
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「担当の先生からボバースという方法だと聞いた」「ボバースが一番いいリハビリって本当?」——脳卒中のリハビリを調べていると、この言葉に出会うことがあります。ボバースコンセプト(神経発達的治療、NDT)は、世界で長く広く使われてきた考え方です。ただ、「最も優れた方法かどうか」という点では、研究の見方は一枚岩ではありません。この記事では、ボバースコンセプトとは何か、研究で分かっていること、他の方法との関係、そして期待しすぎないほうがよい点を、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。

・複数の研究をまとめたレビューでは、ボバースが他の方法より優れているとは示されていません1,2。
・むしろ、上肢の細かな動きなど一部では、拘束を用いた練習など他の方法のほうが良い結果を示した、という中等度の根拠が報告されています2。
・課題を繰り返す練習やリズム刺激を用いた歩行練習が、ボバースより歩行の指標で良い結果を示した試験もあります3,4。
・ただし「ボバースに意味がない」という話ではなく、一つの型に頼らず、目標に合った練習を組み合わせる考え方が主流になっています。
ボバースコンセプトは、ボバース夫妻によって発展した脳卒中などのリハビリの考え方で、神経発達的治療(NDT:Neurodevelopmental Treatment)とも呼ばれます。姿勢や筋肉の張り、身体の支え方(姿勢のコントロール)を整えながら、より自然で効率的な動きを引き出していくことを重視するのが特徴です。手や体幹に触れて動きを助けたり、誘導したりする「ハンドリング」と呼ばれる技術を用いることでも知られています。
ボバースコンセプトは、欧米を含め世界で最も広く用いられてきたリハビリの考え方のひとつとされ、多くのセラピストが学んできました1。一方で、「広く使われている」ことと「最も効果が高い」ことは同じではありません。近年は、生活の中の具体的な課題を繰り返し練習する「課題指向型」の考え方も広まっています。両者の関係を知る手がかりとして、課題指向型アプローチについて解説した記事もあわせてご覧ください。
結論から正直にお伝えすると、これまでの研究では「ボバースコンセプトが他の方法より優れている」とは示されていません。以下に、複数の臨床試験をまとめた2つのレビューと、直接比べた試験の結果を紹介します。

その後の別のシステマティックレビュー(15件の臨床試験、2020年)でも、ボバースコンセプトは他の方法より効果的とは言えないと報告されました。とくに上肢(手・腕)の運動のコントロールや器用さについては、まひした手をあえて使う練習や拘束を用いた練習(CI療法)といった他の方法のほうが良い結果を示す、という中等度の根拠があるとされています。歩行・立ち座り・バランス・日常生活動作についても、ボバースが優れているとは示されませんでした2。
研究をていねいに読むと、いくつかのことが見えてきます。まず「言えること」は、ボバースコンセプトが他の方法より明らかに優れているという根拠は、今のところ確認されていない、ということです1,2。むしろ、上肢の細かな動きや歩行の一部の指標では、拘束を用いた練習や課題指向型・リズム刺激を用いた練習のほうが良い結果を示した報告があります2,3,4。
一方で「言えないこと」は、「ボバースには意味がない」「ボバースを受けている人は損をしている」といった強い主張です。多くの試験では、ボバースを受けた群でも一定の変化はみられており、他の方法との差が明確でない、というのが実際です3,5。つまり大切なのは、「どの流派か」よりも、「今の身体と目標に合った練習を、十分な量、具体的な課題と結びつけて行えているか」だと考えられます。まひした手の使い方についてはCI療法について解説した記事、歩行のリズムづくりについてはリズム聴覚刺激について解説した記事もあわせて参考になります。
ボバースコンセプトの姿勢や動きの土台を整えるという視点は、たとえば座る・立つといった基本的な姿勢の安定が難しい方や、強い姿勢の崩れがある方にとって、手がかりになる考え方です。実際の臨床では、ボバースの視点と、課題を繰り返す練習や体力づくりなどを、その人の状態に合わせて組み合わせていくことが多くなっています。どの考え方であっても、生活の中で「やりたい動作」につながる形にしていくことが大切です。
リハビリの方法を選ぶとき、「どの流派か」だけで決める必要はありません。研究からうかがえるのは、方法の名前よりも、練習の中身と量、そして目標との結びつきが大切だということです1,2。目安としては、次のような点を担当者と一緒に確認してみるとよいでしょう。まず、その練習が「自分がしたい動作・生活」につながっているか。次に、手や脚を実際に使う練習が十分な回数行えているか。そして、うまくいっているかを定期的に見直し、必要なら内容を変えていけるか、という点です。
ボバースコンセプトを受けている場合でも、こうした視点は同じように役立ちます。大切なのは、一つの方法に固執することではなく、状態の変化に合わせて柔軟に組み立てていくことです。目標を一緒に決めていく進め方については脳卒中後のリハビリ目標設定について解説した記事もあわせてご覧ください。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Diaz-Arribas MJ, Martin-Casas P, Cano-de-la-Cuerda R, Plaza-Manzano G. Effectiveness of the Bobath concept in the treatment of stroke: a systematic review. Disabil Rehabil. 2020;42(12):1636-1649. DOI:10.1080/09638288.2019.1590865. PMID:31017023.
3. Sutcu G, Ozcakar L, Yalcin AI, Kilinc M. Bobath versus task-oriented training after stroke: an assessor-blind randomized controlled trial. Brain Inj. 2023;37(6):483-491. DOI:10.1080/02699052.2023.2203519. PMID:37074234.
4. Thaut MH, Leins AK, Rice RR, Argstatter H, Kenyon GP, McIntosh GC, Bolay HV, Fetter M. Rhythmic auditory stimulation improves gait more than NDT/Bobath training in near-ambulatory patients early poststroke: a single-blind, randomized trial. Neurorehabil Neural Repair. 2007;21(5):455-459. DOI:10.1177/1545968307300523. PMID:17426347.
5. Brock K, Haase G, Rothacher G, Cotton S. Does physiotherapy based on the Bobath concept, in conjunction with a task practice, achieve greater improvement in walking ability in people with stroke compared to physiotherapy focused on structured task practice alone? A pilot randomized controlled trial. Clin Rehabil. 2011;25(10):903-912. DOI:10.1177/0269215511406557. PMID:21788266.
