
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
結論:健康な地域在住高齢者では、軽〜中等度の負荷をできるだけ速く持ち上げ、ゆっくり戻すパワートレーニングが、通常の筋力トレーニングより身体機能をわずかに高める可能性があります。ただし根拠の確実性は低く、転倒予防や長期安全性は未確立です。最初は専門職と動作・負荷を確認します。
「筋トレはゆっくり行うもの」と思っている方は多いかもしれません。実は、重りを「素早く持ち上げる」ことを意識したパワートレーニングという方法が、高齢者の身体機能について研究されています。この記事では、通常の筋トレと比べた研究をもとに、分かっていることと分かっていないことを正直に整理します1。
この記事でわかること
パワートレーニングとは何か
パワートレーニングとは、重りを「できるだけ素早く持ち上げ、ゆっくり下ろす」筋力トレーニングのことです。一般的な筋トレが「ゆっくり持ち上げてゆっくり下ろす」のに対し、持ち上げる局面だけスピードを意識する点が違いです1。
ここでいう「パワー」とは、力の強さ(筋力)だけでなく、「どれだけ速く力を出せるか」を表す指標です。年齢とともに、筋力よりもこのパワーの方が早く低下しやすいと考えられており、椅子からの立ち上がり、信号が変わる前に横断歩道を渡る、つまずいたときに足を素早く出す、といった日常の動作に関わるとされています。高齢者の運動全般については高齢者のフレイルと運動療法について解説した記事で、筋肉量と栄養についてはサルコペニアと運動・栄養について解説した記事で取り上げています。

研究では何が分かっているか
結論から言うと、健康な地域在住の高齢者では、パワートレーニングは通常の筋トレと比べて身体機能がわずかに高くなる可能性が報告されています。ただし差は小さく、研究の質にも課題があります。
メタアナリシス 2022年
60歳以上の地域在住の高齢者を対象に、パワートレーニングと通常の筋トレを直接比べた20件のRCT(566名、平均70.1歳)をまとめた研究では、身体機能(立ち上がりや歩行などのテスト)でパワートレーニングの方がわずかに高い点数でした(13件・383名の統合で標準化平均差0.30、95%信頼区間0.05〜0.54)1。筋パワーそのものも高くなりましたが(標準化平均差0.44)、筋力・筋肉量・歩行速度には両者で差がありませんでした1。
メタアナリシス 2022年
同じ研究で、有害事象(トレーニング中の痛みなど)は1,000回あたりパワートレーニング3.27件、通常の筋トレ2.08件と、どちらも少なく、重い有害事象の報告はありませんでした。続けられた割合(参加率)もおよそ82%で同程度でした1。具体的な変化の目安として、立ち上がって歩いて戻るテスト(TUG)で平均約0.6秒速くなる程度と推定されています1。
メタアナリシス 2023年
転倒リスクに関わる身体機能テストに注目した別のメタアナリシス(12件・478名)では、パワートレーニングの方がTUGで平均0.31秒速い傾向が見られましたが、差は統計的にぎりぎりで、30秒間の立ち上がり回数でははっきりした差ではありませんでした2。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
研究で見られた差は「わずか」なもので、「通常の筋トレでは意味がない」ということではありません。筋力や筋肉量、歩行速度については、どちらの方法でも差がありませんでした1。また、対象の多くは健康で元気な高齢者で、脳卒中などの病気や強い痛みのある方の結果ではない点にも注意が必要です1。
研究で見られた差は「わずか」なもので、「通常の筋トレでは意味がない」ということではありません。筋力や筋肉量、歩行速度については、どちらの方法でも差がありませんでした1。また、対象の多くは健康で元気な高齢者で、脳卒中などの病気や強い痛みのある方の結果ではない点にも注意が必要です1。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
パワートレーニングの研究には、次のような限界があります。
1.多くの研究は参加者が数十名程度と小規模で、期間も12週間程度と短いこと1
2.身体機能の結果は、バイアスリスクと精度の問題からエビデンスの確実性が「低い」と評価されていること1
3.トレーニング中に実際どのくらいの速度で動かせていたかが、ほとんどの研究で測られていないこと1
4.有害事象の記録が十分でない研究があること1
まだ分かっていないこと
パワートレーニングが転倒そのものを減らすかどうかは、まだ十分に分かっていません。また、フレイル(虚弱)が進んだ方、脳卒中・パーキンソン病など神経の病気がある方、膝や腰に痛みがある方での安全性や効果、最適な重さ・回数・期間についても、研究は限られています12。
エビデンスの質と限界
紹介したメタアナリシスはRCTのみを統合した信頼性の高い手法ですが、含まれる研究の規模が小さく、バイアスリスクが高い研究も含まれています1。研究全体では一定の傾向がありますが、対象者の健康状態や運動の内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
変わりやすいと報告されているもの
筋パワー(速く力を出す能力)と、立ち上がり・歩行などを組み合わせた身体機能テストの点数(ただし差は小さい)1。
変わりにくい・研究ごとに差があるもの
筋力・筋肉量・歩行速度(通常の筋トレと差がない)1、バランス(確実性が非常に低い)1、自己評価での生活のしやすさ1。
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か
検討する場面があるケース
通常の筋トレをある程度続けられている元気な高齢者で、「立ち上がりや歩き出しがもたつく」「とっさの一歩が出にくい」と感じている方では、専門職と相談しながらパワートレーニングの要素を取り入れる場面があります。
注意が必要なケース
高血圧や心臓の病気がある方、関節に強い痛みや変形がある方、骨粗しょう症が強い方、転倒を繰り返している方、脳卒中などで麻痺がある方は、素早い動きが負担やふらつきにつながる可能性があります。必ず主治医に相談し、まずは安全な方法での筋トレやバランス練習から始めてください。高齢者の運動の種類の選び方については転倒対策の運動の種類を比較した記事もご参照ください。
回数・頻度・期間の目安
研究で多く用いられていたのは、週2回・12週間程度、1種目あたり8〜10回を3セット、1回で持ち上げられる最大重量の40〜70%程度の負荷でした1。持ち上げる局面は「できるだけ速く」、下ろす局面は2〜3秒かけてゆっくり行う方法です1。ただし、これは健康な高齢者を対象にした研究上の条件です。自宅で行う場合は、重りを使わずに「椅子から素早く立ち上がり、ゆっくり座る」といった自分の体重を使った動きから始め、痛みや息切れが出ない範囲で調整することが大切です。


まとめ|作業療法士の視点と安全上の注意
作業療法士の視点
作業療法士の視点では、速く動かすこと自体を目的にせず、立ち上がり、歩き出し、段差、急いで姿勢を整える場面など、生活で必要な動作と結びつけます。持病、痛み、血圧、転倒歴、服薬、認知面を確認し、通常速度での正確な動作が保ててから速度を加えます。
中止基準と医療機関へ相談すべき症状
運動中に胸痛、強い息切れ、失神しそうな感覚、動悸、冷汗、普段と違う強い頭痛、急な麻痺・しびれ・言葉の出にくさ、強いめまい、転倒、鋭い関節痛が出た場合は中止してください。症状が強い場合や突然の神経症状は救急受診を検討します。運動後の痛みや疲労が翌日まで強く残る場合は負荷を下げ、医療機関や担当者へ相談してください。
研究で扱われたパワートレーニングは、自己流で急に重い物を動かす方法ではありません。動作の質、可動域、痛み、血圧、休息を確認しながら段階的に行われています。フレイル、骨粗鬆症、心疾患、脳卒中後などでは研究結果をそのまま当てはめず、個別評価が必要です。
パワートレーニングは「若い人やアスリートのための特別な方法」ではなく、元気な高齢者にとっては選択肢の一つになりうる方法です。ただし、研究で示されている差は小さく、通常の筋トレを否定するものではありません。安全に続けられる方法を選び、体調に合わせて調整していくことが何より大切だと考えています。
まとめ
・パワートレーニングは「素早く持ち上げ、ゆっくり下ろす」筋トレです1
・健康な高齢者では、通常の筋トレより身体機能がわずかに高くなる可能性がありますが、確実性は低い評価です1
・筋力・筋肉量・歩行速度には差がなく、転倒そのものへの影響はまだ分かっていません12
・持病や痛みがある方は、必ず主治医・専門職と相談してから始めてください
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。運動の開始・変更については、必ず主治医またはリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年9月)のものであり、今後の研究により内容が更新される可能性があります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
立ち上がりや歩き出しの動作、今の身体に合った運動について、身体の状態を一緒に確認しながらリハビリの内容を考えます。
執筆・確認と運営上の立場
本記事は、株式会社Journey Rehab代表の作業療法士・田中 光が執筆し、文献内容を2026年9月24日に再確認しました。研究結果は個人の身体機能向上や転倒予防を保証するものではありません。運動の可否と負荷は主治医・担当専門職へご相談ください。
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
よくある質問
Q. パワートレーニングと普通の筋トレは何が違うのですか?
重りを持ち上げる局面をできるだけ素早く行い、下ろす局面はゆっくり行う点が違いです。普通の筋トレは上げ下げともにゆっくり行うことが多いです。
Q. 高齢者が素早く動かして危なくないですか?
健康な高齢者を対象にした研究では、有害事象は少なく、重い有害事象の報告はありませんでした。ただし持病や痛みがある方は、必ず主治医に相談してから始めてください。
Q. パワートレーニングで転ばなくなりますか?
転倒そのものを減らすかどうかはまだ十分に分かっていません。立ち上がりなどのテストでわずかな差が報告されている段階です。
Q. どのくらいの頻度で行えばよいですか?
研究では週2回・12週間程度が多く用いられていました。体力や体調に合わせて専門職と相談して決めるのがおすすめです。
Q. 自宅でもできますか?
重りを使わず、椅子から素早く立ち上がってゆっくり座るといった動きから始める方法が考えられます。ふらつきがある方は、必ず支えのある場所で行ってください。
Q. 脳卒中後でもパワートレーニングはできますか?
紹介した研究は主に健康な高齢者が対象で、脳卒中後の方にそのまま当てはまるとは限りません。麻痺やバランスの状態によって安全な方法が異なるため、担当のセラピストに相談してください。
参考文献
1. Balachandran AT, Steele J, Angielczyk D, et al. Comparison of Power Training vs Traditional Strength Training on Physical Function in Older Adults: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Netw Open. 2022. PMID: 35544136
2. Jiménez-Lupión D, Chirosa-Ríos L, Martínez-García D, et al. Effects of Power Training on Functional Capacity Related to Fall Risk in Older Adults: A Systematic Review and Meta-analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2023. PMID: 36868491