脳卒中後の中枢性疼痛とは?視床痛・しびれる痛みの原因とリハビリの考え方

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後の中枢性疼痛(視床痛)とは?麻痺した側のしびれるような痛みの原因とリハビリ

「麻痺した側が、しびれるように・焼けるように痛む」「触れられるだけでピリピリと痛い」「痛み止めを飲んでもなかなか楽にならない」——脳卒中のあと、こうした独特の痛みに悩まされる方がいます。これは「中枢性脳卒中後疼痛(ちゅうすうせいのうそっちゅうごとうつう、CPSP)」と呼ばれる状態かもしれません。手足のケガや関節の痛みとは仕組みが異なり、脳そのものの傷が関わるため、対応にも専門的な判断が必要です。この記事では、中枢性疼痛(視床痛・ししょうつう)とは何か、研究で分かっていること、リハビリや神経への刺激の位置づけを、患者さんとご家族に向けて、分かっていることと分かっていないことを分けながら正直に整理します。まず大切なこととして、この痛みは自己判断で対処するものではなく、医師による診断と治療が中心になります。

脳卒中後の麻痺側の痛みやしびれを示すイメージ
この記事の要点
・中枢性脳卒中後疼痛(CPSP)は、脳卒中で脳の感覚に関わる部分が傷ついたために起こる、神経の痛み(神経障害性疼痛)です3
・古くは視床(ししょう)の傷で起こる「視床痛」として知られてきましたが、視床以外の脳の傷でも起こることが分かってきています3
・痛み止めが効きにくいことが多く、診断と薬の調整は医師が中心になって行います3
・頭の外から磁気で脳を刺激する方法(rTMS)で痛みが和らいだという報告がありますが、研究の質は「低い」と評価されており、効果を保証できる段階ではありません1,2
・自己判断で対処せず、まず主治医に相談することが何より大切です。リハビリは、痛みとつきあいながら生活を保つための支えとして関わります。
SECTION 01
中枢性疼痛(視床痛)とは

中枢性脳卒中後疼痛(CPSP)とは、脳卒中によって、感覚(触った感じ・温度・痛みなど)を伝え、まとめる脳の部分が傷ついたために起こる痛みです3。ケガや炎症のように「傷んでいる場所」があって痛むのではなく、痛みの信号を扱う脳の仕組みそのものに乱れが生じて起こるため、「神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう)」の一種に分類されます3。多くは、脳卒中で障害を受けた側と反対側(麻痺のある側)の体に、しびれるような、焼けるような、締めつけられるような、独特の痛みとして現れます。触れられただけで痛い(アロディニア)、冷たさや温かさで強まる、といった特徴が出ることもあります。

この痛みは、古くは脳の奥にある「視床(ししょう)」という感覚の中継地点が傷ついたときに起こる「視床痛」として知られてきました。しかし近年の研究では、視床だけでなく、脳のさまざまな部位の傷でも起こり得ることが分かってきています3。ある研究のまとめでは、視床の傷が痛みの起こりやすさと関わることが示される一方、部位ごとの関係にはまだ一致しない点も残ると報告されています4。発症の時期はさまざまで、脳卒中の直後だけでなく、数週間から数か月たってから現れることもあります。麻痺した手のしびれや痛みには、この中枢性の痛み以外にも肩や手の問題などいくつかの原因が考えられます。手のしびれ全般については脳卒中後の手のしびれについて解説した記事もあわせて参考になりますが、痛みの原因の見分けには専門的な評価が必要です。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、中枢性疼痛は「痛み止めが効きにくく、治療が難しいことの多い痛み」で、確実に楽にできる決め手はまだ確立していません3。診断や薬による治療は医師が中心になって行います。そのうえで、薬以外の方法として、頭の外から脳を刺激する方法(神経刺激)が研究されており、なかでもrTMS(反復経頭蓋磁気刺激・はんぷくけいとうがいじきしげき)について、痛みが和らいだという報告が集まりつつあります。

研究から読み取れること
rTMSは、頭皮の上から装置を当て、磁気の力で脳の一部(多くは運動をつかさどる領域=運動野)を刺激する方法です。中枢性疼痛に対するrTMSをまとめたシステマティックレビュー・メタアナリシス(複数の研究をまとめて分析した方法)では、6件の研究(合計180名)の解析で、見せかけの刺激(偽刺激)に比べて痛みが大きく和らいだと報告されました(標準化平均差 −1.45、95%信頼区間 −1.87〜−1.03)1。ただし著者らは、この結果の質を「低い(low quality)」と評価しています1

別のメタアナリシスでも、6件のランダム化比較試験(合計288名)で、rTMSを行った場合に痛みがより和らいだと報告されました(標準化平均差 −1.15、95%信頼区間 −1.69〜−0.61)2。一方で研究間のばらつき(異質性)が大きく、痛みの持続が6か月を超えるグループでは、はっきりした差が確認されませんでした2。いずれの研究も、対象人数が少なく、刺激の方法や期間が研究ごとに異なることが限界として挙げられています1,2。rTMSそのものの全体像については、脳卒中後のrTMSについて解説した記事もあわせてご覧ください。
脳と感覚経路、rTMSの位置づけを示す説明図
エビデンスの質と、まだ分かっていないこと
中枢性疼痛は、そもそも脳卒中のあとに起こる割合がそれほど高くなく、研究の対象人数も限られています。そのため、rTMSのような方法についても、研究の数・規模がまだ十分ではありません1,2。報告されている「痛みが和らいだ」という結果も、その確からしさは「低い」と評価されており、刺激の場所・強さ・回数・期間の最適な組み合わせや、効果がどのくらい続くかは、まだ十分に分かっていません1,2。また、これらの神経刺激は、痛みそのものをなくすというより、和らげることを目指すものであり、すべての方に同じように役立つわけではありません。中枢性疼痛の治療は、まず医師による診断と薬の調整が基本で、神経刺激やリハビリはそれを補う位置づけである、という前提を忘れないことが大切です。
SECTION 03
何が期待され、何は注意が必要か

研究で報告されているのは、rTMSなどの神経刺激によって、痛みの強さが和らぐ可能性です1,2。痛みが少し軽くなることで、夜眠りやすくなったり、リハビリや日常の動作に取り組みやすくなったりすることが期待されます。ただし、これはあくまで「可能性」であり、痛みが完全になくなることを約束するものではありません。

注意したいのは、中枢性疼痛は治療が難しく、効果には個人差が大きい点です3。ある方法が合っても、別の方が同じように楽になるとは限りません。また、痛みが長く続くと、気分の落ち込みや睡眠の乱れ、活動量の低下を伴いやすく、痛みと気分が影響し合うこともあります。痛みだけでなく、気分や睡眠、生活全体を含めて支えていく視点が大切です。気分の落ち込みが気になる場合は、脳卒中後の気分の落ち込みとうつについて解説した記事もあわせて参考になりますが、つらさが続くときは抱え込まず、主治医に相談してください。

SECTION 04
どんな人に関わり、どんなときに受診すべきか

麻痺した側に、しびれるような・焼けるような痛みがある、触れられると痛い、痛み止めを飲んでも楽にならない——こうした症状があるときは、中枢性疼痛の可能性を含めて、まず医師に相談することが大切です。似たような痛みでも、肩の痛みや関節の問題、神経の圧迫など、原因はさまざまで、対応が異なります。原因を見分けるには専門的な評価が必要です。

⚠ 受診の目安・気をつけたいこと
次のようなときは、自己判断で我慢したり、市販の痛み止めだけで対処したりせず、主治医に相談してください。痛みが強く日常生活や睡眠に支障が出ている、痛み止めが効かない、痛みの範囲や強さが急に変わった、気分の落ち込みや眠れない状態が続いている、といった場合です。中枢性疼痛の薬は、一般的な痛み止めとは種類が異なり、医師が状態を見ながら調整します。rTMSなどの神経刺激は、実施できる施設や適応が限られ、医師の判断のもとで行われる医療行為です。インターネットの情報だけで方法を選んだり、市販の器具で自己流に脳を刺激したりすることは、安全性の面から避けてください。痛みは「気のせい」でも「がまんが足りない」せいでもありません。つらさを一人で抱え込まず、医療者に伝えることが第一歩です。
SECTION 05
治療とリハビリの進め方の目安

中枢性疼痛の対応は、まず医師による診断と、神経の痛みに用いる薬の調整が中心になります3。そのうえで、痛みが十分に和らがない場合の選択肢の一つとして、rTMSなどの神経刺激が研究されています1,2。これらは実施できる施設や適応が限られ、医師の判断のもとで行われます。研究では、運動をつかさどる脳の領域(運動野)を、頭の外から複数回にわたって刺激する方法が用いられてきましたが、最適な回数や期間は定まっていません1,2

リハビリ(理学療法・作業療法など)は、痛みそのものを消すためというより、痛みとつきあいながら生活を保つための支えとして関わります。具体的には、痛みで動かさなくなった手足の関節が固くならないように動きを保つ、痛みが強まりにくい体の使い方や姿勢を一緒に探す、痛みで減りがちな活動を無理のない範囲で保つ、睡眠や気分を含めた生活のリズムを整える、といった関わりです。痛みがあると体を動かすのがこわくなりますが、動かさなさすぎると別の痛みやこわばりを招くこともあるため、そのバランスを専門職と相談しながら調整していきます。具体的な内容は、痛みの状態と全身の状態に合わせて、医療チームと相談しながら決めていくことをおすすめします。

SECTION 06
Journey Rehabでの現場経験
当施設での経験
Journey Rehabでは、脳卒中後に「麻痺した側がしびれる」「触れるだけで痛い」「痛みが気になって動かしにくい」といった相談を受けることがあります。中枢性疼痛が疑われる場合、リハビリだけで判断せず、まず医師の診断や薬物療法などの医療的な確認が中心になることをお伝えしています。痛みの性質、出る場所、時間帯、睡眠や気分への影響を整理し、必要に応じて主治医への相談につなげることが大切です。

リハビリでは、痛みを「なくす」と約束するのではなく、痛みが強くなりにくい姿勢や動作、触れ方、休み方を一緒に探します。痛みを避けすぎて腕や手をまったく使わなくなると、こわばりや生活動作のしづらさが重なることがあります。一方で、無理に動かすと痛みや不安が強まる方もいるため、その日の体調や痛みの出方を確認しながら、医療機関での治療と並行して慎重に進めることを大切にしています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
麻痺した側の痛みやしびれとつきあいながらの生活について、身体の状態を一緒に確認しながらリハビリの内容を考えます。医療機関での診療と並行してご相談ください。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨ではありません。中枢性疼痛は診断と薬の調整に医師の判断が必要な状態で、rTMSなどの神経刺激も医療機関で医師の管理のもとに行われるものです。痛みやしびれがあるときは、自己判断で対処せず、必ず主治医や担当のリハビリ専門職に相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
中枢性疼痛と普通の痛みはどう違うのですか?
関節や筋肉の痛みは、傷んでいる場所があって痛みます。中枢性疼痛は、痛みの信号を扱う脳の仕組みそのものの乱れで起こる神経の痛みで、しびれるような・焼けるような独特の感覚が特徴です。見分けには専門的な評価が必要なので、医師に相談してください。
市販の痛み止めで対処してよいですか?
中枢性疼痛は、一般的な痛み止めが効きにくいことが多い痛みです。市販薬だけで様子を見るのではなく、まず主治医に相談してください。神経の痛みに用いる薬は種類が異なり、医師が状態を見ながら調整します。自己判断で薬を増やすのは避けてください。
rTMSを受ければ痛みはなくなりますか?
研究では痛みが和らいだという報告がありますが、その質は「低い」と評価され、効果には個人差があります。痛みを完全になくすことを約束するものではありません。実施できる施設や適応も限られ、医師の判断のもとで行われます。まず主治医に相談してください。
リハビリで痛みは楽になりますか?
リハビリは痛みそのものを消すためというより、痛みとつきあいながら生活や動作を保つための支えとして関わります。関節が固くならないよう動きを保つ、痛みが強まりにくい姿勢を探す、活動や睡眠のリズムを整えるなどです。内容は医療チームと相談して決めます。
視床痛と中枢性疼痛は同じものですか?
視床痛は、脳の視床という部分の傷で起こる痛みを指す古くからの呼び名です。中枢性脳卒中後疼痛は、視床に限らず脳のさまざまな部位の傷で起こり得る痛みを含む、より広い言葉です。近年は後者の理解が進んでいます。
痛みで気分が落ち込みます。どうすればよいですか?
痛みが長く続くと、気分の落ち込みや睡眠の乱れを伴いやすくなります。これは自然な反応で、我慢の問題ではありません。痛みと気分は影響し合うため、両方を医療者に伝えることが大切です。つらさが続くときは抱え込まず、主治医に相談してください。
REFERENCES
参考文献
1. Gurdiel-Álvarez F, Navarro-López V, Varela-Rodríguez S, et al. Transcranial magnetic stimulation therapy for central post-stroke pain: systematic review and meta-analysis. Front Neurosci. 2024;18:1345128. DOI:10.3389/fnins.2024.1345128. PMID:38419662. PMCID:PMC10899389.
2. Liu Y, Miao R, Zou H, Hu Q, Yin S, Zhu F. Repetitive transcranial magnetic stimulation in central post-stroke pain: a meta-analysis and systematic review of randomized controlled trials. Front Neurosci. 2024;18:1367649. DOI:10.3389/fnins.2024.1367649. PMID:38933817. PMCID:PMC11199869.
3. Akyuz G, Kuru P. Systematic Review of Central Post Stroke Pain: What Is Happening in the Central Nervous System? Am J Phys Med Rehabil. 2016;95(8):618-627. DOI:10.1097/PHM.0000000000000542. PMID:27175563.
4. Zhang Z, Ma S, Feng B, et al. Relationship between stroke injury sites and incidence of post-stroke pain: a systematic review and meta-analysis. Syst Rev. 2025;14(1):206. DOI:10.1186/s13643-025-02930-z. PMID:41088428. PMCID:PMC12522659.