田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学) 東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍 初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後の骨密度はどうなる?骨の変化と骨折リスク、運動との関係を正直に解説
「麻痺した側の骨がもろくなると聞いたのですが、本当ですか」——これは、退院後しばらく経った方やご家族から、ときどきいただく質問です。脳卒中の後は、麻痺した手足を使う機会が減り、体重をかける量も変わるため、骨に加わる刺激が少なくなります。この記事では、脳卒中の後に骨密度がどう変化するのか、それが骨折の起こりやすさにどうつながるのか、運動は関係するのかを、研究をもとに整理します。結論から言うと、麻痺側の骨密度が下がりやすいことは複数の研究で一貫して示されています。一方で、それがそのまま骨折の多さに直結するとは、現時点の研究でははっきり示されていません1 。
骨の状態や検査結果は、主治医や専門職と確認します。
この記事の要点
・21件の研究をまとめた系統的レビュー・メタアナリシス(2024年)では、脳卒中の後、麻痺側の大腿骨頸部(脚の付け根)で骨密度の低下が示されました(平均差 −0.07 g/cm²、95%信頼区間 −0.09〜−0.04)1 。 ・麻痺していない側でも、程度は小さいものの低下がみられ(−0.03 g/cm²、−0.05〜−0.01)、体を動かす量そのものの変化が関わる可能性が示されています1 。 ・低下は時間とともに大きくなる傾向があり、追跡が6か月を超える研究のほうが変化が大きい結果でした(−0.08 対 −0.04、p=0.03)1 。 ・一方で、この分析では脳卒中と骨粗鬆症・骨折の起こりやすさとの関連は統計的にはっきりしませんでした(ハザード比1.43、95%信頼区間0.95〜2.13、p=0.09)1 。 ・運動については、7件・453人を対象にした系統的レビュー(2022年)で、体重をかける運動や振動刺激が骨の指標に良い方向の結果を示した研究がある一方、研究数が少なく質は低〜中程度と評価されています2 。骨の状態が心配な方は、まず主治医に相談してください。
SECTION 01
脳卒中の後、骨に何が起きるのか
骨は、一度できあがったら変わらない硬い柱ではありません。日々、古い部分が壊され、新しい部分が作られる入れ替わりを繰り返しています。この入れ替わりの向きは、骨にかかる力の影響を強く受けます。立つ、歩く、体重をかける、筋肉が引っ張る——こうした刺激が減ると、骨を作る側より壊す側が優位になりやすいと考えられています1,2 。
脳卒中の後は、麻痺した側の手足を使う機会が減り、立つ・歩くときの体重のかけ方も左右で偏ります。その結果、麻痺側で骨密度(骨の詰まり具合を表す指標)が下がりやすいことが、多くの研究で報告されてきました1 。骨密度は主にDXA(デキサ)と呼ばれる検査で測られ、大腿骨頸部(脚の付け根)、腰椎(背骨)、前腕、上腕などの部位ごとに評価されます。
なお、脳卒中の後に起こる体の変化は骨だけではありません。筋肉の量が減っていくことも知られており、こちらは骨の話と重なる部分があります。詳しくは脳卒中後のサルコペニアと筋肉量の減少について解説した記事 で紹介しています。
SECTION 02
研究で分かっていること
結論から正直にお伝えすると、「麻痺側の骨密度は下がりやすい」ことは比較的はっきりしている一方で、「それが骨折の多さにどうつながるか」「運動でどこまで変えられるか」は、まだ十分に分かっていません。順に見ていきます。
骨密度の変化についての分析(2024年)
脳卒中の後の骨密度を調べた縦断研究21件(うち17件を統合)をまとめた系統的レビュー・メタアナリシスがあります。追跡期間は2か月から57.6か月まで幅がありました。麻痺側では、大腿骨頸部で平均差 −0.07 g/cm²(95%信頼区間 −0.09〜−0.04)、前腕(橈骨遠位部)で標準化平均差 −0.34(−0.59〜−0.10)、上腕近位部で −0.11(−0.16〜−0.06)と、いずれも低下が示されました。麻痺していない側でも大腿骨頸部で −0.03 g/cm²(−0.05〜−0.01)と小さな低下がみられ、全身では −0.05(−0.06〜−0.03)でした。一方、腰椎では明らかな変化はありませんでした(−0.00、−0.03〜0.02)。研究間のばらつきは大きく、大腿骨頸部でI²=63%、腰椎ではI²=82%でした1 。
骨密度の低下と、骨折の起こりやすさは同じではない
同じ分析では、脳卒中と骨粗鬆症・骨折の起こりやすさとの関連は、統計的にはっきりしませんでした(ハザード比1.43、95%信頼区間0.95〜2.13、p=0.09)。著者らは、その理由のひとつとして「脳卒中の後は動く量そのものが減るため、転ぶ機会も減り、骨密度の低下がそのまま骨折の多さに現れにくい可能性」を挙げています
1 。骨密度の数字だけを見て不安になりすぎる必要はありませんが、動く量が戻ってきた時期には、転倒への備えという別の観点が大切になります。この点は
脳卒中後の転倒とその対策について解説した記事 とあわせて考えるとよいでしょう。
運動などの取り組みについての研究(2022年)
薬を使わない方法に絞った系統的レビューでは、45歳以上の脳卒中の方を対象とした7件・453人の研究(無作為化比較試験4件を含む)が集められました。内容は、体重をかける運動・有酸素運動・バランス・筋力の練習(19週間、1回1時間、週3回)、体重を支える装置を使ったトレッドミル歩行(6か月、週2回)、自宅でのボール握り運動(1〜3年、毎日)、全身振動刺激(20〜30Hz、8週間、週3回)などでした。骨密度を調べた4件のうち2件で良い方向の結果が示され、地域での運動プログラムでは麻痺側の脚の骨密度の低下が小さく、立位での重錘を用いた練習を1日60〜90分以上・3か月続けた研究では腰椎と大腿骨で良い変化が報告されました。振動刺激では骨の入れ替わりを示す指標のひとつ(NTx)が下がりました(p<0.001)が、他の指標では差がありませんでした。振動刺激そのものについては
脳卒中後の全身振動刺激について解説した記事 もご覧ください
2 。
薬を含めた比較や、それ以前の整理
薬を使う方法も含めて比べた系統的レビュー・メタアナリシス(2024年)や、身体活動と骨の関係を早い時期に整理した総説(2012年)も報告されています3,4 。骨に関わる薬の適否は医師が判断する領域であり、リハビリの現場で決めることではありません。骨密度が低いと指摘されている方は、運動の内容を考える前に、まず主治医に現在の骨の状態と方針を確認してください。
荷重運動は、転倒リスクと体の状態を確認しながら進めます。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
骨密度の分析には、いくつもの限界があります。研究の対象地域はヨーロッパと西太平洋地域に偏っており、研究間のばらつきが大きく、一部の研究では効果の大きさが推定値で補われていました。また、性別・年齢・脳卒中の重症度ごとに分けて調べられるだけの個別データがそろっていません1 。運動についての系統的レビューでは、参加人数が11〜129人と小さく、運動の種類・頻度・時間・強さが研究ごとに大きく異なり、質は低〜中程度と評価されています。多くが同じ研究グループからの報告である点も指摘されています。さらに、この分析では介入を受けた群で転倒が10件(204人中4.9%)、対照群で1件(120人中0.8%)と報告されており、重い外傷はなかったものの、運動そのものに伴う転倒への注意が必要です2 。
まだ分かっていないこと
現在の研究では、どの運動を、どのくらいの強さで、何か月続けると骨の状態にとって最も意味があるのかは定まっていません2 。骨密度の数字が少し変わることが、実際の骨折の少なさにつながるのかも、十分に確かめられていません1 。また、栄養面については、たんぱく質やビタミンD・カルシウムが脳卒中後の骨に与える影響を直接調べた研究は見つからなかったと報告されており、大きな空白が残っています2 。発症からどのくらい早く始めるとよいか、重症度や併存する病気によって違うのかも、これからの課題です2 。骨密度の低下が起きやすいこと自体は一貫していますが、そこから先の実生活への影響は、まだ描ききれていないというのが正直なところです。
SECTION 04
何が期待でき、何ははっきりしないか
研究をふまえると、体重をかける運動や立つ時間を確保することは、骨にかかる刺激という観点から理にかなった取り組みと考えられます。実際、立位での練習を一定時間続けた研究では、骨の指標に良い方向の結果が報告されています2 。こうした運動は、骨のためだけでなく、歩行や生活動作の練習そのものでもあるため、取り組む意味は骨の話に限られません。筋力づくりの進め方については脳卒中後の筋力トレーニングについて解説した記事 で紹介しています。
一方で、「運動をすれば骨密度が元に戻る」「骨折しなくなる」ことは、現時点の研究でははっきり示されていません1,2 。研究数も参加人数も限られており、変化がみられなかった研究もあります。骨の状態への対応は、運動だけで完結するものではなく、医師による評価や、必要に応じた薬の判断、栄養、そして転ばない環境づくりを含めた全体の中で考えるものです。
SECTION 05
どんな人が気にかけるとよいか
研究の対象は45歳以上の脳卒中の方が中心で、発症から間もない方から9年以上経った方まで含まれていました2 。そのうえで、特に気にかけておきたいのは、麻痺が重く立つ機会が少ない方、車いすでの生活が中心の方、寝て過ごす時間が長い方です。骨に加わる刺激が少ない状態が長く続くほど、骨密度の低下は進みやすいと考えられます1 。追跡が6か月を超える研究のほうが変化が大きかったという結果も、時間の経過が関わることを示しています1 。
また、もともと骨粗鬆症を指摘されている方、閉経後の女性、ステロイドなど骨に関わる薬を長く使っている方は、脳卒中とは別の理由でも骨の状態に注意が必要です。心当たりのある方は、自己判断で運動量を増やす前に、主治医に骨の検査や方針について相談してください。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと
骨のために運動量を増やそうとするとき、いちばん気をつけたいのは転倒です。系統的レビューでも、運動を行った群のほうが転倒の報告は多くなっていました2 。立位や体重をかける練習は、安全な支えと見守りのもとで行うことが前提です。また、骨密度が著しく低いと指摘されている場合や、圧迫骨折の既往がある場合は、避けたほうがよい姿勢や動作があります。振動刺激を用いる機器についても、適応と条件は個別に異なります。骨に関わる薬の開始・変更は医師の判断による領域であり、この記事の内容は薬の要否を判断するためのものではありません。ここで紹介した内容は一般的な情報であり、成果をすべての方に保証するものではありません。運動の内容を変えるときは、必ず主治医・リハビリ専門職に相談してください。
活動量は、安全性を確かめながら少しずつ整えます。
SECTION 06
運動の内容と量の目安
研究で用いられた内容には幅がありますが、たとえば体重をかける運動・有酸素運動・バランス・筋力の練習を組み合わせて1回1時間・週3回・19週間続けた研究、立位での重錘を用いた練習を1日60〜90分以上・3か月続けた研究、自宅でのボール握り運動を毎日・1〜3年続けた研究などが報告されています2 。共通しているのは、短期間で一気に行うのではなく、日常の中で長く続けている点です。
実際の生活では、「骨のための特別な運動」を新たに足すより、立つ時間・歩く時間・麻痺側に体重をかける時間を、無理のない範囲で確保することのほうが現実的です。座っている時間が長い方は、立ち上がる回数を1日のうちに少しずつ増やすところから始められます。ただしこれは研究で定められた量ではなく、あくまで考え方の目安です。体調に波があるときや痛みがあるときは無理をせず、安全を優先してください。
SECTION 07
Journey Rehabでの現場経験
当施設でのリアルな経験
訪問リハビリでご一緒するなかで、骨密度の検査結果を見て不安になったというお話をうかがうことがあります。私たちがまずお伝えしているのは、数字そのものよりも、日々どれだけ立って体重をかけているかのほうが、生活の中では意識しやすいということです。麻痺側に体重をかける場面は、練習の時間だけでなく、洗面台の前や台所に立つ数分にも含まれています。一方で、骨のために立つ時間を増やそうとして、ふらつきが増えてしまっては本末転倒です。支えのある場所を決め、疲れが出る時間帯を避けるなど、安全の条件を先に整えてから量を考えるようにしています。骨の状態そのものについては、主治医の評価と方針が前提であり、リハビリ側で判断する領域ではないことも、あわせてお伝えしています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
立つ・歩くといった日々の動きを一緒に確認しながら、安全な運動の進め方を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨を目的とするものではありません。骨密度の評価や薬の要否は医師が判断する領域です。運動の内容や強さは、麻痺の程度、骨の状態、併存する病気によって向き・不向きが異なります。実施を検討する際は、まず主治医・リハビリ専門職に相談してください。運動中に痛み・強いふらつき・息苦しさが出た場合は中止してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格 修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836 東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍 経歴 2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事 2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立 2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中 研究活動 第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表 論文執筆 田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
麻痺した側の骨は必ずもろくなりますか?
必ずではありませんが、集団としては麻痺側の骨密度が下がりやすい傾向が複数の研究で示されています。特に脚の付け根や前腕で報告されています。個人差が大きいため、心配な場合は主治医に検査について相談してください。
骨密度が下がると骨折しやすくなりますか?
単純にはつながりません。21件をまとめた分析では、脳卒中と骨粗鬆症・骨折の起こりやすさとの関連は統計的にはっきりしませんでした。動く量が減ることで転ぶ機会も減る影響が考えられています。ただし活動量が戻ってきた時期は、転倒への備えが大切になります。
どんな運動が骨によいのですか?
研究では、立って体重をかける運動、有酸素運動、筋力の練習、全身振動刺激などが調べられています。ただし研究数が少なく、どれがどのくらい有利かははっきりしていません。安全に続けられる内容を専門職と一緒に選ぶことが大切です。
カルシウムやビタミンDのサプリメントは役立ちますか?
脳卒中後の骨に対する栄養の影響を直接調べた研究は見つからなかったと報告されており、はっきりしたことは言えません。サプリメントの要否は持病や薬との兼ね合いもあるため、主治医に相談してください。
車いす中心の生活ですが、できることはありますか?
支えのある立位を短時間から取り入れる、麻痺側の手で物を押さえる場面を作るなど、安全に行える範囲で刺激を確保する方法があります。どこまで行えるかは体の状態によって異なるため、専門職と一緒に決めてください。
骨密度の検査は受けたほうがよいですか?
検査の要否は、年齢、性別、骨折の既往、使っている薬などをふまえて医師が判断します。気になる場合は、脳卒中の経過とあわせて主治医に相談するのがよいでしょう。
REFERENCES
参考文献
1. Wang J, Sun Y, Guo X, Zhang Z, Liang H, Zhang T. The effect of stroke on the bone mineral density: A systematic review and meta-analysis. The Journal of Nutrition, Health & Aging. 2024. DOI:10.1016/j.jnha.2024.100189. PMID:38350301. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38350301/ 2. Sallehuddin H, Ong T, Md Said S, Ahmad Tarmizi NA, Loh SP, et al. Non-pharmacological interventions for bone health after stroke: A systematic review. PLoS One. 2022. DOI:10.1371/journal.pone.0263935. PMID:35196338. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35196338/ 3. Ouyang H, Lee TC, Chan FY, Li X. Non-pharmacological and pharmacological treatments for bone health after stroke: Systematic review with meta-analysis. Annals of Physical and Rehabilitation Medicine. 2024. DOI:10.1016/j.rehab.2024.101823. PMID:38479252. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38479252/ 4. Borschmann K, Pang MY, Bernhardt J, Iuliano-Burns S. Stepping towards prevention of bone loss after stroke: a systematic review of the skeletal effects of physical activity after stroke. International Journal of Stroke. 2012. DOI:10.1111/j.1747-4949.2011.00645.x. PMID:21967614. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21967614/