
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
結論:電気刺激・体外衝撃波・レーザーは、脳卒中後の片麻痺肩痛を軽くする可能性があります。ただし根拠の確実性は低く、長期効果や最適な設定、安全性の報告も十分ではありません。痛みの原因を評価し、姿勢調整や運動療法と組み合わせて検討する補助的な選択肢です。
脳卒中の後遺症として多くの方が経験する「麻痺した側の肩の痛み」。湿布や電気治療、最近では衝撃波やレーザーを使った治療を勧められた方もいるかもしれません。結論から言うと、これらの物理療法は痛みを和らげる可能性が報告されていますが、その根拠の質は「低い〜非常に低い」レベルにとどまり、長期的な効果や安全性にはまだ不確実な部分が残っています1。この記事では、2026年に発表された最新のシステマティックレビューをもとに、何が分かっていて、何がまだ分かっていないのかを正直にお伝えします。
この記事でわかること
片麻痺肩の痛みはなぜ起こるのか
脳卒中後に麻痺側の肩が痛くなる状態は「片麻痺肩痛(へんまひけんつう)」と呼ばれ、発症後の方の実に多くが経験すると報告されています。原因は一つではなく、肩関節がゆるんでずれる「亜脱臼」、筋肉や関節包が硬くなる「拘縮」、腕の重みが神経や血管を引っ張ることによる炎症、さらには脳の感覚処理の変化が関わる複合性局所疼痛症候群(CRPS)まで、複数の要因が重なって起こると考えられています1。痛みの出方は、動作時、安静時、夜間など人によって異なります。
肩の痛みそのものについては、亜脱臼との関係を整理した記事や、装具・電気刺激・評価を時期別にまとめた記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。ここでは、痛みそのものに直接アプローチする「物理療法(電気刺激・衝撃波・レーザー)」に焦点を当てて、研究で分かっていることを見ていきます。

電気療法・衝撃波療法・レーザー療法の研究では何がわかっているか
2026年に発表されたシステマティックレビューでは、片麻痺肩痛に対する物理療法を検証した12件のランダム化比較試験(参加者567名)がまとめられました1。内訳は電気療法7件、体外衝撃波療法3件、レーザー療法3件です(一部の研究は複数モダリティを比較しているため重複を含みます)。
システマティックレビュー 2026年
電気療法(経皮的な筋肉内電気刺激や神経刺激、NMES、TENS、干渉波など)は、多くの研究で偽治療や通常ケアより痛みを軽減したと報告されています。中でも筋肉内電気刺激は12ヶ月後まで鎮痛効果が持続したという報告もありました1。
システマティックレビュー 2026年
体外衝撃波療法(ESWT)は、3件すべてで偽治療と比べて痛みの統計的な軽減が報告され、超音波検査での組織の変化改善も一部で示されました。ただし、通常の物理療法との比較では効果の差がはっきりしない結果も見られています1。
システマティックレビュー 2026年
低出力レーザー療法・高強度レーザー療法(LLLT/HILT)は、3件すべてで痛みと機能(肩関節可動域や日常生活動作)の両方に改善がみられたと報告されており、3種類のモダリティの中では最も一貫した結果を示しています1。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
これらはあくまで「痛みが軽くなる可能性がある」という報告であり、全員に同じように効くわけではありません。また、電気刺激や衝撃波は肩の亜脱臼や拘縮そのものを治すものではなく、痛みを和らげながら運動療法を行いやすくするための補助的な手段として位置づけられています。
これらはあくまで「痛みが軽くなる可能性がある」という報告であり、全員に同じように効くわけではありません。また、電気刺激や衝撃波は肩の亜脱臼や拘縮そのものを治すものではなく、痛みを和らげながら運動療法を行いやすくするための補助的な手段として位置づけられています。
エビデンスの質と限界
正直にお伝えすると、これらの研究の根拠の確実性(エビデンスの質)は、電気療法・衝撃波療法・レーザー療法のいずれについても「非常に低い」と評価されています1。理由は主に次の3点です。
1.12件の研究すべてで「結果を評価する人が、どちらの群かを知っていた可能性がある(評価者バイアス)」という方法論上の懸念があること
2.対象者の重症度、実施した治療の細かい設定(強度・回数・期間)、比較対象がバラバラで、研究間の結果にばらつき(異質性)が大きく、まとめて統計的に解析すること自体ができなかったこと
3.12件中5件しか治療後の追跡調査を行っておらず、効果がどのくらいの期間続くのかが十分に検証されていないこと
まだ分かっていないこと
どのタイミング(発症からどのくらい経過した時期)で始めるのが最も良いか、どのくらいの強度・回数・期間が最適か、亜脱臼の程度や痛みの原因(筋・関節由来か、神経由来か)によって効果が変わるのかは、現在の研究ではまだ十分に分かっていません。また、有害事象の報告も12件中5件(42%)でしか明確にされておらず、安全性についても引き続き情報を集めていく必要があります1。
エビデンスの質と限界
今回のレビューは英語で発表された論文のみを対象としているため、他言語で行われた関連研究が含まれていない可能性があります。また、研究ごとに対象者の重症度や治療内容が大きく異なるため、統計的に一つにまとめる「メタアナリシス」ができず、それぞれの研究結果を個別に見ていく形にとどまっています。研究全体では一定の傾向がありますが、対象者の条件や介入内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません1。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
変わりやすいと報告されているもの
安静時や運動時の痛みの強さ(VAS・NRSなどの痛みスケール)。特にレーザー療法では、痛みに加えて肩関節可動域や日常生活動作スコアの改善も報告されています1。
変わりにくい・研究ごとに差があるもの
肩の亜脱臼の程度そのもの(一部の電気刺激研究では改善が示されていますが、痛みの軽減とは別の指標です)、生活の質(QOL)スコア、長期(1年以上)の効果持続性については、研究間で結果が一致していません1。
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か
検討する場面があるケース
運動療法や姿勢管理だけでは痛みが強く、動かすこと自体が難しい方。痛みのために運動療法への参加が妨げられている方では、物理療法を補助的に組み合わせることを主治医・担当セラピストと相談する場面があります1。
注意が必要なケース
ペースメーカーなど植込み型医療機器がある方、皮膚に感覚障害や創傷がある方、悪性腫瘍の既往がある部位、妊娠中の方などでは、電気刺激や衝撃波・レーザーの適用そのものが制限される場合があります。自己判断で市販の電気治療器などを使う前に、必ず主治医・リハビリ専門職に相談してください。有害事象の報告が不十分な研究も多いため、実施中に痛みの悪化や皮膚トラブルがあればすぐに中止し、専門職へ相談することが大切です1。
頻度・期間の目安
レビューに含まれた研究では、週3〜5回程度、2〜6週間ほど継続して実施されたものが中心でした。ただし、最適な回数・強度・期間を示す統一的な基準はまだ確立されておらず、症状や機器の種類によって設定は変わります1。実際の頻度は、痛みの原因、皮膚・感覚の状態、機器の種類を確認し、運動療法やポジショニングと合わせて専門職が調整します。


まとめ|作業療法士の視点と安全上の注意
作業療法士の視点
作業療法士の視点では、痛みの点数だけでなく、着替え、整容、寝返り、車いす操作など、肩の痛みで難しくなっている生活行為を確認します。腕を安全に支える方法や介助の仕方を整え、物理療法を使う場合も、生活動作につながる練習と分けずに考えます。
中止基準と医療機関へ相談すべき症状
練習中に肩の痛みが急に強くなる、腫れ・発赤・熱感が出る、皮膚に水疱ややけど様の変化が出る、胸痛・強い息切れ・失神しそうな感覚、新しい麻痺・しびれ・ろれつの回りにくさが出た場合は中止してください。急な神経症状は救急受診を検討し、外傷後の強い痛みや変形、夜間も続く急な増悪は医療機関へ相談してください。植込み型医療機器、感覚障害、皮膚疾患がある方は、自己判断で電気刺激を行わないでください。
片麻痺肩痛では、亜脱臼、拘縮、筋・腱の問題、感覚変化などが重なることがあります。物理療法だけで原因を決めつけず、腕の支え方、介助方法、睡眠姿勢、日中の活動を一緒に確認することが重要です。痛みが強い場合も、我慢して動かすのではなく、原因評価と安全な範囲の活動を相談してください。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。肩の痛みや治療の実施可否については、必ず主治医または担当のリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年9月)のものであり、今後の研究により内容が更新される可能性があります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
肩の痛みや腕の動かしにくさについて、身体の状態を一緒に確認しながらリハビリの内容を考えます。
執筆・確認と運営上の立場
本記事は、株式会社Journey Rehab代表の作業療法士・田中 光が執筆し、文献内容を2026年9月23日に再確認しました。研究結果は個人の効果を保証するものではなく、診断や治療方針は主治医・担当医療者にご相談ください。
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
よくある質問
Q. 肩の電気治療は保険リハビリでも受けられますか?
医療機関やクリニックで実施している電気治療もありますが、機器の種類や実施内容は施設によって異なります。まずは主治医・担当のリハビリ専門職に、ご自身の状態に合った方法かどうかを確認することをおすすめします。
Q. 衝撃波療法やレーザー療法は痛みませんか?
研究では強い痛みを伴う合併症は報告されていませんが、施術中に多少の刺激感や熱感を感じることはあります。皮膚の状態や感覚障害の有無によって適応が異なるため、事前に専門職へ相談してください。
Q. どのくらいの期間で痛みが軽くなりますか?
研究では2〜6週間程度の継続実施で痛みの軽減が報告されていますが、個人差が大きく、全員に同じ期間で効果が出るとは限りません。目安として担当セラピストと経過を確認しながら進めることが大切です。
Q. 亜脱臼がある場合、電気刺激で治りますか?
一部の研究では電気刺激で亜脱臼の程度が軽くなったという報告もありますが、痛みの軽減とは別の指標であり、全ての方に同じ結果が出るとは限りません。亜脱臼への対応は装具や姿勢管理と合わせて考える必要があります。
Q. 自宅で使える家庭用の電気治療器でも同じ効果がありますか?
研究で使われた機器は医療用・専門用のものが中心で、家庭用機器と条件が異なる場合があります。自己判断で使用する前に、必ず主治医やリハビリ専門職に相談してください。
Q. ペースメーカーが入っていますが受けられますか?
植込み型医療機器がある方は、電気刺激や一部の物理療法が適用できない場合があります。必ず事前に主治医に相談し、許可を得たうえで検討してください。
Q. 痛みが強くて腕を動かすのも怖いのですが、どうすればいいですか?
無理に動かす必要はありませんが、動かさない状態が続くと拘縮が進むこともあります。痛みの原因や程度に応じた安全な進め方を専門職と一緒に考えることが大切です。一人で抱え込まず、早めに相談してください。
参考文献
1. Spina S, Facciorusso S, D’Ascanio MC, et al. Efficacy of Physical Modalities for Hemiplegic Shoulder Pain After Stroke: A Systematic Review. J Neurol Phys Ther. 2026;50(4):260-273. PMID: 42226090
2. Alanbay E, Aras B, Kesikburun S, et al. Effectiveness of Suprascapular Nerve Pulsed Radiofrequency Treatment for Hemiplegic Shoulder Pain: A Randomized-Controlled Trial. Pain Physician. 2020. PMID: 32517390(補助参考)
3. Kumar R, Metter EJ, Mehta AJ, Chew T. Shoulder pain in hemiplegia. The role of exercise. Am J Phys Med Rehabil. 1990. PMID: 2383382(補助参考・運動プログラムと肩痛リスクの関係)


