東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
運動の種類を比べた研究と限界を正直に解説
「ふらつきが気になってきたので運動を始めたい。でも、体操・筋トレ・太極拳・ゲーム型の運動と種類が多すぎて、何を選べばいいのか分からない」——ご本人からもご家族からも、よく伺う疑問です。
この記事では、複数の運動の種類を同じ土俵で比べた「ネットワークメタアナリシス」という手法の研究をもとに、種目ごとの傾向と、その結果をどこまで信じてよいのかを整理します。結論を先にお伝えすると、多くの運動がバランスの指標と関連していますが、「どれが一番か」を確定できるほどの差は示されていません。研究の著者自身が「これらの推定値は優越性を確立するものではない」と述べているのが実情です。その前提のうえで、選ぶときに何を手がかりにできるかを考えます。
最終更新日:2026年8月28日
最新レビュー日:2026年8月28日
この記事で紹介する研究の対象は、脳卒中・パーキンソン病・変形性関節症などの診断がない健康な高齢者、およびフレイルの前段階にある高齢者です。病気による麻痺やふらつきがある方には、そのまま当てはめることができません。バランスの運動は転倒の危険を伴う場面もあります。始める前に必ず主治医・リハビリ専門職にご相談ください。
選び方を考えるうえで、最初に押さえておきたいことがあります。ひとことで「バランス」と言っても、実は性質の異なるいくつかの能力に分けられる、という点です。
・動的バランス:歩く、方向を変えるなど、動きながら姿勢を保つ力
・先行的(予測的)バランス:手を伸ばす、荷物を持ち上げるなど、自分の動作で崩れる前に身構える力
・反応的バランス:つまずいた、押されたなど、予期しない外力に対して立て直す力
実際の転倒場面を思い浮かべると、「つまずいて立て直せなかった」という反応的バランスの問題と、「片足立ちが不安定」という静的バランスの問題は、別のものだと分かります。後で紹介する研究が示しているのも、運動の種類によって得意な領域が違う可能性です。バランス訓練そのものの考え方については、当施設のブログでもバランス訓練の進め方はこちらで取り上げています。

複数の運動を同じ土俵で比べるには、ネットワークメタアナリシスという手法が使われます。直接比較した試験がなくても、共通の対照群を介して間接的に順位づけができる方法です。
65歳以上の健康な高齢者を対象とした93件のランダム化比較試験(計5,114名)を統合し、16種類の運動を比較した報告です1。全体としては、運動を行った群のほうがバランスの指標が良好でした(Berg Balance Scaleで標準化平均差0.83、95%信頼区間 0.52〜1.14)1。
指標ごとに上位に来た運動は異なっていました。Berg Balance Scaleでは、体を動かして操作するゲーム型の運動(標準化平均差2.07、95%信頼区間 0.80〜3.34)、バランス訓練(同1.18、0.58〜1.78)、オタゴ体操(同1.07、0.30〜1.85)の順でした1。目を開けた片足立ちの時間では、オタゴ体操(同1.36、0.41〜2.31)、ゲーム型の運動(同1.25、0.33〜2.16)、ダンス(同0.93、0.25〜1.61)が上位でした1。歩行速度では、複数の要素を組み合わせた総合的な運動(同0.96、0.65〜1.27)が最上位でした1。
なお、この解析に含まれた研究の方法論的な質はPEDro尺度で平均6.57点(10点満点)、バイアスリスクは93件中72件が「懸念あり」、4件が「高リスク」と評価されています1。信頼区間の幅が広い項目が多い点にも注意が必要です1。
さらに大規模な解析が2026年に報告されています。60歳以上を対象とした423件の試験(計33,901名)を統合し、19種類の運動をベイズ流の手法で比較したものです3。この報告では、19種類のうち18種類で全体のバランスに関連が示され、明確な関連が確認されなかったのはストレッチのみでした3。効果の推定値が大きかったのは、バランスを崩す刺激に立て直す練習(Hedges' g 0.66、95%確信区間 0.49〜0.82)、感覚を使った練習(同0.55、0.42〜0.68)、ダンス(同0.54、0.45〜0.64)、素早いステップの練習(同0.53、0.39〜0.67)でした3。
同じ報告では、バランスの領域ごとに上位が入れ替わることも示されています。全般的なバランスでは太極拳、静的バランスでは立て直す練習、動的バランスではピラティス、先行的バランスでは素早いステップの練習や水中運動が、それぞれ最も大きい推定値でした3。また、転倒の危険が高い方や指導者がついている場面では立て直す練習の推定値が大きく、自宅で行う場面では感覚を使った練習の推定値が最も大きい、という違いも報告されています3。ただし著者ら自身が「これらの推定値は優越性を確立するものではない」と明記しており、順位をそのまま「ランキング」として読むべきではありません3。
ここまでは健康な高齢者が対象でしたが、体力の低下が始まっている方ではどうでしょうか。フレイルの前段階(プレフレイル)にある方を対象にした解析が2025年に報告されています。
平均年齢68.9〜83.3歳のプレフレイル高齢者1,107名を含む17件のランダム化比較試験を統合し、10種類の運動を比較した報告です2。握力では、ゴムバンドを使った運動が対照群より平均5.2kg高く(95%信頼区間 0.64〜9.77)、順位も最上位でした2。
歩行・立ち座り・バランスを総合した指標(SPPB)では、段階的に強度を上げる運動に太極拳を組み合わせた方法が対照群より平均3.21点高く(95%信頼区間 1.01〜5.45)、複数要素を組み合わせた運動も1.13点高い結果でした(同 0.13〜2.10)2。
一方、立ち上がって歩いて戻る時間(Timed Up and Go)では、どの運動でも対照群との統計的に意味のある差は確認されませんでした2。この項目に含まれたのは6件263名と少なく、差を検出する力が不足していた可能性が指摘されています2。
プレフレイルの状態やその対応については、当施設のブログでも高齢者のプレフレイルについて解説した記事で取り上げています。
「多ければ多いほどよい」とは限らない、という報告があります。転倒に関する行動を指標に、21件の試験(計3,387名)を統合した2026年の解析では、運動の総量と結果の関係が逆U字型を示し、およそ週420メッツ・分あたりで最も良好な反応が見られたと報告されています4。メッツ・分は運動の強さと時間を掛け合わせた単位で、ごく大まかには、やや息が弾む程度の運動を1日20〜30分・週5日程度続けたときの量に相当します。
同じ解析では、転倒に関する行動の指標で上位に来たのは転倒予防に特化した運動プログラム、次いでオタゴ体操、水中運動、太極拳の順でした4。ただし最適な量は運動の種類によって異なるとも述べられており、ひとつの数値をすべての人に当てはめられるわけではありません4。
オタゴ体操は日本でも取り入れられている代表的なプログラムです。当施設のブログでもオタゴ運動プログラムについて解説した記事で内容と研究状況を紹介しています。なお、より大規模な2026年の解析では、量と結果の関係は直線的ではなく、その分析自体も探索的なものだったと述べられています3。
・運動をどのカテゴリーに分類するかには主観的な判断が含まれると、著者自身が限界として挙げています1。同じ「バランス訓練」でも中身は研究ごとに異なります。
・順位を示すSUCRAという指標は「どれが上位に来やすいか」を表すもので、差が統計的に意味があるかどうかとは別です1。
・プレフレイルの方を対象とした解析では、介入期間がほとんど8〜12週間と短く、対照群の内容も研究間で混在しています2。
・英語のみ、あるいは英語と中国語のみを対象とした言語の制限があります12。
・バランスの指標が良くなることが、実際に転ぶ回数の減少につながるのか。指標の変化と転倒そのものは別の結果です。
・効果がどのくらい続くのか。介入期間が数か月の研究が中心で、長期の追跡は限られています2。
・持病がある方への当てはまり。紹介した解析は、脳卒中やパーキンソン病などの診断がない方を対象としています1。
・最適な運動量。ある解析では週420メッツ・分付近という推定が示されていますが4、運動の種類によって異なるとされています4。
研究全体では一定の傾向がありますが、対象者や運動の内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。順位表を見ると「1位の運動をやればよい」と思いたくなりますが、その差の多くは統計的に区別できる大きさではない、という前提を持っておくことが大切です。


「どれが一番か」は決まっていません。ではどう選ぶか。研究から言えることを、選ぶときの手がかりとして整理します。
つまずいたときに立て直せないのか、片足立ちが不安定なのか、歩いていて方向転換が怖いのか。バランスは領域ごとに性質が異なり、研究でも領域によって上位の運動が入れ替わっています3。どの場面で不安を感じるかを具体的にすることが出発点になります。
研究では、指導者がついている場面と自宅で行う場面とで、推定値が大きい運動が異なっていました3。バランスを崩す刺激に立て直す練習は、支えのない場所で一人で行うには危険が伴います。安全に行える環境かどうかは、種目選びと切り離せません。
解析で上位に入った運動の中には、ゲーム型の運動やダンスのように、楽しさが続けやすさにつながるものが含まれます13。どんなに順位が高い運動でも、続かなければ意味がありません。実施形式による続けやすさの違いは、当施設のブログの運動の実施形式ごとの続けやすさについて解説した記事でも取り上げています。
現場で感じるのは、種目名を決めることより、「どの場面が不安か」「どこでなら安全にできるか」「何なら続くか」の3つを一緒に整理するほうが、結果的に長続きするということです。
訪問の現場では、「どの体操が一番よいですか」と聞かれることがありますが、実際には種目名よりも、どの場面で困っているかを確認することから始めます。手すりや机につかまれば安定して立てる方でも、支えを外すと急に不安が強くなることがあります。また、練習場面では片足立ちができても、自宅の狭い廊下での方向転換、玄関の段差、夜間のトイレ移動ではふらつく方もいます。検査の点数や一つの運動だけでは、生活での安全性を十分に判断できないと感じています。そのため、足の位置、体重のかけ方、視線、休憩の入れ方を調整し、実際の床材や段差、つかまれる場所まで一緒に確認します。練習で変化が見えても、疲れている日や床に物が多い環境では転倒リスクが残ります。「難しい運動ほどよい」と考えず、その方が安全に続けられ、実際の困りごとにつながる内容を選ぶことを大切にしています。
Journey Rehabは訪問型のリハビリのため、実際の廊下の幅、段差の高さ、つかまれる場所がどこにあるかを見ながら、その環境で安全にできる運動を一緒に確認できます。段差の上り下りや方向転換など、ご自宅で不安を感じる場面を具体的に伺いながら、無理のない形を考えていきます。持病がある方については、主治医への確認をおすすめしています。
高齢者のバランスに対する運動は、多くの種類で指標との関連が報告されています13。ただし種目間の差の多くは統計的に区別できる大きさではなく、大規模な解析の著者自身が優越性を確立するものではないと述べています3。バランスは領域ごとに性質が異なり、上位に来る運動も領域や実施環境によって入れ替わります3。「一番よい運動」を探すよりも、困っている場面・安全に行える環境・続けられるかどうかを手がかりに、専門職と相談しながら選ぶことをおすすめします。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。バランスの運動には転倒の危険を伴う場面があります。紹介した研究の対象は、特定の病気の診断がない高齢者およびフレイルの前段階にある高齢者です。実施を検討する場合は、必ず主治医・リハビリ専門職へ相談してください。研究データは執筆時点のものであり、今後変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
