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田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍 初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立 |
「外を一人で歩きたい」「買い物や通院に行けるようになりたい」。脳卒中後のリハビリでは、とても多い目標です。ただし屋外歩行は、まっすぐな廊下を歩けることとは少し違います。段差、坂道、人混み、信号、疲労、二重課題などが加わるため、複数の評価を組み合わせて考える必要があります。
この記事では、研究でよく使われるカットオフ値を評価項目別に整理します。数値は「この点を超えたら絶対に安全」という合格点ではなく、問題点を見つけ、目標設定やプログラム立案に使う目安として読んでください。
脳卒中後の屋外歩行では、1つの点数だけで判断するよりも、歩く速さ、歩き続ける力、バランス、下肢の運動機能、転倒リスクを合わせて見ます。代表的な目安は以下です。
| 評価項目 | 目安となる値 | 臨床での読み方 |
|---|---|---|
| 10m歩行速度 | 0.49 m/秒以上:家庭内中心から地域歩行への境界 0.93 m/秒以上:より広い地域歩行の目安¹ |
速さの目安。ただし歩数計で見た実生活の歩行量を過大評価することがあります。 |
| 6分間歩行テスト(6MWT) | 205m以上:地域歩行を定義する目安として報告² | 屋外歩行に必要な持久力を反映しやすい項目です。 |
| Berg Balance Scale(BBS) | 29点以上:退院時の地域歩行達成を予測する入院時目安² 42点以下:複数回またはけがを伴う転倒リスクの目安³ |
立位バランスの評価。高いほどよいですが、屋外の段差や人混みは別に確認が必要です。 |
| Fugl-Meyer Assessment 下肢 | 明確な単独カットオフより、6MWT・BBSと組み合わせて判断¹ | 麻痺側下肢をどの程度分離して動かせるかを見ます。 |
| FAC(Functional Ambulation Categories) | FAC 5:平地以外も含めて自立歩行の目安 | 介助や見守りの必要性を簡潔に示します。屋外では環境条件も確認します。 |
以前から、脳卒中後の歩行能力は歩行速度で分類されることが多く、0.4m/秒未満を家庭内歩行、0.4〜0.8m/秒を制限のある地域歩行、0.8m/秒以上を地域歩行の目安とする考え方が広く使われてきました⁴。
一方で、Fulkらの研究では、実際の歩数データで地域歩行を分類すると、快適歩行速度0.49m/秒が家庭内歩行と地域歩行の境界、0.93m/秒が制限のある地域歩行とより広い地域歩行の境界として示されました¹。さらに、6分間歩行テストの方が歩行速度よりも実生活の歩行活動を見分けやすい可能性が報告されています¹。
歩行速度は重要です。しかし「速く歩ける」ことと「外で安全に歩き続けられる」ことは同じではありません。屋外歩行では、持久力、注意配分、方向転換、段差、疲労後の足の出方まで確認します。
屋外歩行の目標を立てるときは、次のように評価を組み合わせます。
信号、横断歩道、周囲の流れに合わせる力と関係します。0.49m/秒、0.93m/秒は現実の歩行活動を考える上で参考になります¹。
買い物、通院、駅までの移動では「どれだけ歩き続けられるか」が重要です。205m以上は地域歩行の目安として使われることがあります²。
BBSは立つ、向きを変える、物を拾うなどのバランスを見ます。LEAPS研究では、BBS 42点以下が複数回またはけがを伴う転倒の予測に使える目安として示されています³。
Fugl-Meyer Assessment下肢は、麻痺側の股関節・膝・足首をどの程度コントロールできるかを見ます。Fulkらの研究では、6MWT、Fugl-Meyer、BBSの組み合わせが歩行活動の分類に有用でした¹。
地域・屋外歩行を改善する介入についてのCochraneレビューでは、屋外歩行練習、仮想環境、イメージ練習などが検討されましたが、当時の研究数は少なく、参加や歩行能力に対する効果を確立するには不十分と結論づけられています⁵。
そのため、屋外歩行を目指す場合は「外を歩く練習」だけでなく、歩行速度、持久力、バランス、下肢機能、注意機能、生活環境を評価し、足りない要素を整理することが大切です。
Journey Rehabでも「屋外を一人で歩けるようになりたい」というご相談は多くあります。そのとき、私たちは「なんとなく歩けそう」「今日は調子がよい」だけで判断せず、世界的に使われている評価尺度を用いて、現在地を可視化します。
たとえば、歩行速度は足りているが6分間歩くと疲労でつま先が引っかかる方、BBSは高いが人混みや方向転換で不安定になる方、筋力よりも転倒への不安が活動範囲を狭めている方がいます。カットオフ値は、患者さんの努力を点数化するためではなく、「何を優先して練習するか」を一緒に整理するために使います。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療・医療行為の代替ではありません。屋外歩行の可否や練習内容は、主治医、担当セラピスト、リハビリ専門職に相談し、転倒リスクや生活環境を確認した上で判断してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
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執筆者:田中 光(作業療法士)
株式会社Journey Rehab 代表。作業療法士(国家資格)/認定作業療法士。修士(作業療法学)。東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍。初台リハビリテーション病院で脳卒中回復期リハビリに従事後、2025年Journey Rehabを設立。
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A. 目安にはなりますが、それだけでは不十分です。疲労、段差、方向転換、注意機能、転倒歴も含めて専門職と確認することが大切です。
A. 屋外では短い距離だけでなく、一定時間歩き続ける力が必要です。6MWTは実生活の歩行活動を反映しやすい評価として報告されています。
A. BBSなどのバランス評価に加え、転倒歴、薬、視力、注意機能、家や屋外環境を確認します。数値だけでなく多面的な評価が必要です。
A. すぐに一人で歩く判断は慎重になりますが、見守り、杖、装具、ルート調整などで段階的に練習できる場合があります。
A. 目標が屋外歩行なら、定期的な評価は有用です。何が課題かを見える化することで、練習内容を調整しやすくなります。
1. Fulk GD, He Y, Boyne P, Dunning K. Predicting Home and Community Walking Activity Poststroke. Stroke. 2017;48(2):406-411. doi:10.1161/STROKEAHA.116.015309. PMID: 28057807.
2. Liao WL, Chang CW, Sung PY, Hsu WN, Lai MW. The Berg Balance Scale at Admission Can Predict Community Ambulation at Discharge in Patients with Stroke. Medicina. 2021;57(6):556. PMCID: PMC8226946.
3. Tilson JK, Wu SS, Cen SY, et al. Characterizing and identifying risk for falls in the LEAPS study. Stroke. 2012;43(2):446-452. doi:10.1161/STROKEAHA.111.636258. PMCID: PMC3265675.
4. Perry J, Garrett M, Gronley JK, Mulroy SJ. Classification of walking handicap in the stroke population. Stroke. 1995;26(6):982-989. doi:10.1161/01.STR.26.6.982. PMID: 7762050.
5. Barclay RE, Stevenson TJ, Poluha W, Ripat J, Nett C, Srikesavan CS. Interventions for improving community ambulation in individuals with stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015(3):CD010200. doi:10.1002/14651858.CD010200.pub2. PMCID: PMC6465042.
