
脳卒中後の歩行障害は、日常生活の自立や社会参加を妨げる大きな要因です。リハビリの現場では、地上歩行訓練や筋力強化と並び、"トレッドミル歩行訓練"(免荷式トレッドミル訓練〈BWSTT〉を含む)が幅広く導入されています。本記事では、最新のガイドラインやシステマティックレビューをもとに、トレッドミル訓練の有効性について整理し、他の歩行訓練(通常リハビリ、地上歩行、ロボット支援)と比較してどのような利点・限界があるかをわかりやすく紹介します。
トレッドミル訓練とは?
トレッドミル訓練は、ベルトコンベア上で一定の速度で歩くことで、反復的な歩行練習を行う方法です。歩行パターンを繰り返し練習できるほか、ハーネスなどを使って体重を支える"免荷式トレッドミル訓練(BWSTT)"もあり、特にバランスが不安定な患者にも安全に使用できます(Mehrholz et al., 2017)。
トレッドミル訓練 vs 通常リハビリ(従来の理学療法)
- 歩行速度: 通常のリハビリと比較して、トレッドミル訓練は平均で+0.06 m/sほど速くなると報告されています(Mehrholz et al., 2017)。
- 6分間歩行距離: 約+14 mと小幅な改善が見られます(同上)。
- 歩行自立度: 自立歩行の獲得率に差はなく、トレッドミルでも従来訓練でも結果は同等でした(同上)。
- バランス機能: 動的バランス(BBSなど)で有意な改善あり(Lyu et al., 2023)。
ガイドラインでも、トレッドミル訓練は"グレードB"の推奨(効果あり)とされています(日本脳卒中学会ガイドライン2021)。特に自力歩行が可能な患者に対しては効果的です。Mehrholz et al. (2017) のレビューでは、対象は主に歩行が自立していない患者(FAC ≦ 3)が中心でした。
トレッドミル訓練 vs 地上歩行訓練
- 歩行速度・距離: 通常のリハビリ(地上歩行などを含む)と比較して、トレッドミル訓練群の改善は+0.07 m/s、+18 mとわずかに高い傾向を示しましたが、95%信頼区間は0を跨いでおり統計的有意差はありません(Nascimento et al., 2021)。なお、本研究は歩行自立者(FAC 4〜5相当)を対象としており、重度例は含まれていません。
- バランス機能: 双方とも改善効果あり、優劣は不明(日本脳卒中学会ガイドライン2021)。
トレッドミルは天候に左右されず、速度調整や免荷が可能という点で利点があります。一方、地上歩行は方向転換や実生活に近い環境での練習ができるメリットがあります。
トレッドミル訓練 vs ロボット支援歩行訓練(RAGT)
- 歩行能力: 速度や距離、自立度(FAC)において、両者の効果は同等という研究が多く見られます(Gelaw et al., 2019)。
- 重度患者への効果: 発症直後で自力歩行ができないような重度例では、ロボット訓練やBWSTTが歩行獲得率を上げる可能性が示されています(Ada et al., 2010)。
- バランス機能: 大きな差はないが、BWSやVR併用で効果が高まる報告もあります(Lyu et al., 2023)。
ロボット訓練は、特に重症者への歩行パターン入力やモチベーション維持の観点から有用であり、日本のガイドラインでも"グレードB"で推奨されています。
まとめ
トレッドミル訓練は、脳卒中後の歩行リハビリにおいて歩行能力やバランス機能を着実に改善できる手段としてエビデンスが蓄積されています。特に自力で歩ける患者には有効であり、地上歩行訓練やロボット支援訓練と比べても同等以上の効果が期待されます。
また、重度の患者に対してはBWSTTやロボット支援を併用することで、歩行獲得率を高める可能性も示されています。個々の症例に応じた訓練方法を選択することが、より良い成果につながります。
では、どのようなニーズの方にあっているか?
弊社でも下記のようなニーズにトレッドミルを推奨することがあります
・出かける時に、周りと歩行速度が合わない。周りに迷惑をかけたくない・・・。
・長距離を歩くと疲れてくる
・雨の日は外に歩くことができないので運動できない
このような方には、トレッドミルのリハビリはあっていると思います。
トレッドミルは適切な方法で実施することでその効果を発揮することができます。
Journey Rehabでもトレッドミルについて扱っておりますので、お気軽にご相談ください。
【参考文献】
- Mehrholz, J. et al. (2017). Treadmill training and body weight support for walking after stroke. Cochrane Database Syst Rev. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28815562/
- Nascimento, L. R. et al. (2021). Treadmill walking improves walking speed and distance in ambulatory people after stroke: A systematic review and meta‑analysis. J Physiother. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33744188/
- Lyu, T. et al. (2023). Comparative efficacy of gait training for balance outcomes in patients with stroke: A systematic review and network meta-analysis. Front Neurol. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37077566/
- Gelaw, A.Y. et al. (2019). Effectiveness of treadmill assisted gait training in stroke survivors: A systematic review and meta-analysis. Global Epidemiology. https://doi.org/10.1016/j.gloepi.2019.100012
- Ada, L. et al. (2010). Mechanically assisted walking with body weight support results in more independent walking than assisted overground walking in nonambulatory patients early after stroke: A systematic review. J Physiother. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20795921/
- 日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン2021(2025年改訂含む)
▪️執筆者情報
**株式会社Journey Rehab 代表|田中 光**
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士前期課程 在籍
▪️経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:自費訪問リハビリ分野に活動を広げ、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
▪️ 研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表