
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「脳卒中のあと、トイレが間に合わなくなった」「尿もれが気になって外出を控えてしまう」——尿の困りごとは、とてもデリケートで人に相談しづらいテーマですが、脳卒中のあとには決してめずらしくありません。研究では、脳卒中で入院した方の40〜60%が尿失禁(にょうしっきん)を経験し、退院時にも約25%、発症から1年後でも約15%の方に続くと報告されています1。恥ずかしいことでも、本人のせいでもなく、適切に評価しケアを考えるべき大切な症状です。この記事では、脳卒中後の尿失禁・排尿の困りごとについて、原因の考え方、研究で分かっていること、リハビリ・ケアの進め方を、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。

・原因は一つではなく、急に強い尿意が起こる、トイレまで間に合わない(動作や移動の問題)、伝えにくい、などが重なります。
・尿失禁のケアを導くための質の高い研究はまだ十分ではなく、最適な方法は定まっていません1,2。
・一方で、専門職による「きちんとした評価と計画的なケア(専門の継続看護を含む)」が、尿失禁や関連症状を減らす可能性が示唆されています2。
・まずは自己判断でパッドだけに頼らず、専門職の評価を受けることが出発点です。背景に治療が必要な原因が隠れていることもあります。
尿失禁(にょうしっきん)とは、自分の意思とは関係なく尿がもれてしまう状態を指します。脳卒中のあとに見られることはとても多く、研究では入院した方の40〜60%が経験し、退院時にも約25%、1年後でも約15%の方に続くと報告されています1。数字が示すとおり、これは特別なことではなく、多くの方が経験しうる症状です。「自分だけ」「恥ずかしい」と一人で抱え込まず、評価とケアの対象として相談することが大切です。
脳卒中後の尿の困りごとは、原因が一つではありません。急に強い尿意が起こって我慢しにくくなる(過活動膀胱・かかつどうぼうこう に近い状態)、膀胱にたまった尿をうまく出し切れない、といった膀胱そのものの働きの問題に加えて、トイレまで間に合わない、衣服の上げ下げに時間がかかる、尿意を言葉で伝えにくい、といった「動作・移動・コミュニケーション」の要素が重なることもよくあります。つまり、トイレに「気づく・間に合う・たどり着く・始末する」までの一連の流れのどこにつまずきがあるかを見ていく必要があります。たとえばトイレまで安全に移動できるかは、立ち上がりや歩行とも関わるため、脳卒中後の立ち上がり練習について解説した記事もあわせて参考になります。
結論から正直にお伝えすると、脳卒中後の尿失禁のケアについて「これが最善」と言い切れるだけの質の高い研究は、まだ十分にそろっていません。ただし、専門職によるていねいな評価と計画的なケアが役立つ可能性を示す知見はあります。「決定的な答えはまだないが、評価とケアの方向性は見えている」というのが、現時点での理解です。
このレビューを更新した最新版(20件・合計1338名)でも、結論は「ケアを確実に導くには根拠が不十分」というものでした2。個々の方法を見ると、行動療法(時間を決めた排尿など)が1日の失禁回数を減らす可能性(質は低い)、鍼(はり)などの補助療法で失禁のない人が増える可能性(質は低い)、経皮的電気刺激(TENS)で失禁回数が減り、全体的な動作能力が良くなる可能性(質は低い〜中程度)などが報告されていますが、いずれも試験の数や質に限りがあり、慎重な解釈が必要です2。なお、脳卒中を含む神経の病気による膀胱の問題を対象にした別のレビューでは、電気刺激(骨盤底筋トレーニングの併用を含む)が生活の質や失禁の程度に良い影響を与えうると報告されていますが、対象には多発性硬化症や脊髄損傷の方も含まれ、脳卒中だけの結果ではない点に注意が必要です3。

研究で比較的見えやすいのは、専門職による「きちんとした評価」と「計画的なケア」の組み合わせが、尿失禁や関連症状を減らす可能性です1。何となくパッドで対処するのではなく、いつ・どのくらい・どんな場面でもれるのかを把握し、原因に合わせて手を打つことが、尿失禁や関連症状を減らすことにつながりうると考えられます1。行動療法や骨盤底筋トレーニング、電気刺激といった方法にも、良い方向の手がかりは報告されています2,3。
一方で注意したいのは、これらの方法の多くは、まだ研究の数や質に限りがあり、「誰にでも効く」と保証できる段階ではない、という点です2。また、尿失禁の背景には、尿路の感染や、尿が出し切れずにたまってしまう状態(尿閉・にょうへい)など、医療的な対応が必要な原因が隠れていることもあります。リハビリやケアの工夫だけで進める前に、まず医師による評価で、こうした原因がないかを確認しておくことが大切です。なお、トイレまで間に合うかどうかは移動の安定性とも関わるため、歩行に不安がある場合は脳卒中後に杖なしで歩くための条件について解説した記事もあわせて確認すると、生活全体での対策を考えやすくなります。
尿もれやトイレの困りごとがある方は、まず専門職による評価を受けることがすすめられます。原因や生活場面に合わせて、行動療法・骨盤底筋トレーニング・環境の工夫・移動のリハビリなどを組み合わせることを検討する場面があります。特に、退院後も困りごとが続いている方や、外出を控えるほど生活に影響が出ている方は、早めに主治医や看護師、リハビリ専門職へ相談するとよいでしょう。
まず大切なのは、専門職による「構造化された評価」です。いつ・どのくらい・どんな場面でもれるのか、尿意はあるか、トイレまで間に合うか、衣服の上げ下げはできるか、水分の摂り方はどうか、といった点を整理し、原因に合わせてケアを組み立てます1。研究でも、こうした評価と計画的なケア、専門の継続看護が役立つ可能性が示唆されています1。
具体的な方法としては、時間を決めて・声をかけてトイレに誘う排尿の工夫(時間排尿・促し排尿)、骨盤底筋トレーニング、必要に応じた電気刺激などが用いられます2。あわせて、生活面の工夫——脱ぎ着しやすい衣服、トイレまでの動線を整える、夜間はポータブルトイレを近くに置く、手すりの設置、トイレまで安全に移動・立ち座りできるようにする練習——も、間に合わない・たどり着けないことによるもれを減らすうえで重要です。これらは生活の自立や、退院後にリハビリをどう続けるかという視点とも重なります(脳卒中後のリハビリをいつまで続けるかについて解説した記事もあわせてご覧ください)。最適な回数や期間は定まっていないため2、内容や量は担当の専門職とその時期の状態に合わせて相談しながら決めていくことをおすすめします。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Thomas LH, Coupe J, Cross LD, Tan AL, Watkins CL. Interventions for treating urinary incontinence after stroke in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2019;2(2):CD004462. DOI:10.1002/14651858.CD004462.pub4. PMID:30706461. PMCID:PMC6355973.
3. Manaila AI, Roman NA, Baseanu ICC, et al. The efficiency of rehabilitation therapy in patients diagnosed with neurogenic bladder: a systematic review. Medicina (Kaunas). 2024;60(7):1152. DOI:10.3390/medicina60071152. PMID:39064583. PMCID:PMC11278912.
