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脳卒中後の嚥下障害|呼吸・嚥下協調バイオフィードバックの研究

自費リハビリ情報 読了目安 約10分 文・田中 光(作業療法士)
脳卒中後の嚥下障害について専門職と呼吸と飲み込みの練習を確認する人
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表

田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立

結論:呼吸と嚥下のタイミングを見える化する訓練は、小規模RCTで嚥下指標の改善が報告されました。ただし30人・単施設・短期追跡で、誤嚥性肺炎の予防や長期的な食生活への効果は未確立です。自己流で食形態や飲み込み方を変えず、医師・言語聴覚士の評価にもとづいて検討します。

むせやすい、飲み込みにくいといった脳卒中後の嚥下障害(えんげしょうがい)では、実は「呼吸のタイミング」と「飲み込みのタイミング」がずれてしまっていることが背景にある場合があります。近年、この呼吸と嚥下の協調を、機械で「見える化」しながら練習する「バイオフィードバック訓練」の研究が進んでいます。結論から言うと、小規模な研究の段階ではあるものの、いくつかの指標で前向きな結果が報告されています12。ただし研究数はまだ少なく、効果を保証するものではありません。この記事では、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを正直に整理します。

呼吸と嚥下のタイミングがなぜ大切なのか

私たちは通常、息を吐いている途中で一瞬呼吸を止めて飲み込み、再び息を吐く、という「呼気-嚥下-呼気」のパターンで飲み込みを行っています。これは、飲み込んだ直後に少し息を吐くことで、万が一気道に入りかけた食べ物や唾液を押し出しやすくするための仕組みと考えられています。脳卒中では、飲み込みに関わる神経や筋肉の働きに加えて、呼吸と嚥下を協調させるタイミングそのものが崩れることがあり、これが「むせ」や「誤嚥(ごえん、気道に食べ物が入ってしまうこと)」につながる一因になると考えられています1。
嚥下障害への対応としては、電気刺激を使ったアプローチを解説した記事や、誤嚥性肺炎のリスクと口腔ケアの関係をまとめた記事もあわせてご覧ください。今回は、呼吸と嚥下の「タイミング」そのものを整える新しいアプローチについて解説します。
呼吸センサーを用いて呼吸と嚥下のタイミングを練習する脳卒中経験者

バイオフィードバック訓練の研究では何がわかっているか

2025年に発表されたランダム化比較試験(30名)では、脳卒中後の嚥下障害がある方を対象に、通常のリハビリに加えて「呼吸-嚥下協調バイオフィードバック訓練」を行う群と、通常リハビリのみの群を比較しました1。訓練は、呼吸と嚥下の信号をモニターで見ながら正しいパターンを覚える「認識」「学習」「習得」の3段階で構成され、1回30分・週6日・2週間実施されました。
RCT 2025年(30名)

訓練群では、食べられる形態の幅を示すFOISスコアが通常リハビリ群より大きく改善し、2点以上の改善が得られた人の割合も高い結果でした。また、誤嚥の危険度を示すPAS評価(値が高いほど危険性が高い)が6点以上だった人の割合が、訓練群で約35%から約11%まで下がりました1。X線を使った検査(嚥下造影検査)でも、飲み込み時に気道を守るしくみの動きに改善がみられました。
システマティックレビュー・ネットワークメタ分析 2025年

別の切り口として、筋肉の働きを見える化する「表面筋電図バイオフィードバック(sEMG-BF)」を扱った2025年のレビューでは、6件のRCTを統合した結果、sEMG-BFが従来訓練や電気刺激療法(NMES)と比べて、飲み込みに関わる筋肉の活動量や標準嚥下評価スコアで優れた結果を示したと報告されています。ただし、生活の質(SWAL-QOL)スコアについては統計的にはっきりした差は確認されませんでした2。さらに広く「嚥下障害へのバイオフィードバック全般」を対象にした2019年のレビュー(脳卒中95名を含む)でも、飲み込みに関わる喉の動き(舌骨挙上距離)の改善は見られたものの、実際に食べられる量や形態の改善までは、統計的にはっきりと示されませんでした3。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
これらの研究はいずれも参加者数が少なく(30〜124名程度)、単一の施設で行われたものが中心です。「バイオフィードバック訓練をすれば誤嚥がなくなる」というものではなく、専門的な評価と組み合わせて慎重に進めるべき訓練法の一つとして研究が続いている段階です。

エビデンスの質と限界

正直にお伝えすると、呼吸-嚥下協調バイオフィードバック訓練そのものを検証した研究は、現時点では今回ご紹介した30名規模のRCT1件が中心で、まだ研究の蓄積が少ない段階です1。関連するsEMG-BF全般の研究をあわせても、次のような限界があります。
1.対象となった研究のほとんどがサンプルサイズが小さく(数十名規模)、単一施設で行われていること
2.病巣の部位(脳のどこが障害されたか)や重症度別の効果の違いが十分に検討されていないこと
3.追跡期間が短く(1ヶ月程度まで)、効果がどのくらい長く続くのかが十分に分かっていないこと
まだ分かっていないこと
どのくらいの重症度の方まで対象にできるのか、脳のどの部位の障害で特に効果が出やすいのか、どのくらいの頻度・期間が最適なのかは、現時点の研究ではまだ十分に分かっていません。また、実際に「食べられる形態が増える」「誤嚥性肺炎が減る」といった生活に直結する効果まで統計的にはっきり示されているわけではなく、今後より大規模で長期間の研究が必要とされています13。
エビデンスの質と限界
機器を使ったバイオフィードバック訓練は、参加者・実施者ともに「どちらの群か」を完全に隠すことが難しい性質の訓練であるため、研究の質を評価するうえで一定の限界があります。研究全体では前向きな傾向が報告されていますが、対象者の重症度や介入内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません12。

何が変わりやすく、何は変わりにくいか

変わりやすいと報告されているもの
呼吸と嚥下の協調パターン(正しいタイミングで飲み込めた割合)、誤嚥の危険度を示す評価スケール(PAS)、食べられる形態の幅を示すFOISスコア1、飲み込みに関わる筋肉の活動量2。

変わりにくい・研究ごとに差があるもの
嚥下に関する生活の質(SWAL-QOL)スコアは、研究によって統計的にはっきりした差が確認されていません23。実際の誤嚥性肺炎の発生率や、経管栄養からの離脱率といった生活に直結する指標への影響は、まだ十分に検証されていません。

どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か

検討する場面があるケース
嚥下造影検査などで呼吸と嚥下のタイミングのずれが確認されており、指示に従って練習に取り組める見当識・理解力がある方では、言語聴覚士など専門職の評価のもとで訓練を検討する場面があります1。
注意が必要なケース
気管切開をしている方、重度の認知機能低下や注意障害があり訓練の指示理解が難しい方、呼吸器疾患(COPDなど)で呼吸機能自体が低下している方は、今回ご紹介した研究の対象から除外されており、同じ方法がそのまま適用できるとは限りません。誤嚥性肺炎の既往がある方や、むせが強く出る方は、自己判断で食形態を変えたり訓練を進めたりせず、必ず医師・言語聴覚士による嚥下評価を受けてください1。

頻度・期間の目安

今回ご紹介したRCTでは、1回30分・週6日・2週間という比較的高頻度な設定で実施されていました1。ただし、これは研究上の設定であり、在宅や訪問リハビリの現場でそのまま同じ頻度を再現できるとは限りません。実際の頻度は、嚥下評価と本人の疲労・集中力、呼吸状態を確認し、医師・言語聴覚士等が個別に調整します。
言語聴覚士が安全な姿勢で嚥下状態を確認する場面
脳卒中後の食事姿勢と休憩の取り方を家族と専門職が相談する場面

まとめ|作業療法士の視点と安全上の注意

作業療法士の視点

作業療法士の視点では、嚥下訓練そのものは医師・言語聴覚士の評価と連携しながら進めます。そのうえで、椅子と机の高さ、食具、疲れやすい時間帯、食事に必要な介助、家族の声かけなど、食事という生活行為の環境を整えます。

中止基準と医療機関へ相談すべき症状

食事や練習中に強いむせ、湿った声、息苦しさ、顔色不良、意識の変化が出た場合は直ちに中止してください。発熱、痰の増加、呼吸苦、食事量の急な低下、脱水が疑われる場合は医療機関へ相談します。窒息が疑われる、呼吸できない、反応が乏しい場合は救急要請を検討してください。食形態やとろみ、姿勢、訓練手技は自己判断で変更しないでください。

呼吸・嚥下協調バイオフィードバックは専用機器と専門的な評価を要する研究段階の方法です。訪問場面では、訓練を安易に再現するのではなく、食事姿勢、食具、疲労、介助方法、口腔ケアを確認し、必要な場合は医師・言語聴覚士へつなぐことが重要です。

免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。嚥下障害の評価・訓練の実施可否については、必ず主治医または言語聴覚士等の専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年9月)のものであり、今後の研究により内容が更新される可能性があります。

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執筆・確認と運営上の立場

本記事は、株式会社Journey Rehab代表の作業療法士・田中 光が執筆し、文献内容を2026年9月23日に再確認しました。嚥下の診断・食形態・訓練方法は医師・言語聴覚士等の評価が必要です。研究結果は個人の効果を保証しません。

田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表

執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.

よくある質問

Q. バイオフィードバック訓練は自宅で自主的にできますか?

研究で使われた機器は専門的な評価・訓練用のものが中心で、自己判断で導入するものではありません。まずは言語聴覚士など専門職による嚥下評価を受けてください。

Q. むせが多いのですが、これは呼吸と嚥下のタイミングのせいですか?

むせの原因は複数考えられ、タイミングのずれはその一因の可能性があります。原因を特定するには嚥下造影検査などの専門的な評価が必要ですので、自己判断せず主治医・言語聴覚士に相談してください。

Q. どのくらいの期間で効果が出ますか?

研究では2週間程度の集中的な訓練で変化が報告されていますが、対象者の状態によって個人差が大きく、全員に同じ期間で効果が出るとは限りません。

Q. 気管切開をしていても受けられますか?

今回ご紹介した研究は気管切開をしている方を対象に含んでいません。適応の可否は個別の状態によって異なるため、主治医・言語聴覚士に確認してください。

Q. これをやれば誤嚥性肺炎を防げますか?

誤嚥性肺炎の発生率そのものへの効果は、現時点の研究ではまだ十分に示されていません。口腔ケアなど他の対策とあわせて総合的に取り組むことが大切です。

Q. 認知症があっても訓練できますか?

訓練は口頭指示の理解と一定の集中力を必要とするため、重度の認知機能低下がある場合は難しいことがあります。個別の状態に応じて専門職が実施可否を判断します。

Q. 食事の形態はいつ元に戻せますか?

食形態の変更は、必ず嚥下評価の結果に基づいて医師・言語聴覚士が判断します。自己判断で形態を戻すことは誤嚥のリスクを高める可能性があるため避けてください。

参考文献

1. Wang L, Qiao J, Wei Z, et al. Respiratory-swallow coordination training using bimodal signal biofeedback for patients with post-stroke dysphagia: a randomized controlled trial. Ann Med. 2026;58(1):2607218. PMID: 41466097
2. Li N, Jin Q, Zhang Y, et al. Surface electromyographic biofeedback versus neuromuscular electrical stimulation for post-stroke dysphagia: a systematic review and network meta-analysis. Front Neurol. 2025. PMID: 41180524
3. Benfield JK, Everton LF, Bath PM, England TJ. Does Therapy With Biofeedback Improve Swallowing in Adults With Dysphagia? A Systematic Review and Meta-Analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2019. PMID: 29859178

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