田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
パーキンソン病の便秘と排便障害とは
食事・運動・薬について研究で分かっていることを整理します
パーキンソン病のある方から「薬のことより、実は便秘がいちばんつらい」と伺うことは珍しくありません。何日も出ない、出そうで出ない、お腹が張って食欲が落ちる、外出が不安になる。日常の困りごととしては大きいのに、診察の場では後回しになりやすいテーマでもあります。
この記事では、パーキンソン病にともなう便秘・排便障害について、どのくらいの方に起こるのか、食事・運動・薬・整腸剤といった手段が研究でどこまで確かめられているのかを整理します。特定の商品や治療を勧めるものではありません。
初回公開日:2026年8月26日
最終更新日:2026年8月26日
最新レビュー日:2026年8月26日
最初に大切なこと
便秘は、パーキンソン病そのものだけでなく、内服薬、水分や食事の量、運動量、他の病気の影響でも起こります。急に便が出なくなった、強いお腹の痛みがある、血が混じる、体重が減っているといった場合は、自己判断で対処せず、すみやかに主治医へ相談してください。この記事は一般的な情報の整理であり、個別の判断に代わるものではありません。
SECTION 01
パーキンソン病でなぜ便秘が起こるのか
パーキンソン病では、手足の動きだけでなく、内臓の働きを調整する自律神経にも変化が起こることが知られています。腸の壁にある神経(腸管神経系)にも早い時期から変化が生じるとされ、腸そのものの動きがゆっくりになりやすいと考えられています。
それに加えて、日常生活の側にも便秘につながりやすい条件が重なります。動く量が減って腸への刺激が少なくなること、飲み込みにくさから水分を控えてしまうこと、いきむときにお腹と骨盤底の筋肉をうまく協調させにくくなること、内服薬の影響などです。「腸の動きが遅い」タイプと「出口で出しにくい」タイプは対処が異なるため、どちらが強いのかを整理することが出発点になります。
自律神経に関連する症状は便秘だけではありません。立ちくらみなど血圧の調整に関わる症状も同じ背景を共有することがあり、パーキンソン病の起立性低血圧について解説した記事でも扱っています。
便秘は相談しにくい症状ですが、活動量・食事・水分・薬を一緒に整理すると原因の手がかりが見つかることがあります。
SECTION 02
どのくらいの方に起こるのか
便秘は、パーキンソン病のなかでもとくに多い症状のひとつです。
診療ガイドライン 2025年
ドイツ神経学会のパーキンソン病ガイドライン
診断されて間もない時期でも24〜63%、病気が進むにつれて最大90%の方に便秘がみられると記載されています4。運動症状が出るより前から便秘が始まっている方もいるとされています。
多くの方に起こるということは、裏を返せば「自分だけがおかしいのではない」ということでもあります。恥ずかしさから相談しにくいテーマですが、対処の選択肢はいくつもあるため、主治医に伝えていただきたい症状です。
SECTION 03
生活の工夫・リハビリ的な取り組みの研究
まず、薬以外の取り組みについてです。神経の病気がある方の排便の問題をまとめた大規模なレビューがあります。
コクランレビュー 2024年
中枢神経の病気がある成人の便秘・便失禁への介入
25件のランダム化比較試験・1,598名をまとめたレビューです。対象にはパーキンソン病(8件)、脊髄損傷(7件)、脳卒中(5件)、多発性硬化症(2件)などが含まれます1。腹部マッサージ、立位訓練、電気刺激といった身体的な介入を通常のケアと比べたところ、便秘の症状で中程度の差がみられました(標準化平均差 −0.62、9試験・431名)1。生活指導や排便習慣の調整といった保存的な介入も便秘の症状を良くする可能性が示されましたが、8試験・612名のデータは数値をまとめて計算できませんでした1。いずれもエビデンスの確実性は「低い」と評価されています1。
ここで注意したいのは、このレビューが病気ごとの結果を分けて示していない点です。パーキンソン病だけを取り出した効果の大きさは報告されていません1。ですから「神経の病気全体としては、腹部マッサージや排便習慣の調整に一定の可能性がある」という読み方までにとどめるのが正確です。
生活面の基本については、ガイドラインが具体的な目安を示しています。ドイツ神経学会のガイドラインでは、水分は1日1.5〜2Lを目安とし(それ以上増やしても上乗せの利点はないと明記)、食物繊維を増やすこと、身体的な不活発を避けること、腹部マッサージが役立つ可能性があることが挙げられています4。
⚠ 見落としたくない大切なこと
運動については「年齢相応の活動量を保ち、動かない時間を減らす」という位置づけで示されており
4、便秘のために特別な運動プログラムを行えば解決する、という根拠が示されているわけではありません。ただし、動く量を保つことはパーキンソン病の他の面でも大切です。運動そのものの位置づけは、
パーキンソン病の有酸素運動について解説した記事で整理しています。
なお、脳卒中のあとの便秘についても考え方が重なる部分があります。脳卒中後の便秘・排便障害について解説した記事もあわせてご覧ください。
SECTION 04
食事の内容を変える取り組みの研究
食事の内容そのものを変える取り組みを、比較試験で検証した研究があります。
ランダム化比較試験 2024年
地中海食をすすめる指導と、標準的な便秘の指導との比較
便秘症状のあるパーキンソン病の方36名を、地中海食の栄養指導を受ける群(19名)と、標準的な便秘のパンフレットを受け取る群(17名)に分けた試験です。2週間の観察期間のあと8週間の介入を行いました。主要評価項目である消化器症状の指標(GSRSの便秘スコア)では、両群の差は統計的に示されませんでした(intention-to-treat解析でp=0.600)3。地中海食の群では介入前と比べた自群内の変化は示されましたが(4週・8週でそれぞれp=0.041、p=0.039)、これは比較群との差を意味しません3。下剤の使用量は地中海食の群のほうが少なく(p=0.044)、腸の炎症の指標である便中カルプロテクチンは低い傾向でした(8週でp=0.05)3。
この研究から言えるのは、「地中海食に切り替えれば便秘が解消する」という単純な話ではない、ということです。一方で、下剤の使用が減ったという結果は、生活の中では意味を持ちうる変化かもしれません。ただし36名という小さな研究で、介入群のほうが認知機能の指標が低かったなどの偏りも論文自身が限界として挙げています3。
食物繊維を増やすこと自体はガイドラインでも推奨されていますが、高齢の方では腸を通過する時間が長くなるため、水に溶けるタイプの食物繊維のほうが耐えやすい場合があると記載されています4。急に量を増やすとお腹の張りが強くなることもあるため、少しずつ試すのが現実的です。
無理のない身体活動は生活リズムを整える一要素です。転倒リスクに合わせて安全な方法を選びます。
SECTION 05
整腸剤(プロバイオティクス)の研究
市販の整腸剤やヨーグルトを試している方も多いテーマです。パーキンソン病の便秘に絞ったメタ分析があります。
システマティックレビュー・メタ分析 2022年
パーキンソン病の便秘に対するプロバイオティクス
4件のランダム化比較試験・287名をまとめた解析です。1週間あたりの排便回数は、プロバイオティクスを摂った群のほうが多い結果でした(加重平均差 1.02回、95%信頼区間 0.56〜1.48)2。一方で便のかたさ(性状)には差がみられず(加重平均差 −0.08、95%信頼区間 −1.42〜1.26)、腸の通過時間、腹痛、お腹の張りにも差はありませんでした2。研究間のばらつきは大きく(I²=71.5%)、エビデンスの確実性は「低い」と評価されています2。有害事象は7件(うち6件がプロバイオティクス群)で、腹痛、お腹の張り、めまい、だるさなどでしたが、いずれも一時的で重いものはありませんでした2。
著者ら自身が「パーキンソン病の便秘の治療としてプロバイオティクスを使うことを支持する根拠は不十分」と述べており2、排便回数が週に1回程度増えたという結果をどう受け止めるかは、その方の困りごとの中身によって変わります。
薬については、ガイドラインではマクロゴール(ポリエチレングリコール)が第一選択として挙げられ、プルカロプリドやビサコジルなども選択肢として記載されています4。薬の選択・調整は主治医の判断になりますので、市販薬を自己判断で続ける前に相談されることをおすすめします。
SECTION 06
エビデンスの質と限界
このテーマの研究には、共通した弱さがあります。
研究の数と人数が少ない
パーキンソン病の便秘に絞ったメタ分析は4試験・287名2、食事の試験は36名3です。人数が少ないと、結果が偶然に左右されやすくなります。
測る物差しがそろっていない
コクランレビューの著者らは「臨床的に意味のある差があるかどうかの判断が、統一された評価指標の欠如によって大きく妨げられている」と述べています1。
盲検化が難しい
食事や運動、マッサージは、受けている本人にも実施者にも内容が分かってしまいます。そのため思い込みの影響を受けやすく、コクランレビューでも主な減点理由になっています1。
病気ごとの結果が分けられていない
コクランレビューにはパーキンソン病の研究が8件含まれますが、パーキンソン病だけを取り出した効果の大きさは報告されていません1。
研究全体では一定の傾向がありますが、対象者や介入内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
SECTION 07
まだ分かっていないこと
率直に、まだ答えが出ていないことを挙げます。
どの方法が、どのタイプの便秘に合うのか
腸の動きがゆっくりなタイプと、出口で出しにくいタイプでは、必要な対処が異なると考えられますが、タイプ別に手段を比べた研究はほとんどありません。
どのくらいの期間続ければよいのか
食事の試験は8週間3、プロバイオティクスの試験は4〜12週間2で、それ以降どうなるかは分かっていません。
どの菌種・どの量がよいのか
メタ分析に含まれた4件は、菌の種類も量も期間もばらばらでした2。「この製品がよい」と言えるだけの比較は行われていません。
運動が便秘そのものにどれだけ効くのか
ガイドラインは不活発を避けることを挙げていますが4、運動プログラムが便秘の症状をどれだけ変えるかを、パーキンソン病で丁寧に検証した研究は限られています。
長期的にどうなるか、進行した時期の方に同じことが当てはまるかについても、十分な検証は行われていません。
食物繊維や水分は大切ですが、持病や嚥下状態、薬との関係を含めて個別に調整します。
SECTION 08
Journey Rehabが大切にしている考え方
訪問リハビリでうかがっていると、便秘は「言われて初めて出てくる」相談であることが多いテーマです。運動や歩行の話をしている途中で、実は何日も出ていない、外出前は不安で水分を控えている、といった事情が見えてくることがあります。
相談時に整理したいポイント
最後に排便があった日、便の硬さ、腹痛や血便の有無、水分・食事・活動量、トイレまでの動線と姿勢、服薬内容を確認します。急な変化や警告症状がある場合は、生活上の工夫だけで様子を見ず主治医へつなぎます。
当施設が行っているのは、排便そのものへの治療ではありません。ただ、日中どのくらい動いているか、水分をどのタイミングで摂っているか、トイレまでの移動や姿勢に無理がないか、といった生活の条件は、リハビリの中で一緒に確認できる部分です。
そのうえで、薬の調整や検査が必要な状況だと感じたときは、主治医への相談をおすすめしています。便秘は我慢して付き合うものと思われがちですが、手段は一つではありません。
まとめ
パーキンソン病の便秘は、診断初期でも24〜63%、進行すると最大90%の方にみられる、とても多い症状です4。腹部マッサージや排便習慣の調整といった取り組みは、神経の病気全体をまとめた解析で一定の可能性が示されていますが、確実性は低い評価にとどまります1。地中海食の試験では比較群との差は示されず、下剤の使用が減ったという結果にとどまりました3。プロバイオティクスは排便回数を週1回程度増やす可能性が示された一方、便のかたさや腹部症状には差がありませんでした2。生活の工夫を続けつつ、必要な場合は薬の相談も含めて主治医と一緒に組み立てるのが現実的です。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。便秘の原因や適した対処は個別に異なり、内服薬や他の病気が関係していることもあります。市販薬やサプリメントの使用を含め、対処を始める前に主治医・薬剤師へ相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
パーキンソン病の生活動作について相談したい方へ
日中の動きやすさ、水分や食事のとり方、トイレまでの移動のことなど、今の身体の状態を一緒に確認しながら、生活の組み立て方をご相談いただけます。
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
質問リスト
Q. パーキンソン病の方は、どのくらい便秘になりますか?
ドイツ神経学会のガイドラインでは、診断されて間もない時期で24〜63%、進行すると最大90%の方にみられると記載されています4。とても多い症状で、運動症状より前から始まる方もいます。
Q. ヨーグルトや整腸剤は役に立ちますか?
4件の試験・287名をまとめた解析では、1週間あたりの排便回数が平均1.02回多いという結果でした2。一方で便のかたさやお腹の張りには差がなく、著者らも根拠は不十分と述べています2。試す価値はありますが、過度な期待は避けたほうがよいと思います。
Q. 水分はどのくらい摂ればよいですか?
ガイドラインでは1日1.5〜2Lが目安として示されており、それ以上増やしても上乗せの利点はないと記載されています4。心臓や腎臓の病気がある方は制限がある場合もあるため、主治医に確認してください。
Q. 食物繊維を増やせばよいのですか?
食物繊維を増やすことはガイドラインでも挙げられていますが、高齢の方では腸を通過する時間が長いため、水に溶けるタイプのほうが耐えやすい場合があると記載されています4。急に増やすとお腹の張りが強くなることがあるため、少しずつ様子を見ながら試してください。
Q. 運動をすれば便秘は解消しますか?
ガイドラインは「動かない時間を減らす」ことを挙げていますが4、運動プログラムで便秘そのものがどれだけ変わるかを、パーキンソン病で丁寧に検証した研究は限られています。動く量を保つことは他の面でも大切ですが、便秘だけを目的にした万能な方法ではありません。
Q. お腹のマッサージは意味がありますか?
神経の病気がある方をまとめたコクランレビューでは、腹部マッサージなどの身体的な介入で便秘の症状に中程度の差がみられました(標準化平均差 −0.62)1。ただし確実性は低い評価で、パーキンソン病だけの結果は示されていません1。強く押しすぎないなど、実施方法は専門職に確認してください。
Q. 市販の下剤を使い続けても大丈夫ですか?
自己判断で長く続ける前に、主治医や薬剤師に相談してください。ガイドラインではマクロゴールが第一選択として挙げられていますが4、種類や量の判断は個別に異なります。
Q. 便秘は主治医に相談してよいことですか?
はい。とても多い症状ですが、診察の場で話題に出にくいテーマでもあります。何日出ていないか、いきんでも出ないのか、お腹が張るのかといった具体的な状況を伝えると、相談が進めやすくなります。
参考文献
1. Todd CL, Johnson EE, Stewart F, Wallace SA, Bryant A, Woodward S, Norton C. Conservative, physical and surgical interventions for managing faecal incontinence and constipation in adults with central neurological diseases. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2024;10(10):CD002115. PMID:
39470206. PMCID:
PMC11520510. DOI:
10.1002/14651858.CD002115.pub6
2. Yin S, Zhu F. Probiotics for constipation in Parkinson's: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Frontiers in Cellular and Infection Microbiology. 2022;12:1038928. PMID:
36439217. PMCID:
PMC9684193. DOI:
10.3389/fcimb.2022.1038928
3. Rusch C, Beke M, Nieves C Jr, Mai V, Stiep T, Tholanikunnel T, Ramirez-Zamora A, Hess CW, Langkamp-Henken B. Promotion of a Mediterranean Diet Alters Constipation Symptoms and Fecal Calprotectin in People with Parkinson's Disease: A Randomized Controlled Trial. Nutrients. 2024;16(17):2946. PMID:
39275262. PMCID:
PMC11396875. DOI:
10.3390/nu16172946
4. Fanciulli A, Sixel-Döring F, Buhmann C, Krismer F, Hermann W, Winkler C, Woitalla D, Jost WH, Höglinger G, et al. Diagnosis and treatment of autonomic failure, pain and sleep disturbances in Parkinson's disease: guideline "Parkinson's disease" of the German Society of Neurology. Journal of Neurology. 2025;272(1):90. PMID:
39751950. PMCID:
PMC11698777. DOI:
10.1007/s00415-024-12730-5