東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「手がピリピリする」「触っている感じが鈍い」「冷たいものがつらい」「しびれが気になって眠りにくい」。脳卒中後には、上肢の動かしにくさだけでなく、しびれや感覚の違和感に悩む方が少なくありません。
結論から言うと、脳卒中後の上肢のしびれは、脳の感覚経路の障害、中枢性脳卒中後疼痛、肩や末梢神経の問題、むくみ、痙縮などが重なって起こることがあります。リハビリで完全に消せると断定できる領域ではありませんが、原因を分けて評価し、生活管理・感覚練習・物理療法・医師への相談を組み合わせることで、向き合い方を整理しやすくなります。
患者さんが「しびれる」と表現するとき、その中身は人によって違います。大きく分けると、感覚が鈍い、ピリピリ・ジンジンする、触ると痛い、熱さや冷たさが分かりにくい、手の位置が分かりにくい、という状態があります。
2. 異常感覚:何もしていないのにピリピリする
3. 痛み:焼ける、刺す、締めつけるようにつらい
4. 位置覚の問題:手や指がどこにあるか分かりにくい
この違いはとても大切です。たとえば、手の感覚が鈍い方には安全確認や感覚の再学習が重要になります。一方で、焼けるような痛みや冷刺激で強くつらくなる場合は、中枢性脳卒中後疼痛も考え、医師と薬物療法を含めて相談する必要があります。
脳卒中後の上肢のしびれで中心になるのは、脳から脊髄、手へつながる感覚情報の処理の変化です。特に視床、感覚野、感覚に関わる白質路などが影響を受けると、触覚、痛覚、温度覚、位置覚の感じ方が変わります。
ただし、脳卒中後の上肢では、肩の痛み、亜脱臼、複合性局所疼痛症候群、手のむくみ、痙縮、手根管症候群などの末梢神経の圧迫、糖尿病性神経障害なども混ざります。「脳卒中だから仕方ない」と一括りにすると、対応できる問題を見逃すことがあります。
しびれが急に強くなった、顔や足にも新しい症状が出た、ろれつが回らない、強い頭痛がある、胸痛や息苦しさがある、手の色が変わる、強い腫れや熱感がある。このような場合は自己判断せず、医療機関へ相談してください。
研究では、脳卒中後の上肢の感覚障害は珍しいものではありません。報告により幅がありますが、上肢の体性感覚障害は11〜85%とされ、別のレビューでは脳卒中後に感覚低下を経験する人は約2人に1人と説明されています。1,2
痛みを伴う中枢性脳卒中後疼痛は、感覚障害とは少し分けて考えます。系統的レビューでは推定値に大きな幅があり、メタアナリシスでは脳卒中後の中枢性疼痛の有病割合はおよそ11%と報告されています。3
感覚のリハビリでは、まず評価が重要です。触られて分かるか、左右差があるか、手の位置が分かるか、物の形や素材を見ずに判断できるか、痛みや冷刺激で悪化するかを確認します。
Cochraneレビューでは、脳卒中後上肢感覚障害への介入研究は複数ありますが、研究方法や介入内容がばらついており、効果を強く結論づけるには不十分とされています。4 その後のシステマティックレビューでは、受動的な感覚刺激は活動面に中等度の効果を示す可能性がある一方、能動的な感覚再学習は有望だが、まだ質の高い研究が必要と整理されています。2
最近、しびれに対してTENSや感覚刺激を使う話を聞くことが増えています。ここで大切なのは、TENSといっても目的がいくつかに分かれることです。痛みを抑える目的、感覚入力を増やす目的、筋収縮を伴う電気刺激、反対側の手の動きに合わせて麻痺側を刺激する方法は、同じ電気刺激でも意味が異なります。
反復末梢感覚刺激のメタアナリシスでは、脳卒中後の上肢運動パフォーマンスに有利な結果が報告されていますが、対象研究は少なく、研究間のばらつきもあります。5 また、反復感覚刺激のレビューでは、誰に、どの条件で、どの刺激量がよいのかは今後の重要課題とされています。6
2026年に発表された反対側制御型機能的電気刺激の多施設RCTでは、慢性期の中等度から重度の手指麻痺に対し、12週間の介入後、手の巧緻性の主要評価では群間差がありませんでした。一方で、上肢機能障害の指標では一部の比較で有利な結果が示され、重大な治療関連有害事象は報告されていません。7
しびれに合わせて刺激を調整する方法は、臨床的には試す価値を感じる場面があります。ただし、しびれそのものを安定して軽くする大規模研究が十分にあるとは言いにくい状況です。行う場合は、目的を「感覚の確認」「痛みの調整」「手を使う練習の補助」に分け、反応を記録しながら進めるのが現実的です。
しびれは、本人にしか分かりにくい症状です。だからこそ「気にしすぎ」と片づけず、生活への影響を具体的に見ます。眠り、家事、更衣、外出、手を使う意欲、転倒ややけどのリスクを確認します。
2. 熱いもの・冷たいもの・刃物は目で確認する
3. 肩や手首を長時間圧迫しない
4. むくみ、皮膚の色、傷を毎日見る
5. 手を完全に避けず、安心して使える活動を少し残す
6. 痛みが強い場合は医師へ相談する
中枢性脳卒中後疼痛が疑われる場合、カナダの脳卒中ベストプラクティスでは、ガバペンチンやプレガバリンなどの薬剤を第一選択として検討し、必要に応じて三環系抗うつ薬やSNRIなどを検討することが示されています。8 薬の選択は年齢、眠気、ふらつき、腎機能、他の薬との関係があるため、主治医と相談して決める必要があります。
Journey Rehabでも、上肢のしびれを訴える方は少なくありません。動きの相談の中で、実は「手がしびれて気持ち悪い」「触るとつらい」「使う気になれない」と話される方がいます。
正直なところ、しびれはリハビリだけで簡単に解決できる領域ではない印象があります。一方で、最近はTENSや感覚刺激、しびれに合わせた物理療法を試す話も増えてきました。現時点では大規模研究が十分とは言えないため、当施設では「必ず良くなる」と説明するのではなく、目的と限界を共有し、反応を見ながら慎重に取り入れる考え方を大切にしています。
脳卒中後の上肢のしびれは、感覚低下、異常感覚、痛み、位置覚の問題が混ざることがあります。研究では感覚障害は珍しくなく、リハビリや感覚刺激には可能性がありますが、効果を断定できるほど研究がそろっている領域ではありません。大切なのは、原因を分けて評価し、安全管理、生活動作、感覚再学習、物理療法、医師への相談を組み合わせることです。
この記事は一般的な情報提供を目的としています。診断、治療、医療行為の推奨ではありません。しびれや痛みが強い場合、症状が急に変化した場合、薬や電気刺激の使用を検討する場合は、主治医やリハビリ専門職へ相談してください。研究データは執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
自然に変化する方もいますが、慢性期まで残る方もいます。原因や症状の種類で見通しは変わるため、評価しながら管理方法を考えることが大切です。
完全に避けると、生活で使う機会が減りやすくなります。やけどや傷に注意しながら、安心して使える活動を専門職と一緒に選ぶのが現実的です。
感覚刺激や痛みの調整として検討されることはありますが、しびれが必ず軽くなるとは言えません。刺激の目的、強さ、禁忌を確認して行う必要があります。
焼けるような痛み、冷たさで強くつらい痛み、触れるだけで痛い症状では、中枢性疼痛も考えます。主治医へ薬物療法を含めて相談してください。
熱いものを目で確認する、手の傷やむくみを見る、長時間圧迫しない、悪化条件を記録することが基本です。症状が変化した場合は相談しましょう。
2. Serrada I, Hordacre B, Hillier S. Does Sensory Retraining Improve Sensation and Sensorimotor Function Following Stroke? Front Neurosci. 2019;13:402. PMID: 31114472. PMCID: PMC6503047.
3. Liampas A, et al. Prevalence and Management Challenges in Central Post-Stroke Neuropathic Pain: A Systematic Review and Meta-analysis. Pain Ther. 2020. PMCID: PMC7467424.
4. Carey LM, et al. Interventions for sensory impairment in the upper limb after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2010. PMID: 20556766. PMCID: PMC6464855.
5. Conforto AB, et al. Repetitive Peripheral Sensory Stimulation and Upper Limb Performance in Stroke: A Systematic Review and Meta-analysis. Neurorehabil Neural Repair. 2018.
6. Andrew D, et al. To stimulate or not to stimulate? A rapid systematic review of repetitive sensory stimulation for the upper-limb following stroke. Disabil Rehabil. 2020. PMCID: PMC7708198.
7. Knutson JS, et al. Contralaterally Controlled Functional Electrical Stimulation for Upper Extremity Recovery Following Stroke: A Multisite Randomized Controlled Trial. Stroke. 2026;57:338-348. PMID: 41230603.
8. Canadian Stroke Best Practices. Management of Central Pain. 2019 updated / 2025 guideline materials.
