
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「動きが小さくなってきた」「歩幅が狭く、すり足になりやすい」「自分では大きく動いているつもりでも、周りから見ると小さい」——パーキンソン病では、こうした「動きの小ささ」に関する困りごとをいただくことがあります。これに対して、あえて大きく動くことを集中的に練習する「LSVT BIG(エルエスブイティー・ビッグ)」という運動プログラムが研究されています。結論から正直にお伝えすると、LSVT BIGは、軽症の方を中心とした小規模な研究で、運動機能の指標が良い方向に変わったと報告されていますが、根拠はまだ限られており「予備的」な段階です。この記事では、LSVT BIGについて、研究で分かっていること・分かっていないこと、向いている人、進め方の考え方を、患者さんとご家族に向けて整理します。

・標準的には、認定を受けた療法士のもとで、4週間に16回(週4回・1回1時間)行い、自宅練習も組み合わせます1。
・3つのランダム化比較試験をまとめた解析(84名・軽症のパーキンソン病)では、一般的な運動や短縮版と比べて、運動機能の指標(UPDRS運動スコア)が良い方向に変わりました(平均差−3.20)。ただし根拠は「予備的・中程度の質」とされています1。
・ベルリンの研究(60名)でも、ノルディックウォーキングや自宅運動と比べて運動スコアが良い方向に変わりました4。
・一方で、より短い運動プログラムでも同じくらい運動機能が変わったという報告もあり、「大きく動く」という要素をどこまで厳密に行う必要があるかは、まだ議論があります2。
LSVT BIGは、パーキンソン病でみられる「動きの小ささ(寡動・無動)」に着目した運動プログラムです。パーキンソン病では、本人は普通に動いているつもりでも、実際には動きが小さくなっていることがあります。そこでLSVT BIGでは、腕や体を意識的に大きく動かす練習をくり返し、「大きく動く」という感覚を身体に覚え込ませていくことを狙います1,3。この考え方は、もともと声を大きくするための訓練であるLSVT LOUDを、手足や全身の動きに応用したものです。
標準的なLSVT BIGは、認定を受けた療法士のもとで、4週間に16回(週4回・1回1時間)という比較的集中したスケジュールで行われ、あわせて自宅での練習も組み合わせます1。決まった大きな動きの練習と、歩行や日常動作への応用を組み合わせるのが特徴です。運動の頻度や量の考え方は、パーキンソン病のリハビリ全般でも大切なテーマで、パーキンソン病のリハビリの頻度や運動時間について解説した記事もあわせて参考になります。
結論から先にお伝えすると、LSVT BIGは、軽症の方を中心とした小規模な研究で、運動機能の指標が良い方向に変わったと報告されています。ただし研究の数も参加人数も限られており、「予備的」な段階であることを前提に読むことが大切です。
ベルリンで行われた研究(60名・軽症〜中等症)では、LSVT BIGを、ノルディックウォーキングのグループ運動や、自宅での見守りなし運動と比べました。16週間後の運動スコアは、LSVT BIGの群だけが良い方向に変わり(平均−5.05)、他の2つの群ではむしろ横ばい〜やや悪化でした。Timed Up and Goや10m歩行でもLSVT BIGが良い結果でした4。
一方で、別の研究(42名)では、LSVT BIGと、同じ内容をより短い期間(2週間・10回)で行うプログラムを比べたところ、運動スコアの変化は両者で同じくらいでした。ただし、本人が感じる改善の実感は、より集中して行うLSVT BIGの方が大きかったと報告されています2。

LSVT BIGは注目されている一方で、根拠にはまだ多くの限界があります。期待できる部分と不確かな部分を、ていねいに分けて知っておくことが大切です。
・研究の多くは軽症〜中等症の方が対象で、進行した段階の方にそのまま当てはまるかは十分に分かっていません1,4。
・「大きく動く」という要素が本当に決め手なのか、それとも「集中して一定量運動すること」自体が大切なのかは、はっきりしていません。より短いプログラムでも運動機能は同じくらい変わったという報告があります2。
・良い変化がどのくらい長く続くのか、長期的な経過については十分に検証されていません。
・パーキンソン病は進行する病気であり、リハビリで進行そのものを止められるわけではありません。
・重症度・年齢・薬の効き方・併存する症状によって結果が変わる可能性があり、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
研究全体では、軽症の方で運動機能に良い傾向がありますが、対象者や比較したプログラムが研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。だからこそ、「大きく動く」という考え方を一つのヒントとしつつ、その方の状態や生活に合わせて進めることが現実的です。
研究の傾向から見えてくるのは、LSVT BIGで比較的変わりやすいのは「動きの大きさ」や「運動機能の指標」だということです1,4。大きく動く感覚を取り戻すことで、歩幅や腕の振り、立ち上がりなどの動きにゆとりが出る可能性があります。本人が「大きく動けている」という実感を持ちやすいことも報告されています2。
一方で、パーキンソン病そのものの進行や、薬の効き方、震え(振戦)などは、LSVT BIGで変わるものではありません。また、練習した大きな動きが、そのまま日常のすべての場面へ自然に広がるとは限りません。だからこそ、練習は日常の動作(立ち上がる、歩く、振り向く、服を着るなど)と結びつけて行い、生活へつなげる視点が大切になります。運動そのものの取り入れ方については、パーキンソン病のリハビリで用いる運動について解説した記事も参考になります。
「動きが小さくなってきた」「歩幅が狭い」「大きく動く感覚を取り戻したい」といった、動きの小ささが気になる軽症〜中等症の方は、LSVT BIGの考え方を取り入れた運動の相談に向いている可能性があります。研究でも、こうした段階の方が対象になることが多かったです1,4。集中して取り組める体力や生活の余裕があるほど、標準的なスケジュールに取り組みやすくなります。
また、標準的なLSVT BIGは認定を受けた療法士が行うプログラムで、集中したスケジュールや自宅練習が必要です。体力や生活の状況によっては、そのままの形が難しいこともあります。始める前には、必ず主治医やリハビリ専門職に相談し、その方に合った形を一緒に考えてください。運動中に強いふらつき、胸の苦しさ、転びそうな不安が続く場合は、無理をせず中止して相談することが大切です。
標準的なLSVT BIGは、認定を受けた療法士のもとで、4週間に16回(週4回・1回1時間)行い、あわせて毎日の自宅練習を組み合わせます1。決まった大きな動きの練習と、歩行・方向転換・立ち上がりといった日常動作への応用を組み合わせるのが基本です。ただし、この集中したスケジュールは、体力や生活の状況によっては負担になることもあります。
研究では、より短いプログラムでも運動機能が同じくらい変わったという報告もあり2、必ずしも標準どおりでなければ意味がない、というわけではありません。大切なのは、「大きく動く」という意識と、ある程度まとまった運動量を、無理なく続けられる形で生活に組み込むことです。薬が効いている時間帯を選ぶ、疲れをためない、日常動作と結びつける、といった工夫をしながら、主治医やリハビリ専門職と相談して、その方に合ったペースで進めることが大切です。
実際には、大きく動く感覚を意識すると、その場では動きにゆとりが出る方がいらっしゃる一方で、疲れやすさや薬の効き方の変動で、日によってばらつきが出ることもあります。だからこそ、その日の体調に合わせて量や時間帯を調整し、歩き出しや方向転換、立ち上がりなど、生活で困っている動作と結びつけて練習することを意識しています。パーキンソン病は経過とともに変化していく病気なので、一度きりで終わらせず、状態を見ながら続けやすい形を一緒に考えることを大切にしています。安全に関わる部分は、主治医と連携しながら進めています。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Ebersbach G, Grust U, Ebersbach A, et al. Amplitude-oriented exercise in Parkinson's disease: a randomized study comparing LSVT-BIG and a short training protocol. J Neural Transm (Vienna). 2015;122(2):253-256. DOI:10.1007/s00702-014-1245-8. PMID:24872078.
3. Farley BG, Koshland GF. Training BIG to move faster: the application of the speed-amplitude relation as a rehabilitation strategy for people with Parkinson's disease. Exp Brain Res. 2005;167(3):462-467. DOI:10.1007/s00221-005-0179-7. PMID:16283401.
4. Ebersbach G, Ebersbach A, Edler D, et al. Comparing exercise in Parkinson's disease--the Berlin LSVT BIG study. Mov Disord. 2010;25(12):1902-1908. DOI:10.1002/mds.23212. PMID:20669294.
