脳卒中後のサルコペニアとは?筋肉量・筋力低下とリハビリの考え方

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後のサルコペニア(筋肉量・筋力の低下)とは?研究で分かっていることと限界を正直に解説

「脳卒中の後、体がやせて力が入らなくなった」「入院しているうちに筋肉が落ちた気がする」——これは、ご本人にもご家族にもよく聞かれる悩みです。加齢や病気によって筋肉の量と力が低下した状態を「サルコペニア」と呼びます。脳卒中の後は、このサルコペニアが起こりやすいことが分かってきました。この記事では、脳卒中後のサルコペニアについて、研究で分かっていることと、まだはっきりしないことを、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。結論から言うと、脳卒中の後はサルコペニアの割合が高まりやすく、回復や生活動作にも関わる大切な問題ですが、「これをすれば確実に防げる」という決定的な方法はまだ確立していません。

脳卒中後のサルコペニアと食事・運動支援のイメージ
この記事の要点
・サルコペニアとは、筋肉の量と力(握力など)が低下した状態のことです。
・35件の研究をまとめた分析では、脳卒中前のサルコペニアの割合は約15.8%だったのに対し、発症から10日以内で約29.5%、10日〜1か月では約51.6%へと高まっていました1
・サルコペニアは、生活動作(ADL)の回復、自宅への退院、飲み込み(嚥下)などにも関わることが報告されています1
・防ぐ・和らげる工夫としては、筋力トレーニングと、たんぱく質(特にロイシンを多く含むアミノ酸)を意識した栄養の組み合わせが研究されていますが、脳卒中の方に絞った質の高い証拠はまだ限られます2
・体重が急に減る、力が入らない、食事量が落ちているといった変化があるときは、自己判断せず主治医・管理栄養士・リハビリ専門職に相談してください。
SECTION 01
サルコペニアとは

サルコペニアとは、加齢や病気、活動量の低下、栄養不足などによって、筋肉の量(筋肉量)と力(筋力)が低下した状態のことです。研究では、握力の低下と、筋肉量の低下(体組成計やDXAという検査で測定)を組み合わせて判定する方法(AWGSやEWGSOPという基準)がよく使われます1。脳卒中の後は、体が動かしにくくなって活動量が減ること、飲み込みにくさや食欲の低下で栄養が不足しがちになること、入院中の安静などが重なり、短い期間でも筋肉が落ちやすくなります。

筋肉は、立つ・歩く・起き上がるといった動作の土台になるだけでなく、飲み込みや呼吸にも関わります。そのため、筋肉の量と力が落ちることは、生活全体に影響します。食べる・飲み込む力を保つことも筋肉と深く関わるため、脳卒中後の口腔ケアについて解説した記事もあわせて参考にしてください。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、「脳卒中の後はサルコペニアが増えやすい」ことははっきりしてきましたが、「どう防ぐのが最も良いか」については、質の高い証拠がまだ乏しいのが現状です。代表的な研究をみていきます。

研究から読み取れること
まず、どのくらい多いかについてです。脳卒中前後のサルコペニアの割合を調べた35件の研究をまとめた系統的レビューでは、脳卒中前の割合は約15.8%だったのに対し、発症から10日以内では約29.5%、10日から1か月では約51.6%へと高まっていました1。つまり、脳卒中の後の短い期間でも、筋肉の量と力が落ちやすいことが読み取れます。さらに、このレビューでは、サルコペニアがあると、生活動作(ADL)の回復や自宅への退院、飲み込み(嚥下)の状態にも影響しうること、脳卒中前からサルコペニアがある方では発症90日後の経過が思わしくない傾向があることも報告されています1

次に、防ぐ・和らげる工夫についてです。神経リハビリを受ける高齢者の筋肉量・筋力の低下を防ぐ方法をまとめた系統的レビュー(9件の研究)では、ロイシンを多く含むアミノ酸などの栄養補助が、運動機能(運動項目のFIM)や筋肉量の指標、握力の改善と関連したこと、個別の栄養サポートが体重減少を抑えたことが報告されました2。栄養は、筋力トレーニングと組み合わせて考えられています。運動の面については脳卒中後の筋力トレーニングについて解説した記事もあわせて参考にしてください。
エビデンスの質と限界
これらの研究には共通した限界があります。割合を調べたレビューでは、研究の多くがアジア(特に日本)で行われ、判定の時期や方法が研究ごとにそろっておらず、筋肉量だけで判定して身体機能を含めていない研究が多いことが指摘されています1。防ぐ方法を調べたレビューでも、脳卒中の方に絞った研究は少なく、対象人数が小さい、介入内容がバラバラで直接比べにくい、といった限界があり、「筋肉量と機能の低下を防ぐ確実な方法があるとは言い切れない」とまとめられています2。良い傾向を示した工夫も、すべての方に同じように当てはまるわけではありません。
まだ分かっていないこと
現在の研究では、脳卒中後のサルコペニアに対して、どの運動を・どのくらいの量とたんぱく質を・どの時期に組み合わせると最も役立つのかは、十分に分かっていません1,2。長期的にどこまで筋肉と生活動作を保てるのか、重症度や年齢による違いはどうかといった点も、まだ検証が足りません1。今後、脳卒中の方を対象にした、判定方法をそろえた大きく質の高い研究が必要とされています。
たんぱく質を含む食事と無理のない運動を組み合わせるイメージ
SECTION 03
何が期待でき、何ははっきりしないか

研究をふまえると、サルコペニアへの対応は「一つの決め手」ではなく、「運動と栄養を無理のない範囲で組み合わせて続けること」が現実的です。体を動かして筋肉に適度な負荷をかけること、そのための材料となるたんぱく質を食事でしっかりとること、この二つを両輪で考えるのが基本です2。体を動かす面では、筋力トレーニングだけでなく、無理のない範囲で日中の活動量を保つことも役立ちます。有酸素運動や体力づくりの考え方については脳卒中後の有酸素運動について解説した記事も参考になります。

一方で、「この運動とこの食事なら誰でも確実に筋肉が戻る」ことは、現時点の質の高い研究でははっきり示されていません2。効果には個人差があり、どのくらいの負荷や栄養が適切かは、持病・腎機能・飲み込みの状態などによって変わります。たんぱく質の量やサプリメントの使用は、腎臓の病気などがある方では注意が必要なため、自己判断で増やさず、主治医・管理栄養士に相談してください。

SECTION 04
どんな人に注意が必要か・相談の目安

活動量が大きく減っている方、飲み込みにくさや食欲の低下がある方、体重が減ってきた方は、サルコペニアに注意が必要です。筋肉の低下は、立つ・歩く・起き上がるといった動作や、飲み込みにも関わるため、早めに気づいて対応することが大切です。

⚠ こんなときは相談を
次のような変化があるときは、自己判断せず主治医・管理栄養士・リハビリ専門職に相談してください。ここ数か月で体重が思わぬペースで減ってきた/握力や立ち上がりの力が落ちてきた/食事量が減っている、むせやすくなった/疲れやすく活動量が落ちている、といった場合です。とくに、飲み込みにくさで食事がとりにくい方は、栄養不足から筋肉の低下が進みやすいため注意が必要です。持病(腎臓の病気、糖尿病など)がある方は、運動や栄養の調整に配慮が必要なこともあります。ここで紹介した工夫は一般的な情報であり、効果を保証するものではありません。
SECTION 05
生活での工夫の目安

研究では「これをすれば確実」という決まった方法は定まっていません1,2。そのうえで、体に負担をかけずに試しやすい工夫としては、次のようなものがあります。無理のない範囲で体を動かし、立つ・歩く・座って立ち上がるといった動作の機会を保つこと。食事では、肉・魚・卵・大豆・乳製品などのたんぱく質を、毎食少しずつでもとり入れること。飲み込みにくさがある場合は、食べやすい形や、とろみのつけ方を専門職に相談すること。こうした運動と栄養を、生活のリズムの中で続けやすい形にしていきます。

大切なのは、一度に完璧を目指さず、続けられそうなことから一つずつ始めることです。運動の強さや、たんぱく質・サプリメントの量は、持病や腎機能によって調整が必要なため、増やす前に主治医・管理栄養士に相談してください。体調がすぐれないときは無理をせず、休むことも大切です。

SECTION 06
Journey Rehabでの現場経験
当院での経験
訪問リハビリでご一緒するなかで、筋肉の低下は運動だけの問題ではなく、食事量、飲み込み、活動量、気分などが重なっていることが少なくありません。私たちがまず大切にしているのは、運動メニューを増やす前に、「食べられているか」「体重が減っていないか」「日中どのくらい動いているか」を一緒に確認することです。栄養が足りないまま運動量だけ増やすと、かえって疲れがたまってしまうこともあるためです。実際に、無理のない運動と、たんぱく質を意識した食事を少しずつ組み合わせ、生活のなかで立つ・歩く機会を丁寧に増やしていった方のほうが、力の入りやすさや動作の安定を感じやすい印象があります。一方で、持病や体調によっては運動量を抑える判断も必要で、その場合は主治医・管理栄養士と連携しながら進めます。体重や食事の変化は、リハビリだけで抱え込まず医療者へつなぐことを大切にしています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
体の状態や生活の状況を一緒に確認しながら、無理なく続けられるリハビリの内容を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨や、特定の食品・サプリメントの使用を促すものではありません。運動や栄養の調整は、個人の状態(持病・腎機能・飲み込みなど)によって異なります。たんぱく質やサプリメントの量、運動の強さは、必ず主治医・管理栄養士・リハビリ専門職に相談してください。体重の急な減少やむせが続く場合は、早めに医療機関に相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
脳卒中の後、なぜ筋肉が落ちやすいのですか?
体が動かしにくくなって活動量が減ること、飲み込みにくさや食欲の低下で栄養が不足しがちになること、入院中の安静などが重なるためと考えられています。研究では、脳卒中の後の短い期間でもサルコペニアの割合が高まることが報告されています。
サルコペニアかどうかは、どうやって分かりますか?
研究では、握力などの筋力と、体組成計やDXAという検査で測る筋肉量を組み合わせて判定します。気になる場合は自己判断せず、主治医やリハビリ専門職に相談し、必要に応じて評価を受けてください。
たんぱく質はたくさんとれば良いのですか?
たんぱく質は筋肉の材料として大切ですが、腎臓の病気がある方などは量に注意が必要です。自己判断で大量にとったり、サプリメントを増やしたりせず、適切な量は主治医・管理栄養士に相談してください。
運動と食事、どちらが大切ですか?
研究では、筋力トレーニングなどの運動と、たんぱく質を意識した栄養は、両輪で考えられています。どちらか一方だけでなく、無理のない範囲で組み合わせて続けることが基本です。体の状態に合う進め方は専門職に相談してください。
一度落ちた筋肉は戻りますか?
運動と栄養の組み合わせで良い傾向を示した研究はありますが、効果には個人差が大きく、「誰でも確実に元どおりになる」とは言えません。年齢や重症度、持病によっても異なります。あきらめず、続けやすい形で取り組むことが大切です。
飲み込みが心配です。食事はどうすればよいですか?
飲み込みにくさがあると栄養が不足し、筋肉の低下が進みやすくなります。食べやすい形やとろみのつけ方、安全な姿勢などは、言語聴覚士や管理栄養士など専門職に相談してください。むせが続くときは早めに医療機関へ相談しましょう。
REFERENCES
参考文献
1. Inoue T, Ueshima J, Kawase F, Kobayashi H, Nagano A, Murotani K, Saino Y, Maeda K. Trajectories of the Prevalence of Sarcopenia in the Pre- and Post-Stroke Periods: A Systematic Review. Nutrients. 2022;15(1):113. DOI:10.3390/nu15010113. PMID:36615772. PMCID:PMC9824538.
2. Lathuilière A, Mareschal J, Graf CE. How to Prevent Loss of Muscle Mass and Strength among Older People in Neuro-Rehabilitation? Nutrients. 2019;11(4):881. DOI:10.3390/nu11040881. PMID:31010176. PMCID:PMC6521136.