東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「今のリハビリの量で足りているのか」「もっとたくさんやれば、その分だけ良くなるのか」。脳卒中の後遺症がある方やご家族から、とてもよく聞かれる質問です。この記事では、リハビリの「量(時間・回数・反復数)」と「強度(きつさ)」について、研究で何がわかっていて、何がまだわかっていないのかを、専門職の視点で正直に整理します。
結論から言うと、歩行や体力に関しては「中〜高強度でしっかり量を行う」ことを支持する研究が比較的そろっています3,5,7。一方で、「同じ内容をただ増やせば、その分だけ結果も伸びる」という単純な関係は、研究では一貫して確認されていません1,2,4。また、通常のリハビリで実際に行われている反復回数は、思ったより少ないという報告もあります6。
2. 研究では何が示されているのか
3. エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
4. 何が変わりやすく、何は変わりにくいか
5. どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か
6. 回数・頻度・強度の目安
7. 当施設での経験・正直なまとめ
よくある質問
参考文献
リハビリの「量(ドーズ)」には、いくつかの意味があります。1回の練習時間、週あたりの回数、通う期間の長さ、そして「その中で実際に体を動かした反復回数」です。研究では、この最後の「反復回数」がとくに重要だと考えられていますが、時間だけを測って中身の反復数を数えていない研究も多くあります1。
「強度」は、運動のきつさです。歩行や有酸素運動では、心拍数や「ややきつい〜きつい」と感じるレベルで区切ります。中〜高強度とは、会話がとぎれとぎれになる程度から、続けるのがやっとの程度までを指します。筋力トレーニングでは、扱う負荷の重さや、限界に近い回数まで行うかどうかが強度の目安になります。
通常のリハビリでどれくらい体を動かしているかを調べた観察研究では、上肢の課題的な動作を練習したのは上肢を扱ったセッションの51%にとどまり、1回あたりの反復は平均32回でした。歩行練習は下肢を扱ったセッションの84%で行われ、1回あたり平均357歩でした。研究者らは、これは動物実験で回復に必要とされる練習量に比べてかなり少なく、現在の練習量では神経の再組織化を十分に促せていない可能性があると指摘しています6。

日常動作に近い課題を繰り返す「課題反復訓練」について、33件の試験・約1,853人をまとめたレビューです。腕の機能(標準化平均差0.25)、手の機能(0.25)、歩行距離(平均差+約34.8m)、応用的な歩行能力(0.35)、下肢機能(0.29)で小〜中程度の改善が示され、効果は治療後6か月まで保たれました。歩行速度は改善の傾向はあるものの、統計的には確実ではありませんでした。証拠の確実性はGRADEで「低」〜「中」です。重要なのは、練習の種類・練習量・発症からの時期によって効果の大きさが変わらなかった点で、練習時間が20時間以下か20時間超かで比べても、はっきりした差はありませんでした1。
「まったく同じ内容の運動療法を、多く行う群と少なく行う群」で比べた7件の試験・約680人をまとめた解析です。快適歩行速度では、多く行った群にやや有利な結果(標準化平均差0.3、95%信頼区間0.1〜0.5)が出ましたが、上肢の指標では結果がばらつき、握力ではむしろ標準量の群に有利という結果もありました。著者らは「同じ種類の運動療法の量を増やすことが回復を後押しする、という仮説を、一部は支持するが限定的な支持にとどまる」と結論づけています2。
課題特異的訓練の「強度・量」に注目し、26件のRCT・1,431人をまとめた新しい解析です。回数・セッション数・時間・反復数といった量の指標でグループ分けしても、腕・手・下肢・バランス・生活の質のほとんどの項目で、はっきりした差は出ませんでした。20セッションを超えると手の機能で有意な改善(標準化平均差0.57)、50回を超える反復で腕の機能に有意な結果が出たものの、証拠の質は非常に低いとされています。著者らは「高強度の課題特異的訓練が生活機能をより良くするかどうかは、現時点では十分な根拠がない」と述べています4。
発症から6か月以上たった、歩ける状態の中枢神経疾患(脳卒中を含む)を対象にした歩行機能のガイドラインです。歩行速度や歩行距離を伸ばす目的では、「中〜高強度の歩行練習」または「VRを用いた練習」を提供することが強く推奨されています。一方で、体重免荷トレッドミル、ロボット支援歩行、VRを使わない座位・立位のバランス練習だけを、歩行速度・距離を伸ばす目的で行うことは、強い根拠をもって推奨されないとされています。ガイドラインは「課題特異的な練習を大量に、しかも高い心血管系の強度で、または注意を高めるフィードバックを添えて行うことが、歩行機能の改善に重要かもしれない」とまとめています3。高強度の歩行練習そのものについては脳卒中後の高強度歩行トレーニングについて解説した記事もあわせてご覧ください。
入院リハビリ中の脳卒中の方を対象に、高強度の歩行練習と通常ケアを比べた8件(うち6件・635人をメタ解析)の報告です。高強度の歩行練習は、歩行持久力(標準化平均差0.50)と歩行速度(0.41)で中程度の差を示し、バランスへの影響はごくわずか(0.08)でした5。有酸素運動の強度に注目した別のネットワークメタ解析(28件・約1,298人)でも、高強度インターバル運動や高強度持続運動が、低〜中強度よりも最大酸素摂取量・6分間歩行・歩行速度で優れる傾向が示されています7。
失語症のリハビリでも「訓練量」は重要なテーマで、集中的に行うほうがよいとする研究がある一方、最適な時間・頻度ははっきりしていません。詳しくは脳卒中後の失語症リハビリの訓練量について解説した記事で扱っています。筋力トレーニングの負荷・量の考え方は脳卒中後の筋力トレーニングについて解説した記事を参考にしてください。
・多くの試験は参加者が少なく、証拠の確実性はGRADEで「低」〜「中」程度です1。
・「量」を練習時間で測る研究と、実際の反復回数で測る研究が混在し、比較が難しい状況です1,4。
・対象者の重症度、発症からの時期、行った練習の種類が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません1,2。
・高強度の練習の研究は入院中の方が中心で、在宅・生活期での検証はこれからです5。
・「1日あたり何分」「週あたり何回」「合計で何時間」が最適かは、上肢・歩行いずれも定まっていません1,4。
・同じ内容をただ増やすことと、内容を変えて強度を上げることの、どちらがより役立つかははっきりしません2,4。
・「ここまでやれば頭打ち」という上限や、逆に「これ以上は疲労で逆効果」という線引きも、十分に検証されていません。
・重症度・発症時期・年齢・併存疾患ごとに、必要な量が違う可能性がありますが、比較データは限られています1。
全体としては、「歩行や体力については、中〜高強度でしっかり量を行う方向が支持されている。ただし、上肢や生活動作で“同じ内容をどれだけ増やせばどれだけ伸びるか”という細かい関係は未確定」というのが、現時点での妥当な理解です。研究データは執筆時点のもので、今後変わる可能性があります。
・歩行速度(中〜高強度で行った場合)3,5,7
・有酸素能力(最大酸素摂取量)7
・課題反復訓練を行った腕・手・下肢の機能(小〜中程度)1
・握力など、量の効果が一貫しない指標2
・バランス(歩行練習の量を増やしても大きくは変わらない)5
・生活の質(研究による差が大きい)4

・現在の練習で物足りなさを感じ、体調的に余力がある方
・心疾患などのリスクが確認・管理されており、運動中の血圧・心拍を見守れる体制がある方
・自主トレを含めて、練習の反復回数を増やす工夫ができる方
・コントロールされていない高血圧、不整脈、狭心症など、循環器の問題がある方
・発症から日が浅く、全身状態が安定していない時期
・強い痛み、関節の炎症、進行した骨粗しょう症がある方
・強い痙縮(つっぱり)や疲労が、量を増やすと悪化する方
・認知・注意の問題で、きつさの自己調整が難しい方
こうした場合は、まず強度を落として量を確保する、頻度を分ける、医師の運動負荷の評価を受けるなど、主治医・リハビリ専門職と相談しながら段階的に進めます。量を増やすときは「翌日に強い疲労やこわばりが残らないか」を目安にします。
研究やガイドラインで扱われている設定を、目安として紹介します。最適値は決まっていないため、必ず個別に調整します1,3,4。
中〜高強度(会話がとぎれる〜続けるのがやっとの手前)で、週3〜5回、1回20〜40分程度が研究でよく用いられます3,5,7
1回の練習の中で、意味のある動作を数十回以上繰り返すことを目標にする。研究では治療後6か月まで効果が保たれた例があります1,4,6
「時間」よりも「その中で実際に何回動かせたか」を意識する。通常のリハビリでは反復回数が少なくなりがちなため、セラピー時間外の自主トレで量を補う6
「量を増やす」といっても、やみくもに時間を延ばすのではなく、休憩の取り方、内容の変化のつけ方、体調に応じた強度の上げ下げをセットで考える必要があります。

Journey Rehabの訪問リハビリでは、週4〜5コマと高頻度で利用される方もいれば、生活・費用・体調などの事情から週1〜2回の方もいます。臨床では、訪問回数やリハビリ時間が多い方ほど変化が大きいように感じる場面があります。ただし、これは担当者の観察上の印象であり、もともとの症状、発症後の時期、意欲、生活環境、自主トレーニング量なども関係するため、「回数を増やしたことだけが回復の理由」とは判断できません。
週1〜2回の方には、訪問日以外にも練習量を確保できるよう、原則として自主トレーニングをご提案しています。セッションでは動作の方法と安全性を確認し、その方の目標・能力・住環境に合わせて、歩行や立ち上がりなどの課題、回数、休憩の取り方を一緒に決めます。実施状況や疲労・痛みを確認しながら、次回訪問時に内容を調整します。
訪問回数だけでなく、セッション外を含む総練習量と、実際に行えた反復の質を考えることが大切です。一方で、「たくさん行えば必ず比例して良くなる」とは限りません。強い疲労、痛み、ふらつきなどがある場合は無理に続けず、主治医や担当のリハビリ専門職に相談してください。
まとめると、脳卒中リハビリの「量・強度」は、歩行と体力に関しては「中〜高強度でしっかり行う」方向が研究で支持されています。上肢や生活動作については、量を増やすほど比例して伸びるという単純な関係は確認されておらず、「実際の反復回数を意識して増やす」「疲労を見ながら段階的に上げる」といった調整が現実的です。適切な量は一人ひとり違うため、主治医・リハビリ専門職と一緒に決めていくことをおすすめします。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療法や運動量を推奨・保証するものではありません。適切なリハビリの量・強度は、体の状態や併存疾患によって一人ひとり異なります。運動量を変える前に、必ず主治医やリハビリ専門職にご相談ください。記載した研究データは執筆時点(2026年8月)のもので、今後の研究で結論が変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Cooke EV, Mares K, Clark A, et al. The effects of increased dose of exercise-based therapies to enhance motor recovery after stroke: a systematic review and meta-analysis. BMC Med. 2010. PMID: 20942915. PMCID: PMC2966446. DOI: 10.1186/1741-7015-8-60
3. Hornby TG, Reisman DS, Ward IG, et al. Clinical Practice Guideline to Improve Locomotor Function Following Chronic Stroke, Incomplete Spinal Cord Injury, and Brain Injury. J Neurol Phys Ther. 2020. PMID: 31834165. DOI: 10.1097/NPT.0000000000000303
4. Ibrahim R, Abdullahi A, Salihu AT, Lawal IU. Intensity of task-specific training for functional ability post-stroke: Systematic review and meta-analysis. Clin Rehabil. 2025. PMID: 40576954. DOI: 10.1177/02692155251351906
5. Tapp A, Griswold D, Dray D, et al. High-intensity locomotor training during inpatient rehabilitation improves the discharge ambulation function of patients with stroke. A systematic review with meta-analysis. Top Stroke Rehabil. 2024. PMID: 38285888. DOI: 10.1080/10749357.2024.2304960
6. Lang CE, Macdonald JR, Reisman DS, et al. Observation of amounts of movement practice provided during stroke rehabilitation. Arch Phys Med Rehabil. 2009. PMID: 19801058. PMCID: PMC3008558. DOI: 10.1016/j.apmr.2009.04.005
7. Moncion K, Rodrigues L, Wiley E, et al. Aerobic exercise interventions for promoting cardiovascular health and mobility after stroke: a systematic review with Bayesian network meta-analysis. Br J Sports Med. 2024. PMID: 38413134. DOI: 10.1136/bjsports-2023-107956
