
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
結論:専門職が状態を確認し、段階的に調整する在宅型リハビリは、施設でのリハビリと比べて歩行や日常生活動作で大きく劣らない可能性があります。ただし、自主練習だけの効果や、慢性期を含むすべての方への最適な量は未確立です。転倒リスクと体調を確認し、生活目標に合わせて内容を見直します。
「退院したけれど、通院でリハビリを続けるのは大変」「自宅でリハビリをしても意味があるの?」――脳卒中後の方やご家族からよくいただくご質問です。この記事では、自宅を練習の場にする「在宅型リハビリ」について、施設でのリハビリと比べた研究を中心に、分かっていることと分かっていないことを正直に整理します12。
この記事でわかること
在宅型リハビリとは何か
在宅型リハビリ(ホームベースド・リハビリテーション)とは、病院や施設に通うのではなく、ご自宅を練習の場にして行うリハビリのことです。セラピストが訪問して一緒に練習する形のほか、セラピストが作った運動プログラムをご本人・ご家族が自宅で続け、定期的に確認を受ける形、オンラインで指導を受ける形などがあります。
「自宅だと本格的な機械がないから、病院より効果が落ちるのでは?」と心配される方は少なくありません。一方で、自宅には毎日使う台所・階段・玄関・ベッドといった「実際の生活の場」があり、そこでの練習がそのまま生活動作につながりやすいという考え方もあります2。退院直後の在宅への移り方については早期支援退院について解説した記事で、オンラインでの指導については脳卒中後の遠隔リハビリについて解説した記事で取り上げています。この記事では、「自宅での運動プログラム」と「施設でのリハビリ」を比べた研究に絞って整理します。

研究では何が分かっているか
結論から言うと、「自宅での運動プログラムは、施設でのリハビリと比べて大きく劣るわけではない」という研究結果が複数報告されています。ただし、どの研究も対象者や内容が限られているため、順に見ていきます。
大規模RCT 2011年
米国で行われたLEAPS試験では、発症からおよそ2か月の脳卒中の方408名を、(1)早期に体重を支えるハーネス付きトレッドミル歩行練習を行う群、(2)6か月後から同じ練習を行う群、(3)理学療法士が自宅で筋力・バランス・柔軟性の運動を段階的に指導する群、の3つに分けて比較しました。いずれも1回90分・週3回・計36回です1。1年後に歩行能力の段階が上がった方は全体の52.0%で、トレッドミル群と自宅運動群の間に明らかな差は見られませんでした(早期トレッドミル群と自宅運動群の比較でオッズ比0.83、95%信頼区間0.50〜1.39)1。1年後の歩行速度の伸びも、自宅運動群で平均0.25m/秒と、トレッドミル群と同程度でした1。
メタアナリシス 2022年
自宅で行う上肢(手・腕)のリハビリを調べた26件の研究(1,428名)をまとめたシステマティックレビューでは、自宅での上肢練習は、施設での通常のリハビリと比べて腕の機能の点数がやや高かったと報告されています(8件の統合で標準化平均差0.28、95%信頼区間0.12〜0.44)2。差は「小さい」と解釈される大きさで、自己申告による日常での腕の使用量(MAL)でも小さな差が見られました2。特に、セラピストが直接関わる「機器を使わない練習」(課題練習やミラーセラピーなど)で差が見られ、ロボットやVRなど機器中心の自宅練習では施設リハビリとの差ははっきりしませんでした2。自宅での上肢の自主練習については上肢のリハビリ量と在宅練習について解説した記事もあわせてご覧ください。
メタアナリシス 2025年
日常生活動作(ADL)の自立度に注目した別のメタアナリシスでは、在宅型リハビリと病院でのリハビリとの間に明らかな差はなく(標準化平均差0.17、95%信頼区間0.00〜0.34)、通常ケアのみと比べると在宅型リハビリの方が高い点数だったと報告されています3。ただし著者ら自身が、研究全体のバイアスリスクが高く慎重な解釈が必要だと述べています3。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
「施設と差がない」というのは「自宅でも同じくらいの変化が期待できる可能性がある」という意味で、「何もしなくても同じ」という意味ではありません。LEAPS試験の自宅運動群も、理学療法士が週3回・計36回、段階的に内容を調整しながら関わっていました1。また、この試験では歩行能力が低い方ほど転倒が多い傾向があり、どの練習でもバランスへの配慮が欠かせないと著者らは述べています1。
「施設と差がない」というのは「自宅でも同じくらいの変化が期待できる可能性がある」という意味で、「何もしなくても同じ」という意味ではありません。LEAPS試験の自宅運動群も、理学療法士が週3回・計36回、段階的に内容を調整しながら関わっていました1。また、この試験では歩行能力が低い方ほど転倒が多い傾向があり、どの練習でもバランスへの配慮が欠かせないと著者らは述べています1。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
在宅型リハビリの研究には、次のような限界があります。
1.「在宅型」と一口に言っても、訪問指導・自主練習・オンライン指導・機器を使った練習など内容が研究ごとに大きく異なり、同じものを比べているとは言い切れないこと2
2.リハビリの内容上、参加者に割り付けを隠すこと(盲検化)が難しく、自己申告の評価ではバイアスが入りやすいこと2
3.LEAPS試験には「リハビリを受けない群」がないため、自宅運動そのものが自然な変化をどれだけ上回ったかは示せていないこと1
4.上肢のレビューでは研究間のばらつきが大きく、評価指標もさまざまであること2
まだ分かっていないこと
どのような方に「自宅中心」が合い、どのような方に「施設での集中的な練習」が合うのかは、十分に分かっていません。セラピストが直接関わる場合と、ご本人だけで続ける場合の比較も研究数が少なく、はっきりした結論は出ていません2。また、最適な頻度・期間や、発症から何年も経った慢性期の方での長期的な影響についても、今後の研究が必要です。バランスに関するメタアナリシスでは、発症後早い時期(亜急性期)の方では変化が見られた一方、慢性期の方でははっきりしなかったと報告されています4。
エビデンスの質と限界
紹介した研究には、大規模なランダム化比較試験(RCT)や複数のRCTをまとめたメタアナリシスが含まれており、研究デザインとしては信頼性の高いものです。ただし、対象者の重症度・発症からの時期・練習内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
変わりやすいと報告されているもの
歩行速度や歩行能力の段階(LEAPS試験では施設型の練習と同程度)1、腕の機能や日常での腕の使用量(施設での通常リハビリと比べて小さな差)2、日常生活動作の自立度(病院でのリハビリと同程度)3。
変わりにくい・研究ごとに差があるもの
機器を使った自宅練習の上乗せ効果(ロボット・VRでは施設リハビリとの差がはっきりしない)2、慢性期のバランス4、リハビリ終了後の長期的な維持。
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か
検討する場面があるケース
退院後に通院が負担になっている方、実際の生活の場(台所・浴室・玄関・屋外)で困っている動作がはっきりしている方、ご家族と一緒に練習を続けたい方では、在宅型のリハビリを検討する場面があります。
注意が必要なケース
歩行が不安定で転倒が続いている方、めまい・血圧変動・胸の症状がある方、重い認知機能の低下があり一人での練習が難しい方は、主治医とも相談しながら安全な方法を選ぶ必要があります。LEAPS試験でも、歩行能力が低い方では転倒が多くみられました1。自宅での練習は必ず、専門職と転倒への対策を確認したうえで行ってください。
回数・頻度・期間の目安
研究での実施量は、例えばLEAPS試験で1回90分・週3回・12〜16週間(計36回)でした1。バランスに関するメタアナリシスでは、週90分以上の運動を行った研究でより大きな変化が見られたと報告されています4。ただし、これらは研究上の条件であり、体力・症状・生活状況に合わせて調整が必要です。自宅での練習量を無理に増やすより、「毎日の生活動作そのものを練習にする」「週1回の確認で内容を見直す」といった形の方が続けやすい場合もあります。


まとめ|作業療法士の視点と安全上の注意
作業療法士の視点
作業療法士の視点では、筋力や歩行距離だけでなく、玄関、階段、台所、浴室、外出など、本人が実際に困っている生活行為を確認します。自宅の環境を使う利点を生かしつつ、必要な医療評価や通院・通所の役割を置き換えないように、練習内容と支援方法を組み立てます。
中止基準と医療機関へ相談すべき症状
練習中に胸痛、強い息切れ、失神しそうな感覚、普段と違う強い頭痛、急な麻痺・しびれ・ろれつの回りにくさ、強いめまい、転倒、強い関節痛が出た場合は中止してください。突然の神経症状は救急受診を検討します。発熱、動悸、息切れ、血圧変動が続く場合や、練習後の疲労・痛みが休んでも戻らない場合は医療機関や担当者へ相談してください。
在宅型リハビリは、病院や施設の代わりを一律に決めるものではありません。自宅でしか確認できない生活上の課題がある一方、機器を使った評価や集中的な治療が必要な場合もあります。本人の目標、発症時期、重症度、家族の支援、住環境を踏まえて組み合わせを考えることが大切です。
自宅でのリハビリは「病院の代わりの妥協策」ではなく、生活の場そのものを練習に使えるという独自の良さがあります。一方で、研究でも「施設と同程度」という結果が中心で、自宅だから特別に大きく変わる、という話ではありません。大切なのは、安全に続けられる内容を、状態に合わせて見直し続けることだと考えています。
まとめ
・自宅での運動プログラムは、施設でのリハビリと比べて歩行・日常生活動作で大きく劣らない可能性が報告されています13
・上肢では、セラピストが関わる自宅練習で施設リハビリより小さな差が見られた研究があります2
・対象者・内容・研究の質にばらつきがあり、誰に最も合うかはまだ分かっていません
・転倒への対策と、専門職による定期的な内容の見直しが大切です
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。自宅での運動の開始・変更については、必ず主治医またはリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年9月)のものであり、今後の研究により内容が更新される可能性があります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
ご自宅での生活動作や運動の進め方について、身体の状態を一緒に確認しながらリハビリの内容を考えます。
執筆・確認と運営上の立場
本記事は、株式会社Journey Rehab代表の作業療法士・田中 光が執筆し、文献内容を2026年9月24日に再確認しました。当社の訪問自費リハビリの案内を含みますが、研究結果は個人の効果を保証するものではありません。診断や治療方針は主治医・担当医療者にご相談ください。
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
よくある質問
Q. 自宅のリハビリでも、病院のリハビリと同じくらい意味がありますか?
研究では、歩行や日常生活動作について施設でのリハビリと同程度という結果が報告されています。ただし内容や頻度、専門職の関わり方によって違いがあり、すべての方に当てはまるとは限りません。
Q. 特別な機械がなくても自宅でリハビリはできますか?
上肢のレビューでは、機械を使わない課題練習などでも施設リハビリと比べて小さな差が見られた研究があります。台所や階段など生活の場を使った練習も選択肢です。
Q. 自宅で一人で運動しても大丈夫ですか?
転倒の危険や体調の変化があるため、最初は専門職と一緒に安全な内容を確認することをおすすめします。血圧やめまいなどが気になる場合は主治医に相談してください。
Q. どのくらいの頻度で続ければよいですか?
研究では週3回・1回90分などの例がありますが、体力や症状によって適切な量は異なります。無理なく続けられる量を専門職と相談して決めるのがよいでしょう。
Q. 発症から何年も経っていますが、在宅型リハビリは意味がありますか?
慢性期の方を対象にした研究もありますが、バランスについては慢性期ではっきりした変化が見られなかった報告もあります。目標や生活上の困りごとを整理したうえで相談してください。
Q. 家族はどう関わればよいですか?
練習の見守りや声かけ、生活動作の中で手伝い過ぎない工夫などが考えられます。関わり方は状態によって異なるため、担当のセラピストと一緒に確認するのがおすすめです。
参考文献
1. Duncan PW, Sullivan KJ, Behrman AL, et al. Body-weight-supported treadmill rehabilitation after stroke. N Engl J Med. 2011. PMID: 21612471
2. Toh SFM, Chia PF, Fong KNK. Effectiveness of home-based upper limb rehabilitation in stroke survivors: A systematic review and meta-analysis. Front Neurol. 2022. PMID: 36188398
3. Do Y, Lim Y, Jin S, et al. Effectiveness of home-based Rehabilitation on Activities of Daily Living in Patients With Stroke: Systematic Review and Meta-Analysis. Phys Ther. 2025. PMID: 40167208
4. Li X, Wu C, Zhang J, et al. Home-Based Exercise for Improving Balance Ability in Post-Stroke Patients: A Systematic Review and Meta-Analysis. Worldviews Evid Based Nurs. 2025. PMID: 40762360