
この記事の結論
「リハビリに気持ちが向かない」「何をするにもおっくうで、家で横になっている時間が増えた」。脳卒中のあと、気分の落ち込みが続くご本人を前に、「このままで回復は大丈夫だろうか」と心配されるご家族は少なくありません。
この記事では、うつの治療法ではなく、「脳卒中後のうつが、その後の生活動作や生活の質とどう関係しているのか」に焦点を当て、2本のレビュー研究をもとに分かっていることと限界を整理します。
目次
脳卒中後のうつとは?
脳卒中後のうつとは、脳卒中のあとに、気分の落ち込みや興味・意欲の低下などが続き、生活に影響が出る状態です1,2。英語ではpost-stroke depression(PSD)と呼ばれます2。
21件の研究をまとめたレビューでは、一部の評価法でうつがみられた方の割合は、発症から2週間以内で12.2〜32.2%、1か月以内で17.9〜35.5%、3か月の時点で10.4〜32.0%と報告されていました2。別の評価法では発症早期に68.4%という報告もあり、割合は評価方法や対象者で大きく異なります。研究者らは、発症から3か月以内に多いと述べています2。
うつへの運動の研究は、脳卒中後の気分の落ち込みとうつについて解説した記事で、心理療法の研究は脳卒中後の心理療法について解説した記事で紹介しています。

うつがあると、その後の回復にどう関係する?
結論から言うと、うつがあった方では、生活機能の問題、生活の質の低下、死亡が多い傾向が報告されています1。
2023年8月までに発表された、脳卒中後のうつとその後の経過との関係を調べた前向き研究80件をまとめた分析です1。生活機能を調べた研究が43件、死亡が24件、生活の質が12件、認知機能が5件、仕事への復帰が4件でした(1つの研究が複数を調べている場合あり)1。
16件の研究をまとめた解析では、うつがあった方の死亡のハザード比(起こりやすさの比)は1.61でした1。11件の研究をまとめた解析では、うつがあった方で生活機能の問題が多い結果でした1。一方、オッズ比で報告された7件の研究をまとめると、死亡との関係ははっきりしませんでした(オッズ比1.26)1。
2024年1月までに発表された、脳卒中後のうつと生活機能との関係を調べた21件の研究(コホート研究16件、横断研究4件、症例対照研究1件)をまとめたレビューです2。
年齢、持病、脳卒中の重さなどの影響を考慮したうえでも、うつは、介助の必要度・基本的な生活動作(食事・着替えなど)・家事などの生活動作・身体や認知の機能の4つの領域すべてで、発症1か月〜5年後の経過の悪さと関係していました2。
何と関係があり、何ははっきりしない?
2本のレビューからは、生活動作や生活の質との関係は比較的一貫していた一方で、認知機能との関係ははっきりしませんでした1,2。
・生活の質(12件中10件の研究で関係あり。体と心の両面)1
・死亡(16件の統合でハザード比1.61)1
・仕事への復帰は4件中1件で関連がみられましたが、3件では明確でなく、結果は一貫していません1
・オッズ比で報告された研究での死亡との関係(1.26、はっきりした差なし)1
仕事への復帰については、脳卒中後の復職・職場復帰について解説した記事でも紹介しています。
うつへの対応で、回復は変わる?
現時点では、うつに対応することで生活動作の回復が良くなるとはっきり示されたわけではありませんが、そうした可能性を示す報告はあります2。
21件の研究のレビューでは、イタリアで行われた症例対照研究で、抗うつ薬の治療に反応した方は、反応しなかった方よりも退院時の基本的な生活動作の点数が高かったと紹介されています2。ただし、1件の観察研究の結果で、治療そのものの影響と言い切ることはできません2。
研究者らは、発症早期からうつの有無を繰り返し確かめ、必要な対応につなげることが、生活機能の回復のために大切だと述べています1,2。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないことは?
2本のレビューはいずれも観察研究をまとめたもので、うつそのものが回復を妨げる原因なのか、もともと重い状態の方にうつが起こりやすいだけなのかは区別できません1,2。研究ごとに、発症からの期間、脳卒中の重さ、研究の場、うつの評価方法が異なり、ばらつきが大きいことも限界とされています(死亡の統合ではI²=95.4%)1,2。
80件の研究の分析では、脳卒中の前からあったうつが続いているだけの可能性も否定できず、統合した研究の人数が少なく細かい分析ができなかったこと、多くの研究が高所得国で行われていたことも挙げられています1。21件の研究のレビューは英語の論文のみを対象にしていました2。
本人や家族は、どんなことに気をつける?
研究からは、気分の落ち込みは「気持ちの問題」として見過ごさず、生活動作や生活の質と関わる大切な情報として扱うことが勧められています1,2。

作業療法士の視点
研究のまとめからは、脳卒中後のうつは、その後の生活動作や生活の質の低下と関係していることが分かっています1,2。一方で、うつが原因で回復が遅れるのか、うつに対応すれば回復が良くなるのかは、まだはっきりしていません1,2。
大切なのは、気分の落ち込みを本人の「やる気」の問題として責めるのではなく、早めに気づき、医療者と一緒に生活全体を支えていくことだと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。気分の落ち込みが2週間以上続く、眠れない・食べられない、死にたい気持ちがあるなどの場合は、すぐに主治医や専門の医療機関にご相談ください。治療や運動の内容を始める・変える前には、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. 脳卒中後のうつは、回復に影響しますか?
A. 80件の前向き研究のまとめでは、うつがあった方で生活機能の問題や生活の質の低下が多い傾向がみられました1。ただし観察研究のため、うつそのものが回復を妨げているかどうかまでは分かっていません。
Q. 脳卒中後のうつは、どのくらいの人に起こりますか?
A. 21件の研究のまとめでは、発症から2週間以内で12.2〜32.2%、1か月以内で17.9〜35.5%、3か月の時点で10.4〜32.0%と報告されています2。これは一部の評価法で報告された範囲です。別の評価法では発症早期に68.4%という報告もあり、割合は評価方法や対象者で大きく異なります。
Q. うつがあると、どんな生活動作に影響しますか?
A. 21件の研究のまとめでは、介助の必要度、食事や着替えなどの基本的な動作、家事などの生活動作、体や認知の機能のすべてと関係していました2。影響は発症1か月〜5年後まで報告されています。
Q. うつがあると、もの忘れも起こりやすくなりますか?
A. 80件の研究のまとめでは、うつと認知機能との関係を調べた研究は5件で、はっきりした結論は出ていません1。もの忘れが気になる場合は、うつとは別に主治医に相談して確かめることが大切です。
Q. うつを治療すると、回復は良くなりますか?
A. うつに対応することで脳卒中後の生活動作が良くなるとは、研究ではまだはっきり示されていません2。抗うつ薬に反応した方で退院時の生活動作の点数が高かったという観察研究はありますが、1件のみで、治療の影響とは言い切れません。
Q. 家族はどんなことに気をつければよいですか?
A. 気分の落ち込みや意欲の低下が続いていないか、以前していた身の回りのことや外出が減っていないかを見守ることが大切です1,2。気になる変化があれば、主治医やリハビリ専門職に相談しましょう。