脊髄損傷後の歩行トレーニングとは?トレッドミル・ロボット・地上歩行の研究と限界を正直に解説

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脊髄損傷後の歩行トレーニングとは?トレッドミル・ロボット・地上歩行の研究と限界を正直に解説
最終確認日:2026年7月22日

不全脊髄損傷のあと、「トレッドミルで体重を吊って歩く練習がよいのか」「ロボットを使ったほうが速く進むのか」「結局どのやり方が一番よいのか」は、よくある疑問です。装置の見た目は大きく違うので、どれかが明らかに優れているように感じてしまうのも自然なことです。この記事では、脊髄損傷後の歩行トレーニングについて、研究で分かってきたこと、そしてまだはっきりしないことを、当事者の方とご家族に向けて正直に整理します。

不全脊髄損傷後に前腕支持杖を使って歩行練習を行う人と見守るリハビリ専門職
方法の新しさだけでなく、安全に歩く量を確保できるかを確認します。
この記事の要点
・国際的な研究レビュー(コクラン、5件の試験・合計309名)では、「どの歩行トレーニングのやり方が他より優れているか」を結論づけるだけの証拠はない、とされています1
・体重免荷トレッドミル歩行、ロボット支援、電気刺激の併用のいずれも、歩く速さで他を上回るという結果は出ていません(体重免荷トレッドミルで平均差0.03m/秒、95%信頼区間−0.05〜0.11)1
・ロボット支援については、歩ける距離がむしろ短くなった解析結果(平均差−10.29m)もあり、確認が必要と指摘されています1
・2024年の比較試験(41名)でも、仮想現実を用いた「歩き方を調整する練習」と、従来型の練習との間に差はありませんでした。ただし、どちらの群も練習後に歩く速さが伸びています2
・慢性期を対象にした2011年の試験(74名)では、床の上を歩く練習に電気刺激を組み合わせた群で、歩ける距離の伸びがもっとも大きい傾向でした3
・重い有害事象の報告は少なく、いずれの方法も安全性の面では概ね許容されています1,2
SECTION 01
脊髄損傷後の歩行トレーニングとは

脊髄損傷は、背骨の中を通る神経の束が傷つくことで、傷ついた高さから下の運動や感覚に支障が出る状態です。神経の伝わりが一部残っている「不全損傷」の場合、歩く力がある程度残ることがあり、その力を生活で使える形にしていくのが歩行トレーニングの目的です。

よく用いられる方法は、大きく4つに整理できます。1つめは、体をハーネスで吊って体重の一部を支えながらベルトの上を歩く「体重免荷トレッドミル歩行」。2つめは、脚に装着した機械が動きを補助する「ロボット支援歩行」。3つめは、麻痺した筋に電気を流して動きを助ける「電気刺激の併用」。4つめは、装置を使わず床の上を実際に歩く「地上歩行練習」です。同じ体重免荷トレッドミルは脳卒中の領域でも用いられており、脳卒中後のBWSTTについて解説した記事もあわせて読むと、装置の考え方が理解しやすくなります。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、「どの方法が他より優れているか」は、現時点でははっきりしていません。装置が新しいほど良い、という単純な話にはなっていない、というのが研究を読んだうえでの実感です。

研究から読み取れること
この分野の基本文献となっているのが、国際的な研究レビュー団体であるコクランのレビューです。外傷性脊髄損傷のある方を対象とした5件のランダム化比較試験(合計309名、練習期間4〜12週間)をまとめたところ、歩く速さについて、体重免荷トレッドミル歩行と対照との差は平均0.03m/秒(95%信頼区間−0.05〜0.11)で、はっきりした差とはいえませんでした。ロボット支援でも平均差0.06m/秒(95%信頼区間−0.01〜0.13)、電気刺激を併用した体重免荷トレッドミルでも平均差−0.03m/秒(95%信頼区間−0.11〜0.06)と、いずれも同様でした1。6分間で歩ける距離についても、体重免荷トレッドミルで平均差−1.3m(95%信頼区間−41〜40)と差がありませんでした1

注意が必要なのはロボット支援で、歩ける距離がむしろ短くなる方向の結果(平均差−10.29m、95%信頼区間−0.15〜−20.43)が示されており、著者らは今後の確認が必要な点として挙げています。ただしこれは74名の1試験に基づく限られた結果です1

より新しい2024年の比較試験では、6か月以上経過した歩ける不全脊髄損傷の方41名を、仮想現実を用いて「またぐ・よける・とっさに踏み出す」といった歩き方の調整を練習する群と、トレッドミルと筋力練習を組み合わせた従来型の群に分け、6週間で11回の練習を行いました。結果は、練習後の歩く速さに群間差がなく(平均群間差−0.05m/秒、95%信頼区間−0.12〜0.03)、バランスへの自信や社会参加の指標でも差はありませんでした。ただし、群にかかわらず歩く速さは0.10m/秒伸びており、これは生活で意味を感じられる大きさの目安を満たす変化でした2

やり方の違いを4群で比べた2011年の試験(受傷から1年以上経過した74名、週5日・12週間)では、床の上を歩く練習に電気刺激を組み合わせた群で、歩ける距離の伸びがもっとも大きい傾向がみられ(効果量0.40)、ロボット支援による練習では明確な伸びがみられませんでした3
エビデンスの質と限界
正直に言うと、この分野の証拠はまだ薄いものです。コクランのレビューで採用できた試験はわずか5件、合計309名にすぎませんでした1。評価する人が結果を知らない状態で測定できていた試験は1件のみで、3件では参加者の割り付け方法が十分に隠されていませんでした1。さらに、対象となった方の損傷の高さや程度、受傷からの期間、練習の内容や量が研究ごとに大きく異なるため、単純に足し合わせて比べることが難しい状況です1

2024年の試験も41名と小規模で、評価する人が群を知らない状態ではありませんでした。また、想定した練習量が一部の参加者には足りなかった可能性や、「歩き方の調整力」という狙いを歩く速さだけでは捉えきれなかった可能性が、著者ら自身によって指摘されています2。2011年の試験でも、最適な練習量は分かっていないこと、対象の多くが普段は車いすを使う方であったことが限界として挙げられています3。なお、コクランのレビューは公表からかなり年月が経っており、その後に登場した機器や方法は含まれていません。この点も踏まえて読む必要があります。
まだ分かっていないこと
まず、どのくらいの量・強さ・期間で行うのが最適なのかが分かっていません。2011年の試験でも「最適な練習量は不明」と明記されています3。次に、どのような状態の方にどの方法が向いているのかも未確立です。損傷の高さ、麻痺の程度、受傷からの期間、もともとの歩行能力によって適した方法は変わるはずですが、それを分けて検証した研究はまだ足りません1

また、練習で得られたものがどのくらい保たれるのかも、十分には分かっていません。2011年の試験では、その後の状態を追えた方は10名にとどまっています3。最後に、歩く速さや距離といった数値が伸びたとして、それが外出のしやすさや生活の広がりにどこまでつながるのかも、これから検証されるべき部分です。2024年の試験では、社会参加の指標に群間差はみられませんでした2
自宅玄関の段差で杖を使い歩行練習を行う人と付き添うリハビリ専門職
段差や方向転換など、実際の生活環境に合わせて練習内容を調整します。
SECTION 03
何が変わりやすく、何は変わりにくいか

研究をていねいに読むと、「歩行トレーニングを続けること自体」には、歩く速さや距離が伸びる方向の結果が繰り返し観察されています。2024年の試験では、どちらの群でも歩く速さが0.10m/秒伸び、これは生活で意味を感じられる大きさの目安を満たしていました2。つまり、変わりやすいのは「歩く量をきちんと確保したこと」による部分であり、装置の種類そのものではない可能性が高い、と読むのが素直です。

一方で、変わりにくい・はっきりしないのが「どの方法が他より優れているか」です。コクランのレビューでも、5件の試験のどこにも明確な優劣はみられませんでした1。ロボット支援については、歩ける距離が短くなる方向の結果が出ており、慎重に扱う必要があります1,3。歩く「量と強度」をどう確保するかという観点は脳卒中の領域でも共通しており、歩く量と強度について解説した記事の考え方も参考になります。また、装置の位置づけについては外骨格ロボットを用いた歩行練習について解説した記事もあわせて確認すると、判断の材料が増えます。

SECTION 04
どんな人に向いているか・注意したい人

研究で対象となったのは、神経の伝わりが一部残っている不全脊髄損傷(AIS分類でC・D)の方が中心でした1,2,3。2024年の試験では、支えなしで10m以上歩ける、歩く速さが0.3〜1.0m/秒という条件で参加者が選ばれています2。つまり、「なんとか歩けるが、外での歩行に不安がある」という段階の方が、研究の想定に近いといえます。完全損傷の方や、まったく立てない段階の方については、歩行トレーニングそのものの位置づけが変わるため、別の考え方が必要です。

⚠ 注意したい人・気をつけたいこと
脊髄損傷では、感覚が鈍い部分の皮膚トラブルに注意が必要です。ハーネスや装具が当たる部分、靴の中の状態を、練習の前後で必ず確認してください。損傷の高さによっては、起立性低血圧(起き上がったときのふらつき)や、自律神経過反射といった血圧の急な変動が起こることがあります。頭痛、発汗、顔の紅潮などがあれば、すぐに中止して医療機関に相談してください。

骨がもろくなっている場合は骨折の心配もあり、体重をかける練習の可否は個別に判断されます。膀胱・腸の管理、体温調節、疲れやすさなども、練習の組み立てに関わります。何をどこまで行ってよいかは、必ず主治医や担当のリハビリ専門職と相談して決めてください。
SECTION 05
回数・頻度・進め方の目安

研究で用いられた練習量には幅があります。コクランのレビューに含まれた試験は4〜12週間1、2024年の試験は6週間で計11回・1回60分2、2011年の試験は週5日・12週間で平均49回3でした。ここから言えるのは、「数回で変わるものではなく、数週間から数か月の単位で、ある程度の回数を重ねる前提の取り組みである」ということです。ただし「これだけやれば必ずこうなる」という決まった正解はまだありません1,3

進め方としては、専門職の評価をもとに、安全に行える範囲で歩く量を確保することが土台になります。装置を使える環境であればそれも選択肢ですが、研究の結果からは、装置がないと進められないわけではありません。床の上を歩く練習、段差やよけ動作を含む練習、そのあいだの休憩の取り方を、生活の場面に合わせて組み立てていくのが現実的です。ご自宅で行う場合は、一人で行ってよい範囲、中止の目安、皮膚と血圧の確認方法を、事前に専門職と決めておくと安心して続けられます。

SECTION 06
Journey Rehabが重視する考え方
支援方針
Journey Rehabでは、特定の機器や手法を「これが一番」と位置づける説明はしません。研究では方法どうしの優劣がはっきりしておらず、むしろ歩く量を安全に確保できたかどうかが結果を左右している可能性が高いためです1,2。訪問の場では、ご自宅と外出先の環境で実際に必要になる歩き方(段差、方向転換、人をよける動作など)を確認し、皮膚・血圧・疲労のサインを見ながら量を調整します。損傷の高さや合併症によって行ってよい範囲は大きく変わるため、主治医や関係職種との連携を前提とします。研究知見は小規模な試験が中心であり、すべての方に同じ結果を保証するものではありません。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
歩行や外出の不安について、身体の状態とご自宅の環境を一緒に確認しながら、続けやすい練習を相談できます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨ではありません。脊髄損傷は損傷の高さや程度により状態が大きく異なり、安全に運動できる範囲も人によって違います。練習を始める前に、行ってよい状態かどうかややり方を含め、主治医や担当専門職に相談しながら進めてください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
ロボットを使う練習のほうがよいのでしょうか?
現時点の研究では、ロボット支援が他の方法より優れているという結果は出ていません。むしろ歩ける距離が短くなる方向の解析結果もあり、確認が必要とされています1。装置の新しさで選ぶのではなく、ご自身の状態と目的に合っているかを専門職と確認することをおすすめします。
では、どのやり方を選べばよいですか?
研究からは、方法の違いよりも「安全に歩く量を確保できているか」のほうが大きい可能性が読み取れます1,2。慢性期を対象にした試験では、床の上を歩く練習に電気刺激を組み合わせた群で歩ける距離の伸びが大きい傾向でしたが、1つの試験の結果です3。使える環境と続けやすさをふまえ、専門職と一緒に決めるのが現実的です。
受傷から何年も経っていますが、練習する意味はありますか?
2011年の試験は受傷から1年以上、2024年の試験は6か月以上経過した方が対象で、いずれも練習後に歩く速さや距離が伸びる方向の結果が示されています2,3。ただし変化の大きさは人によって異なり、全員に同じ結果が出るわけではありません。まずは現在の状態を専門職に確認してもらうとよいでしょう。
どのくらいの期間続ければよいですか?
研究で用いられた期間は4〜12週間が中心で、回数は週2〜5回程度でした1,2,3。数回で変わるものではなく、数週間から数か月の単位で重ねる前提の取り組みです。最適な量はまだ分かっていないため、疲労や皮膚の状態をみながら専門職と調整してください。
練習中に気をつけるサインはありますか?
感覚が鈍い部分の皮膚の赤みや傷、起き上がったときのふらつき、頭痛や発汗・顔の紅潮といった血圧変動のサインには注意してください。こうした症状があればすぐに中止し、医療機関に相談を。練習の前後で皮膚を確認する習慣をつけておくと安心です。
歩く速さが上がると、外出もしやすくなりますか?
歩く速さや距離が伸びても、それが外出のしやすさや社会参加にどこまでつながるかは、まだ十分に検証されていません。2024年の試験では、社会参加の指標に群間差はみられませんでした2。実際の外出には、段差や人混み、移動手段など別の要素も関わるため、生活の場面に即した練習が大切になります。
脳卒中の歩行練習と考え方は同じですか?
歩く量を確保する、生活の場面に近い形で練習する、といった共通点は多くあります。ただし脊髄損傷では、感覚の鈍い部分の皮膚トラブル、血圧の変動、膀胱・腸の管理など、固有の注意点があります。同じ装置を使っていても配慮すべき点が異なるため、専門職と相談して進めてください。
REFERENCES
参考文献
1. Mehrholz J, Kugler J, Pohl M. Locomotor training for walking after spinal cord injury. Cochrane Database Syst Rev. 2012;11(11):CD006676. DOI:10.1002/14651858.CD006676.pub3. PMID:23152239. PMCID:PMC11848707.
2. Zwijgers E, van Dijsseldonk RB, Vos-van der Hulst M, Hijmans JM, Geurts ACH, Keijsers NLW. Efficacy of Walking Adaptability Training on Walking Capacity in Ambulatory People With Motor Incomplete Spinal Cord Injury: A Multicenter Pragmatic Randomized Controlled Trial. Neurorehabil Neural Repair. 2024;38(6):413-424. DOI:10.1177/15459683241248088. PMID:38661122. PMCID:PMC11097615.
3. Field-Fote EC, Roach KE. Influence of a locomotor training approach on walking speed and distance in people with chronic spinal cord injury: a randomized clinical trial. Phys Ther. 2011;91(1):48-60. DOI:10.2522/ptj.20090359. PMID:21051593. PMCID:PMC3017322.