
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「リハビリの目標が、いつの間にか専門職に決められている気がする」「本当は自分がやりたいことを目標にしたいのに、うまく伝えられない」——これは脳卒中の後、ご本人やご家族から聞かれる声です。リハビリでは「目標設定」がとても大切だとされていますが、その目標を誰がどう決めるかで、取り組みへの気持ちは大きく変わります。本人と専門職が一緒に決める「協働的な目標設定(患者中心の目標設定)」という考え方が注目されているのはそのためです。この記事では、リハビリの目標設定について研究で分かっていること、期待できる点とまだ不確かな点を、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。

・リハビリ全体をまとめた研究では、目標設定は身体面より、生活の質・気持ち・自信といった心理社会的な面に良い影響が出やすいとされています1。
・ただし、その根拠の確実性は「非常に低い」ものが多く、今後の研究で結果が変わる可能性が高いとされています1。
・脳卒中に絞った研究では、本人がどこまで目標づくりに関われているかが不明確なことが多いと指摘されています2,3。
・「本人の希望を反映した目標」を、無理なく達成できる小さなステップに分けて進めることが現実的です2。
リハビリの「目標設定」とは、「これからどこを目指してリハビリを進めるか」を決めることです。目標は、歩けるようになりたい、トイレを自分でできるようになりたい、仕事に戻りたい、といった生活に根ざしたものから、関節の動きや筋力といった身体の指標まで、さまざまな水準で立てられます。目標がはっきりしていると、本人も専門職も「今、何のために取り組んでいるのか」を共有しやすくなります。
近年重視されているのが「協働的な目標設定(患者中心の目標設定)」です。これは、専門職が一方的に目標を決めるのではなく、本人の希望や価値観を中心にすえ、本人・家族・専門職が一緒に目標をつくっていく考え方です1,3。たとえば「仕事に戻りたい」「また運転したい」といった、その人にとって意味のある目標を出発点にすることができます。こうした具体的な目標については、脳卒中後の復職・職場復帰について解説した記事や脳卒中後の運転再開について解説した記事もあわせて参考になります。
結論から正直にお伝えすると、目標設定は「身体そのものを変える」というより、「気持ちや自信、生活の質を支える」面で役立つ可能性が示されています。ただし、その根拠はまだ弱く、確実なことは言えない段階です。以下に、リハビリ全体をまとめた解析と、脳卒中に絞った研究を紹介します。
脳卒中に絞った研究のまとめでは、目標設定が回復や取り組みへの前向きさに良い影響を与えるようだと報告される一方、質の高い試験(RCT)が見当たらず、研究の質やばらつきのため確かな結論は出せないとされています2。また、実際には本人がどこまで目標づくりに関われているかが不明確で、専門職は「一緒に決めた」と感じていても、本人はそう感じていないことがある、という指摘もあります2,3。
研究の結果を整理すると、目標設定で変わりやすいのは、生活の質・気持ち・自己効力感といった心理社会的な面です1。反対に、麻痺や筋力、日常生活動作といった身体面を、目標設定そのもので大きく動かせるかは、まだはっきりしていません1,3。つまり、目標設定は「本人がリハビリに前向きに取り組むための土台」として役立つ可能性がある一方で、それ自体が身体を変える治療というわけではない、と考えるのが正直なところです。
また、目標づくりでは、本人と専門職の認識のずれが起きやすいことも知られています2。専門職が良かれと思って立てた目標が、本人の本当の希望とずれていると、取り組みへの気持ちが続きにくくなります。だからこそ、家族も交えて希望を言葉にし、目標を一緒に確認していくことが大切です。家族の関わり方については、脳卒中後の家族・介護者支援について解説した記事もあわせて参考になります。
「リハビリの目標が自分ごとに感じられない」「本当はやりたいことがあるのに伝えられていない」という方は、協働的な目標設定が、取り組みへの気持ちを支える助けになる可能性があります。自分の希望や大切にしたいことを言葉にし、それを出発点に目標を組み立てていくことで、日々のリハビリの意味が感じられやすくなります。うまく言葉にできないときは、家族や専門職が引き出す手伝いをすることもできます。
研究では、目標設定のやり方は決まった一つの正解があるわけではありません1,2。ただ、共通して大切だとされるのは、本人の希望を出発点にすること、そして大きな目標を「今週できそうなこと」まで小さく分けることです。たとえば「また買い物に行きたい」という希望なら、「玄関まで安全に歩く」「近所を5分歩く」といった段階に分け、達成を一緒に確認していくと、前向きさが続きやすくなります。
また、目標は一度立てて終わりにせず、定期的に振り返り、状態や気持ちの変化に合わせて見直すことが大切です。本人・家族・専門職の間で認識のずれが起きやすいので、「今の目標は自分の希望と合っているか」を折にふれて確認するとよいでしょう。目標づくりで迷うときは、担当のリハビリ専門職と一緒に整理していくのが安心です。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Sugavanam T, Mead G, Bulley C, Donaghy M, van Wijck F. The effects and experiences of goal setting in stroke rehabilitation - a systematic review. Disabil Rehabil. 2013;35(3):177-190. DOI:10.3109/09638288.2012.690501. PMID:22671934.
3. Rosewilliam S, Roskell CA, Pandyan AD. A systematic review and synthesis of the quantitative and qualitative evidence behind patient-centred goal setting in stroke rehabilitation. Clin Rehabil. 2011;25(6):501-514. DOI:10.1177/0269215510394467. PMID:21441308.
