東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
健常な状態への回復を目指す運動療法を研究から解説
「最近、なんとなく疲れやすい」「歩く速さが落ちた気がする」「体重が知らないうちに減っている」——ご本人やご家族から、こうした変化についてご相談を受けることがあります。要介護に近づく一歩手前ではないかと不安になる方も少なくありません。
この「虚弱の前段階」にあたる状態は、医学的には「プレフレイル」と呼ばれます。近年の複数の研究で、プレフレイルの状態は運動によって健常な状態へ戻る可能性があることが報告されています。ただし「運動すれば必ず戻る」わけではなく、研究にも限界があります。この記事では、プレフレイルの考え方、運動に関する研究、まだ分かっていないこと、当施設での経験を正直に整理します。
最終更新日:2026年8月16日
最新レビュー日:2026年8月16日
急激な体重減少、強い倦怠感が続く、原因不明の痛み、転倒を繰り返す、意識がもうろうとするなどの症状がある場合は、自己判断で運動を始めず、まず医療機関で確認してください。プレフレイルは多くの場合すぐに命に関わる状態ではありませんが、背景に治療が必要な病気が隠れていることもあります。
フレイル(虚弱)は、加齢に伴って心身の力が弱くなり、要介護になりやすい状態を指します。研究でよく使われる基準(Friedの表現型モデル)では、次の5項目のうち、該当する数で判定します。
2. 疲れやすさ(何をするのも億劫だと感じる)
3. 握力の低下
4. 歩行速度の低下
5. 身体活動量の低下
該当項目が0個なら「健常(robust)」、1〜2個なら「プレフレイル(前虚弱)」、3個以上なら「フレイル(虚弱)」と分類されます。プレフレイルは、まだフレイルではないものの、何もしなければフレイルへ進みやすい状態ともいえます。一方で、この段階はまだ体力や適応力が残っていることが多く、研究の対象としても「働きかけによる変化が期待しやすい時期」として注目されています。
結論から先にお伝えすると、複数のシステマティックレビュー・メタアナリシスやランダム化比較試験(RCT)で、運動プログラムに参加した高齢者は、参加しなかった高齢者と比べてプレフレイルから健常な状態へ戻りやすいという結果が報告されています。ただし「全員が戻る」わけではなく、効果の大きさや対象者には幅があります。
22件のRCT(介入群900名・対照群1,015名)を統合したメタアナリシスでは、コミュニティで行う運動プログラムに参加した前虚弱高齢者は、最小限の介入(通常ケアなど)を受けた高齢者と比べて、下肢筋力(標準化平均差 0.67、95%信頼区間 0.29〜1.04)や下肢機能(同 0.27、0.03〜0.51)が有意に改善し、プレフレイルから健常な状態へ戻りやすい(オッズ比 2.74、95%信頼区間 1.36〜5.51)という結果でした1。
60歳以上で健常またはプレフレイルの方を対象にした9件のRCT(842名)のネットワークメタアナリシスでは、運動を中心とした介入がフレイルの新規発症を抑える方向の結果(相対リスク 0.26、95%信頼区間 0.08〜0.83)が示され、栄養介入のみでは有意な効果は確認されませんでした。運動介入群では歩行速度も改善していました(標準化平均差 1.55、95%信頼区間 1.16〜1.95)2。
中国の地域在住高齢者48名を対象にしたRCTでは、有酸素運動・弾性バンド抵抗運動・柔軟性訓練を組み合わせた運動プログラム(週3回、46分/回、3か月間)を行った群で、3か月後にプレフレイルのままだった人の割合が14%だったのに対し、通常のアドバイスのみを受けた対照群では95%でした(絶対リスク減少 82%、95%信頼区間 65〜99%)3。
60〜85歳の地域在住プレフレイル高齢者144名を対象にしたRCTでは、動機づけの工夫を取り入れた24週間の運動プログラム(週3回、47分/回。コミュニティ施設1回+自宅2回)を行った群で、24週後にプレフレイルから健常な状態へ戻った人の割合が63.6%だったのに対し、対照群(1回きりの助言のみ)では13.4%でした(絶対リスク減少 42.8%、95%信頼区間 25.1〜57.1)4。
現在の研究でも、どのような方に最も合うのか、どのくらいの運動量がよいのかは十分に分かっていません。紹介した研究の運動プログラムは、頻度が週3回、期間は12週間〜24週間とプログラムごとに異なり、最適な組み合わせはまだ確立していません。
また、これらの研究の対象者は中国の地域在住高齢者が中心で、日本の高齢者、認知症を併存する方、すでに要介護状態にある方への当てはまりやすさは十分に検証されていません。プレフレイルから戻ったあと、その状態がどのくらいの期間維持されるかについての長期追跡データも限られています。
研究数自体もまだ多いとはいえず、参加人数が数十〜百数十名規模の研究が中心です。研究間で運動内容や測定方法が異なるため、単純に平均をとった数字がすべての方に当てはまるわけではない点にも注意が必要です。
紹介した4件の研究は、いずれもランダム化比較試験、またはランダム化比較試験を統合したシステマティックレビュー・メタアナリシスであり、研究デザインとしては比較的質の高い部類に入ります。一方で、22件のRCTを統合したメタアナリシスでは、6件が「参加者や治療者が割り付けを知っている(盲検化不十分)」などの理由でバイアスリスクが高いと評価されています1。ネットワークメタアナリシスの方でも、対象となった9試験のうち6試験(約67%)がバイアスリスク「高」と評価されており、主な理由は評価結果の欠測データの扱いでした2。
個別のRCT2件も、参加者・実施者ともに盲検化されていない(自分がどちらの群か分かっている)研究であり、評価する側の期待が結果に影響した可能性は否定できません34。この研究結果をすべての高齢者に同じように当てはめることはできないという前提で読んでいただく必要があります。
紹介した研究に共通するのは、有酸素運動・筋力(抵抗)運動・バランス・柔軟性を組み合わせた「複合的な運動プログラム」であり、1種類の運動だけに絞ったものではないという点です。頻度は週2〜3回、1回あたり40〜50分程度を目安にしているプログラムが多く見られます。
・弾性バンドや自重を使った下肢の筋力運動
・片脚立ちなどのバランス練習
・ストレッチによる柔軟性の維持
・立ち座りや歩行など、日常生活動作に近い動き
実際の運動プログラムの組み方については、下肢の筋力低下やふらつきが心配な方向けに高齢者のOtago運動プログラム(オタゴ体操)を解説した記事でも詳しく取り上げています。転倒への不安が強い方は、不安定な床面での筋力運動と転倒不安の関係を解説した記事も参考にしてください。
フレイル全体の考え方や体力・生活動作への影響については、高齢者のフレイルと運動療法について解説した記事にまとめています。持病や体力の状態によって安全に行える運動量は大きく異なるため、自己流で急に強度を上げるのではなく、専門職と一緒に体力や生活状況を確認しながら進めることをおすすめします。
Journey Rehabでは、プレフレイルが気になる方に対して、筋力だけでなく、歩行、バランス、疲れやすさ、食事、持病、普段の活動量を確認し、その方の生活目標に合う運動を一緒に考える方針です。散歩か筋力運動かを二者択一にせず、安全性を確認しながら複数の要素を組み合わせます。
体力の変化を感じるまでの期間には個人差があります。短期間の数値だけで良し悪しを決めず、立ち座りや外出など本人にとって大切な活動を続けられるかを見ながら、できる範囲を段階的に広げることを重視します。
プレフレイルは、フレイルへ進む一歩手前の状態であると同時に、まだ変化しやすい時期でもあります。複数の研究で、有酸素運動・筋力運動・バランス運動を組み合わせた運動プログラムが、プレフレイルから健常な状態へ戻る方向に働く可能性が示されています。ただし研究にはバイアスリスクや対象者の偏りといった限界があり、「誰にでも同じように当てはまる」とは言い切れません。ご自身の状態に合った運動量を、専門職と一緒に確認しながら進めることが大切です。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。適切な運動の内容や量は、持病や体力によって個別に異なります。強い倦怠感、急激な体重減少、転倒を繰り返す、意識がもうろうとするなどの症状がある場合は、医師やリハビリ専門職へ相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
