脳卒中後に杖なしで歩くための条件|専門家が解説する4つの判断基準

と客観的目安

「脳卒中後の杖なしで歩くための判断基準」

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「できるなら杖なしで歩きたい」
「杖が外れるには、何ができればいいのでしょうか」

脳卒中後のリハビリの現場では、こうした声を本当によく聞きます。
杖を持つことで片手がふさがる、荷物が持ちにくい、見た目が気になる、外出が億劫になる

このように、杖を持って歩くことは、生活の中で不便を感じる場面も少なくありません。

一方で、杖は移動を助ける体のサポーターのような道具です。歩く・立つ・作業するなどの動きを支え、生活や仕事を続けやすくするための大切な道具です。(厚生労働省

専門家として、杖を外すかどうかを判断するときに、最も大切にしていることがあります。

「杖を外した結果、転倒が増えたり、行動範囲が狭くなったりしないか」

実際の臨床では、
「歩く速さは十分なのに、屋外で転倒してしまった方」
「家の中では杖なしで歩けるのに、疲れた帰り道で急に不安定になる方」
といったケースを何度も経験してきました。

多くの場合、問題は「歩けるかどうか」ではありません。
どの場面で不安定になるのかを整理できていなかったことが原因になっています。

この記事では、認定作業療法士の臨床経験とエビデンスをもとに、実際に何を見て「杖なしOK」「まだ杖が必要」と判断しているのかを、一般の方にも分かりやすく整理します。
さらに、「自分には今、何が足りていないのか」「次に何をすればいいのか」が分かるよう、セルフチェックと行動のヒントまでまとめています。

※免責事項

本記事は情報提供を目的としており、医師による診断や治療の代わりとなるものではありません。症状や治療の適応は個人差がありますので、必ず主治医や担当の療法士と相談しながら進めてください。

結論として、杖なしの判断は「4つの柱」で決まります

専門家の判断は、主に次の

「4つの柱」 を総合して行われていることが多いです。

① 安全性(ふらつかずに歩けそうか)

歩いていて、周りに人から見てふらつきやよろけが出ていないか。専門家は動きを見るプロなので、ふらついているかどうかは一目でわかりますが、一般の方(例えば、家族など)から見てもふらついていると言われた場合は、危険性が高いです。

  • 方向転換、段差、坂道、人混み、夜道などでふらつきがないか。
  • 姿勢が崩れた時に立て直すことができるか。
  • 上記を満たした上で、杖を外してもふらつきが変わらないか。

② 実用性(生活の中で使える歩きか)

杖を浮かせながらトイレや玄関、スーパー、目的の駅など、目的地まで行けるか。

  • 行けたとしても、疲れすぎて、その後に安全性が低下していないか
  • 歩き方が大きく崩れていないか(脳卒中の方は、杖を外すことで左右へのふらつきや、麻痺側の足に体重が乗りにくくなります)

③ 身体機能の土台(歩いても安全な身体機能が足りているか)

極論遅くても外を歩くことはできますが、杖を外すにはある程度の身体機能が必要です。

  • 杖がなくても、麻痺側で支える力が安定しているか。
  • 歩行速度や持久力は十分に保たれているか。
  • バランスや反応、感覚の働きが保たれているか

④ 生活での実用性(環境への適応・自己管理)

屋内か屋外か、段差や坂の多さ、通勤などの行動を行う環境に対して適応できるかを考える必要があります。

  • リハビリ中に少し歩けても、生活の環境で再現できるか。
  • 目的地へ行けるだけではなく、行った後の動作や活動が安定して行えるか。
  • 本人が危険場面や転倒しやすい動きを認識し、安全に動くことができるか。

なし」を考える前に知っておきたいこととして、同じ「杖なし歩行」でも、屋内と屋外では必要な条件が違います。

【屋内環境の特徴】
平らで短い距離が多く、速さよりも「安全に移動できるか」が重視されます。

【屋外環境の特徴】
や坂、信号、人混みなどがあり、速さ・持久力・注意力も必要になります。

私たちリハビリ専門家は、これらの屋内環境・屋外環境の特徴も踏まえて「杖を外して歩けるのか」を考えていることが多いです。脳卒中の方では、高次脳機能障害の影響も出やすく、屋内環境では安全に歩けていても、屋外になると危険が高まることが多く見られます。

この4つの柱の中で、ご自身では何が足りていないのかを理解してリハビリや自主トレーニングに取り組んでいくことが重要になります。

もし自分でわからない場合には、主治医や担当の療法士へ相談してみるといいと思います。

ここで、先ほどの4つの柱の、 ③身体機能の土台について、専門がよく使う「客観的な目安」を3つ紹介します。

1)歩く速さ(10m歩行テスト)

歩く速さは、生活の中でどの程度移動できるかを示す重要な指標です。(

・0.4 m/秒未満:屋内中心の移動

・0.4〜0.8 m/秒:屋外は条件付き

・0.8 m/秒以上:屋外での自立に近づく目安

例えば、屋外歩行で信号を渡る時には、1m/秒以上の歩行速度が必要とされています。(警視庁
このように、歩く速さは身体機能のレベルを把握するだけではなく、屋外で実用的な歩行が可能かを判断する指標として重要です。

実際に多くの患者さんを見てきて、1m/秒未満の身体機能の方は、転倒リスクが高い場合が多く、杖の使用は必要不可欠になることがあると感じています。

2)歩行持久力(6分間歩行テスト)

歩行持久力は、特に屋外歩行で歩くときに重要になる目的地まで到着できるかを考えるときに用いられる指標です。

屋外歩行を制限なく歩くことができるレベルには、6分間歩行テストで、332mを指標にされています。(Lee G,2016)

2)バンス能力

Berg Balance Scale(BBS)
立ち上りや方向転換・片足立ちなど、日常動作を通してバランスを評価します。

46.5〜50点前後 / 56点(Matsumoto D,2024)

が転倒者と非転倒者を分ける一つの目安とされています。

これらのバランス能力のイメージとしては、片足立ちを5秒程度行える。ゆっくりでも安全に段差を交互に踏み換えられる方ではおおよそこの点数に該当するレベルにあると思います。

3)麻痺の足の動き

Fugl-Meyer Assessment-Lower Extremity(

FMA-LE)は、麻痺側の足の運動麻痺の程度がどれだけあるかを見る検査です。

26点以上 / 34点 (Lee G,2016)

が地域歩行を自立して行えるかを見分ける一つの目安とされています。イメージとしては、足首やつま先がわずかに不自由ながらも動かせるレベルです。

杖がある場合には、この基準を満たなくても外を自由に歩ける方もいます。一方で、「杖なしで歩く」ことを目指す際には、ある程度、麻痺側の足を動かしてコントロールできる場合が多いです。

4本柱をタイプ別に整理すると、「次にやること」が見えてきます

脳卒中後の杖なし歩行は、「できる・できない」で決めるものではありません。

大切なのは、

  • どの場面で不安定になるのか
  • なぜ杖が必要になっているのか
  • 何を優先して練習すべきか

を整理することです。

本記事で紹介した4つの柱(安全性・実用性・身体機能の土台・環境適応)をもとに、それぞれのタイプに分類することで、

  • 今の自分の課題
  • 強化すべき身体機能
  • 生活の中で注意すべき場面

が明確になります。

これは、私自身がこれまで脳卒中後の方々と臨床で向き合う中で、一貫して行ってきた判断プロセスでもあります。

「歩けるかどうか」ではなく、
「安全に生活を広げられるかどうか」が判断基準です。

参考文献

Perry J, Garrett M, Gronley JK, Mulroy SJ. Classification of walking handicap in the stroke population. Stroke. 1995 Jun;26(6):982-9. doi: 10.1161/01.str.26.6.982. PMID: 7762050.

警視庁. “歩行者横断秒数の延長”. 警視庁ホームページ > 交通安全 > 標識・信号機 > 信号機の設置などについて(よくある質問). 2021-09-21. https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/iken_yobo/shingo_faq/crosswalk_extention.html

Lee G, An S, Lee Y, Park DS. Clinical measures as valid predictors and discriminators of the level of community ambulation of hemiparetic stroke survivors. J Phys Ther Sci. 2016 Aug;28(8):2184-9. doi: 10.1589/jpts.28.2184. Epub 2016 Aug 31. PMID: 27630394; PMCID: PMC5011558.https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5011558/

Matsumoto D, Fujita T, Kasahara R, Tsuchiya K, Iokawa K. Screening cutoff values to identify the risk of falls after stroke: A scoping review. J Rehabil Med. 2024 Oct 24;56:jrm40560. doi: 10.2340/jrm.v56.40560. PMID: 39444285; PMCID: PMC11520422. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11520422/

執筆者情報

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株式会社Journey Rehab 代表|田中

作業療法士(国家資格)/認定作業療法士(日本作業療法士協会)

東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士前期課程 在籍

▪️経歴

・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事

・2021年:自費訪問リハビリ分野に活動を広げ、2024年にフリーランスとして独立

・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

▪️ 研究活動

・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表

・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

▪️論文執筆