脳卒中後の高圧酸素療法(HBOT)とは?研究で分かっていること・分かっていないことを正直に解説

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後の高圧酸素療法(HBOT)とは
研究で分かっていること・分かっていないことを正直に解説

脳梗塞や脳出血のあと、「高気圧の部屋で酸素を吸う治療があるらしい」「保険のリハビリが終わったあとに受けている人がいると聞いた」というご相談をいただくことがあります。高圧酸素療法(HBOT:Hyperbaric Oxygen Therapy)は、通常より高い気圧の装置の中で高濃度の酸素を吸う方法です。

インターネットでは期待の大きい情報も見かけますが、脳卒中に対しては研究結果が一致していません。この記事では、コクランレビューを含む研究をもとに、どこまで分かっていて、どこからが分かっていないのかを整理します。判断の材料にしていただくことが目的で、受けることを勧める記事でも、やめるよう勧める記事でもありません。

初回公開日:2026年8月26日
最終更新日:2026年8月26日
最新レビュー日:2026年8月26日
最初に大切なこと

高圧酸素療法は、一酸化炭素中毒や減圧症など一部の病態では確立した医療として行われていますが、脳卒中に対しては位置づけが異なります。日本では脳卒中後の後遺症に対して一般的な保険診療として広く行われている治療ではなく、実施できる施設も限られます。検討したい場合は、必ず主治医に相談してください。この記事は特定の施設や治療を勧めるものではありません。

SECTION 01
高圧酸素療法(HBOT)とはどんな方法か

高圧酸素療法は、専用のチャンバー(装置)の中で気圧を通常より高くし、その状態で高濃度の酸素を吸う方法です。研究で使われている条件を見ると、気圧はおよそ1.5〜3.0気圧(多くは2.0気圧前後)、1回あたり60〜120分、これを1回だけ行うものから20回ほど繰り返すものまで、幅がありました1

狙いとしては、血液に溶け込む酸素の量を増やし、血流が乏しくなった脳組織に酸素を届けやすくすること、炎症やむくみを抑えることなどが想定されています。ただし、こうした体の中で起きるとされる変化と、実際に生活の中で「動きやすくなる」「話しやすくなる」といった変化が結びつくかどうかは、別に検証が必要です。

脳卒中の後に受けられる保険外の選択肢としては、幹細胞などを使う方法も話題になることがあります。こうした新しい方法をどう考えるかについては、脳卒中の再生医療について解説した記事でも整理しています。

高圧酸素療法の装置を前に専門職へ相談する脳卒中後の方
高圧酸素療法は、期待できる点だけでなく、研究の限界や通院負担も含めて相談することが大切です。
SECTION 02
急性期の脳梗塞に対する研究では何が分かっているか

最も参考になるのは、発症してまもない脳梗塞に対して行われたランダム化比較試験(参加者をくじ引きのように無作為に分けて比べる研究デザイン)をまとめたレビューです。

コクランレビュー 2014年
急性期の脳梗塞に対する高圧酸素療法
11件の試験・705名をまとめたレビューです。発症から3〜6か月の時点での死亡について、高圧酸素療法を追加した群と標準的な治療だけの群で差はみられませんでした(4試験・144名、リスク比0.97、95%信頼区間0.34〜2.75)1。生活動作や神経症状の指標については、14の測定のうち統計的な差がみられたのは4つにとどまり、しかも同じ尺度を2つ以上の試験が使っていなかったため、数値をまとめて計算することができませんでした1。著者らは「急性期に行った高圧酸素療法が臨床的な結果を良くするという確かな根拠はない」と結論づけたうえで、「臨床的な利益の可能性が否定されたわけでもない」と述べています1
システマティックレビュー・メタ分析 2024年
血栓溶解療法などを受けていない脳梗塞への追加治療として
8件のランダム化比較試験・493名(介入群239名、対照群254名)をまとめた解析です。神経症状の重症度をみるNIHSS(平均差 −1.41、95%信頼区間 −7.41〜4.58)、生活動作をみるバーセルインデックス(平均差 8.85、95%信頼区間 −5.84〜23.54)のいずれも、統計的に意味のある差にはなりませんでした2。修正ランキンスケールではわずかな差が報告されましたが、差の大きさは非常に小さく、生活の場面でどれだけ意味を持つのかは判断が難しい水準です2。一方で有害事象は多くならず、著者らは「臨床的な結果を明らかに良くする決定的な根拠は示せなかったが、安全性は再確認された」と述べています2

つまり、発症してまもない時期に高圧酸素療法を追加しても、死亡や生活動作の指標がはっきり良くなるとは示されていない、というのが現時点での到達点です。

SECTION 03
発症から時間が経った時期の研究

発症から数か月以上たった時期については、研究がさらに少なくなります。近年、認知面に注目した試験が報告されています。

ランダム化比較試験 2026年
高圧酸素療法とコンピュータを使った認知トレーニングの併用
初回の脳卒中から6か月以上たち、認知機能の低下(MMSE 10〜26点)がみられる115名を、①高圧酸素療法+通常治療、②認知トレーニング+通常治療、③両方の併用+通常治療、④通常治療のみ、の4群に分けた試験です。高圧酸素療法は0.18MPaで1回100分、週5回を4週間(計20回)行われました。MMSEの変化量は併用群が平均7.67点、高圧酸素療法のみが2.70点、認知トレーニングのみが0.28点、通常治療のみが0.19点で、併用群が他の群より大きく変化しました3。バーセルインデックスの変化量も併用群が平均13.83点と最も大きい結果でした3。ただし単一施設の研究で、追跡は4週間の介入終了時までしか行われていません3

この結果は「高圧酸素療法だけを行えばよい」ことを意味しません。認知トレーニングと組み合わせた群がいちばん大きく変化しており、実際に取り組む練習と切り離せない可能性を示しています。また、MMSEは認知機能の大まかなふるいわけに使う検査で、段取りや判断といった高度な働きを細かくとらえる力は限られる、と論文自身が限界として述べています3。認知面の変化については、脳卒中後の認知機能の変化について解説した記事もあわせてご覧ください。

このほか、脳卒中後の気分の落ち込みを対象にした偽刺激対照のランダム化比較試験(61名)で抑うつの指標に差がみられたという報告5や、慢性期の上肢麻痺に対して運動イメージ練習と併用した小規模な実行可能性試験(27名)で群間差は統計的に示されなかったという報告6もあります。いずれも人数が少なく、参考にとどめるべき段階です。気分の落ち込みそのものへの向き合い方は、脳卒中後のうつと運動療法について解説した記事で扱っています。

SECTION 04
エビデンスの質と限界

ここまで紹介した研究には、共通した弱点があります。読むときに知っておいていただきたい点を挙げます。

研究ごとに条件がばらばら
気圧が1.5気圧の研究もあれば3.0気圧の研究もあり、回数も1回から20回まで幅があります1。条件が違う研究をまとめても、「どの条件がよいのか」は分かりません。
1件あたりの人数が少ない
コクランレビューで数値をまとめて解析できたのは705名中361名にとどまり、死亡の解析に至っては4試験・144名でした1。人数が少ないと、本当は差があっても検出できないことがあります。
測る物差しがそろっていない
コクランレビューでは、生活動作や神経症状の尺度を2つ以上の試験が共通して使っていませんでした1。そのため研究どうしを足し合わせることができませんでした。
バイアスのリスクが高い
2024年のメタ分析では、8件のうち7件がバイアスのリスクが高いと評価されています2。参加者や実施者に割り付けを隠す(盲検化する)ことが難しいためです。

これらを踏まえると、現時点の研究は「効かないと確定した」とも「効くと確定した」とも言えず、判断するための材料そのものが足りていない状態だと理解するのが正確です。2005年に発表された初期のレビューでも、著者らは「どの患者層についても有効性を判断するには根拠が不十分」と述べており4、この20年で状況は大きくは変わっていません。

SECTION 05
まだ分かっていないこと

ご家族からよく聞かれることのうち、研究がまだ答えを出せていない点を正直に挙げます。

どの時期の、どういう方に向くのか
急性期・回復期・慢性期のどの時期がよいのか、脳梗塞と脳出血で違うのか、重症度によって違うのかは、十分に検証されていません1,2
何回・何気圧が適切なのか
回数や気圧の条件が研究ごとに大きく異なるため、最適な条件は決まっていません1。多く受ければよいという根拠もありません。
効果が続くのかどうか
認知面の試験は4週間の介入終了時までしか追跡していません3。数か月後・1年後にどうなるかは分かっていません。
リハビリとどう組み合わせるのが良いのか
認知トレーニングとの併用で大きな変化が報告された一方3、運動面のリハビリとの併用については小規模な報告にとどまります6。組み合わせ方の最適解は未解決です。

研究全体では一定の傾向がありますが、対象者や実施条件が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。

高圧酸素療法の前に耳の状態と血圧を確認する場面
実施前には、耳や副鼻腔の状態、血圧、持病、閉所への不安などを個別に確認します。
SECTION 06
安全性と、受けられない場合がある人

安全性については、比較的そろった報告があります。2024年のメタ分析では、治療終了時点の有害事象は高圧酸素療法を行った群のほうが少なく(オッズ比0.42、95%信頼区間0.19〜0.94)、6か月までの追跡では差がありませんでした2。重い有害事象の報告もありませんでした1,2

一方で、実際に起きうる負担として次のものが報告されています。コクランレビューでは耳の痛みが高圧酸素療法群で多く報告され(リスク比4.89、95%信頼区間0.6〜39.7、統計的に確かな差とは言えない水準)、閉所への不安が治療を最後まで続けられない理由になった例も指摘されています1

⚠ 見落としたくない大切なこと
高圧酸素療法には受けられない状態があります。2026年の試験では、気胸、中耳炎、副鼻腔炎のある方は除外されていました3。耳抜きがしにくい方、閉所が苦手な方、けいれん発作の既往がある方なども、事前の確認が必要です。持病や内服薬を含めて、必ず主治医に相談してから判断してください。

費用の面も現実的な検討材料です。日本では脳卒中後の後遺症に対する高圧酸素療法が一般的な保険診療として広く行われているわけではなく、実施施設や条件によって扱いが異なります。通う回数が多くなるほど、時間・交通・費用の負担も積み重なります。

SECTION 07
リハビリとの関係をどう考えるか

ここまでの研究を並べたときに見えてくるのは、「高圧酸素療法だけで生活動作が変わる」という形の根拠は乏しい、ということです。急性期の追加治療としては生活動作の指標に差が示されず1,2、認知面で大きな変化が報告された試験でも、いちばん変化したのは認知トレーニングと併用した群でした3

脳卒中後の生活動作や歩行の変化については、実際にその動作を繰り返し練習する取り組みのほうが、研究の蓄積がはるかに厚い領域です。高圧酸素療法を検討する場合も、日々の練習の代わりにするのではなく、今行っている取り組みを続けたうえで、追加の選択肢として考えるほうが現実的だと思います。

そして何より、検討する前に「今いちばん困っていることは何か」をはっきりさせることが大切です。歩くことなのか、手を使うことなのか、言葉なのか、気分なのかによって、優先すべき手段は変わります。

脳卒中後に専門職と上肢の課題練習を行う場面
高圧酸素療法を検討する場合も、目標に沿った反復練習や生活動作の調整がリハビリの土台になります。
SECTION 08
Journey Rehabが大切にしている考え方

当施設は訪問型の自費リハビリで、高圧酸素療法そのものを提供しているわけではありません。ただ、保険のリハビリが一区切りついた後に「他に何かできることはないか」と探されている方から、こうした選択肢についてご相談をいただくことがあります。

相談時に整理したいポイント
脳卒中の種類と発症時期、現在の目標、通院回数・移動・費用の負担、耳や副鼻腔の状態、閉所への不安、標準的なリハビリをどう続けるかを確認します。治療の適否そのものは、これらの情報を主治医と共有して判断します。

お伝えしているのは、期待を否定することでも、勧めることでもなく、「今の研究ではここまでしか分かっていない」という事実を材料としてお渡しすることです。そのうえで、ご本人とご家族が納得して選べるよう、生活の中で何を優先したいかを一緒に整理しています。

まとめ

脳卒中に対する高圧酸素療法は、急性期の追加治療としては死亡や生活動作の指標に差が示されておらず1,2、発症から時間が経った時期については研究そのものが少ない段階です。認知トレーニングと併用した試験では大きな変化が報告されていますが3、単一施設・短期間の研究であり、これから検証が必要です。安全性は比較的そろった報告がある一方で、耳の痛みや閉所への不安、受けられない体の状態もあります1,3。期待も限界も両方を知ったうえで、主治医と相談しながら判断していただくのが現実的です。

免責事項

この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。高圧酸素療法の適否は、脳卒中の種類・時期・重症度や持病によって個別に異なります。検討する場合は、自己判断せず必ず主治医へ相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。

脳卒中後のリハビリの進め方を相談したい方へ
歩くこと、手を使うこと、生活動作のことなど、今の身体の状態を一緒に確認しながら、これからの取り組み方をご相談いただけます。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
質問リスト
Q. 高圧酸素療法を受ければ、麻痺は良くなりますか?
現在の研究では、そう言い切れる根拠はありません。急性期を対象にした複数の試験をまとめた解析では、生活動作の指標に統計的な差は示されていません1,2。期待を持ちたくなる情報も見かけますが、現時点で分かっていることには限りがあります。
Q. 発症からどのくらいの時期に受けるのが良いのですか?
研究ごとに時期がばらばらで、最適な時期は決まっていません1,2。急性期・回復期・慢性期のどこがよいのかを比べた十分な研究がないのが現状です。
Q. 何回くらい受けるものですか?
研究では1回だけのものから20回ほど繰り返すものまで幅がありました1。回数を増やせばよいという根拠は示されていません。実施する施設の方針と主治医の判断によります。
Q. 危険はありませんか?
重い有害事象の報告は少なく、安全性は比較的そろった報告があります1,2。ただし耳の痛みが報告されているほか、閉所への不安で続けられなかった例もあります1。気胸・中耳炎・副鼻腔炎などがある場合は受けられないことがあります3
Q. 認知機能に良いという話を聞きましたが本当ですか?
2026年に報告された115名の試験では、高圧酸素療法とコンピュータを使った認知トレーニングを併用した群でMMSEが平均7.67点変化したと報告されています3。ただし単一施設の研究で、追跡は4週間までです。単独で行った群の変化は併用群より小さい結果でした3
Q. 保険は使えますか?
日本では脳卒中後の後遺症に対して一般的な保険診療として広く行われている治療ではなく、施設や条件によって扱いが異なります。費用や通う回数の負担も含めて、事前に確認することをおすすめします。
Q. リハビリの代わりになりますか?
代わりにはならないと考えるのが現実的です。認知面で大きな変化が報告された試験でも、いちばん変化したのは実際の練習と併用した群でした3。今行っている取り組みを続けたうえで、追加の選択肢として考える位置づけになります。
Q. 受けるかどうか、誰に相談すればよいですか?
まずは主治医に相談してください。持病や体の状態によっては受けられない場合があります。日々のリハビリとの兼ね合いについては、担当のリハビリ専門職にも相談されることをおすすめします。
参考文献
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2. Li X, Lu L, Min Y, Fu X, Guo K, Yang W, Li H, Xu H, Guo H, Huang Z. Efficacy and safety of hyperbaric oxygen therapy in acute ischaemic stroke: a systematic review and meta-analysis. BMC Neurology. 2024;24(1):55. PMID: 38308217. PMCID: PMC10837997. DOI: 10.1186/s12883-024-03555-w
3. Liu J, Han T, Yan C, Ma Q, Yuan L, Ge S, Xu X, Liu X. Hyperbaric oxygen therapy combined with computerized cognitive training improves global cognition and functional independence post-stroke: a randomized controlled trial. Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation. 2026;23(1). PMID: 42050669. PMCID: PMC13270702. DOI: 10.1186/s12984-026-01992-x
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5. Gong S, Tang M, He J, Wu X, Shi M, Yang M, Shi L, Huang L, Li L, Zhou D, Zhao Y. Efficacy of hyperbaric oxygen therapy for post-stroke depression: Association with inflammatory biomarker reduction in a sham-controlled randomized trial. Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases. 2026;35(8):108685. PMID: 42336256. DOI: 10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2026.108685
6. Schiavo S, Richardson D, Santa Mina D, Buryk-Iggers S, Uehling J, Carroll J, Clarke H, Djaiani C, Gershinsky M, Katznelson R. Hyperbaric oxygen and focused rehabilitation program: a feasibility study in improving upper limb motor function after stroke. Applied Physiology, Nutrition, and Metabolism. 2020;45(12):1345-1352. PMID: 32574506. DOI: 10.1139/apnm-2020-0124