
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「脳卒中のあと、ろれつが回りにくくなった」「声が小さく、聞き返されることが増えた」——これは、ご本人やご家族からよくいただくご相談です。言いたい言葉は頭にあるのに、口や舌、のどの動きがうまくいかず、発音が不明瞭になる状態を「構音障害(こうおんしょうがい)」といいます。話す力が落ちると、人と話すことがおっくうになり、気持ちが沈んでしまうこともあります。この記事では、構音障害について研究で分かっていること、向いている人・注意したい人、リハビリの進め方の目安を、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。なお、ここでお伝えするのは一般的な情報で、実際の評価やリハビリは言語聴覚士(げんごちょうかくし)などの専門職が個別に行います。

・構音障害のリハビリについて、質の高い大規模な研究はまだ少なく、効果を強く言い切れる段階ではありません1。
・複数の研究をまとめた解析では、練習の直後に発音や発声の指標が少し良くなる可能性が示されましたが、確実性は低い評価でした1,3。
・効果が数か月後まで続くかどうかは、はっきりしていません1。
・研究の限界はあるものの、構音障害のある方は、診療ガイドラインに沿ってリハビリを続けることがすすめられています1。
構音障害(こうおんしょうがい)とは、脳卒中などによって、話すために使う筋肉——口・舌・くちびる・あご・のど・呼吸に関わる筋肉——の力や動きが、弱くなったり、遅くなったり、うまく協調しなくなったりして、発音が不明瞭になる状態を指します1。具体的には、ろれつが回りにくい、声が小さい・かすれる、話す速さが極端に速い/遅い、抑揚が乏しくなる、といった様子が見られます。聞き手にとって「聞き取りにくい」状態になりやすく、聞き返しが増えることもあります。
ここで大切なのは、構音障害は「発音(話し方)の問題」であって、「言葉の意味を扱う力の問題」である失語症(しつごしょう)とは別のものだ、という点です。構音障害では、言いたい言葉や文章は頭の中で組み立てられていて、理解する力も保たれていることが多いのに、それを音にする段階でうまくいきません。ですから、ご本人は「分かっているのに伝わらない」もどかしさを感じやすく、人と話すことがおっくうになって気持ちが沈むこともあります。実際、構音障害の影響は会話だけにとどまらず、心理的・社会的な面にも及ぶことが指摘されています1。気分の落ち込みが続くときは、脳卒中後の気分の落ち込みとうつについて解説した記事もあわせて参考になります。
結論から正直にお伝えすると、構音障害のリハビリについては、質の高い大規模な研究がまだ少なく、「これをすれば必ず良くなる」と言い切れる段階ではありません。一方で、練習の直後に発音や発声の指標が少し良くなる可能性を示した研究もあり、まったく手立てがないわけではありません。研究の確実性には限界がある、という前提で読んでいただくのが正確です。
別のシステマティック・レビューとメタアナリシスでは、言語リハビリのあとに、口の交互運動の速さ(AMR・SMR)や、息を続けて声を出せる長さ(最長発声持続時間)が改善したと報告されています3。発音・発声の練習に取り組む意義を支える知見ですが、これらも研究の数や質に限りがあるため、結果の解釈には注意が必要です2,3。

研究で比較的見えやすいのは、練習の直後に、発音・発声そのもの(機能のレベル)の指標が少し良くなる、という変化です1,3。声の大きさや、ゆっくり・はっきり話す工夫、息の使い方などに取り組むことで、その人なりに聞き取りやすさが上がる場面はあります。聞き手側が、静かな場所で・顔を見て・最後まで待って聞く、といった工夫を合わせることも、伝わりやすさを支えます。
一方で注意したいのは、こうした変化が日常的な会話や社会参加のレベルまで、はっきり・長く続く形でつながるかどうかは、まだ確かではない、という点です1。練習の場では良くなっても、生活の中での会話にどこまで広がるかには個人差があります。だからこそ、発音そのものの練習だけでなく、生活で使う言葉や場面に結びつけて取り組むこと、聞き手との関わり方を整えること、そして気持ちの面を支えることを、合わせて考えることが大切です。なお、ご自宅での継続が難しい場合は、オンラインを活用した進め方もあり、脳卒中後の遠隔リハビリについて解説した記事も参考になります。
ろれつが回りにくい、声が小さい、聞き返されることが増えた、といった発音・発声の困りごとがある方では、言語聴覚士による評価とリハビリを受けることがすすめられます。研究の確実性に限界はあっても、診療ガイドラインに沿ってリハビリを続けることが推奨されています1。仕事で話す場面が多い方など、コミュニケーションが生活の質に直結する方では、早めに専門職へ相談することを検討する場面があります。職場復帰を見すえた相談については、脳卒中後の復職・職場復帰について解説した記事もあわせてご覧ください。
構音障害のリハビリは、言語聴覚士が中心となって進めます。大きく分けて、発音・発声そのものに働きかける練習(呼吸や声の大きさ、話す速さの調整、口や舌の動きの練習など)と、聞き取りやすさを補う工夫(ゆっくり・はっきり話す、一文を短くする、大切な言葉を強調する、ジェスチャーや筆談・文字盤を併用する、聞き手が静かな環境で顔を見て待つ)を組み合わせます1,3。どちらを重視するかは、状態や生活場面によって変わります。
頻度や期間については、研究によって方法がさまざまで、最適な回数・強さが定まっているわけではありません1。一般的には、専門職の評価にもとづいて内容と量を決め、生活で使う言葉や場面に結びつけて続けることが大切です。練習の場でできたことを、家庭や職場の実際の会話で使ってみる、というつながりを意識すると、生活への広がりが期待できます(ただし広がり方には個人差があります)。具体的な進め方は、担当の言語聴覚士・主治医とその時期の状態に合わせて相談しながら決めていくことをおすすめします。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Chiaramonte R, Pavone P, Vecchio M. Speech rehabilitation in dysarthria after stroke: a systematic review of the studies. Eur J Phys Rehabil Med. 2020;56(5):547-562. DOI:10.23736/S1973-9087.20.06185-7. PMID:32434313.
3. Chiaramonte R, Vecchio M. Dysarthria and stroke. The effectiveness of speech rehabilitation. A systematic review and meta-analysis of the studies. Eur J Phys Rehabil Med. 2021;57(1):24-43. DOI:10.23736/S1973-9087.20.06242-5. PMID:32519528.
4. Sellars C, Hughes T, Langhorne P. Speech and language therapy for dysarthria due to non-progressive brain damage. Cochrane Database Syst Rev. 2005;(3):CD002088. DOI:10.1002/14651858.CD002088.pub2. PMID:16034872.
