
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後の作業療法(OT)とは?日常生活動作への研究と限界を正直に解説
「作業療法士(OT)は理学療法士(PT)と何が違うのか」「脳卒中のあと、作業療法で日常生活はどこまで変わるのか」。ご本人やご家族から、よく聞かれる質問です。作業療法は、食事・トイレ・着替え・入浴・家事といった「毎日の生活動作(ADL)」ができるようになることを目標に、練習・道具の工夫・環境調整・やり方の工夫を組み合わせて支援するリハビリの一分野です。
結論から正直にお伝えします。脳卒中後の作業療法については、ランダム化比較試験をまとめたコクランレビューがあり、生活動作の遂行に小さな良い差がみられ、生活動作が悪化する人が少ない可能性が報告されています。ただし研究の質は「低い」と評価されており、気分や生存率には差が出ていません。この記事では、システマティックレビュー・メタアナリシスと診療ガイドラインをもとに、分かっていることと限界を整理します。
作業療法(OT)とは何をする専門職か
作業療法士(Occupational Therapist、OT)は、国家資格をもつリハビリの専門職です。脳卒中後の作業療法の目標は、生活のなかで行う具体的な活動(作業)ができるようになることに置かれます。コクランレビューでは、作業療法士が使う方法として、評価、治療(練習)、やり方を変える工夫(代償手段)、自助具などの支援機器、住環境の調整が挙げられています1。
・身の回りの生活動作(ADL):食事、トイレ、整容、更衣、入浴、移動
・手段的な生活動作(IADL):調理、掃除、洗濯、買い物、金銭・服薬の管理、交通機関の利用
・手・腕の使いやすさと、両手を使う動作
・注意・記憶・段取りなどの高次脳機能が生活動作に及ぼす影響
・道具の工夫(自助具)、手すりや配置換えなどの環境調整、家族への関わり方の助言
理学療法(PT)は歩行・立ち座り・バランス・体力など「動きの土台」を主に扱い、作業療法は「その動きを生活の場面でどう使うか」に重心があります。実際には重なり合う部分も多く、二つの職種は連携して進めます。家事の再獲得については脳卒中後の家事動作(IADL)の再獲得について解説した記事でも扱っています。

研究では脳卒中後の作業療法に効果があるとされているか
生活動作を対象にした作業療法を、無介入または通常ケアと比べたランダム化比較試験9件(994人)のレビューです。作業療法を受けた群は、生活動作の遂行スコアが高く(標準化平均差0.17、95%信頼区間0.03〜0.31)、「死亡・悪化・依存」という好ましくない結果になるリスクが低く(オッズ比0.71、95%信頼区間0.52〜0.96)、拡大した生活動作でも自立度が高い傾向でした。一方で、死亡率(オッズ比1.02)や気分・気持ちのつらさのスコアには差がありませんでした。エビデンスの質はGRADEで「低い」と評価されています1。
地域で生活する脳卒中の方への作業療法をまとめ、参加者ひとりずつのデータを解析した研究です。作業療法を受けた群は、拡大した生活動作(ノッティンガム拡大ADL)のスコアが高く(加重平均差1.30点、95%信頼区間0.47〜2.13)、余暇活動のスコアも高い結果でした。とくに「生活動作に焦点を当てた作業療法」で生活動作の指標が良くなり、「余暇に焦点を当てた作業療法」で余暇の指標が良くなる、という対応が見られました。ねらいを絞った介入のほうが結果が良い、とまとめられています2。
退院後または発症後1年以内に地域で暮らす脳卒中の方に、理学療法・作業療法・多職種チームによる訪問・外来のリハビリを行った14試験(1617人)のレビューです。生活動作が悪化するリスクが下がり(オッズ比0.72、95%信頼区間0.57〜0.92)、身の回りの生活動作の遂行がわずかに良くなりました(標準化平均差0.14)。地域で暮らす脳卒中の方100人がこのサービスを受けると、7人(95%信頼区間2〜11人)が悪化をまぬがれる計算になる、と示されています3,4。
軽症の脳卒中の方66人を対象に、認知と行動の工夫を練習する作業療法プログラム(FaCoT)を通常ケアと比べたランダム化比較試験では、本人が選んだ生活課題の遂行と満足度(COPM)、生活への再適応の指標が、通常ケアより良くなりました5。また、亜急性期の脳卒中の方103人を対象に、生活で意味のある課題を反復練習するプログラム(MTST)を用量をそろえた通常訓練と比べた試験では、上肢機能や日常での手の使用の指標が良くなりました6。いずれも単一施設の比較的小さな研究です。
脳卒中後の認知機能の問題に対する作業療法をまとめたコクランレビュー(2022年)では、生活動作の自立や持続的な効果について、質の高い十分な証拠は見つかっていません7。注意や記憶の問題が生活動作にどう影響するかを評価し、やり方の工夫や環境調整でつなぐ関わりは行われていますが、「認知訓練そのもので生活動作が良くなる」とは言い切れない段階です。
これらをまとめると、「生活動作に焦点を当てた作業療法では、生活動作の遂行に小さな良い差がみられ、悪化する人が少ない可能性がある。ねらいを絞った介入は、その対象となる活動の結果と結びつきやすい。一方で、気分や生存率を変えるとは示されておらず、研究の質には限界がある」というのが現時点の姿です。診療ガイドライン(カナダの脳卒中ベストプラクティス)でも、退院前後の移行期には本人・家族への教育と技能練習、生活動作の再適応支援が推奨されていますが、この領域の推奨の多くは合意にもとづくもので、ランダム化比較試験は限られると明記されています8。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
つまり、「作業療法を受ければ必ず生活動作が自立する」と言い切れる段階ではありません。研究で示されている方向性(生活動作そのものを、その人の生活場面で、ねらいを絞って練習する。道具や環境の工夫を併せる)を踏まえつつ、評価に沿って内容を選び、できる動作の変化と本人の負担を見ながら調整していく進め方が現実的です。目標の立て方については脳卒中後の目標設定の進め方について解説した記事も参考になります。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
・生活動作(ADL)の遂行スコア(中程度以下の差)1
・生活動作が悪化して依存が進むリスクの低下1,3,4
・拡大した生活動作・手段的生活動作、余暇活動(とくにその活動をねらった介入で)2
・本人が選んだ生活課題の遂行と満足度5
・気分の落ち込みや気持ちのつらさのスコア1
・死亡率、施設入所の割合1
・認知訓練そのものによる生活動作の自立7
・効果がどのくらいの期間持続するか、生活の質への波及1,8
どんな人に向いているか・注意が必要な人
・食事・トイレ・更衣・入浴・家事など、具体的に「やりにくい」と感じる生活動作がある方
・退院前後で、家庭や地域での生活に切り替わる時期の方
・道具の工夫や手順の変更を試しながら練習する意欲がある方
・家族が関わり方を知りたい、環境を整えたいと考えている場合
・立ち座りや移乗が不安定で転倒リスクが高い時期は、環境調整と介助方法の確認を先に行います
・強い痛み、肩の亜脱臼、痙縮(つっぱり)がある場合は、無理な反復を避け、負担の少ない範囲から始めます
・重い注意・記憶の障害、半側空間無視、疲れやすさがある場合は、短い時間・少ない課題に区切ります
・気分の落ち込みや意欲の低下が続くときは、主治医への相談を優先します
進め方は主治医・リハビリ専門職と相談し、家庭での自主トレの内容も一緒に決めてください。
頻度・期間・自主トレの位置づけ
研究では、作業療法の「最適な1回の時間・週あたりの回数・続ける期間」は定まっていません1。中心となるレビューに含まれた研究は、内容も量もさまざまでした。地域での作業療法のメタアナリシスからは、「ねらいを絞る」「本人が取り組みたい活動を選ぶ」ことが結果と結びつくと示されています2。
・作業療法士と決めた「その人の生活場面の課題」を、家でも短時間こまめに練習する
・自助具や手すり、物の配置換えなど、環境の工夫は使いながら調整する
・できた・できなかった、時間や介助量を記録し、次の面談で内容を見直す
・自主トレだけで完結させず、定期的に評価を受けて目標を更新する2
数週間ごとに、対象の生活動作の遂行、介助量、本人の負担感を確認し、目標や量を見直します。住まいの工夫については脳卒中後の住宅改修と環境調整について解説した記事で詳しく扱っています。

個別支援で確認する視点
当施設のような作業療法士による訪問リハビリでは、実際の生活の場でその人の困りごとを一緒に整理することが中心になります。具体的には、朝の身支度や食事、トイレ、入浴、調理・洗濯などのうち、どの動作のどの部分でつまずくかを場面ごとに確認し、手順の変更・自助具・手すりや配置換えを試しながら、家族の関わり方も一緒に決めます。研究で示されている方向性を参考に「ねらいを絞る」「本人が取り組みたい活動を選ぶ」ことを重視し、対象の動作の遂行・介助量・本人の負担を数週間単位で見直します。痛み・痙縮・気分の変化など医療的な確認が必要な点は、主治医・リハビリ専門職と連携して対応します。

本記事は一般的な医療情報の提供を目的としたもので、個別の診断や治療、リハビリテーションを代替するものではありません。生活動作のやりにくさは脳卒中以外の原因でも起こります。リハビリの内容や進め方は、担当の医師・リハビリ専門職に相談して決めてください。掲載した研究データは執筆時点のもので、今後の研究によって解釈が変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
よくある質問
参考文献
2. Walker MF, et al. Individual patient data meta-analysis of randomized controlled trials of community occupational therapy for stroke patients. Stroke. 2004. PMID: 15272129.
3. Outpatient Service Trialists. Therapy-based rehabilitation services for stroke patients at home. Cochrane Database Syst Rev. 2003. PMID: 12535444. PMCID: PMC6464951.
4. Legg L, et al. Rehabilitation therapy services for stroke patients living at home: systematic review of randomised trials. Lancet. 2004. PMID: 15070563.
5. Adamit T, et al. Effectiveness of the Functional and Cognitive Occupational Therapy (FaCoT) Intervention for Improving Daily Functioning and Participation of Individuals with Mild Stroke: A Randomized Controlled Trial. Int J Environ Res Public Health. 2021. PMID: 34360299. PMCID: PMC8345490.
6. Arya KN, et al. Meaningful task-specific training (MTST) for stroke rehabilitation: a randomized controlled trial. Top Stroke Rehabil. 2012. PMID: 22668675.
7. Gibson E, et al. Occupational therapy for cognitive impairment in stroke patients. Cochrane Database Syst Rev. 2022. PMID: 35349186. PMCID: PMC8962963.
8. Cameron JI, et al. Canadian Stroke Best Practice Recommendations: Managing transitions of care following Stroke, Guidelines Update 2016. Int J Stroke. 2016. PMID: 27443991.
