
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中の再生医療・幹細胞治療はどこまで来たのか?研究の現在地と限界を正直に解説
「幹細胞の治療で麻痺が良くなると聞きました。受けたほうがいいのでしょうか」——ご本人やご家族から、こうしたご相談をいただくことがあります。インターネットには、期待をふくらませる情報も、頭ごなしに否定する情報も並んでいて、判断が難しいと思います。私はこの治療を提供する立場にありません。だからこそ、宣伝でも否定でもなく、研究として今どこまで示されているのかを、そのまま整理してお伝えしたいと考えました。結論から正直に申し上げると、いくつかの試験で良い方向の数値は報告されているものの、研究の規模は小さく、盲検化が十分でないものが多く、長期的にどうなるかは分かっていません1。「有望だが、確立された治療とは言えない段階」というのが実際のところです。

再生医療は研究段階の内容や不確実性を含め、主治医や専門職と確認することが大切です。
この記事の要点
・脳卒中の再生医療にはいくつもの種類があります。骨髄由来、臍帯由来など細胞の出どころが違い、点滴、髄腔内、脳内への直接注入など投与の方法も異なります1。
・19件の無作為化比較試験・1,055人をまとめたネットワークメタアナリシス(2025年)では、通常のリハビリのみと比べて、神経症状の点数(NIHSS)や上肢機能の点数で差が報告されました1。
・ただし同じ分析で、参加者と実施者の盲検化ができていた研究は19件中2件のみでした1。
・脳内に神経幹細胞を移植した多施設の試験(PISCES-2)では、23人中3か月時点で手の機能の基準を満たした方は1人(4%)でした2。
・ベトナムで行われた第II相の無作為化比較試験(2025年)では、全群が30回のリハビリを受けたうえで細胞を投与し、12か月時点で日常生活動作の点数(FIM)に群間差が報告されています3。
・どの研究でも、リハビリをやめてよいという結果は示されていません。細胞投与とリハビリは並行して行われています3。
SECTION 01
脳卒中の再生医療とは何を指すのか
「再生医療」という言葉はひとまとまりに使われがちですが、中身はかなり多様です。研究で用いられている細胞だけでも、骨髄から取り出した単核球、骨髄由来の間葉系幹細胞、臍帯由来の間葉系幹細胞、末梢血由来の幹細胞、神経の前駆細胞などがあります1。投与の方法も、腕からの点滴、背中から髄液の中へ入れる方法、頸動脈から入れる方法、そして手術で脳の中に直接注入する方法まで幅があります1,2。「幹細胞治療」と一言で言っても、これらのどれを指すのかで話がまったく変わります。
ねらいも一つではありません。傷ついた神経そのものを置き換えるというイメージを持たれることが多いのですが、研究者が想定しているのはむしろ、投与した細胞が周囲の炎症を抑えたり、残っている神経のつながりが作り替わるのを後押ししたりする働きです。つまり、失われた部分をそのまま作り直すというより、回路の作り替えが起きやすい状態を用意する、という発想に近いものです。この「作り替え」自体は、リハビリでも起きていると考えられています。発症からの時間との関係については発症から6か月以降の変化について解説した記事で詳しく扱っています。
SECTION 02
研究で分かっていること
ここでは、全体をまとめた分析と、性格の異なる2つの試験を紹介します。数値は大きく見えるものもありますが、後の章で述べる限界とあわせて読んでいただければと思います。
全体をまとめたネットワークメタアナリシス(2025年)
2024年12月までに報告された無作為化比較試験19件、合計1,055人をまとめた分析です。対象は画像で診断された18歳以上の脳梗塞の方で、発症2週間以内の急性期から6か月以上経過した慢性期まで含まれています。参加時点の神経症状の点数(NIHSS)は平均で10.0〜14.9でした。比較の相手は通常のリハビリです。神経症状の点数では、臍帯由来の間葉系幹細胞で3.95(95%信頼区間2.68〜5.22)、末梢血由来で3.20(0.73〜5.67)、骨髄由来の間葉系幹細胞で1.77(0.23〜3.31)の差が報告されました。生活の自立度を表す指標や上肢機能の指標でも、細胞の種類によって差が示されています。安全性については、死亡率に群間の差はなく、報告された有害事象の多くは発熱や注射部位の痛みといった軽いものでした1。
脳内に直接移植した多施設試験(PISCES-2、2020年)
英国の複数施設で行われた前向きの試験です。41人を選考し、23人が移植を受けました。条件は40歳以上、画像で確認された脳梗塞、腕の運動の点数が一定の範囲にあり、手の検査でほとんど動かせない状態の方でした。発症からの期間は中央値7か月です。手術で、梗塞と同じ側の被殻に2,000万個の神経幹細胞を1回注入しています。主なものさしは手の検査(ARAT)で、3か月時点で基準を満たしたのは23人中1人(4%)、6か月と12か月の時点では3人でした。注目すべきは内訳で、腕がまったく動かせない状態だった9人には変化がみられず、ある程度動きが残っていた14人にのみ変化が観察されています。重い有害事象は11人に17件報告され、うち6件は手術に関連したものでしたが、いずれも回復しています。死亡2件は手技とは無関係と判断されました2。この試験は対照群を置かない単群の設計であり、著者ら自身が結果の解釈は極めて慎重であるべきだと述べています。
投与経路を比べた第II相試験(2025年)
ベトナムで行われた試験で、40〜75歳、神経症状の点数が5以上、発症から7日超24か月以内の方が対象です。臍帯由来の間葉系幹細胞を体重1kgあたり150万個、3か月あけて2回投与しました。点滴で入れる群、背中から髄液の中へ入れる群、細胞を投与しない対照群に分かれています。重要な点として、全群が一人ひとりに合わせた30回のリハビリを受けています。12か月時点で、神経症状の点数は点滴群が対照より4.5点低く(p<0.001)、髄腔内群は3.6点低い結果でした(p=0.003)。日常生活動作の点数(FIM)は点滴群で17.9点、髄腔内群で17.1点高くなっています(いずれもp<0.001)。有害事象は点滴群4件に対し髄腔内群17件で、穿刺部位の痛みが11件と最も多いものでした。細胞投与に関連した重い有害事象はありません。著者らは、参加人数が少ないことを限界として挙げています3。

紹介した臨床研究でも、幹細胞治療とは別にリハビリが並行して行われています。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
ここは丁寧に読んでいただきたい部分です。19件をまとめた分析では、17件が「ランダムに割り付けた」と書いているものの、その具体的な方法まで記載していたのは5件だけでした。参加者と実施者の盲検化ができていたのは2件、結果を測る人の盲検化ができていたのは7件です1。誰がどちらの群かを知っている状態で点数をつけると、無意識に差が生まれやすくなります。麻痺の評価は数値化されていても、この影響を完全には避けられません。著者らはさらに、細胞の種類と投与方法・投与量・投与時期が結びつけて分析されていないこと、追跡期間が8週間から7年までばらばらで長期的な結論が出せないこと、含まれた研究数が少ないことを限界として挙げています1。脳内移植の試験は対照群のない単群で、公開された形で行われたため評価に偏りが入りうると著者ら自身が述べています2。第II相試験も1群16人と小規模です3。
まだ分かっていないこと
どの細胞を、どの経路で、どのくらいの量、いつ投与するのが最も良いのかは定まっていません1。誰に向いているのかも未確立です。脳内移植の試験では、腕がまったく動かない方には変化がみられませんでした2が、これが一般化できるかは分かりません。何年先まで続くのかも確かめられていません1。また、点数の変化が、着替えや食事、外出といった生活の実感につながるのかという点も十分に検証されていません。加えて、報告されている試験の多くは特定の国や地域に偏っており、日本の方に同じように当てはまるかは別の問題です。研究全体としては一定の方向性がありますが、対象となった方の状態や介入の内容が研究ごとに大きく異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
SECTION 04
何が期待でき、何ははっきりしないか
現時点で比較的言えることを挙げます。まず、安全性の面では、死亡率に群間の差は示されておらず、報告された有害事象の多くは軽いものでした1。ただし手術を伴う方法では、手術そのものに関連した重い有害事象が報告されています2。次に、複数の試験で神経症状の点数や生活動作の点数に良い方向の差が報告されており、方向性としては一貫しています1,3。研究が着実に進んでいる領域であることは確かです。
一方ではっきりしないことのほうが、まだ多い状況です。盲検化の弱さを考えると、報告されている差がそのまま実力を表しているとは限りません1。腕がほとんど動かない状態の方にどこまで期待できるのかは、むしろ否定的な結果が出ています2。そして「これを受ければリハビリは不要になる」という結果は、どの研究にもありません。第II相試験では全員が30回のリハビリを受けたうえでの比較です3。同じ構図はパーキンソン病の領域でも議論されており、再生医療と運動の関係について解説した記事で扱っています。
SECTION 05
自由診療で検討するときに確認したいこと
日本では、脳卒中に対する幹細胞治療の一部が自由診療として提供されています。高額であることが多く、判断は簡単ではありません。私は受けるべき・受けないべきを申し上げる立場にありませんが、ご家族から相談された際にお伝えしている確認事項を挙げておきます。
説明を聞くときの確認ポイント
1. どの細胞を、どの経路で、何回投与するのか。研究で報告されているものと同じ枠組みか。
2. 根拠として示される論文が、自分と同じような状態の方を対象にしたものか。動物実験や単群の報告ではないか。
3. うまくいかなかった場合の説明があるか。良い結果だけが示されていないか。
4. 総額はいくらか。追加費用が生じる条件は何か。
5. 実施後のリハビリをどうするか。投与だけで終わる計画になっていないか。
6. 現在の主治医に相談し、意見を聞いたか。
7. 有害事象が起きた場合、どこで対応してもらえるのか。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと
Journey Rehabは再生医療を提供していませんし、特定の医療機関を推奨することもしません。この記事は、判断の材料として研究の内容をお伝えするためのものです。研究で報告された数値は、その研究に参加した方々の平均的な変化であり、個人がどうなるかを示すものではありません。ご家族が「何かしてあげたい」という気持ちから急いで決断されることがありますが、高額な負担が生活を圧迫すると、その後の通院やリハビリを続けることが難しくなる場合もあります。決める前に、必ず現在の主治医に相談してください。判断に迷う場合は、別の医師の意見を聞くことも選択肢です。
SECTION 06
リハビリとの関係をどう考えるか
研究の設計を見ていくと、一つの共通点が浮かびます。細胞を投与した群も、していない群も、リハビリを受けているという点です。第II相試験では全群が30回のリハビリを実施していました3。まとめた分析でも、比較の相手は通常のリハビリです1。つまり、これらの研究が調べているのは「リハビリの代わりになるか」ではなく「リハビリに上乗せしたときに差が出るか」です。この区別は、説明を聞くときに意外と見落とされます。
仮に細胞の投与によって回路が作り替わりやすい状態が生まれるとしても、その回路に何を覚えさせるかは、日々の練習と生活の中の使い方が決めることになります。動物の研究でも、投与だけでなく運動を組み合わせた条件で良い結果が報告される傾向があります。だとすれば、投与を検討するかどうかにかかわらず、今できる練習を続けておくことには意味があります。続ける期間の考え方については脳卒中後のリハビリを続ける期間について解説した記事もあわせてご覧ください。

費用や安全性、治療後の計画まで、契約前に書面で確認します。
SECTION 07
Journey Rehabでお手伝いできること
Journey Rehabでは再生医療は行っていません。できるのは、今の身体の状態と生活の様子を一緒に確認し、ご自宅でどのように動きを積み上げていくかを考えることです。新しい治療の情報をどう受け止めればよいか迷われている場合は、主治医に確認したほうがよい点を整理するお手伝いもしています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
これからのリハビリの進め方について、今の身体の状態を一緒に確認しながら考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨を目的とするものではありません。特定の治療法や医療機関を推奨するものでもありません。ここで紹介した研究は、対象となった方の状態、細胞の種類、投与方法がそれぞれ異なり、個々の方に同じ結果が生じることを示すものではありません。治療を検討される場合は、必ず主治医にご相談ください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。

執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
発症からかなり経っていますが、対象になりますか?
研究では、発症2週間以内から6か月以上経過した方まで幅広く含まれていました1。第II相試験は7日超24か月以内が条件です3。ただし、どの時期が最も適しているかは分かっていません。個別の判断は主治医にご相談ください。
手がまったく動かない状態でも意味はありますか?
脳内に移植した試験では、腕がまったく動かせなかった9人には変化がみられず、ある程度動きが残っていた方にのみ変化が観察されました2。この結果は一つの試験のものですが、期待の持ち方を考える材料になると思います。
危険はありますか?
まとめた分析では死亡率に群間の差はなく、有害事象の多くは発熱や注射部位の痛みでした1。ただし手術を伴う方法では手術に関連した重い有害事象が報告されており2、髄腔内への投与でも穿刺部位の痛みが多く報告されています3。方法によって負担が異なります。
受ければリハビリはやめてよいのですか?
そうした結果を示した研究は見当たりません。むしろ、研究では全員がリハビリを受けたうえで比較されています3。投与を検討する場合も、リハビリは並行して続けるものとお考えください。
保険は使えますか?
脳卒中に対する幹細胞治療の多くは、現時点で自由診療として提供されています。費用や条件は施設によって異なりますので、必ず事前に総額と内訳を確認してください。
どの細胞がいちばん良いのですか?
まとめた分析では細胞の種類ごとに順位が示されていますが、指標によって上位が入れ替わります1。細胞の種類と投与方法・量・時期が結びつけて分析されていないことも著者らが限界として挙げており、どれが最良かは定まっていません。
説明で「論文にあります」と言われたら?
その論文が動物実験なのか人の試験なのか、対照群があるのか、参加人数は何人か、対象者の状態は自分と近いかを確認してみてください。論文の存在そのものは、目の前の提案が自分に合っている根拠にはなりません。
REFERENCES
参考文献
1. Chang W, Ma X, Zhang H, Xu H, Liu S, et al. The efficacy and safety of stem cell therapy for ischemic stroke: a systematic review and network meta-analysis study. BMC Neurology. 2025;25:229. DOI:10.1186/s12883-025-04246-w. PMID:40450234. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40450234/
2. Muir KW, Bulters D, Willmot M, Sprigg N, Dixit A, et al. Intracerebral implantation of human neural stem cells and motor recovery after stroke: multicentre prospective single-arm study (PISCES-2). Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry. 2020;91(4):396-401. DOI:10.1136/jnnp-2019-322515. PMID:32041820. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32041820/
3. Nguyen LT, Nguyen TTN, Nguyen KT, Phung LN, Hoang VT, et al. Intrathecal versus intravenous umbilical cord mesenchymal stem cells for ischemic stroke sequelae. Stem Cells Translational Medicine. 2025;14(11). DOI:10.1093/stcltm/szaf063. PMID:41277536. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41277536/