東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
研究で分かっていることと限界を正直に解説
「握力が落ちてペットボトルの蓋が開けにくい」「歩くのが遅くなって、青信号のうちに横断歩道を渡りきれない」「ふくらはぎが細くなった気がする」——ご本人やご家族から、こうしたご相談をいただくことがあります。加齢によって筋肉の量と力が落ちていく状態は、医学的には「サルコペニア」と呼ばれます。
サルコペニアの対策として、よく「運動」と「たんぱく質」がセットで語られます。では、運動にたんぱく質を足すと、運動だけの場合より何がどれくらい変わるのでしょうか。この記事では、複数のシステマティックレビュー・メタアナリシスをもとに、分かっていること、分かっていないこと、そして数字の読み方の注意点を正直に整理します。
最終更新日:2026年8月17日
最新レビュー日:2026年8月17日
意図しない体重減少が続く、食欲がない状態が長引く、急に力が入らなくなったという場合は、加齢だけでなく治療が必要な病気が背景にあることがあります。まず医療機関で確認してください。また、腎臓の働きが低下している方は、たんぱく質の摂取量を自己判断で増やすと負担になることがあります。持病がある方は必ず主治医・管理栄養士にご相談ください。
サルコペニアは、加齢に伴って全身の筋肉の量が減り、筋力や身体機能が落ちた状態を指します。日本を含むアジアではAWGS、ヨーロッパではEWGSOPという診断基準がよく使われ、研究でもこれらが用いられます。判定にはおおむね次の3つの要素が使われます。
2. 筋力の低下(握力で評価されることが多い)
3. 身体機能の低下(歩行速度、椅子からの立ち上がり時間、SPPBなど)
ここで押さえておきたいのは、「筋肉量」「筋力」「動けるかどうか」は、必ずしも同じようには動かないという点です。後で見るように、研究でも「筋力や歩く速さは変わったが、筋肉量は変わらなかった」という結果がしばしば報告されます。生活の場面で困っているのは多くの場合3つ目、つまり動作の側です。
なお、加齢によるサルコペニアと、脳卒中などの病気をきっかけに麻痺側を中心に筋肉が減っていく状態は、経過も対策も異なります。脳卒中後の場合については脳卒中後のサルコペニアについて解説した記事で別に取り上げています。
結論から先にお伝えします。「筋力トレーニング(抵抗運動)にたんぱく質やアミノ酸を足すと、握力などの筋力や一部の動作の指標が上向く」という結果は複数のレビューで一貫しています。一方で、「筋肉量そのものは思ったほど動かない」「増えた分が生活で実感できる大きさとは限らない」という慎重な指摘も、同じレビューの中に必ず書かれています。
サルコペニアと診断された60歳以上の方を対象に、筋力トレーニングにホエイたんぱく質を足す群と、筋力トレーニングのみ(またはプラセボ併用)の群を比較した7件のRCT(591名、平均77.3歳、女性67.5%)のレビューです。四肢の筋肉指数はわずかに上向き(標準化平均差 0.24、95%信頼区間 0.05〜0.42)、握力は平均2.31キログラム多く増加しました(95%信頼区間 0.01〜4.6)。ただし著者らは、この握力の差が臨床的に意味があるとされる目安(6.5キログラム)には届いていないと明記しています。GRADEによる評価では、筋肉量が「低」、握力が「非常に低」でした1。
地域で暮らす60歳以上のサルコペニアの方を対象にした8件の研究(854名、10〜24週間)のレビューです。たんぱく質補給と筋力トレーニングを組み合わせた群では、筋肉量(標準化平均差 0.95、95%信頼区間 0.13〜1.78)と握力(同 0.32、0.08〜0.56)で対照群を上回りました。一方、椅子からの立ち上がり5回テスト(同 −0.13、−0.34〜0.07)と歩行速度(同 0.04、−0.37〜0.45)では差がありませんでした。筋肉量の結果は研究間のばらつきが大きく(I²=89%)、著者らも解釈には注意が必要としています2。
65歳以上のサルコペニアの方496名(平均78.3歳、女性78%)を対象にした9件のRCTで、筋力トレーニングにアミノ酸系のサプリメント(HMB・必須アミノ酸・ロイシンなど)を足す群と、筋力トレーニングのみの群を比較したレビューです。握力(標準化平均差 0.69、95%信頼区間 0.04〜1.35)、歩行速度(同 0.64、0.02〜1.25)、SPPB(同 1.69、0.81〜2.57)、椅子立ち上がり5回テスト(同 −1.42、−2.68〜−0.16)で組み合わせ群が上回った一方、骨格筋量指数(同 0.63、−0.39〜1.65)と四肢骨格筋量(同 0.13、−0.39〜0.66)では差がありませんでした。GRADEによる評価は握力・歩行速度・SPPBが「低」、筋肉量指標は「非常に低」でした3。
3件を並べて見ると、共通しているのは「筋力(握力)は足すと上向く方向」「筋肉量は上向くとしても小さい、あるいは差が出ない」という点です。歩行速度や立ち上がりといった動作の指標については、差が出た研究と出なかった研究の両方があり、まだ一致していません。
まず、最適な量と種類が確立していません。研究で使われたたんぱく質は1日10〜35グラム、あるいは8〜54グラムと幅があり、ホエイ・牛乳・大豆・必須アミノ酸・ロイシン・HMBなど種類もさまざまです123。運動のほうも週2〜7回、1回20〜90分と幅があり、どの組み合わせが最も適しているかは分かっていません。
次に、どの方に当てはまりやすいかも十分には分かっていません。2026年のレビューでは、もともとのたんぱく質摂取量が体重1キログラムあたり1.2グラム以上の方のほうが握力の変化が大きい(標準化平均差 1.47 対 0.04)といった手がかりが示されていますが、この解析に含まれた研究数はごく少なく、著者ら自身が「統計的な検出力が不足している」としています3。
また、対象者の偏りも見過ごせません。3件とも参加者の約7〜8割が女性で、2026年のレビューは「男性への外挿は慎重に」と明記しています3。2024年のレビューでは8件中6件がアジアの研究でした2。
そして、長期的な影響が分かっていません。研究の期間はおおむね8〜24週で、著者らも「大半が6か月以内の短期介入である」としています3。やめた後に維持されるのか、転倒や要介護といった長い目で見た結果にどうつながるのかは、これらの研究からは答えられません。
紹介した3件はいずれもRCTを統合したシステマティックレビュー・メタアナリシスであり、研究デザインとしては上位に位置づけられます。ただし、GRADEによる確実性の評価は、いずれのレビューでも「低」〜「非常に低」が中心でした13。理由は、研究間のばらつきの大きさ(筋肉量でI²が89〜91%に達する報告があります)と、1件あたりの参加人数の少なさです23。
バイアスリスクの面でも課題があります。2023年のレビューでは、含まれた7件のうち全体としてバイアスリスクが低いと判定されたのは1件(14.3%)のみでした1。また、食事内容や普段の身体活動量の変化を十分に管理できていない研究が多いことも指摘されています。つまり「サプリメントを飲んだから変わった」のか「その期間に食事や生活も変わった」のかを、きれいに分けきれていない可能性があります。
数字の読み方にも注意が必要です。握力が平均2.31キログラム多く増えたという結果は、統計的には差があっても、著者ら自身が臨床的に意味のある差の目安には届いていないと述べています1。統計的に差があることと、生活の中で「楽になった」と感じられることは、同じではありません。この研究結果を、すべての高齢者にそのまま当てはめることはできません。
「では実際に何をしているのか」を知っておくと、専門職に相談するときの話が具体的になります。研究で使われている内容を、そのままの数字で整理します。ここに書くのは処方ではなく、あくまで研究の実施条件です。
・1回の時間:20〜60分(40〜90分の報告もあり)
・強度:1回で挙げられる最大重量の50〜80%程度
・期間:8〜24週間
・内容:椅子に座って行う運動、ゴムバンド(弾性バンド)、フリーウエイトなど
・その他:牛乳・大豆・必須アミノ酸・ロイシン・HMBなど(1日8〜54グラム)
・HMBは1日1.5〜3グラム、必須アミノ酸は1日3〜4グラム、ロイシンは1日2.5グラムという報告
注意していただきたいのは、これらはあくまで研究の設定であり、腎機能や持病、普段の食事量によって適切な量は一人ひとり異なるという点です。特にたんぱく質の量については、必ず主治医や管理栄養士に確認してください。
運動の始め方については、体力の落ち始めた段階の方向けに高齢者のプレフレイルと運動療法について解説した記事、より広く虚弱の状態を扱った高齢者のフレイルと運動療法について解説した記事もあわせてご覧ください。
研究の対象者から逆算すると、これらの結果が比較的当てはまりやすいのは、次のような方です。
・地域で自立して暮らしており、指導のもとで筋力トレーニングを継続できる方
・普段のたんぱく質摂取が不足ぎみで、増やす余地がある方
サプリメントを足すことは、運動の代わりにはなりません。紹介した研究はすべて「筋力トレーニングをしたうえで、さらに栄養を足したかどうか」を比べたものであり、栄養だけを取り出して比べたものではありません。また、腎機能が低下している方、たんぱく質の制限を受けている方、心疾患などで運動の強度に制限がある方では、そのまま当てはめられません。
逆に言えば、すでに十分な量のたんぱく質をとれている方が、さらにサプリメントを足すことで同じように変わるとは限りません。この点も、研究の中では十分に検証されていない部分です。
Journey Rehabでは、筋肉量の数値だけを目標にせず、握力・立ち上がり・歩く速さ・外出の範囲といった、生活に直結する指標を並べて確認する方針です。研究でも筋肉量と動作の指標は同じようには動かないため、「体組成計の数字が動かない=意味がない」と判断してしまわないことを大切にしています。
栄養についてはリハビリ職の判断だけで完結させず、普段の食事内容と持病の状況をうかがったうえで、必要に応じて主治医・管理栄養士への相談をご提案します。運動の側では、週2〜3回という研究の頻度をそのまま押しつけるのではなく、訪問時に行う内容とご自身で続ける内容を切り分け、生活の中に無理なく組み込める形を一緒に設計します。
サルコペニアに対して、筋力トレーニングにたんぱく質やアミノ酸を組み合わせると、握力などの筋力は上向く方向の結果が複数のレビューで一致しています。一方、筋肉量そのものの変化は小さいか差が出ず、歩行速度や立ち上がりについては研究によって結果が分かれています。エビデンスの確実性はGRADEで「低」〜「非常に低」が中心で、研究間のばらつきや参加人数の少なさ、女性・アジアへの偏り、短期の観察という限界を抱えています。サプリメントは運動の代わりにはならず、量の判断には持病の確認が欠かせません。ご自身の状態に合った進め方を、専門職と一緒に確認していくことをおすすめします。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。適切な運動の内容や量、たんぱく質の摂取量は、持病や腎機能によって個別に異なります。意図しない体重減少、食欲低下の持続、急な脱力などがある場合は、医師やリハビリ専門職へ相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
