
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
パーキンソン病のrTMS(反復経頭蓋磁気刺激)とは?動きの症状への研究と限界を正直に解説
「薬だけでなく、頭に磁気を当てる治療があると聞きました。パーキンソン病にも使えるのでしょうか」——外来やご自宅でのリハビリの場面で、こうしたご質問をいただくことが増えました。rTMS(反復経頭蓋磁気刺激)は、頭の外側からコイルを当てて脳の特定の場所に磁気の刺激を繰り返し送る方法です。手術のように頭を開ける必要がなく、うつ病の領域では日本でも保険診療として行われています。ではパーキンソン病ではどうなのか。結論から正直にお伝えすると、動きの症状の指標が良い方向に変わったという研究のまとめは複数ありますが、脳のどこを刺激するかで結果が大きく違い、研究の質にも幅があります1。この記事では、何がどこまで示されていて、何がまだ分かっていないのかを整理します。

rTMSは頭の外からコイルを当てて磁気刺激を行う方法です。
この記事の要点
・rTMSは、頭の外からコイルを当てて磁気の刺激を繰り返し送る方法です。刺激する場所と周波数によって、ねらいも結果も変わります1。
・28件の無作為化比較試験・1,628人をまとめたネットワークメタアナリシス(2024年)では、補足運動野への高頻度rTMSで、動きの症状の指標(UPDRS-III)の標準化平均差が−2.01(95%信頼区間−2.87〜−1.15)と報告されました1。
・同じ分析で、一次運動野への高頻度rTMSは−1.10(−1.55〜−0.65)、背外側前頭前野への高頻度rTMSは−0.70(−1.21〜−0.19)と、刺激部位によって差がありました1。
・すくみ足のある84人を対象とした無作為化比較試験(2025年)では、10日間の多部位刺激の後、すくみ足の質問票が4.65点低下し、効果は30日後まで保たれていました2。
・一方、この分析ではGRADEで「高い確実性」と評価された比較はひとつもなく、28件中15件が「懸念あり」のバイアスリスクでした1。日本ではパーキンソン病に対するrTMSは保険診療として一般化していません。
SECTION 01
rTMSとはどういう方法か
rTMSは、頭皮の上に8の字型のコイルを当てて、磁気の力で脳の表面近くに弱い電流を起こす方法です。針を刺したり、頭を開けたりはしません。この刺激を一定のリズムで繰り返すことで、その部分の神経の働きやすさが一時的に変わると考えられています。刺激を1秒あたり5回以上のペースで送るものを高頻度、1回程度のゆっくりしたものを低頻度と呼び、両者では脳に与える方向性が異なるとされています1。
パーキンソン病では、脳の奥にあるドパミンの働きが減ることで、動きが小さくなる、動き出しに時間がかかる、といった症状が出ます。rTMSは脳の深い場所そのものには直接届きませんが、表面にある運動に関わる領域を刺激することで、そこにつながる回路全体の働きに影響を与えることをねらっています。どの場所を刺激するかで結果が変わるのは、このためです。研究でよく用いられるのは、一次運動野、補足運動野、背外側前頭前野の3か所です1。
なお、この方法は脳卒中の領域でも研究が進んでいます。考え方の共通点も多いため、脳卒中後のrTMSについて解説した記事もあわせてご覧いただくと、全体像がつかみやすいと思います。
SECTION 02
研究で分かっていること
rTMSの研究は数が多く、一つひとつの試験は小規模です。そのため、複数の試験をまとめた分析を見るのが現実的です。ここでは、刺激部位ごとに順位づけまで行った分析と、すくみ足に絞った近年の試験を紹介します。
刺激部位ごとに比べたネットワークメタアナリシス(2024年)
18歳以上のパーキンソン病の方を対象に、rTMS・間欠的シータバースト刺激・経頭蓋直流電気刺激を偽の刺激と比べた無作為化比較試験28件、合計1,628人(刺激を受けた方966人、対照662人)をまとめた分析です。各試験の参加人数は7人から54人と小規模でした。動きの症状の指標(UPDRS-III)では、補足運動野への高頻度rTMSが標準化平均差−2.01(95%信頼区間−2.87〜−1.15、順位づけの指標SUCRA 95.1%)で最も大きく、次いで一次運動野と背外側前頭前野を同時に刺激する方法が−1.80(−2.90〜−0.70)、一次運動野への高頻度rTMSが−1.10(−1.55〜−0.65)でした。低頻度の一次運動野刺激も−0.72(−1.17〜−0.28)と、偽の刺激より良い方向の差が示されています。気分の落ち込みの指標では一次運動野への高頻度rTMSが−1.43(−2.26〜−0.61)、認知の指標では背外側前頭前野への高頻度rTMSが0.80(0.03〜1.56)で、いずれもこの1つだけが偽刺激より明らかに良い方向を示しました1。
すくみ足に絞った無作為化比較試験(2025年)
中国で行われた、すくみ足のある45〜80歳のパーキンソン病の方84人を4つのグループに分けた試験です。ホーン・ヤールの重症度2〜4、認知の検査(MMSE)24点以上、薬の内容が2週間以上変わっていない方が対象でした。介入は10Hzの刺激を1日1回、10日間連続で行うもので、両側の一次運動野と補足運動野の両方を刺激する群、それぞれ片方だけの群、偽の刺激の群に分かれています。1回あたり1,200発、各部位20分、強度は安静時運動閾値の100%でした。すくみ足の質問票(FOG-Q)の変化は、両方を刺激した群で治療直後に3.00点、30日後に4.65点の低下、一次運動野のみで3.10点、補足運動野のみで2.20点の低下、偽刺激の群では明らかな変化がありませんでした。動きの症状の指標(UPDRS-III)も両方刺激した群で30日後に12.30点低下しています。重い有害事象はなく、頭痛2名、めまい・吐き気2名、耳鳴り1名が報告され、いずれも数時間で自然におさまりました2。
補足運動野に注目した別の分析(2025年)
補足運動野への非侵襲的な脳刺激だけを取り出した系統的レビュー・メタアナリシスもあります。20件の無作為化比較試験・442人をまとめたもので、動きの症状の指標(UPDRS-III)の平均差は−3.45(95%信頼区間−5.65〜−1.26)でした。ただし内訳を見ると、磁気刺激では−3.62(−6.15〜−1.08)と差が示された一方、電気刺激では−2.47(−5.03〜0.08)で明らかな差にはなっていません。また、薬が効いている時間帯に刺激した場合にのみ差がみられたこと、すくみ足の質問票では差があったものの、立ち上がって歩く検査(TUG)や歩く速さでは差がなかったことも報告されています3。この文献は公開されている要旨をもとに紹介しており、ここでは補助的な情報として扱っています。

刺激後の変化は、歩行や生活動作を含めて慎重に確認する必要があります。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
数値だけを見ると心強く映りますが、質の評価はかなり慎重です。28件をまとめた分析では、バイアスのリスクが低いと判定されたのは12件(42.9%)にとどまり、15件(53.6%)が「懸念あり」、1件が「高リスク」でした。ランダムな割り付けの方法や、誰がどちらの群かを隠す手順がはっきり書かれていない研究が多く、半数以上で評価者の盲検化が行われていませんでした。エビデンスの確実性をGRADEで評価した結果、「高い」と判定された比較はひとつもなく、中等度が6、低いが12、非常に低いが1でした。さらに、含まれた論文は英語と中国語に限られており、参加者の年齢・罹病期間・重症度が研究ごとに異なることが結果のばらつきを大きくしたと著者ら自身が述べています1。すくみ足の試験も、参加者84人と小規模で、薬が効いている状態で実施されたため、薬の作用と刺激の作用を厳密に分けられないことが限界として挙げられています2。
まだ分かっていないこと
まず、どのくらい長く続くのかが分かっていません。すくみ足の試験で追跡できたのは30日後までで、それ以降にどうなるかは確かめられていません2。次に、最適な刺激の設定が定まっていません。周波数、強度、1回の発数、何日間行うか、どのくらいの間隔で繰り返すかは研究ごとにばらばらです1。誰に向いているのかも未確立です。すくみ足には薬が効くタイプと効きにくいタイプがあるとされていますが、この分類を行った上で効果を比べた研究はまだありません2。また、動きの症状の指標が変わることと、着替えや調理といった生活動作が実際にしやすくなることが結びつくのかは、十分に検証されていません。日本で一般的に受けられるのかという問題もあります。研究全体としては一定の傾向がありますが、対象者の条件や刺激の方法が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
SECTION 04
何が期待でき、何ははっきりしないか
整理します。研究のまとめで比較的一貫して良い方向の差が示されているのは、診察で使われる動きの症状の点数です1。すくみ足についても、複数の部位を組み合わせて刺激した試験で質問票の点数が下がり、30日後まで保たれていました2。気分の落ち込みについても、一次運動野への高頻度刺激で差が報告されています1。安全性の面では、報告された有害事象は頭痛やめまい程度で、重いものはありませんでした2。
一方ではっきりしないことも多くあります。立ち上がって歩く検査や歩く速さでは差が示されていません3。数か月から年単位でどうなるかは、どの研究も追えていません1,2。そして最も大事な点として、rTMSは薬や運動の代わりになるものではありません。すくみ足の試験でも、参加者は全員それまでの薬を続けたうえで刺激を受けています2。運動そのものの位置づけについてはパーキンソン病の有酸素運動について解説した記事で扱っていますので、あわせてご覧ください。
SECTION 05
どんな人が研究の対象になっていたか
研究の参加条件を見ておくことは、自分に当てはまるかを考える手がかりになります。すくみ足の試験では、45〜80歳、ホーン・ヤールの重症度2〜4、認知の検査(MMSE)が24点以上、薬の内容が2週間以上安定していることが条件でした。逆に、パーキンソン病に似た別の病気が疑われる方、磁気刺激を受けてはいけない条件のある方、過去に同種の刺激を受けたことがある方は除外されています2。刺激を受けてはいけない条件には、体内に金属や電子機器が入っている場合、てんかんの既往がある場合などが含まれます。これらは必ず医師の判断が必要です。
また、どの研究も診察での重症度の点数を主なものさしにしています。ご自身の状態がどの段階にあるかを把握しておくと、医師との話し合いがしやすくなります。評価のしくみについてはパーキンソン病のリハビリで用いる評価指標について解説した記事で紹介しています。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと
rTMSは医療機関で医師の管理のもとに行われるものであり、リハビリの事業者が実施するものではありません。Journey Rehabでも実施していません。また、日本ではパーキンソン病に対するrTMSは、うつ病のように広く保険診療で行われている状況にはありません。実施している施設や、研究として参加できる枠組みがあるかどうかは、必ず主治医にご確認ください。自費で提供されている場合、費用や実施回数、期待できることの説明が施設によって大きく異なります。「これで薬を減らせる」といった説明を受けた場合は、その根拠を主治医に確認することをおすすめします。ここで紹介した研究結果は、すべての方に同じ結果を保証するものではありません。
SECTION 06
回数・期間の目安と日本での状況
研究で用いられた設定を紹介します。28件をまとめた分析では、一次運動野への刺激は5〜25Hz、強度は安静時運動閾値の80〜120%で、10日間から4週間の範囲でした。補足運動野への刺激では10Hz、強度90〜110%、週5日を8週間という設定も含まれています1。すくみ足の試験は10Hz、強度100%、1日1,200発、10日間連続でした2。おおまかに言えば、平日に毎日通って2週間前後というのが一つの型です。通院の負担は小さくありません。
日本の状況についても触れておきます。rTMSは装置としては国内で承認されていますが、パーキンソン病に対する使用は、うつ病に対する治療とは扱いが異なります。受けられるかどうか、費用がどうなるかは、施設や時期によって変わります。関心がある場合は、まず主治医に「自分の状態でこの方法を検討する余地があるか」を尋ねるのが現実的な第一歩です。そのうえで、日々の運動をどう続けるかという土台は変わりません。頻度や続け方についてはパーキンソン病のリハビリの頻度について解説した記事もご覧ください。

新しい治療を検討するときは、期待できる点と不明な点を主治医や専門職と整理します。
SECTION 07
Journey Rehabでお手伝いできること
Journey RehabではrTMSは行っていません。できるのは、今の動きや生活の状況を一緒に確認し、ご自宅でどのように身体を動かしていくかを考えることです。新しい方法に関心をお持ちの方から情報の受け止め方についてご相談いただくこともあります。その際は、主治医に確認したほうがよい点を整理するお手伝いをしています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
日々の動きにくさや生活動作について、今の身体の状態を一緒に確認しながら考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨を目的とするものではありません。rTMSは医師の管理のもとで行われる医療行為であり、実施の可否は個々の状態によって異なります。体内に金属や電子機器がある方、てんかんの既往がある方などは受けられない場合があります。薬の内容や量の変更は、必ず主治医の指示に従ってください。ここで紹介した研究の多くは日本以外で行われたもので、対象となった方の条件も限られています。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。

執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
痛みはありますか?
研究で報告された有害事象は、頭痛、めまい、吐き気、耳鳴りといった軽いもので、いずれも数時間でおさまったとされています2。刺激中はコイルの音と、頭皮がトントンと叩かれるような感覚があります。感じ方には個人差がありますので、受ける前に施設で確認してください。
薬を減らすことはできますか?
研究では、参加者は全員それまでの薬を続けた状態で刺激を受けています2。薬の代わりになるという検証はされていません。薬の量や種類の変更は、必ず主治医の判断によります。
何回くらい受けるものですか?
研究では10日間連続というものから、週5日を8週間続けるものまで幅があります1,2。最適な回数は定まっていません。通院の負担も含めて、実施している施設に具体的な計画を確認してください。
どのくらい持続しますか?
すくみ足の試験では、刺激終了から30日後の時点でも変化が保たれていました2。それより先については、確かめた研究が見当たりません。長期的にどうなるかは分かっていないとお考えください。
受けられない人はいますか?
体内に金属や電子機器がある方、てんかんの既往がある方などは受けられない場合があります。研究でも、こうした条件のある方は除外されていました2。判断は必ず医師が行います。
リハビリの代わりになりますか?
研究は、通常の治療に上乗せする形で行われています。運動や日常生活での取り組みをやめてよいという意味ではありません。刺激を受ける場合も、日々の身体の動かし方は続けていくものとお考えください。
どこを刺激するかで違いますか?
はい。28件をまとめた分析では、補足運動野への高頻度刺激が動きの症状の指標で最も大きな差を示し、部位によって数値がかなり異なりました1。ただし、これらは間接的な比較を含む順位づけであり、確定した結論ではありません。
REFERENCES
参考文献
1. Wang Y, Ding Y, Guo C. Assessment of noninvasive brain stimulation interventions in Parkinson's disease: a systematic review and network meta-analysis. Scientific Reports. 2024;14:13920. DOI:10.1038/s41598-024-64196-0. PMID:38902308. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38902308/
2. Zhang Z, Liu D, Song W, Li J, Wang X, et al. Multi-Target Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation Improves Freezing of Gait in Parkinson's Disease: A Randomized Controlled Trial. CNS Neuroscience & Therapeutics. 2025;31(8):e70582. DOI:10.1111/cns.70582. PMID:40847522. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40847522/
3. Chen Y, Jiang H, Wei Y, Ye S, Jiang J, et al. Effects of non-invasive brain stimulation over the supplementary motor area on motor function in Parkinson's disease: A systematic review and meta-analysis. Brain Stimulation. 2025;18(1):1-12. DOI:10.1016/j.brs.2024.12.005. PMID:39667490. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39667490/