脳卒中後の高強度歩行トレーニングとは?歩く量と強度への研究と限界

· 脳卒中下肢関連情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後の高強度歩行トレーニングとは?歩く量と強度への研究と限界を正直に解説

「もっと歩けるようになりたい」「歩く練習は、ゆっくり丁寧にやるのと、しっかり負荷をかけるのと、どちらがよいのだろう」——これは、脳卒中後のリハビリでとても多い疑問です。近年、歩行の練習を「少し息が上がるくらいの高い強度で、たくさん歩く」形で行う「高強度歩行トレーニング」が、研究や国際的なガイドラインで注目されています。この記事では、脳卒中後の高強度歩行トレーニングについて、研究で分かってきたことと、まだはっきりしないことを、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。結論から言うと、心臓・血管の状態が安定した慢性期の方では、歩く持久力の面で役立つ可能性がガイドラインでも支持されていますが、安全に行うための確認と個別の調整が欠かせない方法です。

脳卒中後に専門職と歩行練習を行うイメージ
この記事の要点
・高強度歩行トレーニングとは、少し息が上がるくらいの高い強度(目安として心拍数の予備能の60〜84%など)で、歩く練習をしっかり行う方法です1
・2025年の欧州脳卒中機構(ESO)のガイドラインは、心臓・血管の状態が安定した慢性期の方に対し、歩く持久力を高める目的で高強度歩行トレーニングを行うことを「強く推奨」しています(中等度の質のエビデンス)1
・19件の研究(約1,096人)をまとめた分析では、中〜高強度の歩行練習で、歩く速さや6分間歩行距離が高まりました。効果は発症からの時期や人によってばらつきがありました2
・重い有害事象はほとんど報告されていませんが、心臓・血管の状態の確認や運動中の見守りが前提です1,2
・「速く長く歩く練習」は誰にでも同じように当てはまるわけではなく、体調・持病・麻痺の状態に合わせた個別の調整が必要です。
SECTION 01
高強度歩行トレーニングとは

高強度歩行トレーニング(高強度ロコモータートレーニングとも呼ばれます)とは、歩く練習を「少し息が上がる、ややきついと感じるくらいの高い強度」で、まとまった量しっかり行う方法です。強度の目安としては、心拍数の予備能(安静時と最大の差)の60〜84%、最大心拍数の77〜93%、あるいは「ややきつい〜きつい」に相当する自覚的な運動強度(ボルグ指数14〜16)などが使われます1。トレッドミル(歩行練習用のベルト)だけでなく、床の上での歩行練習でも行われます。

ポイントは、「ゆっくり・軽く」ではなく「ある程度しっかり負荷をかけて歩く」という考え方です。従来は、脳卒中後の歩行練習は無理をさせない範囲で行うことが多かったのですが、近年の研究では、安全を確認したうえで強度を高めたほうが、歩く持久力などの面で役立つ可能性が示されてきました1,2。歩く速さや距離をどう評価するかについては、脳卒中後の歩行評価指標について解説した記事もあわせて参考にしてください。

SECTION 02
研究・ガイドラインで分かっていること

結論から正直にお伝えすると、「安全を確認したうえで歩行練習の強度を高めることは、歩く持久力の面で役立つ可能性がある」ことは、国際的なガイドラインでも支持されつつあります。一方で、「速さの改善は証拠がやや弱い」「効果には個人差がある」という点も、あわせて押さえておく必要があります。

研究・ガイドラインから読み取れること
2025年に発表された欧州脳卒中機構(ESO)の運動リハビリに関するガイドラインは、心臓・血管の状態が安定した慢性期(発症からおおむね6か月以降)の脳卒中の方に対して、歩く持久力を高める目的で高強度歩行トレーニングを行うことを「強く推奨」しました(中等度の質のエビデンス)。歩く速さについては、質のやや低いエビデンスにもとづき「行うことを検討してよい」という弱い推奨にとどめています1

この背景には、複数の研究をまとめた分析があります。中〜高強度の歩行練習を調べた19件の研究(約1,096人。慢性期14件・回復期5件)をまとめた分析では、歩く速さ(慢性期で毎秒0.06m、回復期で0.06〜0.16m)や、6分間で歩ける距離(慢性期で約33m、回復期で約51m)が、対照群より高まりました2。また、発症からの時期を問わず、ガイドラインのもとになった診療ガイドライン(2020年)でも、中〜高強度の歩行練習は歩く速さや距離を高める方法として「強いエビデンス」で支持されています3。回復期・急性期を対象にした別のレビューでも、高強度の運動で6分間歩行距離や歩行速度が高まった報告があり、重大な有害事象は報告されていません4

歩く力を高める運動には、高強度インターバルトレーニング(HIIT)など別の方法もあります。強度を上げる運動全般の考え方については脳卒中後の高強度インターバルトレーニングについて解説した記事もあわせて参考になります。
心拍や疲労感を確認しながら歩行練習を進めるイメージ
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
研究をまとめた分析では、効果に「大きなばらつき」があることが指摘されています。同じように高強度の歩行練習を行っても、よく変化する方とほとんど変化しない方がいて、その差は小さくありませんでした2。また、歩く速さへの効果は、持久力への効果に比べると証拠がやや弱いこと、1日の歩数(実生活での活動量)が増えるかどうかははっきりしないことも報告されています1,2。研究ごとに強度の設定や対象の時期が異なり、有害事象の記録の仕方もそろっていないなど、方法上の限界も残っています2
まだ分かっていないこと
現在の研究でも、脳卒中後の高強度歩行トレーニングについて、どのくらいの強度・量・頻度・期間が一人ひとりにとって最も良いのかは、十分に定まっていません1,2。とくに、発症してまもない急性期・回復期の方にどこまで強度を上げてよいか、重症度や併存疾患による違い、練習の効果が実生活での歩数や外出につながるのかといった点は、まだ検証が足りません2。強度を高める練習は、心臓・血管への負担も伴うため、誰にでも一律に当てはめられるものではありません。
SECTION 04
何が期待でき、何ははっきりしないか

研究をふまえると、心臓・血管の状態が安定した慢性期の方では、「安全を確認したうえで歩行練習の強度と量を高めること」は、歩く持久力を高める現実的な選択肢と考えられます1,2。長く歩ける力は、外出や生活の広がりにも関わる大切な要素です。歩く速さについても高まる可能性はありますが、持久力ほど証拠が強くない点は理解しておくとよいでしょう1

一方で、「強度を上げれば誰でも同じように歩けるようになる」ことは、現時点の研究でははっきり示されていません。効果には個人差が大きく、変化がゆるやかな方もいます2。また、練習室で歩ける距離が伸びても、それが自宅や屋外での歩数・外出の増加に直接つながるかは、まだはっきりしていません2。強度を高める練習は、必ず体調と心臓・血管の状態を確認しながら、無理のない範囲で進めることが前提です。

SECTION 05
どんな人に向き、どんな人は注意が必要か

研究やガイドラインが主に想定しているのは、ある程度自分で歩ける、心臓・血管の状態が安定した慢性期の脳卒中の方です1。歩く持久力をさらに高めたい、外出できる範囲を広げたい、という目標のある方に向いた考え方です。

⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと
高強度歩行トレーニングは、心臓・血管に負担がかかる運動です。ガイドラインでも、実施の前に心臓・血管の状態が安定していることの確認や、必要に応じた運動負荷の検査が前提とされています1。心臓の病気や不整脈、血圧のコントロールが不十分な方、転倒の危険が高い方などは、強度を上げる前に必ず主治医に相談してください。また、発症してまもない時期は、どこまで強度を上げてよいかがまだはっきりしていないため、より慎重な判断が必要です2。運動中に胸の痛み、強い息切れ、めまい、動悸などがあればすぐに中止します。ここで紹介した内容は一般的な情報であり、効果や安全性をすべての方に保証するものではありません。
SECTION 06
強度・量・頻度の目安

研究で用いられた方法には幅がありますが、目安としては、心拍数の予備能の60〜84%、最大心拍数の77〜93%、あるいは「ややきつい〜きつい」と感じる自覚的な強度(ボルグ指数14〜16)で歩く、という形が多く報告されています1。歩く量については、ガイドラインの専門家の合意として、既存のリハビリに歩行練習の時間を上乗せする場合、合計でおよそ20時間以上(週3〜5回を4〜6週間ほど)が一つの目安として示されています1。ただし、これは研究上の目安であり、実際の強度や量は一人ひとりの体力・心臓血管の状態に合わせて専門職が調整します。

大切なのは、いきなり高い強度を目指さず、心拍や自覚的なきつさ、体調を確認しながら段階的に上げていくことです。休憩をはさみながら短い時間から始め、無理なく続けられる範囲を探します。歩く練習は、装具や杖などの条件によっても進め方が変わります。屋外を杖なしで歩くための条件については脳卒中後に杖なしで歩くための条件について解説した記事も参考になります。

SECTION 07
Journey Rehabでの現場経験
当施設でのリアルな経験
訪問リハビリでご一緒するなかで、「もっと歩けるようになりたい」という目標は本当に多く聞かれます。私たちが強度を高める歩行練習を検討するときにまず大切にしているのは、運動量を増やす前に、血圧や心臓の状態、疲れやすさ、その日の体調をていねいに確認することです。心臓・血管に不安がある場合は、主治医と相談しながら強度を抑えます。実際に、安全を確認しながら少しずつ歩く量ときつさを上げていった方のなかには、続けて歩ける距離が伸びた、外出のときに息が上がりにくくなった、という声もありました。一方で、体調に波があって思うように量を増やせない方や、変化がゆるやかな方もいて、その日ごとに強度を落とす判断も必要でした。「速く長く歩く」ことを一律に目指すのではなく、その方の生活と体調に合わせて、無理なく続けられる形を一緒に探すことを大切にしています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
体力や心臓・血管の状態を一緒に確認しながら、無理なく続けられる歩行練習の進め方を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨を目的とするものではありません。高強度歩行トレーニングは、心臓・血管に負担がかかる運動であり、体の状態によっては向かない場合があります。実施を検討する際は、必ず主治医・リハビリ専門職に相談し、心臓・血管の状態を確認したうえで、専門職の管理のもとで行ってください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
高強度歩行トレーニングは、ゆっくり歩く練習よりよいのですか?
心臓・血管の状態が安定した慢性期の方では、歩く持久力の面で高強度の練習が役立つ可能性がガイドラインで支持されています。ただし効果には個人差があり、誰にでも高強度が向くわけではありません。体調に合う進め方を専門職に相談してください。
「高い強度」とは、どのくらいのきつさですか?
研究では、心拍数の予備能の60〜84%や、「ややきつい〜きつい」と感じる自覚的な強度が目安とされています。少し息が上がるくらいのイメージですが、適切な強度は体力や心臓・血管の状態によって異なるため、専門職が確認しながら決めます。
発症してまもない時期でも高強度で歩いてよいですか?
発症してまもない急性期・回復期に、どこまで強度を上げてよいかは、まだ十分に分かっていません。より慎重な判断が必要な時期のため、必ず主治医・リハビリ専門職の指示のもとで進めてください。
どのくらいの量を歩けばよいですか?
ガイドラインの目安では、歩行練習の時間を合計でおよそ20時間以上(週3〜5回を4〜6週間ほど)上乗せする形が一つの参考として示されています。ただしこれは目安であり、実際の量は体調に合わせて調整します。
心臓に持病があっても大丈夫ですか?
心臓・血管に持病がある方は、強度を上げる前に必ず主治医に相談が必要です。ガイドラインでも、実施前の状態確認や必要な検査が前提とされています。運動中に胸の痛みや強い息切れがあればすぐに中止してください。
練習で歩けるようになれば、外出も増えますか?
練習室で歩ける距離が伸びても、それが自宅や屋外での歩数・外出の増加に直接つながるかは、研究でもまだはっきりしていません。実生活での活動につなげるには、生活場面を想定した練習や環境の工夫もあわせて考えることが大切です。
REFERENCES
参考文献
1. European Stroke Organisation (ESO) guideline on motor rehabilitation. European Stroke Journal. 2025. DOI:10.1177/23969873251338142. PMID:40401760. PMCID:PMC12098312. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40401760/
2. Moderate to Vigorous Intensity Locomotor Training After Stroke: A Systematic Review and Meta-analysis of Mean Effects and Response Variability. Journal of Neurologic Physical Therapy. 2024. DOI:10.1097/NPT.0000000000000456. PMID:37678805. PMCID:PMC10843766. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37678805/
3. Clinical Practice Guideline to Improve Locomotor Function Following Chronic Stroke, Incomplete Spinal Cord Injury, and Brain Injury. Journal of Neurologic Physical Therapy. 2020. DOI:10.1097/NPT.0000000000000303. PMID:31834165. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31834165/
4. Evidence of High-Intensity Exercise on Lower Limb Functional Outcomes and Safety in Acute and Subacute Stroke Population: A Systematic Review. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2022. DOI:10.3390/ijerph20010153. PMID:36612471. PMCID:PMC9819111. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36612471/