
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後の発話失行(発語失行)とは?言葉が出にくい・詰まる症状のリハビリ研究と限界を正直に解説
「言いたい言葉ははっきり分かっているのに、口がうまく動かない」「話し出すときに詰まって、何度も言い直してしまう」。脳卒中のあとに、こうした話しにくさが出ることがあります。そのひとつが発話失行(はつわしっこう)です。発語失行、アプラキシア オブ スピーチ(apraxia of speech)とも呼ばれます。
結論から正直にお伝えします。発話失行のリハビリは、言語聴覚士(ST)が中心となって行う分野で、話す動作を繰り返し練習するアプローチなどが用いられています。ただし、質の高い大規模な研究はまだ少なく、2005年のコクランレビューの時点では条件を満たすランダム化比較試験が1件も見つかりませんでした。その後、小規模な研究や少人数のランダム化比較試験がいくつか行われ、「練習した言葉の言いやすさ」は良くなりやすいものの、練習していない言葉への広がりは限られる、という傾向が報告されています。この記事では、システマティックレビューと近年の研究をもとに、分かっていることと限界を整理します。
発話失行とは(構音障害・失語症との違い)
発話失行は、話すために必要な「口・舌・のどの動きの組み立て(プログラミング)」がうまくいかなくなる状態です。筋肉そのものが弱っているわけではなく、言葉が分からないわけでもありません。「動きの段取り」の部分でつまずきます。
・話し出すときに口が探るように動く(模索行動)
・同じ言葉でも、言えるときと言えないときがある(誤りが一定しない)
・音の置き換えや途切れが、単語が長くなるほど増える
・話すのにとても努力がいる、リズムや抑揚が平板になる
構音障害は、口や舌の筋肉の力・動きそのものが弱くなって「ろれつが回らない」状態です。誤り方が比較的一定しています。詳しくは脳卒中後の構音障害について解説した記事をご覧ください。
失語症は「言葉そのもの(意味・文法・言葉を思い出す力)」の障害です。発話失行は言葉は分かっていて、音を出す動作の組み立てでつまずきます。ただし、発話失行は失語症と一緒に起こることが多く、はっきり分けにくい場合もあります1。
どのタイプなのか、どれくらい混ざっているのかを見分けるのは言語聴覚士の評価が中心になります。まずはリハビリ科の受診と言語聴覚士による評価が出発点です。

どんな訓練が研究されてきたか
目標の音や単語を、お手本を聞く・口の形を見る・触覚で手がかりを出す、といった方法で何度も産生します。代表的なものに「サウンド・プロダクション・トリートメント(SPT)」があります3。
ゆっくり話す、指で拍子を取る、メトロノームに合わせるなど、テンポやリズムの手がかりを使って音の組み立てを助けます2。メロディーや抑揚を使う方法については脳卒中後のメロディックイントネーション療法(MIT)について解説した記事で扱っています。
あいさつや買い物など、生活でよく使うやりとりを台本にして繰り返し練習し、その場面での話しやすさをねらいます。
お手本の動画を見ながら自分で繰り返し練習できるソフトを使い、練習量を増やす方法です4。
言語訓練に、頭皮からの弱い電気刺激(tDCS)や、口の動きの動画を見る動作観察を上乗せする研究があります5,6。
研究でわかっていること
脳卒中後の発話失行に対する(薬を使わない)介入について、「6か月後の実用的な発話」を主要な指標にしたランダム化比較試験を探したレビューです。条件を満たす試験は1件も見つかりませんでした。著者らは「ランダム化試験からは、発話失行に対する介入の有効性を支持することも否定することもできない。質の高いランダム化試験が必要」と結論づけています。発話失行の定義そのものに議論があること、失語症と一緒に起こりやすく研究設計が難しいことも背景として挙げられています1。
脳卒中後の失行(手足の失行と発話失行)に対する理学療法・言語療法をまとめた研究です。言語療法の分野では5研究・50人が対象になり、ランダム化比較試験の介入で目的の指標に統計的に有意な結果が得られていました。ただし、対象人数が少ないこと、効果が追跡期間まで保たれたかの確認が不足していること、再評価までの期間が短いことから、「どのアプローチが最も良いかを決めることはできない」とされています2。
発話失行と失語症のある慢性期の4人に、SPTを「集中的に行う/通常のペースで行う」「まとめて練習する/混ぜて練習する」の組み合わせで実施した研究です。全員で、訓練した単語(および一部の訓練していない単語)の発音の正確さが良くなりました。訓練の集中度や練習の並べ方による明らかな差は見られませんでした。少人数の予備的な段階の研究です3。
安定した慢性期の発話失行のある50人を、発話練習ソフトと、見せかけの視空間課題ソフトに割り付け、期間をずらして両方を体験してもらう試験です。最初の期間(ここはランダム化比較試験にあたります)では、発話練習を先に行ったグループだけで、呼称と復唱の成績が有意に良くなりました。良くなったのは主に練習した単語で、形の似た単語・似ていない単語への広がりはわずかでした。練習をやめたあとも成績はおおむね保たれ、練習量が多いほど良くなる関係が見られました。ただし、自主練習の平均量は両グループとも控えめでした4。
脳卒中後の失語症と重い発話失行のある52人を対象に、左の運動野への弱い電気刺激と言語訓練を組み合わせた研究では、見せかけの刺激より発話の成績が良くなったと報告されています5。また、発話失行のある42人で、口の動きの動画を見る動作観察を通常の言語訓練に上乗せしたグループが、上乗せしないグループより良くなったという報告もあります6。いずれも1施設・少人数の研究です。
これらをまとめると、「話す動作を繰り返し練習するアプローチは、練習した言葉の言いやすさを良くしやすい。ただし、研究の規模が小さく、練習していない言葉や日常会話全体への広がりは限られる。補助的な刺激や動作観察は少人数の研究で有望だが、まだ確かめる段階」というのが現時点の姿です。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
・訓練した音・単語の発音の正確さ3,4
・繰り返し練習した決まった場面のやりとりの言いやすさ
・練習量を増やせたときの成績(量が多いほど良くなる関係)4
・練習していない単語や自由な会話への広がり4
・失語症の部分(言葉を思い出す力、文の組み立て)
・どのアプローチが一番良いか、効果がどのくらい持続するか1,2
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
つまり、「この訓練をすれば話せるようになる」と言い切れる段階ではありません。研究で示されている方向性(言いたい言葉を、お手本や手がかりを使って十分な回数練習する。生活で使う場面を選ぶ)を踏まえつつ、言語聴覚士の評価に沿って内容を選び、話しやすさや意思疎通のとりやすさを見ながら調整していく進め方が現実的です。失語症のリハビリの量については脳卒中後の失語症のリハビリの量について解説した記事も参考になります。
どんな人に向いているか・注意が必要な人
・言葉の理解が比較的保たれ、目標の音・単語を意識して練習できる方
・お手本を聞く・口の形を見るといった手がかりを使える方
・生活でよく使うあいさつややりとりを、繰り返し練習する意欲がある方
・重い失語症が併存する場合は、言葉の理解や思い出す力への支援を優先することがあります
・注意や集中が続きにくい時期は、短い時間・少ない目標から始めます
・うまく言えないことが続くと落ち込みや意欲の低下につながりやすく、家族を含めた心理的な支えが大切です
・飲み込みにくさ(嚥下障害)を伴うことがあり、その場合はむせや食事の安全を先に確認します
進め方は言語聴覚士・主治医と相談し、家庭での自主練習の内容も一緒に決めてください。
訓練の量・頻度・自主練習の位置づけ
研究では、練習量が多いほど成績が良くなる関係が報告されています4。一方で、決まった「最適な回数・頻度」は定まっていません。少人数の研究では、集中的に行っても通常のペースで行っても結果に大きな差はなかった、という報告もあります3。
・言語聴覚士と決めた目標の音・単語・セリフを、家でも短時間こまめに練習する
・お手本の動画や音声、鏡を使い、口の形と音を確認しながら行う
・言えた・言えなかったを記録し、次の面談で内容を調整する
・自主練習だけで完結させず、定期的に言語聴覚士の評価を受ける4
数週間ごとに、練習した言葉の言いやすさ、日常でのやりとりのとりやすさ、本人の負担感を確認し、目標や量を見直します。

個別支援で確認する視点
発話失行の訓練そのものは言語聴覚士が担う領域です。当施設のような作業療法士による訪問リハビリでは、生活のなかでの意思疎通のとりやすさを支える役割が中心になります。具体的には、家族との会話やデイサービスでのやりとりで困る場面を一緒に整理し、言語聴覚士と決めた目標の音・セリフを生活動作の流れに組み込む、書字や指さし・絵カード・スマートフォンなど話す以外の伝え方を併用する、うまく言えないときの本人と家族の対応を決めておく、といった支援です。言語面の評価・訓練方針は言語聴覚士・主治医と連携し、飲み込みや意欲の変化があれば受診につなぎます。

本記事は一般的な医療情報の提供を目的としたもので、個別の診断や治療、言語聴覚療法を代替するものではありません。話しにくさは発話失行以外の原因でも起こります。発話失行が疑われる場合は、リハビリ科の受診と言語聴覚士による評価を受けてください。掲載した研究データは執筆時点のもので、今後の研究によって解釈が変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
よくある質問
参考文献
2. Galeoto G, et al. Evaluation of physiotherapy and speech therapy treatment in patients with apraxia: a systematic review and meta-analysis. Clin Ter. 2020. PMID: 32901792.
3. Wambaugh JL, et al. Treatment for acquired apraxia of speech: examination of treatment intensity and practice schedule. Am J Speech Lang Pathol. 2013. PMID: 23071199.
4. Varley R, et al. Self-Administered Computer Therapy for Apraxia of Speech: Two-Period Randomized Control Trial With Crossover. Stroke. 2016. PMID: 26797664.
5. Wang J, et al. Effects of Transcranial Direct Current Stimulation on Apraxia of Speech and Cortical Activation in Patients With Stroke: A Randomized Sham-Controlled Study. Am J Speech Lang Pathol. 2019. PMID: 31618056.
6. You L, et al. The Effectiveness of Action Observation Therapy Based on Mirror Neuron Theory in Chinese Patients with Apraxia of Speech after Stroke. Eur Neurol. 2019. PMID: 31661693.
