
この記事の結論
「父は長年糖尿病があって、今回脳梗塞になった。リハビリでどこまで戻るのだろう」。糖尿病は脳卒中の大きな危険因子のひとつで、脳卒中の方が糖尿病を一緒に抱えていることは珍しくありません。
この記事では、血糖の治療法ではなく、「糖尿病がある方は、脳卒中後の回復にどのような違いがみられるのか」に焦点を当て、2本のレビュー研究と1本の運動の研究をもとに、分かっていることと限界を整理します。
目次
脳卒中の方の糖尿病とは?
糖尿病(diabetes mellitus:DM)とは、血液中の糖(血糖)を下げるインスリンというホルモンが十分に働かず、血糖が高い状態が続く病気です2。脳卒中の方の多くは、体がインスリンに反応しにくくなる2型糖尿病(T2DM)です2,3。
糖尿病は、高血圧や脂質の異常、肥満などとも関係し、血管の動脈硬化を通して脳卒中を起こしやすくすることが知られています2。
脳卒中後の生活習慣の見直しについては、脳卒中後の生活習慣カウンセリングと運動について解説した記事で紹介しています。

脳卒中の方のどのくらいに糖尿病がある?
結論から言うと、脳卒中で入院した方の約4人に1人以上(約28%)に糖尿病がみられたと報告されています1。
2004年〜2017年に発表された、入院した脳卒中の方の糖尿病の割合と、その後の経過との関係を調べた66件の研究をまとめたレビューです1。
39件の研究をまとめた糖尿病の割合は28%(95%信頼区間26〜31%)で、脳梗塞の方では33%、脳出血の方では26%でした1。また、入院してから初めて糖尿病が分かった方も、研究によって5〜33%と少なくありませんでした1。
糖尿病があると、回復にどう関係する?
糖尿病がある方では、生活動作の回復が良くない傾向が多くの研究で報告されていますが、手足の動きの回復との関係ははっきりしていません2。
2021年5月までに発表された、糖尿病が脳卒中後の回復に与える影響を調べた34件の研究をまとめたレビューです2。生活動作(日常生活動作:ADL)、手足の動き(運動機能)、認知機能、生活の質に分けて検討しています2。
生活動作の回復を調べた29件のうち22件で、糖尿病がある方の回復が良くない傾向がみられました2。一方、手足の動きの回復では4件中1件、認知機能の回復では2件中1件でのみ関係がみられました2。生活の質を調べた3件では、糖尿病があることと生活の質の低さが関係していました2。
・生活の質(3件)2
・神経・生活機能、再入院や再発との関連も報告されています。一方、入院期間の結果は一致せず、脳梗塞後の死亡と糖尿病の関連は7件中2件でのみ報告されました。急性期の高血糖と、以前からある糖尿病は分けて考える必要があります1
・認知機能の回復(2件中1件のみ)2
運動で血糖や生活動作は変わる?
糖尿病がある脳卒中の方を対象にした運動の研究は少なく、小規模な研究で血糖の安定などが報告されている段階です3。
中国のリハビリ病棟で、発症から15日〜1年で、10m歩ける2型糖尿病の脳卒中の方42人を、3種類の有酸素運動(低〜中強度の持続運動、中強度のインターバル運動、短時間の高強度運動)と通常治療のみ(研究で定めた有酸素運動を追加しない)の4つのグループに分け、4週間比べた研究です3。持続血糖測定器(CGM)で血糖の変化を確かめています3。
中強度のインターバル運動では、運動開始前より平均血糖や血糖の変動が小さくなりました。短時間の高強度運動でも低血糖の時間や血糖の変動が減りましたが、低血糖の時間と変動係数では、時間と運動群の交互作用は明確でなく、対照群より優れるとは断定できません。生活動作の点数(バーセルインデックス)と脚の動き(FMA-LE)は、高強度運動群で通常治療群より改善しました3。脂質(コレステロールなど)への影響は小さい結果でした3。
この研究は1施設で専門職の監督下で行われ、42人のうち最終評価は38人でした。小規模・短期間で歩ける方に限られ、自己判断で高強度運動を始める根拠にはできません3。インターバル運動の研究は、脳卒中後の高強度インターバルトレーニングについて解説した記事でも紹介しています。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないことは?
糖尿病の見分け方(診断の方法)が研究ごとに大きく異なることが、レビューの重要な限界として挙げられています1。34件の研究のレビューでも、糖尿病の診断方法を明記していない研究があり、糖尿病の期間を記載した研究はなく、1型と2型を分けて調べた研究もほとんどありませんでした2。
年齢・性別・脳の損傷の大きさ・体格など、結果に影響しうる要因をすべて考慮した研究は少なく、過去の記録を振り返る研究も含まれていました2。糖尿病との関係そのものを主題にしていない研究も34件中9件含まれており、研究ごとに結果が分かれている点にも注意が必要です2。
糖尿病がある方は、どんなことに気をつける?
研究者らは、脳卒中の方の糖尿病をきちんと見つけ、高い危険をもつ方への対応を考えることが大切だと述べています1。
糖尿病による足のしびれと運動については、糖尿病性末梢神経障害と運動について解説した記事で紹介しています。

作業療法士の視点
研究のまとめからは、脳卒中の方の約4人に1人以上に糖尿病があり、生活動作の回復が良くない傾向と関係していることが分かっています1,2。一方で、手足の動きの回復との関係ははっきりせず、研究の方法にもばらつきがあるため、糖尿病があれば回復しないという意味ではありません2。
大切なのは、糖尿病の管理を主治医と続けながら、体調に合わせて生活動作の練習や活動を積み重ねていくことだと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。血糖の管理や薬、食事の内容については、必ず主治医にご相談ください。運動を始める・変える前には、低血糖などの注意点も含めて、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. 脳卒中の人のうち、糖尿病がある人はどのくらいですか?
A. 39件の研究のまとめでは、脳卒中で入院した方の約28%に糖尿病があり、脳梗塞の方では33%、脳出血の方では26%でした1。入院後に初めて糖尿病が分かる方もいます。
Q. 糖尿病があると、脳卒中後の回復は遅くなりますか?
A. 34件の研究のレビューでは、生活動作の回復を調べた29件中22件で、糖尿病がある方の回復が良くない傾向がみられました2。ただし研究ごとに結果は分かれており、すべての方に当てはまるわけではありません。
Q. 糖尿病があると、手足の麻痺は戻りにくいですか?
A. 手足の動きの回復を調べた研究は4件と少なく、糖尿病との関係がみられたのは1件のみでした2。現時点では、糖尿病が手足の動きの回復に影響するかどうかははっきりしていません。
Q. 糖尿病がある脳卒中の人は、運動しても大丈夫ですか?
A. 運動を始めるときは、低血糖などに注意が必要なため、事前に主治医へ相談することが大切です3。2型糖尿病がある脳卒中の方を対象にした小規模な研究では、有酸素運動で血糖の変動が小さくなったと報告されています3。
Q. どんな運動が研究されていますか?
A. 2型糖尿病がある脳卒中の方42人の研究では、低〜中強度の持続運動、中強度のインターバル運動、短時間の高強度運動を4週間比べていました3。小規模・短期間の研究のため、最適な運動の種類はまだ分かっていません。
Q. 家族はどんなことに気をつければよいですか?
A. 糖尿病の有無や血糖の状態について主治医の説明を一緒に確かめ、食事や薬、運動の注意点を共有することが大切です1。足のしびれや傷、体調の変化に気づいたら、早めに相談しましょう。