脳卒中後の同名半盲とは?視野障害とリハビリの考え方

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後の同名半盲・視野障害とは?見えにくい半分への向き合い方とリハビリの考え方

「片側にあるものによくぶつかる」「食事の左半分(または右半分)を残してしまう」「本を読むと行の端が抜ける」——脳卒中の後に、こうした「視野の半分が見えにくい」困りごとをいただくことがあります。これは同名半盲(どうめいはんもう)と呼ばれる視野障害と関係していることがあります。結論から正直にお伝えすると、失われた視野そのものをリハビリで元どおりに取り戻すことは、現在の研究では難しいと考えられています。一方で、見えにくい側へ意識的に視線を動かして補う練習(視覚探索・視覚代償)など、生活のしづらさを軽くする手がかりは報告されています。この記事では、脳卒中後の同名半盲・視野障害について、研究で分かっていること・分かっていないこと、向いている人、進め方の考え方を、患者さんとご家族に向けて整理します。

同名半盲で片側が見えにくくなる状態を療法士と確認する場面
▲ 視野の片側が見えにくくなる同名半盲のイメージ
この記事の要点
・同名半盲とは、両目の同じ側(右または左)の視野が欠ける状態です。視野障害は脳卒中の後に20〜57%の方にみられると報告されています1
・リハビリには大きく、視野そのものを取り戻そうとする方法(回復)、見えにくさを補う方法(代償:視覚探索・視覚と音を組み合わせた訓練)、道具で補う方法(プリズム眼鏡など)があります1
・脳卒中後の視野障害への介入を集めたコクランレビューでは、視覚探索(代償)訓練は生活の質の一部で良い方向の結果が示されましたが、根拠の質は低めで、視野そのものや読書・日常生活動作を変えるという十分な根拠はまだ得られていません1
・視覚と音を組み合わせた訓練(視聴覚訓練)では、見えにくい側の探索が速く正確になり、その変化が一定期間保たれたとする報告があります。ただし仕組みはまだ十分に分かっていません2
・視野が回復しなくても、探索の仕方や環境の工夫で生活のしづらさを軽くしていく方向が現実的です。安全のため、運転や外出については専門職・医師への相談が大切です。
SECTION 01
同名半盲・視野障害とは

同名半盲とは、両目の同じ側の視野が欠けてしまう状態です。たとえば「右同名半盲」では、右目・左目ともに視野の右半分が見えにくくなります。これは目そのものの病気ではなく、目から入った情報を脳へ伝える通り道(視覚経路)や、後頭葉などの脳が脳卒中で影響を受けることで起こります。視野障害は、脳卒中の後に20〜57%の方にみられると報告されており、決してまれなものではありません1

視野の半分が見えにくくなると、見えにくい側の人や物にぶつかる、食事や新聞の片側を見落とす、読書で行を追いにくい、外出や移動で不安が増える、といった形で生活に影響が出ることがあります。ここで大切なのは、同名半盲は「視野が欠ける」問題であり、「注意が片側に向きにくくなる」半側空間無視とは別の状態だという点です。両者は重なって現れることもありますが、成り立ちが異なります。注意の偏りが中心となる半側空間無視については、半側空間無視と視覚探索訓練について解説した記事で整理しています。ご自身がどちらに近いのか、あるいは両方が関わっているのかは、専門職の評価で確認することが役立ちます。

SECTION 02
研究で分かっていること

視野障害へのリハビリは、大きく三つの考え方に分けられます。(1)視野そのものを取り戻そうとする方法(回復・視野再訓練)、(2)見えにくさを別のやり方で補う方法(代償:見えにくい側へ意識的に視線を動かす視覚探索訓練など)、(3)道具で補う方法(プリズム眼鏡などの装用)です1。それぞれ、研究で分かっていることが異なります。

研究から読み取れること
脳卒中後の視野障害への介入を集めたコクランレビュー(20試験・732名。うち脳卒中のデータは547名)では、次のように整理されています1

・視覚探索(代償)訓練:対照と比べて、生活の質の指標(視機能に関する質問票VFQ-25)で良い方向の結果(平均差9.36、95%信頼区間3.10〜15.62)が示されました。ただし根拠の質は低めで、視野そのもの、読書、日常生活動作、拡大した日常生活動作を変えるという十分な根拠は得られませんでした。有害事象の明らかな増加はありませんでした。

・回復(視野再訓練):研究数もデータも少なく、視野を取り戻すという点でははっきりした効果は示されておらず、結論を出すには根拠が不足しているとされています。

・プリズム眼鏡(道具による代償):日常生活動作、読書、転倒、生活の質を変えるという根拠は乏しく、探索の一部で良い方向の結果が示された研究があるものの、頭痛などの軽い有害事象が増える可能性が指摘されています。

全体として著者らは、「もっとも知りたい『日常生活動作への効果』に関する根拠が不足している」とまとめ、視覚探索訓練が生活の質の面で役立つ可能性を示しつつも、確実な結論には至らないとしています1

近年は、見えにくい側に光と音を同時に提示して、見えにくい側への反応を促す「視聴覚(オーディオビジュアル)訓練」も研究されています。16の研究(うち参加者データは14研究・188名)を集めた総説では、この訓練によって見えにくい側の探索が速く正確になり、その変化が最長12か月ほど保たれたとする報告が紹介されています。ただし、これは視野が回復したためではなく、目の動き(探索)で補う力が高まったためと考えられており、なぜ効くのかという仕組みはまだ十分に分かっていないとされています2

同名半盲の視覚探索訓練で療法士が見えにくい側への視線移動を促す場面
▲ 見えにくい側へ意識的に視線を動かして補う視覚探索のイメージ
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと

このテーマは、期待できる部分と不確かな部分を、ていねいに分けて知っておくことが大切です。研究には次のような限界があります。

まだ分かっていないこと・研究の限界
・多くの研究で参加人数が少なく、方法や評価の指標がばらばらで、根拠の質は「とても低い〜低い」とされる部分が多くあります1
・もっとも知りたい「日常生活動作がどれだけ楽になるか」を調べた研究がとても少なく、結論を出しにくい状況です1
・視覚探索訓練は生活の質の一部で良い方向の結果がある一方、視野そのものや読書を変えるという十分な根拠はありません1
・視聴覚訓練は探索を助ける可能性が報告されていますが、なぜ効くのかという仕組みや、最適な方法はまだ分かっていません2
・プリズム眼鏡は、頭痛などの軽い不調が出ることがあります。合う・合わないの個人差も大きいと考えられます1
・発症からの時期や視野障害の範囲、併存する注意・認知の問題によって結果が変わる可能性があり、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。

こうした限界があるからこそ、「視野を必ず元に戻す」ことを目標にするより、「見えにくさがあっても、生活のなかで困る場面を一つずつ減らしていく」という方向で、工夫を試しながら確かめていく姿勢が現実的です。なお、視野を電気などで刺激して回復を目指す非侵襲的脳刺激も研究されていますが、現時点では一部の指標で良い方向の結果が示された段階で、より大規模で長期の検証が必要とされています3

SECTION 04
何が変わりやすく、何は変わりにくいか

研究と現場の経験から見えてくるのは、「欠けた視野そのものを取り戻す」ことは変わりにくい一方で、「見えにくい側へ視線を動かして補う力」や「見落としにくくする環境の工夫」は、取り組みやすい方向だということです1,2。たとえば、見えにくい側へ意識的に顔や目を向けるくせをつける、食器や資料を見やすい位置に置く、目印を活用する、といった補い方は、その場面での「気づける」を増やしやすいと考えられます。

ただし、練習した場面と大きく違う状況へ、その効果が自然に広がるとは限りません。だからこそ、練習は「実際に困っている生活場面」に近い形で行い、生活へつなげる視点が大切になります。とくに移動や外出時の安全は重要で、見えにくい側からの人や自転車、段差などに注意する必要があります。外出時の見え方や周囲への注意については、注意の向け方とも関わるため、脳卒中後の注意障害のリハビリについて解説した記事もあわせて参考になります。

SECTION 05
どんな人に向いているか・注意したい人

「見えにくい側の物によくぶつかる」「読書や書類で片側を見落とす」「外出時に不安が強い」といった、視野の欠けによる生活の困りごとがある方は、視覚探索の練習や環境調整の相談に向いている可能性があります。困っている場面が具体的なほど、練習を生活に結びつけやすくなります。

評価で確認することの例
視野障害の評価は、まず眼科や医師による視野検査で、どの範囲が見えにくいのかを確認することが基本です。あわせてリハビリでは、見えにくい側への視線の動かし方、食事・読書・移動などの生活場面での見落とし、半側空間無視が重なっていないか、といった点を確認します。検査の結果だけでなく、本人が実際にどの場面で困っているかを具体的に把握することが重要です。
⚠ 注意したいこと
視野障害は、移動時の転倒や、見えにくい側からの人・車への気づきにくさなど、安全に関わる場面が多くあります。まずは眼科・主治医による正確な診断と、リハビリ専門職による生活場面の評価を受けることが大切です。

特に自動車運転の再開は、視野障害があると法令上の基準を満たさない場合があり、自己判断で再開しないことが重要です。運転を検討する際は、必ず主治医に相談し、必要な検査や手続きを確認してください。運転再開の評価と進め方については、脳卒中後の運転再開について解説した記事もあわせてご覧ください。見えにくさを「気合いで見る」ことは難しく、責める必要はありません。仕組みを理解し、工夫と周囲の支えで補う視点が役立ちます。
SECTION 06
進め方・工夫の考え方

研究で用いられた方法や量はさまざまで、「これが最適」という頻度・期間はまだ定まっていません1。そのうえで現場で意識されるのは、次のような考え方です。まず、本人が困っている生活場面(食事・読書・移動など)を一緒に選び、目標を具体的にします。次に、見えにくい側へ意識的に顔や目を向ける練習を、その場面に近い形で行います。読書では、行の端を見失わないように指やしおりで位置を示す、資料を見やすい位置に置く、といった工夫も併用します。

環境の調整も大切です。よく使う物を見やすい側に置く、通路の障害物を減らす、明るさを確保する、といった工夫で、見落としによる不便や危険を減らしやすくなります。プリズム眼鏡などの道具は、合う方には選択肢になりますが、頭痛などが出ることもあるため、専門職と相談しながら試すことが望ましいです1。いずれの方法も、体調や視野の状態、生活の目標に合わせて、主治医・眼科・リハビリ専門職と相談しながら、無理のない範囲で進めることが大切です。

SECTION 07
Journey Rehabでの現場経験
現場で大切にしている考え方
Journey Rehabでは、脳卒中後の見えにくさについて相談を受けることがあります。その際、視野そのものを取り戻すことを約束するのではなく、まず生活のどの場面で困っているのかをていねいにうかがい、見えにくい側への視線の向け方や、物の配置・環境の工夫を一緒に考えるようにしています。

実際には、見えにくさそのものは残っていても、「よくぶつかる場所が決まっている」「食事の片側を残しやすい」といった具体的な困りごとに焦点を当てると、工夫の余地が見つかることがあります。一方で、変化を感じにくい方や、疲れやすさから練習を続けにくい方もいらっしゃいます。また、半側空間無視や注意の問題が重なっていることも多いため、眼科・主治医と連携しながら、生活全体で見ていくことを大切にしています。特に運転や外出など安全に関わる場面は、慎重に、専門職・医師と相談しながら進めるようにしています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
見えにくさによる生活の困りごとについて、身体と生活の状態を一緒に確認しながら考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨ではありません。視野障害の状態や原因は一人ひとり異なり、適したかかわり方も異なります。視野障害が疑われる場合は、まず眼科や主治医の診察を受けてください。実際の評価やリハビリの進め方、運転再開の可否などは、必ず主治医や担当の専門職に相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
見えなくなった視野は元に戻りますか?
現在の研究では、欠けた視野そのものを取り戻すことは難しいと考えられています1。一方で、発症後まもない時期には自然に一部が変化することもあります。見え方の変化については、眼科や主治医に確認することをおすすめします。
半側空間無視とは違うのですか?
同名半盲は「視野が欠ける」問題、半側空間無視は「注意が片側に向きにくい」問題で、成り立ちが異なります。ただし両方が重なることもあります。どちらが関わっているかは、専門職の評価で確認することが役立ちます。
リハビリでは何をするのですか?
見えにくい側へ意識的に視線を動かす練習(視覚探索)や、物の配置・読書時の工夫、環境調整などが中心になります。研究では、視覚探索訓練が生活の質の一部で良い方向の結果を示しています1。生活場面に合わせて進めることが大切です。
プリズム眼鏡は使った方がいいですか?
合う方には選択肢になりますが、日常生活動作を確実に変えるという十分な根拠はなく、頭痛などが出ることもあります1。使うかどうかは、眼科やリハビリ専門職と相談しながら、実際に試して判断するのが安心です。
車の運転はできますか?
視野障害があると、法令上の基準を満たさない場合があります。自己判断で再開せず、必ず主治医に相談し、必要な検査や手続きを確認してください。安全に関わる大切な判断です。
家族はどう関わればよいですか?
見えにくい側から急に話しかけず、見える側から声をかける、よく使う物を見やすい位置に置く、といった工夫が役立ちます。見落としを責めず、一緒に環境を整える姿勢が大切です。具体的な関わり方は専門職に相談してください。
REFERENCES
参考文献
1. Pollock A, Hazelton C, Rowe FJ, et al. Interventions for visual field defects in people with stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2019;(5):CD008388. DOI:10.1002/14651858.CD008388.pub3. PMID:31120142. PMCID:PMC6532331.
2. Alwashmi K, Meyer G, Rowe FJ. Audio-visual stimulation for visual compensatory functions in stroke survivors with visual field defect: a systematic review. Neurol Sci. 2022;43(4):2299-2321. DOI:10.1007/s10072-022-05926-y. PMID:35149925. PMCID:PMC8918177.
3. Abbas AW, Aboeldahab H, Abo Zeid M, et al. Non-invasive brain stimulation for treating visual defects: a systematic review and meta-analysis. Neurol Sci. 2025;46(7):3011-3023. DOI:10.1007/s10072-025-08069-y. PMID:40119237.