ポリオ後症候群(ポストポリオ症候群)のリハビリとは?運動療法の研究と限界を正直に解説

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
ポリオ後症候群(ポストポリオ症候群)のリハビリとは?運動療法の研究と限界を正直に解説
公開日:2026年9月2日/最終更新:2026年9月2日

「子どものころのポリオの後、何十年も落ち着いていたのに、最近になって足の力が落ちてきた。運動はしたほうがいいのか、それとも逆効果なのか」。ポリオ後症候群の方やご家族から、とてもよく聞かれる質問です。結論から正直にお伝えすると、ポリオ後症候群そのものを治す薬はなく、リハビリ・生活の工夫が中心の対応になります6,7。運動療法については、「やりすぎない範囲で行えば、筋力・疲労・痛みに小さなプラスがある可能性」が近年の研究でまとめられていますが、研究の質は低く、はっきりしないことも多く残っています2。この記事では、研究で分かっていることと分かっていないことを整理します。

SECTION 01
ポリオ後症候群とは何か

ポリオ後症候群(ポストポリオ症候群、PPS)は、急性灰白髄炎(ポリオ)にかかったあと、長い安定期を経て、数十年後に新しく現れる筋力低下・疲れやすさ・筋肉や関節の痛みなどの症状の総称です2,6。ポリオでいったん壊れた神経細胞を、残った神経が長年カバーしてきた結果、その神経に過剰な負担がかかって少しずつ機能が落ちる、という説明が有力とされています7。ポリオにかかった人の20〜50%で起こるとする報告があります7

進行はふつうゆっくりで、段階的に落ち着く時期をはさむこともあります。ただし、けが・手術・入院などで動かない期間があった後に、比較的早く進むことがあります6。加齢による変化と見分けがつきにくい面もありますが、「以前は影響のなかった部位に新しい筋力低下が出る」「衰えのスピードが速い」といった特徴が、ポリオ後症候群を疑うポイントとされています6。まずは神経内科などで、ほかの病気でないかを確認することが大切です6。神経や筋肉の病気での運動の考え方は、重症筋無力症の運動療法について解説した記事とも共通する部分があります。

ポリオ後症候群の方が装具と杖を使い専門職と歩行を確認する様子
装具や杖は、現在の筋力・疲労・生活環境に合っているかを定期的に確認します。
SECTION 02
研究では運動に効果があると言っているのか

かつては「弱った筋肉を運動で酷使すると、かえって筋力低下が進む(オーバーユース)」という懸念から、運動は慎重に、とされてきました。近年の研究は、その懸念を頭に置きつつ、やりすぎない範囲での運動の効果を検討しています。

システマティックレビュー・メタアナリシス(2021年)

ポリオ経験者を対象にした筋力トレーニングと有酸素運動の研究21件(うちランダム化比較試験7件、合計およそ350人)をまとめた解析では、運動をした群で全体的な体の機能がわずかに良くなる方向でした(効果量 Hedges' g 0.30、95%信頼区間 0.19〜0.41)。下肢の筋力(g 0.18)、疲労・痛みなど(g 0.25)、活動と参加(g 0.14)でも小さなプラスが見られましたが、心肺機能は明確な差なし(g 0.11)でした。著者らは「メタアナリシスは運動介入が改善に有利という統計的に有意な効果を示した」としつつ、「これまでの文献に内在するバイアスのため、質の高い一次研究が必要」と結論づけています2

個別の研究では、監督つきの有酸素運動プログラムで、運動耐容能(ペダルをこいだときの酸素摂取量)・疲労・生活の質が良くなったという報告があります。同じ研究で、在宅で自己管理のみのグループは酸素摂取量がむしろ下がっており、「規則的で管理された運動プログラムが役立つ」とまとめられています4筋力トレーニングでは、母指の筋を対象にした小規模なランダム化比較試験で、中等度の負荷の筋力トレーニングにより筋力が平均41%向上し、運動単位(神経と筋のつながり)の数に悪影響はなく、「中等度強度の筋力トレーニングは安全で有効」と報告されています3

一方で、強い疲労そのものを標的にした質の高い試験の結果は厳しめです。68人を対象に、運動療法・認知行動療法・通常ケアを比べた多施設ランダム化比較試験では、運動療法も認知行動療法も、通常ケアと比べて疲労を減らせませんでした(運動療法 vs 通常ケアの差 1.47、95%信頼区間 −2.84〜5.79)5。コクランレビュー(2015年)も、「良質なデータと無作為化研究が不足しているため、ポリオ後症候群に対する介入の効果について明確な結論を出すことはできなかった」としています1

薬については、フランス・スペインの診療ガイドラインとも「ポリオ後症候群に推奨できる薬物治療はなく、免疫グロブリンやステロイド、ピリドスチグミンなどに疲労・筋力低下への確立した効果はない」としています。そのうえで、身体・リハビリの関わりが初期評価から継続フォローまで不可欠で、多職種で年1回の見直しをすること、体重管理・骨粗鬆症と骨折リスクへの注意が推奨されています6,7。骨折リスクの運動対策は、骨粗鬆症と運動療法について解説した記事も参考にしてください。

SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと

ポリオ後症候群の運動の研究は、数が少なく、参加人数も1研究あたり数人〜数十人と小規模です。2021年のメタアナリシスは、全体のエビデンスの確実性を「非常に低い」と評価し、方法のばらつき(I² 54〜83%)や出版バイアス(否定的な結果の研究が7件ほど埋もれている可能性)も指摘しています2。コクランレビューで比較的しっかりした結果が出たのは、痛みに対する静磁場(磁石)療法の「中程度の質」の一例にとどまり、活動への効果や長期効果は不明とされています1

まだ分かっていないこと

1. どの人に、どの運動(筋力トレ・有酸素・複合)が合うのか。個別の処方の指針が確立していません2
2. 最適な強度・回数・頻度・期間。研究間でばらばらで、介入期間と効果の大きさに関連は見られませんでした2
3. 長期的な影響。追跡が短い研究がほとんどで、数年単位の安全性・効果は不明です2
4. 筋力低下が強い方(徒手筋力テストで3未満)での安全性。多くの研究がこうした方を除外しており、判断材料が乏しいです2
5. なぜ運動で疲労が軽くなる報告と、変わらない報告が分かれるのか。疲労を標的にした質の高い試験では効果が示されていません2,5

研究全体では「やりすぎない運動には小さなプラスがあり、オーバーユースを裏づける強い証拠は限られる」という方向ですが、対象者の重症度や運動内容が研究ごとに大きく違うため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません2。数値は集団の平均で、個人の結果を保証するものではありません。

SECTION 04
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
小さなプラスが報告されているもの
・下肢の筋力(過負荷にならない範囲での筋力トレ)2,3
・疲労・痛みなどの自覚症状(小さな効果量)2
・監督つきプログラムでの運動耐容能・生活の質4
・活動と参加(歩行・移動などの実生活の指標、小さな効果量)2
変わりにくい・はっきりしないもの
・心肺機能(メタアナリシスでは有意差なし)2
・強い疲労そのもの(疲労を標的にした質の高い試験では通常ケアと差なし)5
・失われた神経・筋のつながりの回復(運動で元に戻るものではない)
・長期(数年)の経過
短い運動と休息・水分補給を組み合わせる様子
短時間・低負荷の運動と休息を組み合わせ、疲労を翌日へ持ち越さないよう調整します。
SECTION 05
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か

運動が検討されやすいのは、筋力低下がごく軽度〜中等度で、日常生活である程度動ける方、動かない期間のあとに体力が落ちた方、心肺持久力を保ちたい方などです。研究で用いられた運動は、最大まで追い込まない(非疲労性の)低〜中等度の負荷で、こまめに休みをはさむものが中心です2,3,4。装具・杖・生活動作の工夫やエネルギーの配分(ペーシング)と組み合わせることが、ガイドラインでも重視されています6,7

⚠ 次のような場合は、自己判断で進めず主治医・リハビリ専門職に相談してください
・運動の翌日以降も筋力低下やだるさが強く残る(過負荷のサイン)
・新しい筋力低下が急に進んでいる時期
・関節の変形や痛み、装具が合っていない感じがある
・強い疲労・睡眠障害・呼吸のしにくさ・飲み込みにくさがある
・徒手筋力テストで3未満の筋がある部位を鍛えようとするとき(研究の対象外で安全性が不明)
・立ちくらみ、動悸、胸の痛みなど、いつもと違う症状が出たとき

なお、運動の研究で重い有害事象が系統的に報告された例は少なく、オーバーユースを裏づける証拠は「限定的」とされています。ただし、これは安全性が確かめられたという意味ではなく、重症の方が研究から外れていることも含めて、慎重な調整が前提です2。筋疾患での運動と過負荷の考え方は、筋ジストロフィー・筋疾患の運動療法について解説した記事も参考になります。

SECTION 06
運動のやり方・頻度・強度の目安

研究で用いられた設定は、おおよそ次の範囲です2,3,4。いずれも「非疲労性」であることが共通し、体調に合わせた個別の調整が前提です。

・頻度:週2〜4回
・強度:最大心拍数の50〜80%、または「ややきつい」手前まで(自覚的運動強度13〜15/20程度)
・1回の時間:20〜60分
・期間:おおむね5〜32週
・筋力トレーニング:低〜中等度の負荷、1つの筋を続けて追い込まず、休息をはさむ
・進め方:短めに始め、翌日以降に強い疲労・筋力低下が残らないことを確認しながら少しずつ

大切なのは「運動の総量」よりも「疲れを持ち越さないこと」です。1回を短く区切る、活動の合間に休息を入れる、体調の悪い日は量を減らす、といった調整を、専門職と一緒に決めていきます6,7。神経の病気で疲労が前面に出るという点では、ギラン・バレー症候群のリハビリについて解説した記事とも共通する考え方です。

ポリオ後症候群の方が専門職と装具・杖・生活プランを相談する様子
運動だけでなく、装具・杖・休息の取り方まで含めた個別設計が重要です。
SECTION 07
専門職として大切にしていることとまとめ
専門職としての安全面の考え方

ポリオ後症候群の運動を検討するときは、まず神経内科などで新たな筋力低下や疲労の原因を確認し、装具や杖が現在の身体に合っているかも見直します。運動は「短く・軽く・こまめに休む」を基本とし、翌日に強い疲労や力の入りにくさを持ち越す場合は量や強度を下げます。長期的な安全性や重症例への適用には不確実さがあるため、独自に負荷を増やさず、主治医・リハビリ専門職と調整することが重要です。

まとめると、ポリオ後症候群のリハビリは「治す」ためのものではなく、今ある機能をできるだけ長く保ち、生活のしやすさを支えるための関わりです6,7。運動療法は、非疲労性の範囲で行えば筋力や疲労・痛みに小さなプラスが期待できますが、効果の大きさや持続、重症例での安全性には不確実さが残ります2,5。始めるとき・見直すときは、必ず主治医やリハビリ専門職と相談しながら、体調に合わせて調整してください。

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療を推奨するものではありません。症状や体の状態は個人差が大きいため、運動を始める前・内容を変えるときは、担当の医師やリハビリ専門職にご相談ください。研究データは執筆時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。
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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
FAQ
よくある質問
Q. 運動すると筋力低下が進みませんか?
A. 最大まで追い込む運動は避けるべきとされてきました。近年の研究では、非疲労性(追い込まない)の運動でオーバーユースを裏づける強い証拠は限られるとされますが、安全性が確かめられたわけではありません2。翌日以降に力の入りにくさやだるさが残る場合は、量を減らして専門職に相談してください。
Q. ポリオ後症候群を治す薬やリハビリはありますか?
A. ポリオ後症候群そのものを治す薬はなく、免疫グロブリンやピリドスチグミンなどにも確立した効果はないとされています1,6。リハビリは、今ある機能を保ち生活を支えることが目的です。
Q. どんな運動をどのくらいすればいいですか?
A. 研究では週2〜4回、1回20〜60分、最大心拍の50〜80%または「ややきつい」手前まで、5〜32週というものが多いです2,4。ただし個別調整が前提で、疲れを翌日に持ち越さないことが最優先です。
Q. 疲労がつらいのですが、運動で軽くなりますか?
A. 疲労が軽くなったという報告もありますが、強い疲労を標的にした質の高い試験では、運動療法も認知行動療法も通常ケアと差がありませんでした5。疲労が強いときは、活動量の配分や休息の取り方も含めて相談することが役立ちます。
Q. 有酸素運動と筋力トレーニング、どちらがいいですか?
A. どちらも小さなプラスが報告されています。監督つきの有酸素運動で運動耐容能や生活の質が良くなった報告4、中等度の筋力トレーニングが安全で有効だった報告3があります。目的と体調に合わせて専門職と選んでください。
Q. 装具や杖はどうしたらいいですか?
A. ガイドラインでは、装具・歩行補助具の見直しを含めた多職種での対応と、年1回程度の定期的な見直しがすすめられています6,7。合わない装具は関節の負担や転倒につながるため、専門職に確認してもらいましょう。
Q. 骨折や体重も気にしたほうがいいですか?
A. はい。ガイドラインは、体重の増えすぎや骨粗鬆症・骨折リスクへの注意を挙げています6,7。運動・栄養・生活の工夫を含めて、主治医と相談しながら管理することがすすめられます。
REFERENCES
参考文献
1. Koopman FS, Beelen A, Gilhus NE, de Visser M, Nollet F. Treatment for postpolio syndrome. Cochrane Database Syst Rev. 2015;(5):CD007818. PMID: 25984923/PMCID: PMC11236427. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11236427/

2. Ramachandran AK, Goodman SPJ, Jackson MJ, Lathlean TJH. Effects of muscle strengthening and cardiovascular fitness activities for poliomyelitis survivors: A systematic review and meta-analysis. J Rehabil Med. 2021;53(4):jrm00185. PMID: 33876251/PMCID: PMC8814870. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8814870/

3. Chan KM, Amirjani N, Sumrain M, Clarke A, Strohschein FJ. Randomized controlled trial of strength training in post-polio patients. Muscle Nerve. 2003;27(3):332-338. PMID: 12635120. DOI: 10.1002/mus.10327

4. Oncu J, Durmaz B, Karapolat H. Short-term effects of aerobic exercise on functional capacity, fatigue, and quality of life in patients with post-polio syndrome. Clin Rehabil. 2009;23(2):155-163. PMID: 19164403. DOI: 10.1177/0269215508098893

5. Koopman FS, Voorn EL, Beelen A, Bleijenberg G, de Visser M, Brehm MA, Nollet F. No Reduction of Severe Fatigue in Patients With Postpolio Syndrome by Exercise Therapy or Cognitive Behavioral Therapy: Results of an RCT. Neurorehabil Neural Repair. 2016;30(5):402-410. PMID: 26253175. DOI: 10.1177/1545968315600271

6. Verschueren A, Cotinat M, Roseau JB, Thefenne L; French PPS working Group. French guidelines for post-polio syndrome and management of effects of aging in people with sequelae of acute anterior poliomyelitis. Rev Neurol (Paris). 2026. PMID: 42481361. DOI: 10.1016/j.neurol.2026.05.007

7. Povedano Pandés M, Rojas García R, Querol Gutiérrez L, Rodríguez de Rivera FJ, Colomer Font C, Noé Sebastián E, Navarro Pérez MD, Juárez Belaunde A, Ferri Campos J, Guijarro Castro TC. Guide of recommendations for the diagnosis and neurorrehabilitative treatment of post-poliomielytic sequelar conditions. Rev Esp Salud Publica. 2025;99:e202506037. PMID: 40530649/PMCID: PMC12175752. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12175752/