多発性硬化症(MS)の遠隔リハビリ|疲労・運動・生活の質への研究

· 神経難病情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
多発性硬化症(MS)の遠隔リハビリ(テレリハビリテーション)とは?運動・疲労・生活の質への研究と限界を正直に解説
公開日:2026年9月6日/最終更新:2026年9月6日

「通院してリハビリを受けたいけれど、疲れやすくて外出が負担」「近くに多発性硬化症(MS)に詳しいリハビリ職がいない」。こうした事情から、自宅にいながらオンラインで運動指導を受ける「遠隔リハビリ(テレリハビリテーション)」に関心を持つ方が増えています。結論から先にお伝えします。MSの遠隔リハビリを調べた研究では、疲労・抑うつ・身体の活動量・生活の質(QOL)などで、通常ケアより良い変化が報告されています3,4。一方で、多くの研究は規模が小さく質も高くないため、エビデンスの確実性は「低い」とされています1,2。また、対面リハビリと比べて優れているかどうかははっきりしていません1。この記事では、研究で分かっていることと分かっていないことを正直に整理します。

SECTION 01
多発性硬化症の遠隔リハビリ(テレリハビリ)とは何か

多発性硬化症(MS)は、脳や脊髄の神経を覆う部分に炎症が起こり、手足の動かしにくさ、感覚の異常、バランスのふらつき、強い疲労感(易疲労性)、物忘れや処理速度の低下、気分の落ち込みなど、さまざまな症状が出る病気です。症状には波があり、暑さで一時的に悪化しやすい(ウートフ現象)という特徴もあります。

遠隔リハビリ(テレリハビリテーション)とは、テレビ電話・アプリ・専用のオンライン運動プラットフォームなどを使い、リハビリ職が離れた場所から運動プログラムの作成・指導・進み具合の確認を行う方法です。有酸素運動、筋力トレーニング、バランス練習、ピラティスやヨガ、疲労のセルフマネジメント(自己管理)教育など、内容はさまざまで、多くは1つの研究の中に複数の要素が組み合わさっています1。MSの運動療法そのものの考え方は多発性硬化症(MS)の運動療法について解説した記事で、脳卒中を含めた遠隔リハビリ全般の話は脳卒中後の遠隔リハビリについて解説した記事でも扱っています。

自宅でオンラインの遠隔リハビリを受ける多発性硬化症の方
遠隔リハビリでは、画面越しに姿勢や体調を確認しながら運動を進めます
SECTION 02
研究では効果があるとされているのか
システマティックレビュー・メタアナリシス(2025年・13試験)

遠隔で行う運動(テレ・エクササイズ)の効果を調べたランダム化比較試験13件を統合した解析では、通常ケアと比べて、抑うつ(標準化平均差 −0.51)、疲労(同 −0.58)、身体的健康(同 0.62)、生活の質(同 0.38)、精神的健康(同 −0.48)が、いずれも統計的に有意に良い方向へ動いたと報告されました。とくにヨガや太極拳など「心と体を結びつける(マインド・ボディ)」タイプの運動で効果が大きい傾向がありました。著者らは「最適なプロトコル、長期的な効果、他の手段との組み合わせについては、さらなる研究が必要」と述べています3

システマティックレビュー・メタアナリシス(2024年・5試験225人)

歩行などの移動能力とバランスに的をしぼった5件・225人の解析では、遠隔リハビリによって移動能力(標準化平均差 0.41、95%信頼区間 0.05〜0.77)とバランス機能(同 0.64、95%信頼区間 0.31〜0.97)が有意に良くなりました。実施できた割合(フィージビリティ)は90%を超えていました。ただし主に用いられたのはエクサゲーム(体を動かすゲーム)とピラティスをもとにした運動で、著者らは「サンプルサイズが大きく質の高い研究がさらに必要」としています4

コクラン・システマティックレビュー(2015年・9試験531人)

MSの遠隔リハビリに関する代表的なレビューでは、9件・531人の研究がまとめられました。参加者の平均年齢は約46歳、診断からの平均年数は約12年、多くが女性で再発寛解型のMSでした。研究の方法や評価尺度のばらつきが大きくメタアナリシス(数量的統合)はできませんでしたが、「短期(3か月まで)の障害や疲労などの症状を減らすことについて『低いレベル』の根拠」があり、長期的にも生活動作、疲労・痛み・不眠などの症状、生活の質や心理面の改善を支持する『低いレベル』の根拠が見られました。遠隔リハビリによる有害事象の報告はなく、費用対効果を調べたデータはありませんでした1。同じ研究グループによるコクランレビューの総括(2019年)でも、遠隔リハビリのエビデンスは「質が低い」と位置づけられています2

個別のランダム化比較試験(例)

インターネットを使った運動プログラムを6か月行った126人の研究では、生活の質そのものには差が出ませんでしたが、膝の筋力、呼気の力、スポーツ活動量が対照より良くなりました6。ピラティスをもとにしたオンライン運動を週3回・6週間行った30人の研究では、筋力・体幹の持久力・バランス・歩行・生活の質が良くなり、疲労の程度も下がりました7。歩ける段階(EDSS 4〜6.5)の90人を対象に、Web上の運動プログラムと運動指導の紙を比べた研究では、大半の指標で変化がなく、「実施は可能だが、はっきりした効果を示すには160人規模の研究が必要」と結論づけられました5

全体をまとめると、遠隔リハビリは疲労・抑うつ・身体活動・生活の質・移動能力・バランスなどで前向きな報告が多い一方3,4、生活の質のように変化が出にくかった研究もあり5,6、対面リハビリとの優劣や最適な内容ははっきりしていません1

SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと

研究の質にはいくつか共通した限界があります。コクランレビューでは、含まれた9試験すべてが方法論的な質の評価で「低い」とされ、参加者や評価者の盲検化ができていない、サンプルサイズが小さい、追跡期間が短い、といった問題が指摘されています1。遠隔リハビリの「中身」も研究ごとに大きく異なり(有酸素運動、筋トレ、ゲーム、ピラティス、教育プログラムなど)、どのタイプが誰に効くのかを比較しにくい状況です1,3。最近のメタアナリシスでも研究間のばらつき(異質性)が大きい項目があります3

まだ分かっていないこと

1. どの人に最も向くのか。障害の程度(EDSS)、MSの型、疲労や認知機能の状態によって効果に差が出る可能性はありますが、条件を分けた十分な比較はまだありません。
2. 対面リハビリと比べて優れているのか。多くの研究は「通常ケア」や「待機」との比較で、対面との直接比較は限られます1。近年の研究では、対面・遠隔・両者の組み合わせのいずれでも群内で改善したものの、群間に差はなかったという報告もあります8
3. 最適な内容・頻度・期間。研究では週2〜3回・6週〜6か月とばらつきがあり、統一されたプロトコルはありません3,5,6,7
4. 効果の持続期間。介入終了後にどのくらい維持されるかを長期に追った研究は少数です1
5. 費用対効果。医療費・通院負担を含めた経済的な評価はほとんど行われていません1

研究全体では前向きな報告が多い一方、対象者の状態、プログラムの内容、評価の方法が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。数値は集団の平均的な変化であり、個人の結果を保証するものではありません。

SECTION 04
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
比較的変わりやすいと報告されているもの
・疲労(易疲労性)と抑うつ3
・身体的健康・精神的健康の主観的な指標、生活の質3
・移動能力(歩行など)とバランス機能4
・筋力・体幹の持久力・身体活動量6,7
変わりにくい・はっきりしないもの
・生活の質(QOL)(改善した研究と、変化がなかった研究がある)5,6
・対面リハビリに対する上乗せ・優位性1,8
・MSの病気そのものの進行(遠隔リハビリで進行が止まるという根拠はありません)1
タブレットで療法士とつながり立位バランス練習を行う様子
立位練習は支持物を確保し、疲労や暑さに合わせて安全に調整します
SECTION 05
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か

一般に、通院の負担が大きい、近くにMSに詳しいリハビリ職がいない、体調の波に合わせて自宅で運動を続けたい、オンラインの画面操作にある程度取り組める、といった場合に検討されることが多い方法です。研究では歩ける段階から車いすを併用する段階まで幅広く含まれていますが、進行した段階での効果は十分に検証されていません1。疲労が中心の困りごとの場合は多発性硬化症(MS)の疲労とリハビリについて解説した記事も参考になります。

⚠ 次のような場合は、自己判断で進めず主治医・リハビリ専門職に相談してください
・再発(増悪)の直後や、新しい症状が出て間もない時期
・体温が上がると症状が強く出る(ウートフ現象)ため、室温・運動強度の管理が必要
・立位バランスが不安定で、見守りなしの運動で転倒の心配がある
・強い疲労感や痛みがあり、運動がかえって負担になっている
・認知機能・注意の低下があり、画面越しの指示に沿った運動が難しい
・嚥下(飲み込み)や呼吸の症状があり、運動中の安全確認が必要

研究では遠隔リハビリによる有害事象の報告はほとんどありませんが1、有害事象をていねいに記録した研究自体が少なく、安全性が十分に確かめられているとは言えません。運動の強度や休憩の取り方は、体調の波に合わせて個別に調整することが大切です。

SECTION 06
頻度・期間の目安と対面リハビリとの関係

研究で使われた頻度・期間や、対面リハビリとの関係から、実施を考える際のヒントが得られます。

・研究では「週2〜3回・6週間〜6か月」という設定が多く、有酸素運動と筋トレを組み合わせたものが目立ちます5,6,7
・マインド・ボディ系(ヨガ・太極拳・ピラティス)の運動で効果が大きい傾向がありました3
・対面・遠隔・両者を組み合わせた形(ハイブリッド)を比べた研究では、いずれの形でも群内で改善し、群間に差はありませんでした8
・研究で使われるオンライン運動プラットフォームは専用に整備されたものが多く、市販の運動アプリでそのまま同じ結果が得られるとは限りません

遠隔リハビリは「対面の代わりになるかもしれない選択肢のひとつ」と位置づけられており、対面より優れているとまでは示されていません1。実際には、初回や定期の評価は対面で行い、間の運動フォローを遠隔で行うといった組み合わせが現実的です。

運動後に休息しながら遠隔でペース配分を相談する様子
短い運動と休息を組み合わせ、体調の波に合わせて続け方を相談します
SECTION 07
訪問リハビリの現場で大切にしていること
現場で確認している視点

当施設は訪問リハビリのため、療法士が直接ご自宅に伺いますが、MSの方の場合は「体調の波」と「暑さ」の管理を最優先にしています。訪問した日の体調・室温・その日の疲労度を確認し、無理のない強度に調整したうえで、次の訪問までの間に自分で続けられる運動を一緒に決めます。疲労が強い日は運動量を減らし、休憩を挟む「ペース配分(エネルギー・マネジメント)」を練習することもあります。ご家族やご本人がスマートフォンで動画を確認できる場合は、フォームの確認用に短い動画を用意し、対面で会えない日の橋渡しに使うこともあります。オンラインだけで完結させるのではなく、定期的に対面で状態を確かめながら進めることを大切にしています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療を推奨するものではありません。運動やリハビリの内容・頻度は、担当のリハビリ専門職・主治医が評価のうえで判断します。多発性硬化症は症状の波や再発があり、個人差が大きいため、リハビリの内容を変えるときや新しい症状が出たときは担当の専門職・主治医にご相談ください。研究データは執筆時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
疲れやすさや歩きにくさ、運動の続け方について、今の状態を一緒に確認しながらリハビリの進め方を相談できます。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
FAQ
よくある質問
Q. 遠隔リハビリは対面リハビリの代わりになりますか?
A. 研究では「代わりになるかもしれない選択肢のひとつ」と位置づけられており、対面より優れているとは示されていません1。初回や定期の評価は対面で行い、間の運動フォローを遠隔で行うといった組み合わせが現実的です。
Q. 疲労(だるさ)には役立ちますか?
A. 遠隔で行う運動で疲労が軽くなったとする解析があります(標準化平均差 −0.58)3。ただし研究ごとに内容が異なり、全員に同じ効果が出るとは限りません。疲労が強いときは運動量を減らす調整が必要です。
Q. どんな運動をするのですか?
A. 有酸素運動、筋力トレーニング、バランス練習、ピラティスやヨガ、体を動かすゲーム、疲労のセルフマネジメント教育など、研究によってさまざまです1。心と体を結びつけるタイプの運動で効果が大きい傾向があります3
Q. どのくらいの頻度・期間で行いますか?
A. 研究では「週2〜3回・6週間〜6か月」という設定が多いですが、統一された決まりはありません5,6,7。実際の頻度・期間は体調の波を見ながら担当のリハビリ専門職が調整します。
Q. 暑い時期でも大丈夫ですか?
A. 多発性硬化症では体温が上がると症状が一時的に強く出ることがあります(ウートフ現象)。室温の管理、こまめな休憩、運動強度の調整が必要です。心配な場合は主治医・リハビリ専門職に相談してください。
Q. 生活の質は良くなりますか?
A. 生活の質が良くなったとする解析がある一方3,4、変化がなかった研究もあります5,6。結果は研究によって分かれており、個人差が大きいと考えられます。
Q. 再発したときも続けてよいですか?
A. 再発(増悪)の直後や新しい症状が出た時期は、運動の内容を見直す必要があります。自己判断で続けず、必ず主治医・リハビリ専門職に相談してください。
REFERENCES
参考文献
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5. Paul L, Renfrew L, Freeman J, Murray H, Weller B, Mattison P, McConnachie A, Heggie R, Wu O, Coulter EH. Web-based physiotherapy for people affected by multiple sclerosis: a single blind, randomized controlled feasibility study. Clinical Rehabilitation. 2019;33(3):473-484. PMID: 30514108. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30514108/

6. Tallner A, Streber R, Hentschke C, Morgott M, Geidl W, Mäurer M, Pfeifer K. Internet-Supported Physical Exercise Training for Persons with Multiple Sclerosis - A Randomised, Controlled Study. International Journal of Molecular Sciences. 2016;17(10):1667. PMID: 27706046/PMCID: PMC5085700. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5085700/

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8. Aytutuldu GK, Yalcınkaya D, Akinci B, Ucgun H, Gozubatik Celik RG, Tutuncu M. Effects of a Hybrid Telerehabilitation Model on Mobility and Functional Capacity in Patients With Multiple Sclerosis: A Single-Blind Randomized Controlled Study. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2026. PMID: 41106533. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41106533/