過の数字は、仕事の負荷や症状の原因が異なる一人ひとりの予後を言い当てるものではありません。
どの程度の痛みまで運動中に許容してよいか、仕事の負荷をどの速さで戻すべきかは、研究だけから一律に決められません。作業療法では、運動そのものと同じくらい、仕事内容や家事の分担、道具、休憩の取り方を確認します。
執筆・確認と運営上の立場
本記事は株式会社Journey Rehab代表の田中 光(認定作業療法士、修士〔作業療法学〕、東京都立大学大学院博士後期課程在籍)が執筆しました。研究結果と生活上の工夫を分けて説明し、当社の訪問自費リハビリの案内を含みます。個別の診断や治療方針は担当医療機関にご相談ください。
よくある質問
運動をすれば早く治りますか?
治癒や早期回復は保証できません。研究で見られた平均的な短期の差は小さいものでした。
痛みがある日は休んだ方がよいですか?
強い痛みを我慢する必要はありません。負担を減らし、必要に応じて医療機関や専門職に相談してください。
注射と運動はどちらがよいですか?
短期と長期で結果が異なり、個別の病状でも判断が変わります。治療選択は担当医と相談してください。
テニスをしていなくてもテニス肘になりますか?
名称にかかわらず、家事や仕事で肘の外側が痛むことがあります。ただし別の原因もあるため、症状から自分で診断しないでください。
痛み止めや注射を受けたら運動は不要ですか?
治療の選択は状態と目標で変わります。注射と運動・徒手療法には時点によって異なる研究結果があるため、担当医と相談してください。
参考文献
- Wallis JA, et al. Manual therapy and exercise for lateral elbow pain. Cochrane Database Syst Rev. 2024. PMID: 38802121. DOI: 10.1002/14651858.CD013042.pub2. PubMed
- Bisset L, et al. Mobilisation with movement and exercise, corticosteroid injection, or wait and see for tennis elbow: randomised trial. BMJ. 2006. PMID: 17012266. DOI: 10.1136/bmj.38961.584653.AE. PubMed
- Ikonen J, et al. Persistent Tennis Elbow Symptoms Have Little Prognostic Value: A Systematic Review and Meta-analysis. Clin Orthop Relat Res. 2022. PMID: 34874323. DOI: 10.1097/CORR.0000000000002058. PubMed
執筆:田中 光(株式会社Journey Rehab代表、認定作業療法士、修士〔作業療法学〕、東京都立大学大学院博士後期課程在籍)。本記事は一般的な情報提供であり、診断・治療の代わりではありません。