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田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後のFESサイクリング(電気刺激ペダリング)とは?足の運動機能・歩行への研究と限界を正直に解説
内容確認日:2026年7月25日
「足が思うように動かず、自転車こぎのリハビリも難しい」「電気刺激を当てながらペダルをこぐ機械を勧められたけれど、どんなものだろう」——脳卒中のあと、足の運動でこうした疑問を持つ方は少なくありません。FESサイクリングは、麻痺した足の筋肉に電気刺激(FES)を順番に当てて、自転車のペダルを回す運動です。結論から正直にお伝えすると、発症から間もない時期に、足の運動機能や体幹の安定、歩ける距離に良い方向の変化が報告されている一方、歩く速さや移動の自立まではっきり変わるかは、まだ結論が出ていません。この記事では、作業療法士の立場から、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを整理します。
この記事の内容
SECTION 01
FESサイクリングとは何か
FESサイクリングは、麻痺した足の筋肉(太もも・ふくらはぎ・すねなど)に、タイミングを合わせて電気刺激(FES=機能的電気刺激)を与え、ペダルを回す運動です1。ペダルが回る動きに合わせて筋肉が順番に収縮するため、自分の力だけではこぐのが難しい方でも、足を動かして運動できるのが特徴です。ねらいは、足の筋肉を働かせて運動機能や筋力を引き出すこと、体幹の安定や持久力につなげること、そして歩く力の土台づくりです。
電気刺激を使わない普通のペダリング運動(エルゴメーター)との違いは、「麻痺で動きにくい筋肉を電気の力で補う」点にあります。ペダリングそのものの考え方や有酸素運動としての側面は、脳卒中後のサイクリング運動について解説した記事で解説しています。また、足首の背屈(つま先を上げる動き)に電気刺激を使う方法は歩行の場面でも用いられ、その考え方は脳卒中後の下垂足とFES(電気刺激)について解説した記事もあわせてご覧いただくと理解しやすいと思います。
FESサイクリングは、適応と刺激設定を確認したうえで専門職の管理下で行います。
SECTION 02
研究で分かっていること
まず全体像です。FESサイクリングは、とくに発症から間もない(亜急性期の)方を対象に研究が進んでいます。複数のランダム化比較試験をまとめた研究では、足の運動機能や体幹の安定、歩ける距離に良い方向の変化が報告されています。ただし、その大きさや確からしさは研究によって差があります。
研究紹介|システマティックレビュー/メタアナリシス(2024年・5RCT・187名)
Galvãoらのシステマティックレビュー1では、発症から間もない(早期亜急性期の)脳卒中患者187名を対象とした5つのランダム化比較試験を分析しました。その結果、FESサイクリングを運動プログラムに組み合わせると、体幹のコントロール(群間差 約9点)と歩ける距離(6分間歩行で約94.84m)に、意味のある差がみられ、これらは「中等度の質」の根拠と評価されました。一方、FESサイクリングを単独で行った場合は、筋力・バランス・歩く速さ・歩ける距離・日常生活動作のいずれも、運動プログラムと同じくらいの変化にとどまりました。著者らは全体として「低〜中等度の質の根拠」であり、早期亜急性期の運動機能や活動の向上に検討しうる方法だと結論づけています。
別のメタアナリシス2(14試験)では、ペダリング運動そのものが歩く速さやバランスに良い方向の変化を示し、さらに電気刺激を組み合わせると、ペダリング単独よりもバランスの面で有利だったと報告されています。発症後まもない時期のランダム化比較試験4でも、20回のFESサイクリングにより足の運動機能や歩行の回復が進み、その変化が数か月後まで保たれたと報告されています。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
正直にお伝えすると、FESサイクリングの研究は、一つひとつの参加人数が少なく、機器や進め方が研究ごとに大きく異なります1。良い方向の変化がみられた項目でも、その根拠は「低〜中等度の質」にとどまります1。とくに歩く速さについては、慎重な結果も報告されています。歩行を対象にした最近のメタアナリシス3(10研究・311名)では、FESサイクリングの歩行への効果は小さく統計的にはっきりせず、「現時点の根拠は限られ、最適な設定も定まっていない」と結論づけられました。ある多施設のランダム化比較試験5でも、FESサイクリングを加えても移動能力は明らかには変わらず、筋力への効果もはっきりしなかったと報告されています。研究全体では一定の傾向はありますが、対象者や方法が異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
まだ分かっていないこと
・どの時期・どの重症度の方に最も向くのかは十分に確立していません1,3。
・電気刺激の強さ・タイミング、こぐ時間や速さなど、最適な設定ははっきり決まっていません1,3。
・体幹や足の運動機能に良い変化がみられても、歩く速さや移動の自立まで結びつくかは一定していません3,5。
・多くの研究は数週間で、望ましいとされる長い期間(12週以上)での検証は不足しています1。
・電気刺激の強さ・タイミング、こぐ時間や速さなど、最適な設定ははっきり決まっていません1,3。
・体幹や足の運動機能に良い変化がみられても、歩く速さや移動の自立まで結びつくかは一定していません3,5。
・多くの研究は数週間で、望ましいとされる長い期間(12週以上)での検証は不足しています1。
実施前後には皮膚、感覚、痛み、不快感などを確認します。
SECTION 04
何が期待でき、何は変わりにくいか
正直に整理します。期待しやすいのは、発症から間もない時期の、足の運動機能や体幹の安定、歩ける距離への良い方向の変化です1,4。自分ではこぐのが難しい方でも、電気刺激の力で足を動かして運動できることは、早い時期から足を使う機会をつくるという点で意味があります。
一方で、変わりにくい・はっきりしないのは、歩く速さや移動の自立度です3,5。足の運動機能が上がっても、それがそのまま「速く歩ける」「一人で移動できる」に直結するとは限りません。FESサイクリングは、足を動かす土台づくりの一つの方法として捉え、歩行の練習や筋力づくりなど他の取り組みと組み合わせて考えるのが現実的です。筋力そのものへのアプローチについては、脳卒中後の筋力トレーニングについて解説した記事もあわせてご参照ください。
SECTION 05
どんな人に向いているか
研究の多くは、発症から間もない時期で、自分の力だけではペダルをこぐのが難しい方を対象にしています1,4。足の運動機能や体幹の安定が課題の方、まだ立って行う運動が難しい段階の方でも、座った姿勢で足を動かせるのが利点です。ただし、電気刺激を使うため、向き不向きや安全確認が欠かせません。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
電気刺激は、皮膚の状態、感覚の障害、心臓のペースメーカーなどの植込み型医療機器、てんかん発作の既往、刺激部位の傷や腫れなどによって、使えない場合や慎重な確認が必要な場合があります。植込み型医療機器がある方は、自己判断で可否を決めず、主治医と機器メーカーの注意事項を確認してください6。痛みや強い不快感、皮膚の赤み・かぶれがあるときは中止が必要です。胸の痛み、強い息苦しさ、意識が遠のく症状が出た場合は直ちに中止し、症状が強い・続く場合は119番へ連絡してください。FESサイクリングを行うかどうか、設定をどうするかは、必ず担当の医師やリハビリ専門職の評価のもとで判断してください。
電気刺激は、皮膚の状態、感覚の障害、心臓のペースメーカーなどの植込み型医療機器、てんかん発作の既往、刺激部位の傷や腫れなどによって、使えない場合や慎重な確認が必要な場合があります。植込み型医療機器がある方は、自己判断で可否を決めず、主治医と機器メーカーの注意事項を確認してください6。痛みや強い不快感、皮膚の赤み・かぶれがあるときは中止が必要です。胸の痛み、強い息苦しさ、意識が遠のく症状が出た場合は直ちに中止し、症状が強い・続く場合は119番へ連絡してください。FESサイクリングを行うかどうか、設定をどうするかは、必ず担当の医師やリハビリ専門職の評価のもとで判断してください。
運動後の疲れ、痛み、皮膚の変化を確認し、他のリハビリとの組み合わせを調整します。
SECTION 06
回数・頻度・期間の目安
研究では、1回20〜35分程度のFESサイクリングを、週3〜5回、3〜8週間ほど続ける形が多く用いられてきました1,4。多くは通常のリハビリに追加する形で行われています。ただし、最適な設定(電気刺激の強さ・タイミング、こぐ時間や速さ)ははっきり決まっておらず、望ましいとされる長い期間での検証も十分ではありません1,3。あくまで目安として捉え、その方の状態や安全性に合わせて、専門職と一緒に進め方を決めることが大切です。
SECTION 07
専門職と確認したい実践上のポイント
専門職が確認する主な項目
電気刺激を使ってよいか(皮膚・感覚・心臓・てんかんなどの確認)、刺激の強さやタイミング、こぐ時間や速さ、疲れや痛みの出方、体幹の安定を確認します。運動機能や歩行の変化を評価しながら、歩行練習や筋力づくりなど他の取り組みとどう組み合わせるかを考えます。無理なく続けられる強度と、安全に行える環境づくりを重視します。
まとめると、FESサイクリングは、麻痺した足に電気刺激を当ててペダルを回す運動で、発症から間もない時期の足の運動機能や体幹の安定、歩ける距離に良い方向の変化が報告されています。一方で、歩く速さや移動の自立への効果ははっきりせず、根拠の質にもばらつきがあります。だからこそ、安全確認をしたうえで、他のリハビリと組み合わせながら、その方に合う形で取り入れていくことが大切だと考えています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療・診断を推奨したり、医療行為に代わるものではありません。電気刺激の適応や運動の向き不向きには個人差があり、実施には専門職による評価が必要です。実施の前には、必ず担当の医師やリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
足の運動や歩行の進め方について、身体の状態を一緒に確認しながら考えます。
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
Q & A
よくある質問
Q. 自分でペダルをこげなくても大丈夫ですか?
FESサイクリングは、電気刺激で麻痺した足の筋肉を順番に収縮させるため、自分の力だけではこぎにくい方でも足を動かして運動できます1。どの程度から始められるかは状態によって異なるので、専門職に相談してください。
Q. 電気刺激は痛くないですか?
刺激の強さは調整できますが、感じ方には個人差があります。強い痛みや不快感、皮膚の赤み・かぶれがあるときは中止が必要です。感覚の障害がある方はとくに、専門職が皮膚の状態を確認しながら行います。
Q. 普通の自転車こぎ運動と何が違うのですか?
大きな違いは「電気の力で麻痺した筋肉を働かせる」点です。研究では、電気刺激を組み合わせるとバランスの面で有利だったとの報告もあります2が、すべての項目で上回るわけではありません1。
Q. これをやれば速く歩けるようになりますか?
足の運動機能や歩ける距離には良い方向の変化が報告されていますが1、歩く速さや移動の自立まではっきり変わるかは、まだ結論が出ていません3,5。歩行練習など他の取り組みと組み合わせて考えるのがよいと思います。
Q. どのくらいの期間やればいいですか?
研究では週3〜5回・3〜8週間ほどが多く用いられています1,4が、最適な期間や設定ははっきり決まっていません1,3。目安として捉え、状態に合わせて専門職と決めましょう。
Q. 家庭用の電気刺激機器を自分で使ってもいいですか?
電気刺激は、心臓のペースメーカーやてんかん、皮膚の状態などによって使えない場合があります。自己判断で始める前に、必ず担当の医師やリハビリ専門職に安全性を確認してください。
REFERENCES
参考文献
1. Galvão WR, Silva LKC, Formiga MF, Thé GAP, Faria CDCM, Viana RT, Lima LAO. Cycling using functional electrical stimulation therapy to improve motor function and activity in post-stroke individuals in early subacute phase: a systematic review with meta-analysis. Biomed Eng Online. 2024;23(1):1. PMID: 38167021.
2. Shariat A, Ghayour Najafabadi M, Nakhostin Ansari N, Cleland JA, Fiatarone Singh MA, Memari AH, et al. The effects of cycling with and without functional electrical stimulation on lower limb dysfunction in patients post-stroke: A systematic review with meta-analysis. NeuroRehabilitation. 2019;44(3):389-404. PMID: 31227660.
3. Alashram AR. Functional Electrical Stimulation Cycling for Gait Rehabilitation in Stroke Survivors: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Physiother Res Int. 2026;31(1):e70188. PMID: 41778356.
4. Ambrosini E, Ferrante S, Pedrocchi A, Ferrigno G, Molteni F. Cycling induced by electrical stimulation improves motor recovery in postacute hemiparetic patients: a randomized controlled trial. Stroke. 2011;42(4):1068-1073. PMID: 21372309.
5. de Sousa DG, Harvey LA, Dorsch S, Leung J, Harris W. Functional electrical stimulation cycling does not improve mobility in people with acquired brain injury and its effects on strength are unclear: a randomised trial. J Physiother. 2016;62(4):203-208. PMID: 27637770.
6. U.S. Food and Drug Administration. Electronic Muscle Stimulators. 公式ページ(2026年7月25日閲覧).
2. Shariat A, Ghayour Najafabadi M, Nakhostin Ansari N, Cleland JA, Fiatarone Singh MA, Memari AH, et al. The effects of cycling with and without functional electrical stimulation on lower limb dysfunction in patients post-stroke: A systematic review with meta-analysis. NeuroRehabilitation. 2019;44(3):389-404. PMID: 31227660.
3. Alashram AR. Functional Electrical Stimulation Cycling for Gait Rehabilitation in Stroke Survivors: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Physiother Res Int. 2026;31(1):e70188. PMID: 41778356.
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6. U.S. Food and Drug Administration. Electronic Muscle Stimulators. 公式ページ(2026年7月25日閲覧).
