脳卒中後の構音障害とは?ろれつが回らない・話しづらい原因とリハビリを作業療法士が解説

· 自費リハビリ情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
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脳卒中後の構音障害(こうおんしょうがい)とは?ろれつが回りにくい・話しづらいときのリハビリについて

「脳卒中のあと、ろれつが回りにくくなった」「声が小さく、聞き返されることが増えた」——これは、ご本人やご家族からよくいただくご相談です。言いたい言葉は頭にあるのに、口や舌、のどの動きがうまくいかず、発音が不明瞭になる状態を「構音障害(こうおんしょうがい)」といいます。話す力が落ちると、人と話すことがおっくうになり、気持ちが沈んでしまうこともあります。この記事では、構音障害について研究で分かっていること、向いている人・注意したい人、リハビリの進め方の目安を、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。なお、ここでお伝えするのは一般的な情報で、実際の評価やリハビリは言語聴覚士(げんごちょうかくし)などの専門職が個別に行います。

言語聴覚士と発声や発音の練習をするリハビリ場面
発声や発音の練習は、専門職の評価に合わせて進めます
この記事の要点
・構音障害は、話す筋肉(口・舌・のどなど)の力や動きが弱く・不正確になり、発音が不明瞭になる状態です。言葉の意味を扱う失語症(しつごしょう)とは別の問題です。
・構音障害のリハビリについて、質の高い大規模な研究はまだ少なく、効果を強く言い切れる段階ではありません1
・複数の研究をまとめた解析では、練習の直後に発音や発声の指標が少し良くなる可能性が示されましたが、確実性は低い評価でした1,3
・効果が数か月後まで続くかどうかは、はっきりしていません1
・研究の限界はあるものの、構音障害のある方は、診療ガイドラインに沿ってリハビリを続けることがすすめられています1
SECTION 01
構音障害とは

構音障害(こうおんしょうがい)とは、脳卒中などによって、話すために使う筋肉——口・舌・くちびる・あご・のど・呼吸に関わる筋肉——の力や動きが、弱くなったり、遅くなったり、うまく協調しなくなったりして、発音が不明瞭になる状態を指します1。具体的には、ろれつが回りにくい、声が小さい・かすれる、話す速さが極端に速い/遅い、抑揚が乏しくなる、といった様子が見られます。聞き手にとって「聞き取りにくい」状態になりやすく、聞き返しが増えることもあります。

ここで大切なのは、構音障害は「発音(話し方)の問題」であって、「言葉の意味を扱う力の問題」である失語症(しつごしょう)とは別のものだ、という点です。構音障害では、言いたい言葉や文章は頭の中で組み立てられていて、理解する力も保たれていることが多いのに、それを音にする段階でうまくいきません。ですから、ご本人は「分かっているのに伝わらない」もどかしさを感じやすく、人と話すことがおっくうになって気持ちが沈むこともあります。実際、構音障害の影響は会話だけにとどまらず、心理的・社会的な面にも及ぶことが指摘されています1。気分の落ち込みが続くときは、脳卒中後の気分の落ち込みとうつについて解説した記事もあわせて参考になります。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、構音障害のリハビリについては、質の高い大規模な研究がまだ少なく、「これをすれば必ず良くなる」と言い切れる段階ではありません。一方で、練習の直後に発音や発声の指標が少し良くなる可能性を示した研究もあり、まったく手立てがないわけではありません。研究の確実性には限界がある、という前提で読んでいただくのが正確です。

研究から読み取れること
構音障害のリハビリをまとめたコクラン・レビュー(信頼性の高い研究のまとめ)では、5件の小規模なランダム化試験(合計234名)が対象になりました1。十分な規模をもつ決定的な試験はなく、介入の効果を確実に支持するには至りませんでした1。介入後3〜9か月の時点で、日常的なやりとりのレベルでは、リハビリと対照群との間にはっきりした差は見られませんでした(標準化平均差0.18、95%信頼区間 -0.18〜0.55、質は「低い」)1。一方、練習の直後に、発音・発声そのもの(機能のレベル)を測った指標では、リハビリ側にやや良い結果が見られました(標準化平均差0.47、95%信頼区間0.02〜0.92)1。ただしこれは質が「とても低い」とされ、対象人数も少ないため、慎重な解釈が必要です1。著者らは「十分な規模の決定的な試験はない。短期的に発音そのものへ良い影響がある可能性は示唆されるが、確かめるにはさらに質の高い研究が必要」とし、そのうえで「構音障害のある方は、診療ガイドラインに沿ってリハビリを続けるべき」と述べています1

別のシステマティック・レビューとメタアナリシスでは、言語リハビリのあとに、口の交互運動の速さ(AMR・SMR)や、息を続けて声を出せる長さ(最長発声持続時間)が改善したと報告されています3。発音・発声の練習に取り組む意義を支える知見ですが、これらも研究の数や質に限りがあるため、結果の解釈には注意が必要です2,3
ゆっくりはっきり話す練習と聞き手との会話の工夫を確認する場面
聞き手の環境や待ち方も、伝わりやすさを支える大切な工夫です
研究の限界と、まだ分かっていないこと
構音障害のリハビリ研究は、小規模な試験が多く、脳卒中の部位や重症度、発症からの時期、失語症・嚥下障害・認知面の問題の有無が十分にそろっていないことがあります。そのため、「どの練習が、どのタイプの構音障害に最も合うのか」「練習量や頻度はどの程度がよいのか」「発音や声の検査の変化が、日常会話・仕事・外出などの参加にどこまでつながるのか」は、まだはっきりしていません。短期的な発音・発声の変化だけでなく、聞き手側の工夫、心理面の支援、言語聴覚士との連携を含めて、その人の生活で使える形に調整していく必要があります。
SECTION 03
何が変わりやすく、何は注意が必要か

研究で比較的見えやすいのは、練習の直後に、発音・発声そのもの(機能のレベル)の指標が少し良くなる、という変化です1,3。声の大きさや、ゆっくり・はっきり話す工夫、息の使い方などに取り組むことで、その人なりに聞き取りやすさが上がる場面はあります。聞き手側が、静かな場所で・顔を見て・最後まで待って聞く、といった工夫を合わせることも、伝わりやすさを支えます。

一方で注意したいのは、こうした変化が日常的な会話や社会参加のレベルまで、はっきり・長く続く形でつながるかどうかは、まだ確かではない、という点です1。練習の場では良くなっても、生活の中での会話にどこまで広がるかには個人差があります。だからこそ、発音そのものの練習だけでなく、生活で使う言葉や場面に結びつけて取り組むこと、聞き手との関わり方を整えること、そして気持ちの面を支えることを、合わせて考えることが大切です。なお、ご自宅での継続が難しい場合は、オンラインを活用した進め方もあり、脳卒中後の遠隔リハビリについて解説した記事も参考になります。

SECTION 04
どんな人に向いているか・注意したい人

ろれつが回りにくい、声が小さい、聞き返されることが増えた、といった発音・発声の困りごとがある方では、言語聴覚士による評価とリハビリを受けることがすすめられます。研究の確実性に限界はあっても、診療ガイドラインに沿ってリハビリを続けることが推奨されています1。仕事で話す場面が多い方など、コミュニケーションが生活の質に直結する方では、早めに専門職へ相談することを検討する場面があります。職場復帰を見すえた相談については、脳卒中後の復職・職場復帰について解説した記事もあわせてご覧ください。

⚠ 注意したい人・気をつけたいこと
構音障害は、言葉が出にくい失語症や、注意・記憶の困りごとを伴うことがあり、その場合は練習の進め方に工夫が必要です。また、話す筋肉と飲み込みの筋肉は重なる部分があるため、むせやすい・飲み込みにくいといった症状を伴うことがあります。むせや、食事中のせき込み、原因のはっきりしない発熱などがあるときは、自己判断で練習を進めず、必ず主治医や言語聴覚士に相談してください。疲れると発音が不明瞭になりやすいため、長時間の無理な発声練習は避け、休憩を挟むことも大切です。発音や声の出し方は人によって状態が大きく異なるため、評価と練習内容は必ず専門職に相談して決めてください。気持ちの落ち込みが強いときは、その点もあわせて相談すると安心です。
SECTION 05
リハビリの進め方の目安

構音障害のリハビリは、言語聴覚士が中心となって進めます。大きく分けて、発音・発声そのものに働きかける練習(呼吸や声の大きさ、話す速さの調整、口や舌の動きの練習など)と、聞き取りやすさを補う工夫(ゆっくり・はっきり話す、一文を短くする、大切な言葉を強調する、ジェスチャーや筆談・文字盤を併用する、聞き手が静かな環境で顔を見て待つ)を組み合わせます1,3。どちらを重視するかは、状態や生活場面によって変わります。

頻度や期間については、研究によって方法がさまざまで、最適な回数・強さが定まっているわけではありません1。一般的には、専門職の評価にもとづいて内容と量を決め、生活で使う言葉や場面に結びつけて続けることが大切です。練習の場でできたことを、家庭や職場の実際の会話で使ってみる、というつながりを意識すると、生活への広がりが期待できます(ただし広がり方には個人差があります)。具体的な進め方は、担当の言語聴覚士・主治医とその時期の状態に合わせて相談しながら決めていくことをおすすめします。

SECTION 06
Journey Rehabでの現場経験
当施設での経験
弊社は訪問型の自費リハビリで、構音障害そのものの専門的な訓練は言語聴覚士の領域ですが、退院後に「人と話すのがおっくうになった」「聞き返されるのがつらい」というお気持ちのご相談を受けることがあります。実際には、ゆっくり・はっきり話す、一文を短くする、聞き手が静かな場所で顔を見て待つ、といった工夫で、家族との会話が進みやすくなる場面が多いと感じます。一方で、疲れると発音が不明瞭になりやすく、外出や会話を控えてしまう方もおられます。発音そのものの変化は穏やかなこともあり、全員に同じ結果が出るわけではありません。必要に応じて言語聴覚士や主治医と連携しながら、話す機会を無理なく保てるよう支えることを大切にしています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
話しづらさや、人と話す機会の保ち方について、生活の場面に合わせて身体の状態を一緒に確認しながらリハビリの内容を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨ではありません。構音障害の評価やリハビリの内容は一人ひとりの状態によって異なり、飲み込みの問題を伴うこともあります。気になる症状があるときや、リハビリの進め方を考える際は、主治医や言語聴覚士などの専門職に相談しながら進めてください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
構音障害と失語症はどう違うのですか?
構音障害は「発音(話し方)」の問題で、話す筋肉の力や動きがうまくいかない状態です。失語症は「言葉の意味を扱う力」の問題です。構音障害では言いたい言葉や理解は保たれていることが多いですが、見分けには専門的な評価が必要です。
リハビリで話しやすくなりますか?
現時点の研究では質の高いものが少なく、効果を保証できる段階ではありません。練習の直後に発音や発声の指標が少し良くなる可能性は示されていますが、数か月後まで続くかははっきりしていません。見通しは個別に異なります。
家族はどう聞けば伝わりやすいですか?
静かな場所で、顔を見て、最後まで待って聞くと伝わりやすくなります。聞き取れないときは、責めずに「もう一度」「短く」とお願いするとよいでしょう。筆談やジェスチャー、文字盤を併用するのも助けになります。
自宅で発声練習をしてもよいですか?
自己流で無理に進めるより、まず言語聴覚士の評価を受けることをおすすめします。むせや飲み込みにくさを伴うこともあり、安全面の確認が必要です。練習内容や量は専門職と相談し、疲れたら休憩を挟むことが大切です。
どのくらいの期間続ければよいですか?
研究では方法がさまざまで、最適な回数・期間は定まっていません。専門職の評価にもとづいて内容と量を決め、生活で使う言葉や場面に結びつけて続けることが大切です。具体的な目安は担当の言語聴覚士に相談してください。
話すのがつらく、外出を控えてしまいます。
話しづらさが続くと気持ちが沈み、人と会うのを避けたくなることは自然な反応です。無理のない範囲で話す機会を保つこと、伝え方の工夫を取り入れることが助けになります。落ち込みが強いときは、主治医や専門職に気持ちの面も相談してください。
REFERENCES
参考文献
1. Mitchell C, Bowen A, Tyson S, Butterfint Z, Conroy P. Interventions for dysarthria due to stroke and other adult-acquired, non-progressive brain injury. Cochrane Database Syst Rev. 2017;1(1):CD002088. DOI:10.1002/14651858.CD002088.pub3. PMID:28121021. PMCID:PMC6464736.
2. Chiaramonte R, Pavone P, Vecchio M. Speech rehabilitation in dysarthria after stroke: a systematic review of the studies. Eur J Phys Rehabil Med. 2020;56(5):547-562. DOI:10.23736/S1973-9087.20.06185-7. PMID:32434313.
3. Chiaramonte R, Vecchio M. Dysarthria and stroke. The effectiveness of speech rehabilitation. A systematic review and meta-analysis of the studies. Eur J Phys Rehabil Med. 2021;57(1):24-43. DOI:10.23736/S1973-9087.20.06242-5. PMID:32519528.
4. Sellars C, Hughes T, Langhorne P. Speech and language therapy for dysarthria due to non-progressive brain damage. Cochrane Database Syst Rev. 2005;(3):CD002088. DOI:10.1002/14651858.CD002088.pub2. PMID:16034872.