認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程在籍

結論:脳卒中後の実生活の歩数を増やすには、歩行練習だけでなく、現在の歩数を測り、生活上の目的に結びつけ、小さな目標を段階的に調整する方法が役立つ可能性があります。ただし、全員に同じ歩数目標が適するわけではなく、転倒、心血管症状、疲労、痛みを確認しながら個別に進める必要があります。
病院で歩行速度が上がっても、家で歩く機会が少なければ一日の歩数は増えません。歩数は「歩ける能力」ではなく、実際に歩いた行動を表す指標です。この記事では研究で測った歩数と、本人が大切にする外出や家事を分けて考えます。
歩数の記録は人を評価する成績表ではありません。疲労、天候、外出先、転倒への不安などを見つけ、無理なく活動を組み立てるための手がかりです。研究参加者と自分の歩行能力が違う場合は、数字をそのまま目標にしないでください。
この記事で分かること
- 歩行能力と実生活の活動量が同じではない理由
- 研究で示された活動量計、目標設定、運動の効果
- 研究だけでは分からない点
- 生活に合わせた具体例と中止基準
「歩ける」と「実際に歩いている」は別の指標
病院やリハビリ室で歩行速度や6分間歩行距離が改善しても、自宅や地域での歩数が同じように増えるとは限りません。実生活の活動量には、転倒への不安、疲労、外出先、家族の支援、天候、歩道環境、目的の有無などが影響します。
そのため評価では、歩行速度やバランスだけでなく、活動量計での歩数、座っている時間、外出の目的、翌日まで残る疲労も一緒に確認します。屋外歩行の評価については脳卒中後の屋外歩行は何で判断する?も参考になります。

研究を読む前に:能力と実生活の活動は違う
歩行速度、6分間歩行距離、歩数はそれぞれ別のことを測ります。歩行速度が高まっても、買い物や散歩に出る機会がなければ歩数は増えない可能性があります。反対に、歩数が増えても段差や信号を安全に越えられるとは限りません。
紹介する250人の比較試験では、歩行運動に加えた歩数モニタリングと専門職の目標調整を検討しています。「活動量計を身につけるだけで歩数が増えた」という試験ではありません。この違いが、実際の支援を考えるうえで重要です。
研究から分かっていること
システマティックレビューでは「運動+行動変容」が検討されている
2024年のシステマティックレビュー・メタ解析は、客観的な活動量を測定した28件のRCT、計1,855人を対象にしました。急性期・亜急性期では運動に目標設定やフィードバックなどの行動変容技法を組み合わせると、歩数と中高強度活動が増えたと報告されました。慢性期では運動のみの介入でも歩数の増加が示されました。ただし、介入内容や発症時期が研究間で異なります1。
250人のRCTでは、歩数のフィードバックと段階的な目標設定が有効だった
慢性期脳卒中者250人を対象とした多施設RCTでは、高強度歩行、歩数モニタリングと行動支援、その併用の3群を12週間比較しました。歩数モニタリングと専門職による目標調整を受けた群では平均1,542歩/日、併用群では平均1,307歩/日増加しました。一方、高強度歩行のみの群は平均406歩/日で、統計学的に明確な増加ではありませんでした。これは「能力を高める練習」と「生活で歩く行動を増やす支援」が別の役割を持つ可能性を示します2。
歩数の研究を日常へ取り入れるとき
「歩数が増えた」の背景を確認する
250人の試験では、歩数を表示する機器だけでなく、専門職が数値を振り返り、目標を調整する支援を組み合わせました。計測器を買うだけで同じ結果になるとは限りません。まず普段の活動の幅を知り、どの場面で歩けたか、どの場面で疲れや不安が出たかを話し合うことが重要です。
歩ける能力と参加を区別する
歩行速度が上がっても、外出先がない、家族の同伴が必要、帰路に休憩場所がないといった理由で活動量は増えないことがあります。反対に歩数が増えても、転倒しそうな場面や無理な疲労が増えるなら目標を見直す必要があります。歩数とともに、本人がしたかった買い物や趣味に参加できたかを確認します。
研究の対象外に注意する
介助なしで歩ける慢性期の方を中心とした結果を、急性期や重い障害がある方へそのまま当てはめることはできません。心疾患、血圧、糖尿病、転倒歴がある場合には、活動の増やし方と中止基準を担当医・療法士と決めてください。
研究だけでは分からないこと
研究参加者は、介助なしで歩ける慢性期の人など条件が限られています。介助が必要な人、重い心疾患、強い認知障害、頻回な転倒がある人へ同じ結果を当てはめることはできません。また、増えた歩数が長期間維持されるか、再発や入院を減らすかは十分に分かっていません。
歩数は便利な指標ですが、歩き方の安全性、疲労、屋外での判断力、生活満足度を単独では表しません。「1万歩」のような一律目標を、脳卒中後のすべての人へ勧める根拠もありません。
生活での具体例
- まず3〜7日、普段の歩数と疲労を記録する。
- 「郵便受けまで」「朝食後に家の廊下を往復」など目的のある短い行動を決める。
- 週ごとに増やす量を小さくし、転倒しそうな場面や翌日の疲労を確認する。
- 雨天用に、屋内ルートや座位活動も準備する。
- 数字だけでなく、買い物、通院、趣味など参加できた活動も記録する。
脳卒中リハビリの量・時間・頻度については脳卒中リハビリはどれくらい必要?で整理しています。

作業療法士・Journey Rehabの視点
作業療法では、歩数を増やすこと自体を最終目的にせず、「どの生活行為を取り戻したいか」から逆算します。玄関の段差、靴の着脱、荷物を持つ場面、信号、トイレの場所まで含めて評価すると、運動能力だけでは見えない障壁が分かります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリでは、実際の自宅・地域環境で、歩行能力と生活目標を一緒に確認できます。サービス内容は訪問リハビリのプログラムと無料体験・ご相談をご覧ください。
安全上の注意と中止基準
胸の痛み、強い息苦しさ、冷汗、動悸、失神しそうな感覚、新しい顔や手足の麻痺、ろれつの回りにくさ、突然の激しい頭痛、いつもと違う強いめまい、視界の異常、転倒、関節痛の急な増悪があれば中止してください。
脳卒中が疑われる新しい症状は緊急性があります。直ちに救急要請を検討してください。転倒して頭を打った、歩けないほど痛い、意識が普段と違う場合も早めに医療機関へ相談してください。心疾患や糖尿病がある方は、運動強度と低血糖対策を主治医に確認してください。
まとめ
脳卒中後の歩数を増やすには、歩行練習だけでなく、測定、フィードバック、生活に結びついた目標設定が重要です。研究では歩数の増加が示されていますが、対象者や期間には限界があります。安全性と本人が大切にする生活行為を優先し、必要に応じて医師やリハビリ専門職と調整しましょう。
一日の活動を考える3つの確認
同じ機器で数日間の歩数と疲労を見ます。杖や歩き方によって計測誤差があるため、数字だけで判断しません。
郵便受け、近所の店、趣味の場など、歩く理由と経路を確認します。屋内でできる活動も選択肢です。
ふらつき、転倒しかけた場面、胸部症状、翌日に残る疲労を記録し、目標を調整します。
何が変わりやすく、何はまだ不明か
対象を限った試験では歩数の増加が報告されていますが、全員が同じ量だけ増えるという意味ではありません。研究は介助なしで歩ける慢性期の方が中心で、重い障害がある方や急性期の方への当てはまりは不明です。増えた歩数が長く続くか、再発や入院に影響するかも十分に分かっていません。
歩数が増えることを最終目的にせず、本人が望む活動に近づいているか、転倒や痛みが増えていないかを定期的に振り返る必要があります。Journey Rehabでは自宅周辺の実際の動線や休憩場所を含めて検討します。
執筆・確認と運営上の立場
本記事は株式会社Journey Rehab代表の田中 光(認定作業療法士、修士〔作業療法学〕、東京都立大学大学院博士後期課程在籍)が執筆しました。研究結果と生活上の工夫を分けて説明し、当社の訪問自費リハビリの案内を含みます。個別の診断や治療方針は担当医療機関にご相談ください。
よくある質問
何歩を目標にすればよいですか?
全員に共通する正解はありません。まず普段の歩数と症状を把握し、安全に反復できる小さな増加量を設定します。
スマートウォッチだけで歩数は増えますか?
機器を着けるだけで増えるとは限りません。研究ではフィードバック、専門職のコーチング、目標の段階的な調整を組み合わせています。
杖を使うと歩数計は正確ですか?
機器や歩き方によって誤差が生じます。絶対値より、同じ機器・同じ装着位置での傾向を見る方法が現実的です。
疲れやすい日は休んでもよいですか?
はい。休息を計画に含め、時間や距離を減らしてください。急な強い疲労や神経症状がある場合は中止して医療機関へ相談します。
歩数が少ない日は失敗ですか?
失敗ではありません。体調、天候、通院などで活動は変わります。数日の数字と生活の内容を合わせて見てください。
歩数が増えれば脳卒中の再発を防げますか?
この記事で紹介した試験は主に歩数を測っており、再発予防を直接示したものではありません。再発予防は主治医の指示を優先してください。
参考文献
- Oliveira SG, et al. Interventions to Change Movement Behaviors After Stroke: A Systematic Review and Meta-analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2024. PMID: 37541356. DOI: 10.1016/j.apmr.2023.07.011. PubMed
- Thompson ED, et al. Increasing Activity After Stroke: A Randomized Controlled Trial of High-Intensity Walking and Step Activity Intervention. Stroke. 2024. PMID: 38134254. DOI: 10.1161/STROKEAHA.123.044596. PubMed
- Stretton CM, et al. Interventions to improve real-world walking after stroke: a systematic review and meta-analysis. Clin Rehabil. 2017. PMID: 27056251. DOI: 10.1177/0269215516640863. PubMed
執筆・確認:田中 光(株式会社Journey Rehab代表、認定作業療法士、修士〔作業療法学〕、東京都立大学大学院博士後期課程在籍)。文献内容を2026年9月19日に確認しました。本記事は一般的な情報提供であり、診断・治療の代わりではありません。外部の医師による個別監修は受けていません。
