
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「体力をつけたいけれど、脳卒中の後にきつい運動をしても大丈夫だろうか」「短い時間で効率よく身体を動かす方法はないか」——こうしたご相談をいただくことがあります。近年、短い高強度の運動と、ゆるめの回復を交互にくり返す「HIIT(高強度インターバルトレーニング)」が、脳卒中後のリハビリでも研究されるようになってきました。結論から正直にお伝えすると、適切に体調を確認したうえで行えば、HIITは全身持久力(心肺体力)を高める方法として、通常のゆるやかな有酸素運動より効率的な可能性が報告されています。一方で、脳卒中後の運動は、発症からの時期、麻痺の程度、歩行能力、心疾患や血圧の状態、服薬状況などによって適切な内容が大きく異なります。そのため、HIITが合うかどうかは個別判断が必要であり、安全のための確認や医師の判断が欠かせません。この記事では、脳卒中後のHIITについて、研究で分かっていること・分かっていないこと、向いている人、進め方の考え方を、患者さんとご家族に向けて整理します。

・脳卒中後のHIITを集めた解析(9試験・375名)では、通常の連続した有酸素運動と比べて、心肺体力(最高酸素摂取量)・バランス・歩行速度で良い方向の結果が報告され、重い有害事象はみられませんでした1。ただし、研究参加者は事前に安全性を確認された方であり、すべての脳卒中後の方に同じ安全性が保証されるわけではありません。
・慢性期の方を対象にした比較試験では、HIITは通常の中強度連続運動よりも心肺体力の伸びが大きく、研究に関連した重い有害事象は起きなかったと報告されています2,3。
・HIITは主に心肺体力・持久力への介入です。麻痺や歩行パターン、生活動作を整えるには、課題指向訓練、歩行練習、生活動作練習などと組み合わせて考えることが大切です。
・HIITは「誰にでも安全な運動」ではありません。発症時期、麻痺の程度、心疾患や血圧の状態などを含め、主治医やリハビリ専門職と個別に確認することが前提です。
HIIT(高強度インターバル運動)とは
HIIT(High-Intensity Interval Training、高強度インターバルトレーニング)とは、「短い時間の高強度の運動」と「ゆるめの回復」を交互にくり返す運動方法です。たとえば、1分間ややきつめに動いて、次の1分間はゆっくり動く、というサイクルを何回かくり返します。ずっと同じ中くらいの強さで続ける運動(中強度連続運動、MICTと呼ばれます)に比べて、合計の運動時間が短くても心肺に強い刺激を与えられるのが特徴です。
脳卒中のリハビリでは、トレッドミル(ランニングマシン)での歩行や、座って行う自転車エルゴメーターを使ってHIITを行う研究が多く報告されています1,5。強度の目安には、心拍数(最大心拍数や予備心拍数の割合)や「ややきつい〜かなりきつい」という主観的な運動強度が使われます。ただし、脳卒中後は麻痺や体力の低下に加えて、心疾患、血圧変動、疲労、服薬の影響などを考える必要があります。健康な人向けのHIITをそのまままねて行うものではなく、その方の状態に合わせて強さ・時間・回復のとり方を調整することが前提になります。全身の体力づくりという意味では、ゆるやかな有酸素運動と共通する狙いもあり、脳卒中後の有酸素運動について解説した記事もあわせて参考になります。
研究で分かっていること
結論から先にお伝えすると、脳卒中後のHIITで比較的一貫して報告されているのは「心肺体力(全身の持久力)」への良い方向の結果です。一方で、歩行やバランスなどの生活機能については研究によって結果が分かれます。主な研究を見てみます。
発症から6か月以上たった慢性期の方を対象にした多施設共同のランダム化比較試験(82名)では、12週間のHIITは中強度連続運動よりも最高酸素摂取量の伸びが大きく(両群の差1.81 mL/kg/分)、研究期間中に有害事象は起きなかったと報告されています。ただし血圧などの心血管リスク指標や歩行の指標では、両群に明らかな差はありませんでした2。
歩行に困難のある方を対象にした24週間の試験(47名)でも、HIITは中強度連続運動より最高酸素摂取量の伸びが約2倍大きい結果でした。一方で、6分間歩行距離はどちらの群も臨床的に意味のある大きさで伸び、両群に統計的な差はありませんでした。研究に関連した重い有害事象はなかったと報告されています3。この結果は、HIITが「麻痺を直接改善する」「必ず歩けるようにする」という意味ではなく、主に心肺体力・持久力への介入として理解することが大切です。
ノルウェーの多施設試験(70名)では、通常のケアにトレッドミルHIITを加えた群で、介入直後に6分間歩行距離・バランス・遂行機能の一部が良い方向に変化しました。ただし、その多くは12か月後には差が保たれていませんでした4。

エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
HIITの研究は増えてきていますが、期待できる部分と、まだはっきりしない部分をていねいに分けて知っておくことが大切です。研究には次のような限界があります。
・心肺体力は良い方向に変わりやすい一方で、歩行距離やバランス、日常生活の自立度が通常の有酸素運動より優れるかは、研究によって結果が分かれています3,4,5。
・介入直後に得られた変化が、その後も長く保たれるかは十分に分かっていません。ある研究では12か月後に多くの差が保たれませんでした4。
・研究に参加した方は、事前の運動負荷検査などで安全性を確認して選ばれています。心臓や血圧に不安がある方すべてに同じように当てはまるわけではありません2,3。
・どのくらいの強さ・頻度・期間で行うのが最も良いのか、最適な方法はまだ定まっていません。
研究全体では、心肺体力に対しては一定の良い傾向がありますが、対象者や運動内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。だからこそ、まずは自分の身体の状態を確認したうえで、無理のない範囲から始める姿勢が現実的です。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
研究の傾向を整理すると、HIITで比較的変わりやすいのは「心肺体力(全身の持久力)」です1,2,3。持久力が上がると、同じ活動をしても以前より息切れしにくくなり、長い距離を歩いたり、外出したりする際のゆとりにつながる可能性があります。
一方で、麻痺そのものの回復や、歩き方のパターン、日常生活動作の自立度などは、HIITだけで大きく変わるとは限りません。歩行やバランスは、HIITでも中強度の運動でも同じように伸びたという研究があり、どちらが優れるかは一概にいえません3,4。そのため、HIITは「心肺体力・持久力を高めるための選択肢の一つ」として位置づけ、麻痺や歩行パターンの改善を目指す場合には、課題指向訓練、歩行練習、生活動作練習などと組み合わせて考えることが重要です。運動をいくつかの種目で組み合わせる進め方については、脳卒中後のサーキットトレーニングについて解説した記事も参考になります。
どんな人に向いているか・注意したい人
「体力を上げて活動範囲を広げたい」「ある程度歩けるが、すぐ息切れして疲れる」といった、心肺体力に伸びしろがある方は、HIITを含む有酸素運動の相談に向いている可能性があります。研究では、一定の距離を歩ける慢性期の方が対象になることが多かったです2,3。
始める前には、必ず主治医に相談し、運動して良い状態か、どの程度の強さまで大丈夫かを確認してください。運動中や運動後に、胸痛、強い息切れ、動悸、冷や汗、めまい、ふらつき、強い頭痛、いつもと違う脱力感、血圧の大きな変動がある場合は、すぐに中止し、医療機関へ相談してください。「きつい方が効く」と思って無理をするのではなく、安全の範囲を守ることが最優先です。血圧や生活習慣との付き合い方については、脳卒中後の血圧・食事・運動の目安について解説した記事もあわせてご覧ください。
進め方・頻度の考え方
研究で使われたHIITはさまざまですが、たとえば週3回、1回あたり合計20分前後で、短い高強度(心拍数の目安として予備心拍数の80〜100%など)とゆるめの回復を交互にくり返す形が用いられています2,3。ただし、これはあくまで研究上の一例で、「これが最適」という頻度・強度・期間はまだ定まっていません。
現場で意識されるのは、いきなり高強度から始めないことです。まずは体調を確認しながらゆるやかな運動に慣れ、無理のない範囲で少しずつ強度や時間を調整していきます。心拍数や「ややきつい」といった感覚を目安に、運動中・運動後の様子を見ながら進めます。体調・持病・疲れやすさには個人差が大きいため、主治医やリハビリ専門職と相談しながら、その方に合った形にしていくことが大切です。脳卒中後の運動の頻度や量の考え方全般については、有酸素運動の記事もあわせて参考になります。
Journey Rehabでの現場経験
実際には、同じメニューでも当日の体調によって感じ方が大きく変わることがあり、「今日は軽めに」「今日は少し長めに」と、その日ごとに調整することが多いです。心肺体力に伸びしろがある方では活動のゆとりにつながるように感じる一方で、疲れが強く出る方や、強度を上げにくい方もいらっしゃいます。だからこそ、研究の平均的な結果をそのまま当てはめるのではなく、その方の身体と生活に合わせて確認しながら進めることを大切にしています。安全に関わる部分は、必要に応じて主治医と連携しながら考えています。
最終更新日:2026年7月2日

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
よくある質問
2. Moncion K, Rodrigues L, De Las Heras B, et al. Cardiorespiratory Fitness Benefits of High-Intensity Interval Training After Stroke: A Randomized Controlled Trial. Stroke. 2024;55(9):2202-2211. DOI:10.1161/STROKEAHA.124.046564. PMID:39113181.
3. Marzolini S, Robertson AD, MacIntosh BJ, et al. Effect of High-Intensity Interval Training and Moderate-Intensity Continuous Training in People With Poststroke Gait Dysfunction: A Randomized Clinical Trial. J Am Heart Assoc. 2023;12(23):e031532. DOI:10.1161/JAHA.123.031532. PMID:37947080. PMCID:PMC10727274.
4. Gjellesvik TI, Becker F, Tjønna AE, et al. Effects of High-Intensity Interval Training After Stroke (The HIIT Stroke Study) on Physical and Cognitive Function: A Multicenter Randomized Controlled Trial. Arch Phys Med Rehabil. 2021;102(9):1683-1691. DOI:10.1016/j.apmr.2021.05.008. PMID:34102144.
5. Wiener J, McIntyre A, Janssen S, et al. Effectiveness of High-Intensity Interval Training for Fitness and Mobility Post Stroke: A Systematic Review. PM R. 2019;11(8):868-878. DOI:10.1002/pmrj.12154. PMID:30859720.


