東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「パーキンソン病だと言われていたのに、途中で進行性核上性麻痺と診断が変わりました」「後ろに倒れることが増えて、家の中でも怖くて動けません」。訪問リハビリの場で、こうしたお話をうかがうことがあります。
進行性核上性麻痺(Progressive Supranuclear Palsy:PSP)は、指定難病のひとつです。転びやすさ、目を下に向けにくいこと、体幹が伸びやすいことなどが特徴とされ、パーキンソン病とは経過も対応も異なります。
結論から正直にお伝えすると、PSPのリハビリについての研究は、数も規模もまだ非常に限られています。11件の研究をまとめた報告では、参加人数は1〜24名と小規模で、歩行やバランスの指標で統計的にはっきりした差は示されていません1。一方で、4週間の集中的なプログラムを行った試験では、バランスや歩行距離、転倒回数の数値が前後で変化したという報告もあります2。
この記事では、何がどこまで示されていて、何がまだ分かっていないのかを、数字と一緒に整理します。
PSPは、脳の深い部分や脳幹の神経細胞が少しずつ減っていく病気です。研究では、米国の国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)とPSP学会がまとめた基準で診断された方が対象とされてきました2。
リハビリの視点で押さえておきたい特徴は、次の3点です。
なお、パーキンソン病で分かっていることをそのままPSPに当てはめてよいわけではありません。PSPのリハビリに関する多くの方針は、パーキンソン病の研究データから外挿されているのが現状だと指摘されています7。パーキンソン病でのバランス練習と転倒についてはパーキンソン病のバランス運動と転倒について解説した記事で整理していますので、違いを見比べる材料としてご覧ください。
PSPの運動・身体活動については、2020年にリハビリテーション医学の専門誌でシステマティックレビューがまとめられています1。
介入終了時点の効果量は、次のとおりいずれも統計的に有意ではありませんでした1。
6分間歩行:−0.07(95%信頼区間−0.87〜0.73)1
バランス(Berg Balance Scale):−0.61(同−1.40〜0.23)1
Timed Up and Go:0.42(同−0.49〜1.33)1
バイアスリスクは低い研究が3件、中等度が4件、高い研究が4件でした1。データのばらつきが大きく、メタアナリシス(統合解析)は実施できなかったと報告されています1。
言葉を選ばずに言えば、「PSPに対して、この運動がこれだけ役立つ」と言い切れる段階には達していません。ただし、これは「役に立たないことが示された」という意味ではありません。参加人数が少なく、統計的な検出力が不足しているために、差があってもなくても示せない、というのが実態です1。
研究で用いられていた運動の種類は幅広く、トレッドミル歩行練習(体重を支える方式を含む)、ロボット支援の歩行練習、座位・立位・ステップでのバランス練習、目の動きの練習、音声での合図を使う練習、家庭用ゲーム機を使った練習、音楽の合図に合わせた歩行練習、重りを入れたベストの着用などが報告されています1。
PSPを対象としたなかで比較的規模の大きい試験が、2017年にイタリアから報告されています2。
共通の内容:4週間、週5日、1日4セッション(各約1時間)、心拍予備能の70〜80%の強度2
群の違い:2番目のセッションを、視覚の合図と聴覚のフィードバックを付けたトレッドミル歩行練習(1日20分、時速1.0〜2.5km)で行う群と、ロボット歩行装置による練習(1日20分)で行う群2
介入前後の中央値の変化(トレッドミル群/ロボット群)2
PSP評価尺度の合計点:−8.0/−5.0(いずれもp=0.0005)2
バランス(Berg Balance Scale):+10.5/+9.5(いずれもp=0.0005)2
6分間歩行距離:+55.5m/+32.5m(p=0.018/p=0.032)2
転倒回数:−5.5回/−6.5回(p=0.0029/p=0.0015)2
2群の比較では、PSP評価尺度の合計点のみ差が示されました(p=0.047)2。バランス・6分間歩行・転倒回数では2群に差はありませんでした2。
プログラム中の脱落は0名で、全員が完了しています2。
この試験でとても大切なのは、著者自身が述べている限界です。この研究には「リハビリを行わない対照群」がありません2。したがって、前後の変化がプログラムによるものなのか、入院環境や慣れによるものなのかを区別できません。著者らも「両プログラムの有効性について確定的な結論は出せない」と明記しています2。
また、退院後にこの変化がどのくらい続いたのかは追跡されていません2。進行性の病気である以上、「維持できる期間」は本来いちばん知りたい情報ですが、そこは分かっていないままです。
なお、目の動きの練習を組み合わせた小規模な試験も報告されています。19名を対象にバランス練習のみとバランス練習+目の動きの練習を比べた研究では、群内では立脚時間や歩行速度に変化が見られたものの、2群の比較では差は示されませんでした5。同じ参加者を対象に視線の制御を評価した報告では、目の動きの練習を加えた群でのみ変化が見られたとされています6。いずれも参加人数が少なく、予備的な結果として扱われるものです。
・参加人数は1〜24名と小さく、統計的な検出力が不足しています1
・対照群を置いていない研究が多く、バイアスへの対応も不十分と評価されています1
・報告の質を検証した別の解析では、11研究のうち指導者の資格を記載していたのは3件(27%)、進め方のルールを記載していたのは2件(18%)、参加率を記載していた研究は0件でした3
・同じ解析では、運動に伴う有害事象を報告していた研究は11件中1件(9%)のみで、著者らは転倒リスクの高い集団であることを踏まえて懸念を示しています3
・運動と認知課題を組み合わせる方法を扱った2024年のレビューでは、21研究940名のうち20件がパーキンソン病を対象としており、PSPを含む他疾患のデータが乏しいと指摘されています4
・最適な頻度・時間・強度・期間の目安は確立していません1,3
・プログラムを終えたあと、変化がどのくらい続くのかは追跡されていません2
・PSPに特化して設計された介入はほとんどなく、多くはパーキンソン病の方法を転用したものです1,7
・有害事象がどの程度起きているのかを、報告から読み取ることができません1,3
2020年のレビューの著者らは、今後の課題として、大規模で適切に対照を置いたランダム化比較試験の必要性と、多施設・国際的な協力体制の必要性を挙げています1。裏を返せば、現時点ではそれだけの規模の検証が存在しない、ということです。
研究結果を自分に当てはめて考えるときは、「誰が対象だったか」を確認することが欠かせません。
重症度:PSP評価尺度の合計点の中央値34.0〜35.02
罹病期間:平均約4年2
実施環境:入院(4週間)2
注意点:認知機能の低下がある方も含まれており、著者はそれが結果に影響した可能性を挙げています2
条件:短い距離を歩ける方で、遠見視力や認知機能の基準が設けられていました6
注意点:割り付けが完全なランダム化ではなく、予備的な結果とされています5,6
つまり、研究に参加していたのは「ある程度動ける段階の方」が中心です。すでに立ち上がりや移乗に多くの介助が必要な段階の方に、同じ結果が当てはまるかどうかは検証されていません。同じように運動失調やふらつきを扱う疾患として、脊髄小脳変性症の運動失調リハビリについて解説した記事もありますので、進め方の考え方の参考にしていただければと思います。
「どのくらいやればよいのか」という基準は、残念ながら確立していません。ここでは、研究で実際に用いられた条件をそのままお示しします。
頻度:週2〜5回1,3
1回の時間:30〜60分3
内容:バランス練習、歩行練習、目の動きの練習などの組み合わせ1
頻度:週5日2
1日の量:4セッション(各約1時間)2
強度:心拍予備能の70〜80%2
補足:これは入院環境での量であり、在宅で同じ量を行うことを想定した条件ではありません
自己流でバランス練習を強めることはおすすめできません。必ず主治医とリハビリ専門職に相談し、環境(手すり・床の状態・履物・見守り)を整えたうえで進めてください。
2. 歩行やバランスの指標で、統計的にはっきりした差は示されていません1
3. 4週間の集中的な入院プログラムでは、前後でバランスや歩行距離、転倒回数の数値が変化したと報告されていますが、対照群がなく確定的な結論は出せません2
4. 研究の報告の質にも課題があり、有害事象を報告していた研究は11件中1件のみでした3
5. 最適な頻度・時間・強度の目安は確立していません1,3
6. 進め方は必ず主治医・リハビリ専門職と一緒に決めてください
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Clerici I, Ferrazzoli D, Maestri R, Bossio F, Zivi I, Canesi M, Pezzoli G, Frazzitta G. Rehabilitation in progressive supranuclear palsy: Effectiveness of two multidisciplinary treatments. PLoS One. 2017;12(2):e0170927. PMID: 28158197.
3. Slade SC, Underwood M, McGinley JL, Morris ME. Exercise and Progressive Supranuclear Palsy: the need for explicit exercise reporting. BMC Neurology. 2019;19(1):305. PMID: 31783740.
4. Chartier C, Godard J, Durand S, Humeau-Heurtier A, Menetrier E, Allain P, Besnard J. Combinations of physical and cognitive training for subcortical neurodegenerative diseases with physical, cognitive and behavioral symptoms: a systematic review. Neurological Sciences (Neurol Sci). 2024;45(12):5571-5589. PMID: 39424648.
5. Zampieri C, Di Fabio RP. Balance and eye movement training to improve gait in people with progressive supranuclear palsy: quasi-randomized clinical trial. Physical Therapy. 2008;88(12):1460-1473. PMID: 18948373.
6. Zampieri C, Di Fabio RP. Improvement of gaze control after balance and eye movement training in patients with progressive supranuclear palsy: a quasi-randomized controlled trial. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2009;90(2):263-270. PMID: 19236979.
7. Tilley E, McLoughlin J, Koblar SA, Doeltgen SH, Stern C, White S, Peters MDJ. Effectiveness of allied health therapy in the symptomatic management of progressive supranuclear palsy: a systematic review. JBI Database of Systematic Reviews and Implementation Reports. 2016;14(6):148-195. PMID: 27532657.
